ARCANA

Last-modified: 2010-04-22 (木) 09:15:45

ARCANA/小手川 ゆあ

816 :ARCANA(アルカナ) 1/3:2010/04/14(水) 19:56:55 ID:???
刑事の村上謙省は、とある事件の関係で精神病院を訪れることになった。
そこで出会った入院患者の少女は、記憶喪失でふらふらしているところを保護された身元不明の謎の人物だった。
少女は幽霊を見ることが出来るという霊能力者で、霊から話を聞いて、
謙省の担当していた事件を解決へと導いてくれた。
病人服しか持っていない少女にお礼として謙省は服を買ってあげ、
服のブランド名から引用して、少女に「まき」という仮の名を与えた。

まきの協力を得て様々な事件を解決していく謙省だったが、
霊だの霊能力者だのの協力を得た結果であることをそのまま調書に書けるわけもなく、左遷されてしまった。
送られた先は、通称「お宮係」と呼ばれる刑事部捜査共助2係。
公には出来ない、オカルトにまつわる事件を扱う場であり、
他の一癖も二癖もある人物に囲まれつつ、ますますオカルトな日々を送っていくようになる。

謙省にはマキ曰く「後ろの人」である、守護霊が憑いているという。
守護霊は若くして亡くなった霊能力者であり、謙省の曾祖父にあたる。
その守護霊の生前の知人であるという若い女性・ナツが現れた。
謙省は実は守護霊の血筋の者だけあって物凄い霊能力の持ち主だったが、
邪魔になるからと幼少期に守護霊によって力を封じられて普通の人として生きていた(謙省にその自覚はなかった)。
しかし、謙省はナツのなんらかの能力によって再び霊能力を発現させられてしまう。
あちこちに幽霊が見えまくりで大変な日々を迎えることになった謙省は、守護霊とも会話が出来るようになった。
守護霊は、生前の自分を知っているほど長く生きているのに若い外見を持つナツは人間ではないし、
まきもナツと同じような類の存在であるとほのめかした。

謙省は、お宮係に収められている資料の中に、ナツの写真を発見した。
もう何十年も前の資料であったが、ナツの姿は先日見たものと変わらなかった。
資料によれば、当時のナツは自分と姿が同じな、
「もう一人の自分」が度々現れるという怪異におびやかされていたという。
そう訴え続けた末にナツは不審な死を遂げたが、何故か死後には、
生きたナツを見かけたという目撃例が相次いだという。
まるでドッペルゲンガーのようであると謙省は思った。



817 :ARCANA(アルカナ) 2/3:2010/04/14(水) 19:58:58 ID:???
ドッペルゲンガーとは、ある人物と全く同じ姿をした霊的な「なにか」である。
本体がドッペルゲンガーと遭遇すると死んでしまう、
ドッペルゲンガーが現れるのは本体の死の予兆である、
などの、死にまつわる伝承が多い。

色々な事件を共に解決するうち、謙省とまきの間には恋愛感情のようなものが芽生えていった。
まきは、そこに行きたいと願うだけで無意識にテレポートのようなことが行えたりと、
どんどん人外じみた行動をするようになっていき、その事に自身でも不安を感じていくようになる。

まきの前に、みちるという名の少年が現れ、自分たちは同類であると言ってきた。
自分たちは「ドッペルゲンガー」であるのだと少年は言う。
なんらかの強いショックによって、魂の一部が剥がれて分離した存在であり、
そのままにしておけば消滅してしまうが、本体の魂を食らえば本体に成り変われるのだという。
霊が見えたりテレポートができたりするのは、自身もまた霊的な存在であるためだという。
みちるはふと気付いた時、まきのように記憶喪失の状態だった。
しかし、彷徨い歩くうちに自力で本体を見つけ、自分の正体を悟った。
本体は、家族にも学校の人たちにも当たり散らすようなDQNだった。
あんな奴より自分の方がもっとマシに生きられると、みちるは本体を殺して成り変わったのだという。
ナツもみちると同様にドッペルゲンガーだった。
彼女は、本体以外の魂も食らってはそのエネルギーによって何十年も若さを保っていた。

元が同じ存在なので、まきは惹かれるようにすぐに自分の本体を見つけられた。
本体は、数ヶ月前に事故に遭っていたそうだった。
それはまきが病院に保護されたのと同時期で、事故のショックによってまきは生まれたようだった。
本体の少女は、事故以来過保護になった両親がうるさいと友人に向かって愚痴を言っていた。
ちゃんとした居場所も過去もあり、心配してくれる親もいるのにどうしてそんな風に傲慢でいられるのだと、
まきは憤りを感じたが、しかしみちるの言うように本体の命を奪うことには抵抗を感じできなかった。



818 :ARCANA(アルカナ) 3/3:2010/04/14(水) 20:00:14 ID:???
みちるは本体を殺して成り変わって以来、まともな人間としての暮らしが楽しくてたまらず、
DQNな本体に殴られたりと苦労してきたらしい両親を気遣い、
今まで本体がDQNだった分、自分は頑張って両親を喜ばせようと努力し、
高校のテストでもオール満点を取ったりとはりきりまくっていた。
しかし、突然のその変貌は両親にとって不審がられ本物ではないと見抜かれ、
「本当のみちるを返して」と泣かれてしまった。
やはり自分はまともな人間にはなれないのだとみちるは街を彷徨い、テレポートしたビルの屋上で一人で泣いた。
そんな彼の前に現れたナツは、屋上から周囲を見渡しながら、
世の中こんなに広いんだから自分たちのような存在が細々と生きていてもいいじゃない、と言って笑いかけた。

まきがドッペルゲンガーであること、本体を食わないことを選んだ以上いつかは消滅すること、
それを知った上でも謙省はまきのことが好きだった。
とりあえず、宙ぶらりんな状態であるまきの正式な戸籍をつくり、
自分と籍を入れようとプロポーズした。
まきはそれを受け入れ、残り短い生涯を謙省と共に生きていくことにした。

(おわり)

ところどころがうろ覚えだが大体こんな感じ