うたかたの日々

Last-modified: 2010-02-11 (木) 19:23:24

うたかたの日々/岡崎 京子

716 :うたかたの日々1:2010/01/30(土) 00:05:24 ID:???
規制解除されたので未解決から。長くてスマソ

うたかたの日々/岡崎京子

主人公のコランは、一生働かないで暮らせるだけの財産を持っている裕福な青年。
日に二通ラブレターを貰うコックのニコラと人語を解するネズミと暮らしている。
一方友人のシックはあまり金をもっていない。
あっても敬愛する作家バルトルに全てつぎ込んでしまう。

ある日、コラン宅でディナーをしている最中、シックはニコラに姪がいるか尋ねる。
YESと答えるニコラ。
彼女はアリーズと言い、バルトルのステージで出会い、シックと恋仲になったらしい。
コランは姪の存在を知らされていなかった事に憤慨しつつも、後日
スケート場で実物のアリーズを紹介される。

「アリーズは非常に豊かなブロンドで、丸まちい腕とふくらはぎをして、腰はしまっており
 バストは輪郭が良く、まるで写真でも見るようだった。コランは泣きそうになった」

ショックを受け帰宅したコランはニコラにごちる。

「……ぼくがアリーズを愛しても良かったんだ そしてアリーズがぼくを……」
「旦那様そんなことを考えるのは間違っていますよ 最初にアリーズを選んだのはシックさんで
 シックさんをアリーズが選んでしまったんですから」

ニコラがやんわりと諌めるも、納得がいかないコラン。
自分も誰かを愛したい、皆誰かを愛し愛されているのに自分は違う。
だけど自分だって誰かを愛したくてたまらないと嘆く。
そして今晩一人で街を出歩き、誰にも出会わず誰も好きにならなければシックに対抗し
適当な作家の収集家になるか首でも吊って死ぬと宣言し家を出る。



717 :うたかたの日々2:2010/01/30(土) 00:06:30 ID:???
しかしコランは誰にも恋することが出来なかった。
失意の中幼馴染のイジスに電話を掛ける。今日は彼女の犬の誕生日パーティーだった。
イジスに脅されコランはパーティーに出かける。そこで運命の女性、クロエに出会った。

一目で恋に落ちたコラン。しかし次の約束を取り付ける事すら出来なかった。
どうすれば良いと悩むコランの話を聞くシックは、ぎざぎざの入っていない
トイレットペーパーに印刷されたバルトルの作品を手に入れて上機嫌だ。
ディナーの配膳をしていたニコラ。デザートには大きく素晴らしいケーキ。
それをナイフで二つに割ると、シック用にバルトルの新論文がひとつ、コラン用に
クロエとのデートが入っていた。

クロエとのデートは滞りなく進み、二人は結ばれる。
そしてクロエと結婚するとシックとアリーズに報告するが、アリーズは浮かない顔だ。
聞くと、シックが貧乏なせいで自分達は結婚できず、それが恥ずかしくてたまらないと言う。
彼らはお互いバルトルを敬愛していたが、アリーズは彼よりもシックが好きだからと
バルトルに金銭を使う事をしなくなったが、シックは変わらずバルトルにつぎ込んでいた。
そこでコランは二人が結婚できるようにと自身の財産の4分の1をシックに分け与えた。

独身最後の夜にコランとシックは街を歩いていた。
本屋に張り紙がされてある。スウェーデン語訳のバルトルの著作が入荷したらしい。
コランに金を貸して欲しいとせがむシック。その本は既読だし、スウェーデン語なんて
解らないだろうとコランは咎めるが、シックはそれでも持っていないからと泣いて頼んだ。
その頃、アリーズは一人、バルトルだらけの部屋でヒヤシンスの様に声を立てずに泣いていた。
翌日の結婚式はすべてうまく行った。町中の人が招待され、恐ろしく高くついたが彼らは満足していた。

クロエとコランは幸せだった。だが腐食のように日常は浸食していく。
シック、アリーズ、イジスが大金を使いバルトルの公演を舞台裏で見ている最中、イジスは
クロエの体調が悪く新婚旅行を早めに切り上げると手紙を貰った事をアリーズに伝えた。
光の入らなくなった廊下で、つやの無くなったタイルを手を血まみれにしながらも
磨き上げようとしたネズミを抱き上げながら、昔はこんなではなかったのにとニコラは思った。



718 :うたかたの日々3:2010/01/30(土) 00:07:15 ID:???
買物に出た女三人と待ち合わせの為、スケート場で待つコランとシック。
財産を渡したのに何故まだアリーズと結婚しないとコランが聞く。するとシックは
貰った財産はほとんどバルトルに使ってしまった、けれど自分達は今でも十分幸せだと言う。
コランはクロエのウエディングドレス姿をうっとりと見つめた、アリーズの悲しげな目つきを
思いだしたが、その時、クロエが倒れたと知らせを受ける。

クロエは肺に睡蓮が寄生するという奇病だった。一日二匙までの水しか飲む事を許されず
苦しむクロエ。睡蓮を威嚇する治療法で花で一杯になった部屋に見舞いに来たアリーズ。
自分とコランが結婚しなかったのなら、アリーズに彼といて欲しかったと言うクロエに
アリーズは親愛のキスをする。
その頃、シックは本屋にいた。まだ所有していないバルトルの著書に目を血走らせて。
翌日、クロエは冷気で睡蓮をやっつける為サナトリウムへ行く。しかしコランは街に残る。
金を稼ぐ為だ。今までの散財と治療の花代で、彼の財産は底をついていた。

最初は廊下に光を通さなくなっただけだった部屋は、すでに全体が歪んでいた。
コランはニコラを首にした。
夜、コランは眠るクロエを見る。彼女の右乳房の下から睡蓮が咲いていた。
片方の肺がダメになってようやく、医師は手術をする事にした。

手術をしてもクロエの容態はますます悪化した。
彼女が起きている間はクリーム色の肌を保っているが、眠っている間は関係ないとばかりに
頬に赤い斑点が浮かび上がっている。
治療費や花代を稼ぐ為コランは働く。しかしすぐに首になる。
その頃シックも工場を首になり、アリーズも彼の傍から離れていった。
それも仕方ないと彼は思っていた。アリーズの洋服のせいでバルトルの古着が置けないし
彼女を抱く時間が有ればバルトルの講演テープを聞くためのデッキを直したかったからだ。



719 :うたかたの日々4:2010/01/30(土) 00:08:43 ID:???
カフェでバルトルが新しい本の執筆をしている所を、アリーズが目撃する。
この本が出版されれば、シックは泥棒をしてでも手に入れるだろう。本屋を殺してしまうだろう。
そう思った彼女はバルトルにその本の出版を遅らせて欲しいと懇願する。
しかし聞き入られず、アリーズは心臓抜きをバルトルの胸に押し付け殺害した。
抜き取られた四角い心臓はウエイターがさっさと片付けてしまった。

コランはようやく仕事にありついた。翌日死亡する人間にそれを告知する仕事だ。
罵声をかけられ追い出され、それでも彼はようやくまっとうに賃金を得る事が出来た。
彼は貧困街に辿り着いた。流行り病の為今日中に何十件もの家を回らないといけない。

その頃、シックの部屋に警察が押し寄せていた。税金を滞納していたからだ。
もちろん払う金など無い。心臓抜きで警察をやっつけようと引き出しに手を掛けたが
抵抗したとみなされ射殺された。窓からは、どこからか火事が見えた。

火事の出所は本屋だった。バルトルの本が置いてある最後の本屋だったそこにアリーズは居た。
もちろん主人はとっくに心臓抜きで殺してしまっていた。
燃え盛る炎の中、彼女のやるべき事は何も残っていなかった。



720 :うたかたの日々ラスト:2010/01/30(土) 00:09:25 ID:???
ベッドの中、クロエは昔を懐かしむ。その声は見舞いに来ていたイジスには届かなかった。
焼け落ちた本屋の前をコランが通り掛ると、瓦礫の下からアリーズの美しいブロンドの髪を見つけた。
炎すら手を出せず燃えることの無かったそれを、コランはポケットに押し込んだ。
シックとアリーズの死は急でリストに入っておらず、コランの初日の仕事には間に合わなかった。
帰宅し、クロエとイジスの姿を見てコランは泣いた。
二人はもうここには来ないのだと実感すると共に、クロエが衰弱する一方だと分かったからだ。

そして黙々と仕事をこなしていたある日、コランはリストの中に自分の住所を見つける。
つまりそれは、クロエが明日死ぬという事だ。打ちひしがれるコランを他所に、今日は
体の調子がいいとはしゃぐクロエ。最後だからか、睡蓮はばら色の頬と艶やかな髪を
クロエに返してやった。けれど声は驚くほど細かった。
そしてクロエは静かに、ゆっくりと死んでいった。
以前結婚式を挙げた教会は金がないとしるや掌を返し、葬式はとても惨めなものだった。
家はついにすっかり全部すり潰れてしまった。ネズミはその隙間をかいくぐり逃げ出した。

水のほとり、コランが棒切れを持って立っている。生気の無い目をした彼は、食事も取らず
水面に上ってくる睡蓮を殺そうとしているか、そうでなければクロエの写真を眺めている。
もう見ていられないとネズミは、猫に自分を食べて欲しいと頼む。

「ああいやだなぁ…ネズミをいまどき食う猫なんか…」
「ごめんよ」
「まあいいさ」
「長い事かかるかな?いたいかなぁ?」
「さぁ 誰かが俺の尻尾を踏んづけるまでの辛抱さ」

ネズミは小さな目をつぶり首を猫の顎にのせる。猫は犬歯をネズミの小さな首に置くと
尻尾を歩道に垂れ伸ばした。その時、ちょうど都合よく孤児院の盲目の娘達が手を繋ぎ
歌いながらやってきた。教会へ賛美歌を歌いに向かう娘達の歌声は、春の街にとけていった。