第0話 桜の距離
- あらすじ
魔理沙が「神社が遠くなった」とか言い出す。
それは三妖精の悪戯のせいだった!
三妖精は神社へ宴会に向かう人間や妖怪達を次々と悪戯に引っかけていく。
その後、レミリアと咲夜が遅れて宴会に参加。
それから霊夢に見つかった三妖精は逃げ出すのだった。
- 名台詞
魔理沙「よう、何かさぁ。神社遠くなってないか? 最近」
霊夢「遠くって基準はドコなのよ」
魔理沙「もちろん私の家だ」
霊夢「「じゃああんたの家が移動してるのよ」
霊夢「もう、少しは準備手伝ってくれても良いじゃないの」
サニー「あの巫女は勘が鋭いからね。でも私たちの姿は見えていないはずよ」
スター「そうね。サニーの力さえちゃんと働いていれば、霊夢に対しては心配することないわ」
ルナ「でも、さっきはこっちを向いていたよ? ずっと」
ルナ「あの巫女は勘が鋭いのよ」
サニー「あんたは心配性ねぇ。ほんと」
ルナ「その勘が最大の敵だってもうそろそろ学習したら? サニーは良いのよ! 悪戯がバレて痛い目に遭うのはいつも私なんだから。私の能力はしんがりを務めるためにあるわけじゃないのよ?」
スター「それはあんたが鈍くさいだけね」
レミリア「急がば回れって言うのかしら?」
咲夜「違いますわ。石の上にも三之助が辛抱ですわ」
霊夢「離れてる離れてる」
サニー「さぁ、逃げるわよ!」
三妖精「はいな~!」
魔理沙「悪戯好きの妖精なんて見つけたらこてんぱんにしてやるよ」
霊夢「まぁ、今日はせっかくのお花見だから……妖精も誘えば良かったかしらと思ったの」 - 巻末コメント
新装刊おめでとうございます。松倉です。ふつつかものですが、よろしくお願いします。
第0話 桜の距離 続き
この話は4コマだが比良坂真琴氏が執筆している。
- あらすじ
咲夜&レミリア、妖夢&幽々子、橙&藍、慧音&妹紅といった面々が次々に悪戯に引っ掛かっていく。
だが紫に見つかった事で悪戯は終わるのだった。
ちなみに妹紅や霊夢が「1年かかった」的な冗談を言っているが当時のコンプエは季刊→隔月と経ているメタネタである。
- 名台詞
ルナ「でもメイドの方はちょっと勘が鋭そうじゃない…?」
サニー「大丈夫だって! 絶対バレっこな…」
レミリア「どうかしたの咲夜?」
咲夜「…いえ、気のせいだったみたいですわ」
三妖精「あぶな~…」
幽々子「妖夢…私もうダメみたい…先に逝くわね…後は任せ…」
妖夢「幽々子様! しっかりして下さい…私を一人にしないで…! 幽々子様~っ!!」
幽々子「ZZZ(寝てるだけ)」
三妖精「(面白い人達だなぁ…)」
妹紅「花見に呼ばれて来たのはいいけどまったく辿り着く気配が無いんだが…」
慧音「確かにちょっと妙だな……」
妹紅「このままだと到着は来年の春になってたりしてね……」
慧音「はは、まさか……」
橙「藍様…おんぶ…」
藍「なっ…何言ってるんだ橙……いいかい橙、立派な式になる為には何でも修行だと思って…ん?」
妖夢「…あれ? 奇遇ですね」(幽々子をおんぶしてる)
霊夢「…にしても本当遅いわね…何かもう一年くらい待ったような気分だわ…」
魔理沙「ははっ…多分、気のせいだぜ…」
第1話 梅雨明けの真実
- あらすじ
梅雨に弱いサニー。天気の悪い日は日の光や月の光が遮断されて能力が使いづらいのである。
その中で日の光にも月の光にも作用されないスターの指揮によって、雨を止めてひと足早く神社を梅雨明けにする悪戯を行う。
サニーの能力であれば水滴から光の屈折を奪って雨を見えなくする事も可能。さらに虹もかける。
サニー・ルナによって土砂降りが見えなくなった魔理沙は土砂降りの直撃を食らってしまう。
勢いづいた三妖精だが、スターは突然サニーとルナに傘を渡して距離を取る。
梅雨が明けて雷に打たれたのである。
尚、東方文花帖(書籍版)にこの話の後日談が載っている。
- 名台詞
ルナ「はいはい雨音を消すわよ。静かになって話がしやすいでしょ」
スター「サニーの頭が弱ってるみたいだから、今日の悪戯は私が指揮をとってあげるわ」
サニー「弱ってるのは頭じゃない!」
魔理沙「最近の雨は甘いと思わないか?」
霊夢「雨が甘い…? そんなことないと思うけど--」
魔理沙「神社の雨が甘くないだけだ」
霊夢「そりゃ神社だからね。甘い雨なんて……お寺じゃあるまいし、そもそも季節が違うわ」
魔理沙「なんの話だ?」
霊夢「灌仏会(かんぶつえ)」
・灌仏会 釈尊の誕生の日をお祝する仏生会の日。誕生仏の像に甘茶を掛けて祝う。
魔理沙「ちゃんとツッコまないとどこまでも話がそれるんだな。甘いってのは味じゃなくて降りかたのことだよ。雨の降りかた」
スター「おお、かわいそうに。サニーったら本当に弱ってるのね」「なんのためにあなたがいると思う?」
サニー「……哲学的な難題ね」
ルナ「そんなの…「我思う 故に」ってことで いいじゃないもう!」
スター「傘貸しましょうか?」
ルナ「いいの? 珍しいわね、スターがそんな優しいこというなんて」
サニー「珍しいというより怪しいわ」
スター「うふふ」「雨は見えないけど土砂降りだからそろそろ危ないと思うの」
霊夢「虹はね。龍の姿が空に映ったものなのよ…それで稲妻は龍が現れる兆し…。ほら魔理沙今日は良い天気だわ。梅雨の最後は必ず雷雨になるのよ。これで梅雨明けね」
魔理沙「…なんで朝食を私がつくらないといけないんだよ」
霊夢「妖精の力は自然の力。本当は自然がいちばん悪戯好きなのよ。案外、自然だってなにかお仕置きを受けているかもね」
魔理沙「夏の初日か………今日は暑くなるかもな……」 - 巻末コメント
夏に「東方花映塚」を出します。東方十周年で十作目、いつの間にか日本が好きになる心地よいゲームですよ。(ZUN)
第2話 迷いの無い巫女
- あらすじ
突如、墓参りに行くとか言い出す霊夢。
三妖精はその隙をついて道を川の上まで曲げて霊夢を川へ落とそうとする。
霊夢は川である事に気づかず、川に落ちようとしたその時、運良く現れた川魚を踏み台にして事無きを得る。
その後、サニーとルナは魔理沙にお仕置きされるのだった。スターは逃げた。
- 名台詞
ルナ「夢の新薬開発に成功……ふむふむ大した異変もおきないわねぇ」
魔理沙「そんなモノ持ってどこかへ出かけるのか?」
霊夢「彼岸だからこれからお墓参りにいもうと」
魔理沙「お前は本当に巫女か? ここは本当はお寺じゃないのか?」
霊夢「んーーあんまり関係ないのよ。多くの行事は信仰より心情的なものなの。じゃ、私はでかけるからお留守番お願いね」
魔理沙「墓参りか……って勝手に留守番を押しつけるなよ」
霊夢「♪」
サニー「勉強不足ねぇ。彼岸はね、昼と夜の長さが同じになる頃のことをいうの。お日様とお月様が同じ強さだから幽かな力のモノでも表に出てこれるのよ」
霊夢「墓場にはくる人がほとんどいないし、道も荒れてるわね。まあ道通りに進めば着くと思うけど……」
三妖精「めったに人の通らないこの道を川の上まで曲げて巫女を川にハメましょうそうしましょう」
三妖精「そ、そんな馬鹿な!」
魔理沙「おっと、逃がさないぜ。少しはこの世の中のことを教えてやらんと、な!」
サニー&ルナ「ギャー!!」
霊夢「なんで私がお墓参りするのかわかる? 別にご先祖様がどうだとかいうためじゃないのよ」
魔理沙「まあ、そうだろうな」
霊夢「神社からみるとお彼岸の日には鳥居から日が昇り、この時期日の出が鳥居を通して昇ることでお日様が最も力を持って、墓地の方角に日が落ちるの。それが墓地に沈むことによって霊の力を抑えるワケよ」
魔理沙「あー彼岸の時は幽霊の活動が活発になるから抑えんといかんからな。なんで活発になるか知らんけど」
霊夢「反対にこの時期に日が沈む方向にお参りにいかないと、お日様に対して失礼にあたるじゃないの」
魔理沙「ご先祖様には失礼じゃないんだな」
魔理沙「……迷いが無い者は道にも迷わないんだな」 - 巻末コメント
東方の漫画を描くのは緊張します。
第3話 月の画餅
- あらすじ
夜中に徘徊するルナ。
ルナが拾って来たのは星条旗。なんと月から落ちてきた物だというのだ。
後に「東方儚月抄」でも一瞬だけ触れられた。
- 名台詞
サニー「んーー早起きは二束三文ね」
ルナ「どこが早起きなのよ?」
サニー「なによ。お日様が顔を出すのが遅くなっただけよ」
スター「ルナは、不眠症なんじゃないの?」
ルナ「なんで? そんなことはないわよ」
スター「朝はいつも一番に起きているし、夜だってちょこちょこ抜け出してどっかに行ったりしてるでしょ? きのうだって抜け出してなかった?」
ルナ「んー。だってきのうは十六夜の月だったじゃないの」
スター「今日の木の実と同じ物は二度と拾えないしー。いつもと同じなんてことあるわけないわ」
ルナ「十六夜の時はね。もっとも力のある満月がちょっとだけ欠けるから、その欠けた破片が地上に降り注ぐのよ。だから十六夜の時には月から落ちてきた物が見つかりやすいの。それがきのう拾った月から落ちてきた物」
サニー「はあ。月から落ちてきたものを集めてどうするのかしら?」
ルナ「もっともっと月の物を集めてここを地上の月にするのよ。そうすれば私の力だけでも悪戯し砲台ね」
スター「壮大ねー」
サニー「そもそも、この旗とか本当に月から落ちてきた物なのかなー」
ルナ「何で?」
サニー「旗っていうのは、これが自分の物だって誇示するために使うのよ。これが月の物だとすれば月の都の人にも醜い縄張り争いみたいな物があるってことよね。私たちが知っている月のイメージとはかけ離れているわ。もしくは人間が勝手に月を自分たちの物だといっているのかもね。そうね、それこそ絵に描いた餅」
ルナ「なによ、それって私にいってるの? いいもん、いつかはここを地上の月にするんだから」
サニー「大きすぎても小さすぎても駄目。飴が足りなくても入り過ぎても駄目。美味しそうな餅の絵を描かないと誰も手伝ってくれないわよ?」
スター「でも、この旗。星がいっぱい描かれていて素敵ねー」 - 巻末コメント
お久しぶりです、ZUNです。冬に天狗の不思議な遊びが楽しめる新作を出します。ゲームが好きな人は是非。
第4話 星の鳥居
- あらすじ
冬の日、博麗神社に襲った謎の雪煙。
霊夢は魔理沙が暴れたせいだと決めつけるが魔理沙には身に覚えがなかった。
それを傍観していた三妖精だったがスターはその辺に落ちてた石を拾って、隕石が落ちてきたと言いはる。
- 名台詞
サニー「スター何かないの? ねえ」
スター「ないわ」
サニー「さっきから何かひとり楽しそうね」
ルナ「スターはいつも楽しそうで気味が悪いわ」
スター「ふふっ。この石がね、もうおかしくておかしくて…」
サニー「石っていつから幻覚の香を持つようになったのかしら。まさか石を食べたの?」
スター「石だって調理すればミネラル豊富でおいしいかもね。食べないけど」
スター「鳥居って不思議だと思わない? あの形の由来って誰も知らないのよ?」
ルナ「いやまあ不思議だけど」
スター「その由来が石からわかったの」
サニー「何よ楽しそうな理由が判っても判らなくても気味が悪いわね」
スター「ほら、この隕石。見ての通り隕石に鳥居が刻まれていたわ。つまりあの鳥居の図形は宙(そら)から隕ちてきた物だったのよ。隕石は定期的に落ちる。その場所を聖地として古代の人間は神社と鳥居を建てたのよ」
サニー「それがそんなに楽しいいことかな」
スター「何いってるのよ。神社が宙に関係しているとするとその信仰は日と月。そして星をふくむことになるじゃない。巫女がそれに気付いた時、神社は私たちの住処になるの」
サニー「というか、ほんとうにそれ隕石なの? そもそも隕石が落ちてきてあの程度の雪煙なのかな」
ルナ「普通に考えれば鳥居の模様が描いてあれば元々は神社の石なんじゃない?」
スター「信じないの? じゃあ、この石は私の石ね。信じても私の物だけど」
サニー&ルナ「……いらないなー」 - 巻末コメント
今年も波乱の幕開けでしたが、よろしくお願いします。(松倉)
第5話 大卵の怪異
- あらすじ
博麗神社に落ちていた巨大卵。
霊夢は木槌で砕こうとするが、三妖精に盗まれてしまう。
三妖精は巨大卵を割る為に必死になるが物凄く硬くて割れなかった。
そうしてると三妖精の住処である大木が竜巻に巻き込まれて大木ごと空を舞い上がる。それは天狗風だった。
次の日、ルナが目を覚ますと卵の横に深山の大天狗の詫びの手紙が置かれていた。
三妖精の盗んだ卵が身内の卵ではないかと疑っていたがそうではなかったのである。
そして詫びの品として家を元通りにして、天狗の秘宝(木槌)を一つ置いていくのだった。
「でも、結局何の卵だったかというと……それはまた後日」とは言われていたが明らかにならなかった。
- 名台詞
霊夢「これだけ大きいとなると……普通の鳥や蛇じゃないな」
魔理沙「化け猫か何かの卵じゃないのか? まあ食べるのは何の卵か知ってからでも遅くはないぜ。そうだな香霖にでも見てもらってから……」
霊夢「そうねえ。でも霖之助さんに持っていかれちゃうかも知れないけど」
スター「さすが妖精一のこそ泥団と呼ばれるだけのことはあるわ」
サニー「だれがこそ泥なのよ。たまたま巫女たちを驚かせてやろうと思っただけよ」
サニー「そうね。こんなに硬いなんてきっとゴーレムの卵か何かね」
サニー「地震?」
ルナ「大丈夫。うちは木でできているから地震には強いわよ!」
サニー「すごいわね。空を飛ぶ家なんてまるでメルヘンね」
スター「森から抜け出して別の場所で生活するのもおもしろいかもね」
ルナ「何のんきなことをいってるのよ! きゃあああ」
霊夢「あら天狗風。不吉ねぇ」
ルナ「ん……あいたたた私はドコ?」 - ----
拝啓 光の三妖精様
このたびはこちらの手違いでご迷惑をおかけして誠に申し訳ございません。
実は、鴉天狗の身内に卵を盗まれた者がいるのです。
その卵を探していたところ大きな卵を運んでいる妖精がいるという報告を受けたので、奪還するために昨日のように家ごと山まで持ってこさせました。
ですが、確認したところ探していた鴉天狗の卵ではありませんでした。
お詫びとして家をもと通りにし、天狗の秘宝を一つ置いていきます。これでどうかお許しください。
敬具
深山の大天狗 - ----
サニー「卵はそのまま置いていったし、これで卵を割れってことね。天狗の卵じゃなければあとはどうしてもいいってことみたい」
ルナ「まったく天狗は乱暴なんだか親切なんだかわからないわ」
ルナ「ってちょっとまってよ、結局、この卵は何の卵なのよ」 - 巻末コメント
連載をはじめてもう1年が経つんですね。季節が巡ってまた桜の季節がやってきます。(松倉)
小説「月の妖精」
単行本書き下ろし。挿絵は綾見ちは。
- あらすじ
孫康映雪の四文字熟語を軸にして進む。
香霖堂で蛍光灯を手に入れた三妖精。
だがそこに現れたのは境界の妖怪、八雲紫だった。
ルナは一人逃げ遅れるが紫は月の光の妖精であるルナこそが一番妖怪に近いというのだった。
次の瞬間、その記憶は忘れてしまったがなんとなくルナは蛍光灯を拝むのである。
- 名台詞
孫康映雪(そんこうえいせつ)。
大陸の偉人は油を買うお金が無くても月の明かりを雪に写し、書を読んだ。
あの狂おしい月光をかき集めて本を読んだのだ。
読んで--高官まで上り詰めたのだ。それはその者の勤勉さを称えよという意味か?
それとも、お前も努力を怠るなという戒めか?
いや、そうではない。そんな訳がない。そんなくだらない意味であってはならない。
「-普通は寝たら忘れるもんだわ。何もかも」
「今日って何かあったっけ?」
「確かに、スターの言う通り普通は寝たら忘れるのね。今日は宝探しの日でしょうに」
「私一人だけ説教されてたのよ。余り聞いてなかったけど」
「聞いてなかったじゃなくて、聞こえなかった、でしょ?」
「ま、冷やかしだと思っていたよ。妖精がこの地的な道具だらけの店で買い物なんてする訳がない」
霖之助は冷やかしには慣れているようだったが、やっぱり客じゃないのかと、がっかりした感じだった。
「残念ながらこれは珍しい物ではない。これは、外の世界で光を放つ道具だね。外の世界では『蛍光灯』と呼ばれ、最も一般的な物の一つだよ。ただ、これを光らす方の道具はうちには無いけど……」
彼は珍しいものじゃないと言ったので三妖精ががっかりすると思ったのか、お茶を淹れにその場を去った。だが、三妖精はむしろはしゃいでいたのである。
「まぁ、蛍光灯は割れやすいから……これだけ完品が落ちている事は珍しいね」
いや、勉強しろとか努力しろとかそんな事はどうでも良いのだ。それは悪戯-つまり楽しい事の一環なのだから。勉強なんて意味無い、努力なんて無駄。そんな間違った勉強観を元に不機嫌になっている訳ではない。
そうだ、孫康映雪……だ。
「私は八雲--境界の妖怪、外の世界の道具の管理者でもあるの」
「きょ、境界の妖怪!?」
境界の妖怪。なるほど聞いた事がある。それは幻想郷と外の世界の境界を自由に行き来できる妖怪の事だったと思う。ルナにとって不幸な事に、幻想郷で最も恐ろしい妖怪の一人だ。
「貴方の持っているのは……蛍光灯か。なーんだ。大したもんじゃないわね。何か危険な物が妖精の手に渡ったのかと思っただけよ」
「危険な物?」
「外の世界には非常に危険な物もある。人間や妖怪ならまだしも、妖精には危険さも伝わらないからね。面白半分に使われて幻想郷を滅茶苦茶にされても困るし……でも蛍光灯なら別に良いわよ。それは貴方達の物……振り回すも良し神棚に飾るも良し、お好きなように」
「孫康映雪。巫女の説教に使われたり、けんどんな古道具屋の蘊蓄に言われたように、努力を惜しむなう戒めに使われる事が多いけど、それは違うのよ。外の世界では、支配者が民衆を抑え付ける言葉として使われるようだけど、それも勿論違う。貴方はそこに釈然としない何かを感じて悩んでいたんでしょう? 本当の意味は--」
妖怪は持っていた傘の先を、ルナの鼻先に当てた。
「--月の力を称える言葉だと言うのに。月の光の力は、日の光よりも優れている。静かなる力、心の色、悩み、月の光は何物にも惑わされない光なのよ。さあ、起きなさい。貴方が他の日の光と星の光にいいようにあしらわれているのは何故だと思う?」
今度は蛍光灯の先端に傘を向けた。
「貴方が一番--」
ルナが手にしていた蛍光灯が、真っ白に明滅した。森中の光がこの蛍光灯に集中したように見えた。森全体が明滅して見える。この光を見ていると、何だか気が遠くなる。そして、そのまま気を失った。
「貴方が一番--妖怪に近いから」
ルナは昨日出会った妖怪の事は既に覚えていなかった。それが妖怪の能力だったのか、明暗した蛍光灯に催眠効果が有ったのか、それともただ単に忘れてしまったのか判らなかったが、何か気持ちが晴れ晴れしていた。いつも活動的な他の二人にも、気後れする事は無かった。