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Last-modified: 2011-06-09 (木) 05:40:51

設定類

生育歴

8歳まで
ファンドリア方面の森のエルフの里で育つ。レンジャー技能の基礎を習得したのはここで。
8歳の時、母親に連れられて妹と三人でロマールへ。妹は4歳下。
母がロマールを選んだのは、父と出会ったところだったからだと聞かされる。
12歳まで
ほどなくして母は病で枕が上がらなくなり、薬代と三人の糊口をしのぐため、まだ起き上がれた頃の母の真似をして酒場で歌うようになる。
12歳で母が亡くなり、妹の面倒を一人でみるように。
13~14歳頃
借金が嵩み、酒場で歌うだけでは足りなくなり街角に立つように。容姿に目を付けた金持ちたちが召し抱えたりもするようになるが、必ず契約内容に妹を養うことも入れていた。
しばらくして当時の雇い主の家から妹が出奔。冒険者になるとのこと。
15歳頃
前々から「妹を連れて行けないなら行けない」と断っていたとある商人に「妹さんがいなくなったんだから」と誘われ、召し抱えられる。
ロマールの都を離れ一年の予定で教育を受けるが、半ばで挫折。(断念したか放り出されたか)実はこの時の経験で、教養と芸事は一通りかじっている。
16歳~
再びロマールの街に戻る。歌うことに完全に見切りを付けたのはこのあたりの話。
5年前
とある歌い手の代理人を名乗る男からその歌い手が死ぬまで看取るという仕事を仲介される。
歌い手から彼女の持つすべての歌を仕込まれたが、同時に、歌の心を理解するまで歌ってはいけないという戒めも与えられた。
3年前
歌い手没。冒険者に。

つまり16歳から5年前の間にみりんシアター(1話2年)が何本入るかという

母の話

  • 母の名:グウェンダ。→参照
  • 産まれた里に戻り、女手一つで二人の子供を育てるつもりだったが、病を得、自分の先がそう長くないことを悟る。
  • エルフの里で兄妹が育つことは無理だと判断し、少しでも人間社会で生活するすべを仕込もうとロマールへ。

妹の話

  • 母のことはほとんど記憶しておらず、一人になるまでは迫害*1も兄ほどには実感していない。
  • ただ「私がいるせいでお兄ちゃんは大変なんだ」という意識はあり、そこをつけ込まれて兄の元を去ることに。→All we can do is pray
  • 冒険者になって苦労もしたが、運良く固定のパーティーに入れてもらうことが出来、愛や信頼といったものを割と早く取り戻せたが、兄のことと自分がハーフエルフであることは胸の内で燻っていた。
    • それらや、グリフィスやモルガナとの感情の行き違いが元で遺跡に捕らわれることに。→花よ、私と踊りましょう
  • 事件後、絆やそういったものが大事だという認識にいたり、
    「私のほうが兄を捨ててきてしまったのではないか、兄と一緒にいれば苦労を分かち合い支えてあげることもできたのではないか」
    という疑問を持つ。→What I can do for you
  • 兄を捜し始める。グリフィスが手伝いを申し出る。
  • リナリアの遺跡を発見したことで上がった名声を元に、大きな事件を一つ独力で解決したのを機会に冒険者を引退し、グリフィスが始めた宿の看板娘に収まる。→半分の花のための踊り/Another Dance
  • 現在では昔とは逆に兄を見守る立場。

みりんシアターオーディション

おねーさんの話

教育からドロップアウトした時に出会った、もしくはする原因となった30代後半の美女。
「精霊が見えるんだろう? あたしの周りには今、どんな精霊がいる?」
が口癖だったおねーさん。
駄目な男に騙されたこともあって、小さい子供がいて、お金を貯めて故郷でお店を開くのが夢で、倹約してるのにディルの世話をしてくれてる。
「俺の面倒なんかみてちゃ駄目だろ、お金貯めてんのに」って言うと「子供の面倒みてくれてるからね、おあいこだよ」
で、子供の父方の祖母だって人が現れて、
大金を押しつけて子供を奪っていった。
女の人は地元に帰って店を開くことにした。
ついてこないかと誘われたけど、
ついていかなかったのは、母と妹と暮らした街に未練があったからだろうか。
最後に、少しだけ二人の人生は交錯した。

お嬢さんの話

18の時、とあるお嬢さんの側仕えを2週間だけやるという仕事が入った。
貴族相手に仕事はしなくなって久しかったし、そもそも背が伸びてからそういう仕事も舞い込まなくなっていたのでいぶかしんだが、割が良かったのとぜひにと乞われて入った。
行ってみたら、お嬢さんは開口一番
「久しぶりね。妹の話をして?」
それでよみがえる記憶。
もう十年ぐらい前、夏の間だけ自分と変わらない歳の女の子の遊び相手をした。
当時は母も生きていたので、妹は家に置いたまま。女の子との遊びかたなんか知らなかったから、妹の話ばかりしていた。
あの子はにこにこしながらそれを聞いてくれた。遠い夏の話。
「もう、妹とは一緒にはいないんだ」
「そう? 残念ね」
音楽会(もちろん、聞くほう)や船遊びにかり出され、あっという間に2週間は過ぎた。
最後の日、お嬢さんは、この休暇が終わったらとある貴族の御曹司に嫁ぐことを打ち明けた。
「ふうん」ディルウェンはそれをなんの感動も感慨もなしに聞いただけだった。
報酬を貰うとき、お嬢さんはもう姿を見せなかった。ただ包みが添えられていて、それは昔「妹が好きなんだ」と言った味のキャンディーだった。
10年前もディルウェンは持たされた同じ包みを手に家路を急いだのだった。
お嬢さんが偶然耳にした彼らの窮状を救うべく父親に直訴していたこと、父親はそれを聞き入れなかったことをディルウェンは知らないまま。
十年後のキャンディーは一人で食べた。
お嬢さんは嫁いでいった。

「お嬢様……お嬢様が彼らのために尽力しようとしていたことを、お伝えにならなくてよかったので?」
「ええ。結局わたくしは何もできなかったのですもの、そんなことを伝えられてもいまさら迷惑なだけでしょう?」
「……そんなことは、ないかと存じますが。苦しかったあの日、差し伸べようとしていた手があった、そのことだけでも……」
「そうね。……けれど、もういいの。彼は私の手を取って逃げてくれなかったのですもの」
「……お嬢様、それは……?」
「いえ、結婚に不満などありはしないわ。定められたことですもの。
 ……ただ、そう、ただ、旦那様は父と同じ人種なのだわ」

2011/01/07魔境の記録

・フローライト
 年上のお姉さんとか食傷してるんじゃないかって言われてたけど。
「冒険者ならそーでもないよ?(笑)」
 っていうかお前が接したお姉様のほうが偏ってたんだけどね。
 それとは違うって思えるんだ?
「なんだか、若い女の人っていうよりおばちゃんみたいだよね」
……それが褒め言葉だって分かるのは私ぐらいのもんだと思うぞ。

・ルキア
「好きだよ?」
 (つんのめった)
「えへへ。好感が持てるって意味ー。ちゃん付けすると怒るけど」
 そこはお前的にポイントなのか……ってかわざとやってるだろう。
「まあねー。目標達成できればいいね」
 その言葉、近いようで遠いな。

・エルマ
「見られてる感じがするよねー。俺見られるの好きよー?(笑)」
 (はっ倒した)
「うわあん(笑)」
 それだけ?
「…………、いつか、見聞きされたことがものすごい形で返ってきそうで」
 それって、お前が“よく分かってない”っていうグループの人たちと同じだよね。
「そうかもね。俺がよく分かってるのなんて、歌えることと俺のことだけだけどね」
 ……後者はどうかな。

・ソフィア
 笑われたがってたのは、実は私じゃなくてお前だったってことを私は知ってる。
「えぇ。だから何さ~?(笑)」
 想定される範囲内の反応が返ってくると嬉しいんでしょ? まあいいけど。
「んー。ヒイロとかハークとかと話してるの見るのは好き」
 わかりやすいからね、、、
「人形劇でああいうのあったよね」
 あったあった。

・バート
 ありがたがってたけど。
「そうだね。他の子にも優しいよね」
 お前が言う他の子ってのは……

・フランツ
 面白いよね、とか言うんだろ。
「やだなあ、そんな怒られそうなこと言わないよ」
 言ってる言ってる。
「ん~。精霊使いってみんなピュアピュアなのかなー?」
 ハークとか? 確かになぁ。
「そこで何で俺を入れてくれないわけー?(笑)」
 自分の胸に聞け。

・ファラーシャ
「あの子? みんなに態度同じだよね。俺と一緒一緒」
 嘘をつけ。お前フランツとかにも同じ態度してるつもりかよ!
「もちろん♪」
 なぜ背後霊にまで煙を撒く必要が……まあいい今回はツッこまないからな。
 で、誰の態度がみんなに同じだって?
「だって皆にミルク配ってるじゃーん?」
 わざと言ってるだろそれ。クリスマスプレゼントのこと忘れるとでも?(笑)
「……あれは話の行きがかり上のお約束。俺もあげたし」
 そこでいつもはしない意地悪してたのは誰?
……こら、逃げるな!(笑)

・スピカ
 同じって言うならバード仲間のスピカちゃんのほうがそうなんじゃないの?
 真面目なこと言ってたし。
「んー、真面目だから俺とは違うよね!
 あーゆー真面目な子の方が(例の)歌を歌えるのかなーとか」
 なるほど、あんたはそう思ってんのか……。てか、ファラちゃんも真面目だと思うんだが。
「そーいえばそーだねー」
 じゃあ不真面目が邪魔したらいかんよ。
「えー。邪魔はしてないよー? できることがあったらって思うし」
 何があんのさ。
「あのおばーちゃんが生きてたらよかったんだけどね……。
 まあ、あのおじさんでもいいのか」
……ちょ、え?!

All you need is (Love). (ディル話 feat.ばるさんありがとう)

 ふまじめな自分。
 軽い自分。
 舌がよく回る自分。
 笑顔だけは上手な自分。
 
 世界はそんな俺にも優しくするほど余裕のある奴じゃない。
 
 
 冒険者、という職業はこっちから選んだものではない、と思っている。
 ただ旅をしてみるつもりだった。
 しばらくは気ままな日々を送っていてもよかったけれど、革袋の重みは、減る一方の路銀の量を主張してくる。
 なんの仕事もしていないのに貰えた金だった。
 いつか使い切ってしまうのが怖い金だった。
 そんなに財布に痛くない宿を探していたら、それが、冒険者の宿というものだった。
 
 しばらく逗留して、それなりの作法を見聞きしてから仕事にありつく。
 そう、何ごとも始めるときは作法というものが必要だ。
 しかし、気持ちの中には何にも縛られたくない自分が大きく育っていて、せっかく作り上げたムードを壊すような振る舞いも時々やった。
 結果的に周囲の人間を試すようなこともしたと思う。
 
 そうして学んだ冒険者という世界は、予想とは大きく異なっていた。
 遺物を探しては路銀に変える仕事だと思っていた。
 そういった物と同レベルに、我が身を取り引きされたこともあったから。
 お抱え冒険者、といった類の人間となら顔も合わせたこともある。
 でも飛び込んだ世界ではそうでなく、困っている人たちの声を聞くのが格段に多かった。
『お願いします』、
『ありがとう』、
 と。
 こんなにも言われる仕事だとは、思わなかった。
 
 
 冒険者と呼ばれるのも悪くないかも知れない、と思い始めた頃、懐かしき闇市の街で言葉の形を借りた錐が心臓を突き刺した。
 
『ハーフエルフの人形ならいくらで買うか、とね。こっちとしては倍ぐらいの値段を付けてほしいのだが』
 
 ああ。
 
 母と、妹と暮らした街だ。
 売るだとか買うだとかいう話は、正直、聞き飽きている。
『ハーフエルフだから、高値で買ってほしい』
 それこそは、自分が何度も舌に乗せた言葉だった。
 世界に優しくしてもらう価値がなくても、お金だけは裏切らない。そう思っていた。
 でもどうして今、見ず知らずの娘達のために親身になっている?
 事件を解決して金銭をもらうため?
 だったら、いなくなった娘がハーフエルフだろうがドワーフだろうが、関わりないはずではないか。
 どうして?
 
……赤の他人、のその少女と目が合ったとき、わかった。
 もし、妹だったら。
 お願いしますだとかありがとうだとか、自分のほうが言う羽目になっていたら。
……いや、もしかして、俺が知らないだけで、実際に妹はどこかで誰かに助けられているのかも知れない。
 
 
『ありがとう、お兄ちゃん』
 
 少女を見送って、顔を上げる。
 母と妹と暮らした街の、思い出の残滓が町並みにこびりついている。
 あの頃も今も、世界は俺に優しくなかった。
 それでも、誰かが妹に優しくしてくれていることを願う。俺の代わりに。
 それなら、誰かにそいつの兄の代わりに、優しくしてやってもいいんじゃないか。
 
 
 ふまじめな自分。
 軽い自分。
 舌がよく回る自分。
 笑顔だけは上手な自分。
 冒険者業、とやらを始めた自分。
 
 世界が俺に優しくなくても。
 俺が世界に優しくしてやることはできるだろうか。
 まだそれの、名前は見つからないけれど。

半分の花エンディング

「本当に……本当に、……兄さん?」
「わあ、みんなってば策士」
 
 ろくなことにならないだろう、とは思っていた。
 あの日のままの姿の妹が、あの日とうって変わった表情で駆け寄ってきて、俺の手を取った。
 
「本当に、冒険者になっていたんですか?」
「それは、こっちのせりふ」
 宿にいるということは、そういうことなのだろうが。
「あ……今は、冒険者は引退したんです。
 このお店をされてた方が田舎に引っ込むって、それで、ゆずってもらって」
「うわあすごい展開」
 じゃあカウンターに立ってる男はなんだ?
「グリフィス、兄さんなの」
 
 それで、妹と男は万感の表情で見つめ合った。
 
 お似合いだなあとか。
 幸せにしてもらったんだなあとか。
 別に、思わなかった。
 
 代わりに思い出したのは、歌の師匠の家を出てきたときのこと。
 妹がいたんだっけ。
 そんなことも、忘れてしまいそうな自分。
 
 口も上手くない。
 ぎりぎりになるまで、体も動かない。
 ここまで俺を引っ張ってきた冒険者連中が、どうして自分を助けてくれたのかわからない。
 こういう展開が待ってたってことは、妹の依頼かなんかがあったからだろうか。
 
……それでも、いいかな。
 
 自分の力だけじゃ、子供一人助けられない。
 それがお前だ、ディロン=ナッシュ。
 
……忘れていたかったんだなあ。俺はそれを。
 
 妹を幸せにできなかったってことを。
 
「それでもお前は、覚えていたんだなあ」
 
 幸せになってるんだなあとか。
 別に思わなかった。
 
 何となくそれは、ただの、ごく当然のことのような気がしたから。
 
「……覚えてなきゃいけないことがあるんだ。
 これをお前に預けても、覚えていられるかなあ」
 

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そもそもの話

 ある男の話をしよう。稀代の歌姫の息子に生まれついた男の話だ。
 
 そいつは血の伝えるものとやらを信じていない。だから、母のすべてを受け継ぐ者は、自分でなくともいいと割り切っていた。
 
 
 
 宮廷詩人まで務める天才の、たった一人の実子という立場は色々複雑だ。特にそいつのように、人並みよりちょっと優れた程度しかその能力を受け継がなかった身からしてみればね。しかしそれに悩んだのもせいぜい十代の頃までだ。
 いつしか男は自分が舞台に立って歌うことよりも、そのお膳立てをすることに歓びを見出していたし、実際それはそいつに向いていたようだ。
 とはいえまだまだ若造だ。母を慕って集まってきた若人とわいわいやるのもそれなりに、いや、正直に言えば、何にも代え難い時間だった。
 もちろん友人連中はそのたいがいが喉を商品にしてる奴らばかりだ。そのせいで暴飲暴食を制する立場に回ることも多かったが、それでもまあ、男は愉快にやっていた。
 親友と呼べる奴もできた。そいつは天然の人たらしで、いつの間にかそいつを中心に人だかりができてるような奴で、その不思議に魅力的な笑顔に屈さないのは、皆のマドンナ、エルフのグウェンダぐらいのもんだった。
 
 そうそう、グウェンダの話をしておかなきゃな。
 どうして生粋のエルフがその仲間に加わってたのかは誰も知るところではなかったが、人の世界のいろんな民謡を集めてるって彼女の情熱は人一倍だったな。
 男連中は皆グウェンダに首ったけだった、もちろん歌姫の息子も例外じゃなかったんじゃないか。
 まあ、彼女がそいつに振り向いてくれることは結局なかったがね。
 だが例の人たらしと歌姫の息子は妙に気が合って、歌い手と後援者という垣根を越えて何でも腹を割って話せる間柄になっていたし、どういうわけか奴のほうでもそいつを親友と認めてくれていたようだった。
 
 いつだったか男は酒の力も借りて、宣言したことがある。
「俺は最高の劇場を作るぞ。俺たちの国だけじゃない、よその国からわざわざ王様が聞きに来るような奴だ」
 彼の親友は例の笑顔を浮かべて応えた。
「だな。もちろん、そこで歌うのは俺だ」
「決まってるじゃないか。お前が、俺の劇場で、……お前の歌を聞くためによその国から王様が来るんだ」
 
 
 
 稀代の歌姫も年を重ねる。いつか国王のお抱えには別の詩人を、ということになるだろう。
 十数年先のそんな日を占うための、特別なコンクールだった。その頃にはそいつは順調に人脈と財力を伸ばし、審査員の一人に数えられるようになっていた。
 もちろん歌い手の中には例の親友もいて、下馬評では一番の人気を争っていた。
 だけどそいつは知っていた。奴の人気は、実力から来るだけのものではない。もちろんこの場に立っているのだ、運や性格だけでどうにかなるものではないのは明らかだ。
 だけど稀代の歌姫の後継者は、そのすべてを伝えるものは、……奴には、まだ早い。
 その時の男にとって、あの母の息子として、それだけは譲れないことだった。もしかしたらそれが、自ら後継者の座を手放した矜持のようなものだったのかもしれない。
 男は考えた。
 
 これは賭けだ。
 俺はここでお前を勝たせない。楽器でもなく舞台でもなく、それが今の俺がお前に与えてやれる一番のものだ。
 だから必ず這い上がってこい。
 諦めたらお前の負けだ。
 
 
……親友は街から姿を消した。
 ただ、愛用の楽器と共に親友が伴った“もの”の名を聞いたとき、敗者は誰だったのか、男はそう思わずにはいられなかった。
 
 
 
 あれからどれだけ経ったのだろう、いつしか男の母は床に伏す身となった。結局後継は、それなりの者がそれなりに務めている。
 親友とは二度と会わなかった。賭けに負けたのは俺のほうだろう。……いや、もはや親友と称するのもおこがましいことだったかもしれない。
 ただ、遠いあの日に毎晩酒を酌み交わした友の一人から、酒場で客を取っているとある少年の話を彼は聞いた。
 その面差しが、奴が一人伴ったマドンナを思わせる、ということも。
 
 しかしそいつは血の伝えるものとやらを信じていない。だから、稀代の歌姫のすべてを受け継ぐ者は、それだけの可能性を秘めた誰かでなければならない。
 その素性など、何の意味もない。
 
 だがその男も、賭けには勝ったのかもしれない。
 
 
「とある老人がいる、衣食住の面倒はみるから、──しばらく一緒にいてやってくれないか」


*1 というか、もの扱い