エファンタジー/第六話「アルカー再び登山」

Last-modified: 2023-03-02 (木) 06:14:39

第六話「アルカー再び登山」



熊山を降り切る直前の出来事だ。
「後一歩、それで休戦協定も終わりですね。」
「・・・そうですねぇ。」
「おかしなものです。」
「どぅしたのですか?」
「昔は貴方の事を憎らしく思っていたのに。」
「ぃたのに?・・・なんです?」
「熊鍋、美味しかったです。」
「・・・。」
「また一緒に食べられますか?」
「・・・ぁの熊鍋は出来損なぃでしたね。」
「え?」
「口直しに今度一緒にぉぃしぃものでも食べにぃきましょぅ。」
「・・・はい!」
そして、二人は夕日に向かって歩き出した。


「え・・・?なにこの茶番・・・?(゚Д゚;)」


暗く哀しい過去を持つという設定を活かし切れていないアルカー。
散々な目に遭い、トドメに茶番を見せ付けられつつも無事に自宅に帰り着く事が出来た。
たった2日間の留守だったのだが十年来の帰宅かのような感覚と安堵とを覚える。
彼は今までの憂さの全てを晴らさんばかりに自宅での娯楽を満喫していた。


「ど~この~♪誰だか~♪知~ら~な~い~け~れど~♪
ズバババ!ババン!と~♪やって来る~♪
空に~♪轟く~♪正義の・さ・け・び~♪ヽ(゚Д゚*)ノ」
今、通販で男性用を頼んだ筈なのに手違いで女性用が届けられた事に憤慨したが、
一時の好奇心でちょっと着てみたら中々の着心地に気に入ってしまって、
思わず配達業者にお礼の電話を入れてしまったという経緯を持つワラゲッチャースーツ(女性用)を身に纏い、
ワラゲッチャーVのテーマを年甲斐も無く熱唱しているこの男こそ我等がアルカーである。
「ワ~ラ~ゲ~♪ワ~ラゲ~♪ワ~ラ~ゲェ~ッチャ~♪ファ~イブ♪ヽ(゚Д゚♯)ノ」
彼のボルテージは最大まで達していた。


さて、人間は同時に二つ以上の事を出来ない生き物である。
集中すればするほど周りが見えなくなってしまうものだ。
物事に集中した時ほどその他に関して隙だらけな時もない。
その様ときたら時に滑稽に映る事すらあるものだ。


パシャ!パシャ!パシャ!
「激写♪チェキです♪」


熱唱後の余韻に浸っていたアルカーだったが、
カーテンを閉め忘れていた窓の外から聞こえてきた極めて不幸な音と声に一気に凍り付く。
恐る恐る窓から外を覗くと、カメラを携えたあどけない少女がアルカーに飛び切りの笑顔を送る。
「\(^0^ )/」
人生を諦めかけたアルカーに少女は笑顔を崩さぬまま人差し指で何かを示す。
指先が示すのは玄関の方角、如何やら玄関先でお話をしましょうという事らしい。


ピンポーン♪ピンポーン♪ピポピポ♪ピンポーン♪
「ちっくしょー!うるせぇぞ!」
けたたましく鳴るチャイムの音が急いで普段着を着るアルカーの焦燥感を駆り立てる。
ピピピピピンポーン♪ピポピポ♪ピンポーン♪
「くふふ♪」
挑発的なリズムを刻む少女の表情はこの上なく嗜虐的なものだった。


カメラによって際限無く拡大する千の絶望より、
目の前に立ちはだかる一匹の悪魔に蹂躙される方がマシだ。
アルカーはそんな事を考えつつ震える手で玄関を開いた。
「や、やぁ、こんにちわ、お嬢さん。」
崩れ去った体裁の欠片を苦笑いという接着剤で必死に繕おうとするアルカー。
無様極まる彼に、
「初めまして~♪私、ふえうと申します~♪」
悪魔はいやに好意的に言ってみせる。
「あ、ども、アルカーと申しますです。
そうそう、先ほどは【弟】がなにやら恥ずかしい所を見せてしまったようで。('ω';)」
アルカーの最初にして最後の抵抗である。
あそこまでの生き恥を晒しておきながら彼はそれを無かった事にしようとしているのだ。
「あらら~♪弟さんだったのですか~♪」
勘違いを戒めるように片目を瞑り舌を出して自分の頭をコツン♪と叩いてみせるふえう。
「弟さんって面白い方なんですねぇ~♪是非とものお名前をお聞きしたいです~♪」
人を弄ぶのが専売特許の悪魔にはアルカーの嘘など見透かされている。
「えっ!?えっと・・・、【アルカーmk-2】です!('ω';)」
アルカーは唐突に量産されたようだ。
「ロボットみたいでカッコイイお名前なのですね~♪」
言葉と共にふえうは一枚の写真を眺め出す。
「あれれぇ?その写真は何かなぁ?('ω';)」
「あ、これですか~?弟さん?の写真です~♪
私、可愛いもの大好きなんですよ~♪
如何です~?可愛く撮れてるですよね~♪」
惜しげも無く出されたジョーカーカードにアルカーは戦慄する。
「何に使うつもりなのかなぁ?('ω';)」
「何枚も現像して友達に配ろうかな~♪って思ってます~♪(・∀・*)」
そして悪魔はジョーカーの使い所を誤らない。
「どうしたらその写真とネガを僕に渡して貰えるかしら?(*'ω'*;)」
最早、指し合いなど悪魔を楽しませるだけだと気付いたアルカーは本題に入った。
「あは♪お話が早くて手っ取り早いです~♪賢い人は好きですよ~♪」
その笑顔は非常にチャーミングであるが、
悪魔とは人を惑わす為に魅力的に振舞うのだという事を悟らされるものであった。


「実は先日、私のお友達の剣士、名前はアニエッタちゃんって言うんですけれども~。
そのアニエッタちゃんが熊を退治しに行ったっきり熊のお山から帰って来なくて困ってるんです~。」
「ふむ?それで?('ω';)」
「知人から聞いた話によるとアニエッタちゃんがお山に向かった日、
アルカーさんも同じ山で登山をされていらっしゃったそうで~。
アニエッタちゃんの事を何かお知りでないかと伺ったのです~。」
「う~ん。それらしい人は見なかったよ。忍者とか変な宗教女には出会ったけれども。」
「そうですか~。う~ん、残念です~。困りました~。」
「どうしたの?('ω';)」
「そうなると、私が熊のお山まで行ってアニエッタちゃんを探す事になるのですが~、
でも、私みたいなか弱い女の子が一人で危険なお山を登るなんて事を知ったら~、
アルカーさんみたいな素敵な男性は見過ごせなくて一緒に探しについて来てくれる筈です~♪
アルカーさんにお手数おかけするのが申し訳なくて申し訳なくて~・・・♪(・∀・*)」
か弱き可憐な少女の切実なる願いを、
「気にする事はないよ!男として放っておけないもんね!(^ω^♯)ビキビキ」
我等がアルカーが断れる筈も無かった。


一度は登ったものだから、勝手知ったるは熊の山。
食料、物資、熊をも倒す武器を持ち、準備は万端、細工は流々。
「頑張りましょうね~♪アルカーさん~♪」
「そうだね。プロテインだね。(ヽ´ω`)」
そして、そんな彼の足取りは重い・・・。


パッカラパッカラパッカラパッカラ。
ややあって、アルカーとふえうが山を見据えていた場所に、
仰々しくも厳か(おごそか)な武装兵団が馬を駆り隊列を揃えていた。
「あれか。」
最前列に立つ凛とした騎士団長が尋ねる。
「はっ。例の女が隠れ潜むとの情報にあった熊の山です。」
副官らしき男が応えると、
「ふむ、険しそうだな。馬は置いて登るぞ。」
山を一瞥し命令を出す。
「「「はっ。」」」
その言葉に整列した二十余りの兵が全て同時に敬礼する。
騎士団長の名はEselin。
数時間後、この熊の山に血の雨を降らす非情の女騎士である・・・。


ふえうの策略により再び熊の山に登る事になったアルカー!
果たしてアルカーは熊に食われずに済むのか!?
ふえうはアニエッタを見付けられるのか!?
アニエッタは熊に食われたのか!?
【アルカーmk-2】の性能は!?
そして、非情の女騎士Eselinの目的とは!?次回、乞う御期待!〆(・ω・´)