嚆矢漸進

Last-modified: 2023-11-09 (木) 10:04:23

魔歩省から解放された数週間後
「…であるからして。ここは~」
水曜日の3時間目、昼が終わり一番眠い時間である
そして、今行われている授業は「現代国語」であった
一番眠い時間に、一番眠くなる授業
必然的と言えようが、春倉のいるクラスの2/3は寝ていた
講義を行なっている先生も止めようとはしない
半ば諦めているのだろう
春倉は机に立てた教科書の内側で突っ伏していた
もう少しで寝れそうなのに、寝れない
そのような状態と数十分戦い続けていた
……以前までは
今は違う
春倉は寝ている雰囲気を出しながら完全に目は覚めていた
別に睡眠欲が全然ないわけではなかった
ただ、ある一つの想いが春倉の睡眠欲を抑えていた
(誰かに見られている…)
春倉はそう思っていた
春倉が「妖」に襲われた一件以降、春倉は人が気づかない、気づけないモノに多数気づくようになっていた
春倉の家の隣にいる犬
よく朝方に壁に向かって吠えているのを春倉は目にしたことがある
(頭のおかしな犬なんだな…)
春倉はそう思っていた
だが、今は違う
春倉には見えるのだ、その犬の目線の先にはっきりとはしないがゆらゆらと揺れる黒い影が
また、同じ力を持つ者もなんとなくわかるようになってきた
とある日、電車のくるホームに立っている時、向かいのホームに立っていた一人の中年の男性がふと気になった
春倉がその男性に注目したと同時に、その男性は春倉の方を一瞬で見た
まるで目線からすぐに特定したように
そして少し微笑んだかと思うと向こうに来ていた電車の影に消えてしまった
このように春倉にはなんとなくわかるようになってきていた
(どうしようか……)
そう考えるうち、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る 先生が軽く礼をした後、教室を去っていくと生徒たちも次の準備をし始めるのだった
(気のせいかもしれない……でももし俺の勘違いでなければ…)
春倉はそう考えながらも、3時間目が終わった後の休憩時間にある場所に行くことにした
教室を出て廊下に出ると、春倉は周囲を見渡しながらふと何かを見つけたようにふらふらと歩いて行った
(……やっぱりか)
廊下の先にいる一人の女生徒を見ながら、春倉は確信していた
その女生徒は春倉の方を全く向いておらず、数人の女生徒と楽しげにおしゃべりをしている
だが、春倉はわかっていた
彼女から発せられる薄いながらもしっかりとした力の流れを
春倉が近づこうと一歩足を踏み出したその瞬間、彼女がこちらを振り向いた
まるでそこにいたことは初めから知っていたかのように
「ッ!!」
春倉は見逃さなかった
彼女と目が合った瞬間、彼女の目が青色だったことを
その瞬間
「あっ!お疲れ様ー!」
彼女が声を上げた、そして
「ごめんね!ちょっとまた後で!」
話していた数人の女生徒に声をかけたと思うと、こっちに足早に寄ってきた
そして手を掴まれたと思うと、グイグイと引っ張られる
「えっ、ちょ」
「いいから。ちょっと来て」
そう言うとそのままグイグイと引っ張られていきながら、学校の屋上に到着した
そこでやっと手を離された
春倉の前に彼女が立つ
「アンタ、一体何者?」
急に問われる
「この学校には、私以外に力を持ってるやつはいなかった。でも、今日朝登校してみると、どうも同じ力を持った奴がいるみたい。そこで、授業中にいろんな場所を見てみたら、アンタから不思議な気を感じたの」
一気にそう言われる
慌てて話を遮る
「ちょっと待って。そもそも君は誰だよ」
「…確かに、名前を明かしていなかったわね」
そういうと彼女は名前を明かした
「私の名前は星見 瑠奈(ほしみ るな)。どうせ後で言うだろうから今言っちゃうけど、私は目が特別なの。色んな事が見えるだけでなく、色々な事ができるの」
そこまで言うと春倉をじっとみる
「…アンタは春倉 来歩。普通の生徒だったはず。なんで急にその力が?」
星見に尋ねられる
「俺は…」
言おうと思った矢先、2人の携帯が同時に鳴る
「…?」
「あれ、アンタもこれ持ってたんだ。ってことは、怪しいやつではないってことね」
携帯を取り出しながら星見が言う
「アンタと私の、同じでしょ?どうせその携帯を受けとった時に言われた思うけど、一応私も契約してるの。魔歩省とね」
そういうと携帯を開き、メッセージを確認し出す
春倉も急に聴いた「魔歩省」という単語に少し驚きながらも携帯を開き画面を見た
ーーーーーーーー
緊急通告
依頼:「妖」の排除
内容:下記位置にてCクラスの「妖」の出没が確認されました
   付近の祓師は現場に急行し、「妖」の排除をお願い致します
報酬:完全祓滅で5万円
   周囲の残穢の禊祓を行った場合、1万円を追加で贈呈致します
位置:真華欠市 神原区 神原駅前公園周辺
ーーーーーーーー
「神原駅前公園って、すぐそこの公園じゃないか!」
春倉はそう言った
「ふーん。また来たのね…」
星見が言う
「自己紹介は後でにしましょう。今からこの公園行って、祓っちゃいましょう。報酬は後で割って」
「今!?授業がもうすぐ始まるよ!」
「そんなのどうとでもなるわよ。お腹痛くてトイレ行ってましたとか」
「えぇ……」
「はい、行くわよ!」
そういうと星見は駆け足で屋上から階下へ続くドアを開けあっという間に姿を消した
(どうするべきだろうか…。彼女を1人で行かしたら危険か…?いや、でも、怖い…またあんなのが出てくるんだろうか…)
春倉は最初に出会った「妖」の姿を頭に思い浮かべていた
(いや、そんなことはどうでもいい。今は彼女についていかないと!危ないかもしれない)
そう思った春倉は彼女に続くようにドアに手をかけ階段を降り始めた

(5分後)

息を切らせながら公園前に春倉は辿り着く
公園前の入り口には星見が立っていた
「遅い!早くしないと、被害が出るかもしれないでしょ!」
そういうと、春倉を一瞥し公園の中に入っていく
「待ってくれよ…」
息も絶え絶えになりながらも彼女の後に続く
入り口から入るとすぐに警察官が自分たちの元へ来た
「申し訳ありませんが、この公園内に爆発物を仕掛けたと言う通報がありまして…」
警察官がそう言うと
「祓師です、通してください」
星見がすかさず答える
「…お待ちしておりました。まだ「妖」は中にいます。お気をつけて」
そう言うと自分たちの前からどき、持っていた無線機で連絡を取り始めた
「祓師の現着を確認。簡易結界の構築許可を要請します」
続いて無線機から声がする
「確認した。簡易結界の構築を許可する」
それと同時にまた自分たちの方へ向き
「お気をつけて」
と言った
そして指を組んだと思うと
「~~~」
何やら唱え始めた
その瞬間、警察官と自分たちの間に薄い影ができた
いや、影ではない
薄く、黒く、よくみてみると波打っている、言うならば一枚の薄い黒い板である
唱え終えたのであろう警察官はこちらへ一礼するとその場から歩いて立ち去った
「さ、グズグズしてないで。とっとと探して帰るわよ」
と星見が言った
「でも、どうやって?」
「どうやってって…普通に探し回るのよ」
どうやらこの公園の中を歩き回って探す必要があるらしい
「さ、頑張りましょ」
そういうとスタスタと星見は歩き出して行ってしまった
春倉もそのあとを追いかける

神原駅前公園は縦1k、横1.5kmのそこそこ大きな公園だ
公園内には子供たちがよく遊ぶアスレチックコースや大きな噴水が有る広場、神原池と呼ばれる小さな池、そこから伸びる役200m位続く小さな川、ちょっと大きい自然豊かな森などが存在する

「アンタ、「妖」はどんな所を好むか知ってる?」
星見が歩きながら春倉に問う
「え、えっと…そうだな…暗い所…とか?」
「半分正解、半分不正解。「妖」は確かに暗いところが好きだけど、ただ好きって事はないの。私たち人のエネルギーが集まりやすいところが好きなの」
「人のエネルギー?」
「たとえば怒る時や笑う時。人からはエネルギーが放出されるの。そうね、説明しやすいように感情のエネルギーって言ったほうがいいかも。「妖」はその感情のエネルギーを好んで食べて大きくなったり強くなったりするの」
「なるほど…って事は、今追っている「妖」は人の感情のエネルギーが集まりやすく、その上で暗いところにいる可能性が高いって事」
「そう言う事。この公園での感情のエネルギーが集まりやすいところといえばアスレチックコース辺りと噴水広場ね。でも、噴水広場は周りが空けていて明るい場所。となると、必然的にアスレチックコースにいるはず。しかも、そのアスレチックコースがあるのは森の中。これでいなかった方が可笑しいって位「妖」にとっては好条件なところだわ」
このような会話をしている内にあっという間にアスレチックコースが有る森の前に着いた
アスレチックコースはこちら←、と書いてある看板を持った可愛らしいクマの看板が立っている
「ここね」
星見が言う
昼間だと言うのにその森は薄暗く、空気はひんやりとしている
春倉は少し寒気がした
「さて、本来、他人であるアンタに私の術を見せるのはとてもリスクなんだけど」
星見が言う
「まぁ、あまりみられても影響の無いモンだし、まぁ見ててよ」
そういうと目を閉じ左の掌を自身の左目に押し付けるようにくっつけた
その瞬間、春倉は感じた
(目に何か力が出ている?)
春倉は何か感じた
数秒後
「うん、いるね。入り口から入って200mくらい入ったとこ。アスレチックコースに潜んでる」
「え、もう分かったの」
「そうよ、ほら、次はアンタの番」
「え?」
「え?って何よ」
「いや、言ってる意味が…」
「アンタがやっつけてきて」
「は…?」
「アタシのは戦い向きじゃ無いの。この際だから言っちゃうけど、アタシは千里眼を持っているの。と言っても、範囲は500m程度が限界だけど」
「千里眼?」
「そ。500m以内であれば例え建物の中に誰かがいたとしてもアタシには分かる。それも男性か女性かって言うのは勿論、どんな服装をしているか、何階の何処ら辺にいるかとかも分かるわ」
「…その、今の千里眼で「妖」のことも?」
「その通り。で、今聞いたと思うけど、私のは戦い向きじゃ無い。だからアンタに行ってもらうわけ。あ、安心してね、サポートはするから」
と言って星見は持っていたカバンから何かを取り出した
それは弓だった
「大丈美!腕には自信あるから!」
笑顔を見せる星見
「…本当に頼んだよ…?」
春倉は内心嫌な汗をかきながらそう言う
「安心して!さぁ、行った行った!」
「本当に大丈夫かな…」
春倉は決意を固めると入り口から中に入っていく

用心深く少しずつ歩を進めながら周りに気を配る
春倉は自分の掌を見る
ギュッと握る
次に手を開いた時、掌からまるで蜘蛛の糸のような細い糸が出ている
(大丈夫…できる…教えてもらった通りに…できるできる…)
春倉は局長、余真との会話を思い出していた

[嚆矢漸進 END]