水面の下

Last-modified: 2008-09-22 (月) 01:16:01

水面の下

479 :水面(みなも)の下:2008/09/08(月) 17:07:49 ID:???
二重人格というものがある。
初めはそれなのか、と思った。

記憶を手繰ると小学生に入ったあたりから「それ」は自分の
なかに存在しており。
「それ」はなにかこう、思い通りにならない事態に苛立って
いるようで、酷いときにはこちらが思考できなくなる程の喚
き声を小一時間くらい発するときもあった。と、思えば「それ」
は図書館の本すべてを暗記してるかのような知識を持っており
、夜、眠れないときなどギリシャ神話(後に知ったのだが)を
話してくれたりもした。

成長と共に「それ」と心のなかで対話をし、いつしか友達の
ような父親のような妙な感情を持った頃、「それ」はこちらが
大人になるのを待っているのではないか、という確信めいた
気持ちが唐突に湧き上がってきた。

学校の勉強も、人付き合いも、巧くこなす術は全て「それ」が
教えてくれた。そう、「それ」の言うままにすれば万事OKな
のだ。

だが、その先に何がある?
「それ」の思うがままに生きてどうなるのか?



481 :水面(みなも)の下:2008/09/09(火) 13:56:34 ID:???
そんな漠然とした不安を1人抱えたまま(「それ」はこちらの
思考を読むことは出来ないようだった)迎えた18歳の夏、
その出来事は起こった。

うだるような残暑がつづく土曜日の夜、DVDをレンタル
し、駐輪場で自転車の鍵を解除してるときだった。
「あの・・・駒場渉くん・・・だよね?」
顔を上げると見知らぬ、見たところ自分と同じ年頃の青年
二人が自分の自転車を挟み、立っていた。
「どなたでしょうか?」と聞き返す。こういう場合は「それ」
に聞いて対処してきたのだが、最近は自分で判断をするよう
努めてきた。
二人はしばしこちらを見た後、お互い向き合い、頷いた。
「きめりうす」
名前を聞いてきた方がこちらを向いてこう言った。
暫しの静寂。隣を自転車に乗った女子高生が通り過ぎて
いく。二人はさっきの言葉の反応を待っているように
無言でこちらを見つめていた。
ふいに背筋が寒くなってきた。実は今、自分はとんでも
ない奴らに目をつけられてしまったのではないのか?
漫画かアニメか何かに出てくるキャラクターを現実に
存在するかの様に語り合う滑稽な連中に。
いや、もしかするとクスリの常習犯かも、どちら
にせよ慎重に対応しなければ。
「それ」に聞きたい発作に襲われかけたとき、ふいに
心の中が逆流し始めた。