カンビュセスの籤

Last-modified: 2008-09-23 (火) 01:28:50

カンビュセスの籤/藤子・F・不二雄

80 名前:藤子F不二雄「カンビュセスの籤」[sage] 投稿日:2006/08/29(火) 23:44:39 ID:???

荒野を放浪していた古代ペルシアの兵士サルクは、奇妙な建物に着く。
自動機械と未来的な住居(サルクには分からないが)の中には、少女エステルが独り暮らしていた。
互いに言葉は通じないが、衰弱したサルクを介護するエステル。食事はキューブ状の肉塊が毎食一個のみ。
やがて回復したサルクは食料を持って去ろうとするが、エステルはなぜかそれを拒み、彼を拘束する。
腹を立てるサルクだが、振る舞いの端々に深い孤独を感じさせるエステルと暮らすうち
サルクとエステルは、言葉も通じぬまま絆を深めていく。
物語はサルクとエステル、双方の視点から交互に描写される。そしてある日、ついにエステルは
自動翻訳機の修理を成功させ、二人は互いのことを語り始めた。


ペルシア王カンビュセスの軍勢は、エチオピア遠征中に砂漠で食料が尽き
十人一組で籤を引き、当たった一人を残りの九人が殺して食べるという行為に手を染めた。
サルクも籤に当たり、死を恐れて逃げるうちに不思議な霧を抜け、ここへたどり着いたのであった。


エステルは「地獄を逃れて別な地獄へ飛び込んじゃったわけね」と言い、己の身の上を語る。
ここは23万年後の未来、核戦争で地上の全生命が失われた地球。
シェルターに逃れた人々は、人工冬眠で1万年後…放射能の消えた時代に目覚めたが
草一つない世界では自給も不可能。人々は一縷の望みを掛け、地球外文明へのSOSを発信した。
だが、冬眠して救いを待とうにも、人工冬眠は一万年が限度、しかも冬眠前には食事で精をつけねばならぬ。
そこで彼らは、籤を引いて当たった者を自動調理器で食肉にし、食べることで生き続けていたのだ。
エステルは籤引きの果ての最後の一人。彼女は、サルクも籤を引いて次の一万年に貢献するよう求める。
恐れるサルクに、自分たちは地球全生命の代表として生き延びる責任があると静かに説くエステル。
一度は籤を引きながらそれを投げ捨て、去ろうとするサルクだが、やがて彼はエステルの元に帰還した。
食べられる覚悟を決めたサルクだが、エステルは笑って「あなたの籤は外れだった。食べられるのは私」と答える。


驚くサルクだが、サルクの出現は計画が成功する証だろうと、恐れる様子もなく語るエステル。
エステルが厨房で服を脱ぎながら、自動調理器の使い方を指示するシーンで物語は終わる。