その向こうの向こう側

Last-modified: 2011-07-16 (土) 21:53:41

その向こうの向こう側/渡辺 祥智

582 :その向こうの向こう側:2011/06/21(火) 20:29:17.89 ID:???
未解決から、「その向こうの向こう側」行きます。

主人公の九堂二葉(くどう ふたば)はチビなのが悩みの小学六年生。
ある日の帰り道、空から降ってきた謎の美少女キアラと出会う。
なぜか「マスター」と呼ばれた二葉は、彼女を追って現れた魔導士から逃げる羽目に。
状況が全く理解できない二葉だったがそれもそのはず、
キアラは本来のマスターを取り違え、誤って二葉の元へ来てしまっていたのだ。

紆余曲折の末、キアラのマスターがいる異世界オーリオールに渡った二葉。
偶然知り合ったウサギのような姿をした魔導士ベルベル曰く、
キアラはオーリオールとは別の異世界に咲く召喚植物(花)の一種「アマランザイン(常世の花)」で、
非常に強い力を秘めた希少な存在であるらしい。
花はマスター(召喚者)の願いに答えて力を振るうのだが、
それはマスターが居なければ無力同然ということでもあった。
二葉はキアラを無事送り届けるため、ベルベルも巻き込んでマスターを探す旅に出ることを決意する。

キアラが微かに聞き取ったマスターの声(念話っぽいもの)に従って一路北を目指す三人。
その道中、翠の国(ヴィリジアン)の森の中で怪我を負った少年と出会う。
実はこの少年、翠の国で忌み嫌われる双子の王子の片割れであり、王妃の命令でアマランザインを探していた。
翠の国では王子が双子だった場合、13歳になり次第殺し合って、
どちらが王に相応しいのか決めなければならない。
そのため兄も弟も同じヴィリットという名前で、弟の方は狂気の王子として幼い頃から牢に繋がれて育っていた。
(捕捉:ややこしいんで以下ヴィリット(弟)とヴィリット(兄)で表記)
怪我の手当てしてくれた二葉に懐いてしまったヴィリット(弟)もまた、旅に同行する。



583 :その向こうの向こう側:2011/06/21(火) 20:31:45.38 ID:???
ある時、立ち寄った街でアマランザインのマスターを名乗る人物がいるとの噂を聞く。
しかしよくよく確認してみると、その自称マスターの青年デュウが連れていたのはアマランザインではなく
格下の「グローカス」と呼ばれる召喚植物キャナだった。
とはいえ話を聞いてみるとデュウはどうにも根が善良な性質で、
キャナからも良いマスターとして慕われているらしい。
しかし、そんな二人の仲睦まじい様子を見てキアラだけは沈み込む。
二葉が問いかけるとキアラはキャナの力があと残り僅かであることを明かした。
花の力には限りがあり、マスターの望みを叶えたぶんだけ消耗していく。
そして全ての力を使いきった花はやがて枯れて消えてしまうのだと。

二葉からそのことを伝え聞いたデュウはキャナの元に向かい、
「もう力は使わなくていいから、ずっと一緒にいてくれ」と懇願する。
それを聞いたキャナは彼に抱きつき「少しの間こうしていてほしい」と望みを告げた。
だが願いを叶える存在である花が、マスターに何かを望むのは許されない。
キャナはデュウの腕の中でたくさんの花弁となって散ってしまう。

その後もヴィリット(兄)と遭遇したり、ベルベルの弟子関連で色々あったり、
順風満帆とは言い難いが少しづつマスターへ近づいていく二葉たち。
その内に各々の心境にも僅かな変化が起こり始め、
ヴィリット(弟)は二葉が暮らす「向こう側の世界」へ行くことを望み、
キアラもまた二葉と強い絆で結ばれていく。



584 :その向こうの向こう側:2011/06/21(火) 20:33:59.43 ID:???
やがて道中でヴィリット(弟)が13歳の誕生日を迎えた。
そこにヴィリット(兄)の世話役をしていたアッシュという男が迎えにやってくる。
兄と向き合う決意をしたヴィリット(弟)は、「必ず帰ってくる」と言い残して一行から離脱する。
当然決闘になるはずだったが、二葉の影響で大分丸くなったヴィリット(弟)は、
以前とは違い他者を傷つけることに抵抗を覚えるようになっていた。
そのため防戦一方で争いを避け、代わりに「一緒に向こう側へ行こう」と兄を誘う。
ヴィリット(兄)に親身なアッシュの口添えもあって兄弟はようやく和解。
しかしその瞬間、以前からヴィリット(弟)を狙っていた刺客が茂みから飛び出した。
兄弟の見分けがつかなくなっていた刺客は兄の方へと向かい、
とっさに庇ったヴィリット(弟)は、兄と折り重なるような形で刺され、そのまま息を引き取る。
ヴィリット(兄)もまた重体ではあったものの意識はまだ残っていた。
だが治療を受けることを拒んだ彼は、「一緒にあいつらを追い掛けよう」と弟の亡骸に語り掛けながら絶命する。
一方その頃、二葉たちはキアラを迎えに来たという有翼人シェンナと出会う。
彼はマスター……白の国(ジプサム)で神官をしているセレンという青年の親友だった。
セレンは魔導が禁じられている神官でありながらアマランザインを召喚してしまったため、
神殿の牢に入れられ、今まで身動きを取ることができなかったのだ。
マスターの居場所が判明し、いよいよ別れの時が近いのだと悟る二葉。
彼はキアラに何か願いごとがないか訊ね、出来ればそれを叶えてあげたいと考える。



585 :その向こうの向こう側:2011/06/21(火) 20:36:52.94 ID:???
白の国に入ってすぐ、雨にはしゃいだキアラが迷子になってしまった。
それを捜し回っていると偶然にも神殿を抜け出していたセレンに遭遇する。
しかしセレンの姿を見たキアラは思わず踵を返して逃げ出してしまった。
袋小路に逃げ込んだ彼女はなぜ逃げてしまったのかと自問自答し、
やがて自分にもひとつだけ願い事があったのだと悟る。
「忘れないで、私のこと。
 私がここにいたこと、フタバと会ったこと、忘れないで」
そう二葉に告げながら泣くキアラに、二葉は「大丈夫」と笑いかけた。

改めて対面を果たしたキアラとセレン。
セレンが彼女を呼び出してまで叶えたかった願いとは、
千年前にアマランザインを召喚した「神」に死を与えることだった。
オーリオールには千年より前の記録が存在しない。
それは神――母を亡くして絶望した一人の少年がアマランザインの力で「母の死ぬ世界」を塗り替えたから。
おまけにアマランザインのマスターは不老不死になるという特性があり、
神は神殿の奥で暮らしながら、自分の過ちを正してくれる人物が現れるのを待っていた。
(※アマランザインの理はアマランザインにしか無に還せない)



586 :その向こうの向こう側:2011/06/21(火) 20:41:40.86 ID:???
世界を変えるほど力を行使すれば、キアラもオーリオールもどうなるか分からない。
そのためまず最初に二葉を元の世界へ帰すこととなった。
セレンの手を取り「今度は私が皆を助ける」と言うキアラ。
二葉は心の中で別れを告げながら金色の光に飲まれ、現代へと帰ってくる。
だが川の中で目を覚ました二葉は呆然とした様子で呟いた。
「何……してたんだっけ? 俺…」

オーリオールでの記憶を失った二葉は中学入学を控え、前より幾分大人らしくなっていた。
制服のネクタイを受け取りに一人でデパートに向かった彼は、
どこかで見覚えのあるウサギのストラップをついつい購入してしまう。
更にベンチで休んでいると、通りすがりの女性が、抱いていた乳児の玩具を落としていた。
すかさず拾うのを手伝うと乳児は二葉に人懐っこい笑みを浮かべる。
「みどり」という名前の乳児の懐きように、女性はふと思い出したように話す。
「赤ちゃんの魂はまだ半分向こう側にあるっていうから
 もしかしたらこの子、お兄ちゃんとお知り合いだったのかもしれないわね」
向こう側というのは天国や生まれる前の場所らしい。
それがどこなのかは分からないけれど、ぴったりハマる感じだと二葉は思う。

帰りぎわ、川の傍で自分が忘れていることについて考える二葉。
すると不意にキアラが願い事をしたときの声が蘇り、絶対に忘れないと約束を交わしたことを思い出す。
金色の光と少女の声、そして少しの花の香り。
二葉が思い出すことができたのはそれだけでキアラの顔も名前も分からなかったが、
彼女と出会ったことだけは紛れもない事実だった。
もうすぐ春だというのに降り始めた雪の中、二葉の長い長い寄り道は終わりを告げる…。



587 :その向こうの向こう側:2011/06/21(火) 20:44:00.66 ID:???
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(コミック書き下ろしの8Pエピローグなのですが、
 セリフが一切なく解釈も色々ありそうなんでシーンの羅列だけ)

キアラの手を引きながら、楽しげにヴィリット(弟)どベルベルを追う二葉。
しかし不意にベルベルたちの姿が花びらに紛れ、
傍らのキアラも指先から花弁となって消えてしまう。
とっさにそれを掴んだ瞬間夢が終わり、二葉は手を突き出した格好で目を覚ます。
部屋の窓は開け放たれ、そこから吹き込んだと思しき花びらが枕元に広がっていた。
そして握りしめた拳からもまた、何枚かの花びらが零れ落ちていく。