第拾参話 使徒、侵入/EPISODE13:LILLIPUTIAN HITCHER

Last-modified: 2017-10-13 (金) 21:12:41

Aパート

オペレータ:EVA三体のアポトーシス作業は、MAGIシステムの再開後予定通り行います。

オペレータ:作業確認。450より670は省略。

マコト:発令所、承認。

リツコ:さすがマヤ、早いわね。

マヤ:それはもう、先輩の直伝ですから。

リツコ:あ、待って、そこ。A8の方が早いわよ。ちょっと貸して。

マヤ:さっすが先輩…

ミサト:どぉ?MAGIの診察は終わった?

リツコ:大体ね。約束通り、今日のテストには間に合わせたわよ。

ミサト:さすがリツコ。同じ物が3つもあって、大変なのに。

リツコ:冷めてるわよ。それ。

ミサト:ぐっ!


オペレータ:MAGIシステム、再起動後、自己診断モードに入りました。

マヤ:第127次、定期検診異常無し。

リツコ:了解。お疲れさま。みんな、テスト開始まで休んでちょうだい。


リツコ:異常無し、か…母さんは今日も元気なのに、私はただ年を取るだけなのかしらね…


アスカ:えぇ~?また脱ぐのォ?

リツコ:ここから先は超クリーンルームですからね。シャワーを浴びて下着を替えるだけでは済まないのよ。

アスカ:なんでオートパイロットの実験で、こんなことしなきゃいけないのよ~

リツコ:時間はただ流れているだけじゃないわ。EVAのテクノロジーも進歩しているのよ。新しいデータは常に必要なの。

シンジ・アスカ:えぇ~!?

アスカ:ほら、お望みの姿になったわよ。17回も垢を落とされてね!

リツコ:では3人とも、この部屋を抜けてその姿のままエントリープラグに入ってちょうだい。

アスカ:えー!

リツコ:大丈夫。映像モニターは切ってあるわ。プライバシーは保護してあるから。

アスカ:そーいう問題じゃないでしょう!気持ちの問題よ!

リツコ:このテストは、プラグスーツの補助無しに、直接肉体からハーモニクスを行うのが趣旨なのよ。

ミサト:アスカ、命令よ。

アスカ:もぉ~う、絶対見ないでよ!


オペレータ:各パイロットエントリー準備完了しました。

リツコ:テストスタート。

オペレータ:テストスタートします。オートパイロット、記憶開始。

オペレータ:モニター異常なし。

オペレータ:シミュレーションプラグを挿入。

オペレータ:システムを、模擬体と接続します。

マヤ:シミュレーションプラグ、MAGIの制御下に入りました。

ミサト:おぉ~、早い早い!MAGI様様だわ。初実験のとき、一週間もかかったのが嘘のようね。

オペレータ:テストは約3時間で終わる予定です。


リツコ:気分はどう?

レイ:何か違うわ。

シンジ:うん。いつもと違う気がする。

アスカ:感覚がおかしいのよ、右腕だけはっきりして、後はぼやけた感じ。

リツコ:レイ、右手を動かすイメージを描いてみて。

レイ:はい。

オペレータ:データ収集、順調です。

リツコ:問題はないようね…MAGIを通常に戻して。

リツコ:ジレンマか…作った人間の性格が伺えるわね。

ミサト:何言ってんの、作ったのはあんたでしょう?

リツコ:あなた何も知らないのね。

ミサト:リツコが私みたくベラベラと自分の事話さないからでしょ。

リツコ:…そうね…私はシステムアップしただけ。基礎理論と本体を作ったのは、母さんよ。


冬月:確認しているんだな。

シゲル:ええ、一応。

シゲル:3日前に搬入されたパーツです。ここですね、変質しているのは。

冬月:第87蛋白壁か。

シゲル:拡大するとシミのようなものがあります。何でしょうね、これ。

マコト:浸蝕だろ?温度と伝導率が若干変化しています。無菌室の劣化はよくあるんです。最近。

シゲル:工期が60日近く圧縮されてますから。また気泡が混ざっていたんでしょう。杜撰ですよ、B棟の工事は。

冬月:そこは、使徒が現れてからの工事だからな。

マコト:無理ないっすよ、みんな疲れてますからね。

冬月:明日までに処理しておけ。碇がうるさいからな。

マコト:了解。


リツコ:また水漏れ?

マヤ:いえ、浸蝕だそうです。この上の蛋白壁。

リツコ:参ったわね。テストに支障は?

マヤ:今のところは何も。

リツコ:では続けて。このテストはおいそれと中断するわけにいかないわ。碇司令もうるさいし。

マヤ:了解。

マヤ:シンクロ位置、正常。

オペレータ:プラグ深度変化なし。

オペレータ:シミュレーションプラグを模擬体経由でエヴァ本体と接続します。

オペレータ:EVA零号機、コンタクト確認。

オペレータ:A.T.フィールド、出力2ヨクトで発生します。


リツコ:どうしたの?

BGM:1-19前半

オペレータ:シグマユニットAフロアに汚染警報発令。

オペレータ:第87蛋白壁が劣化、発熱しています。

オペレータ:第6パイプにも異常発生。

マヤ:蛋白壁の浸蝕部が増殖しています。爆発的スピードです!

リツコ:実験中止、第6パイプを緊急閉鎖!

マヤ:はい!

オペレータ:60、38、39、閉鎖されました!

オペレータ:6の42に浸蝕発生!

マヤ:だめです、浸蝕は壁伝いに進行しています!

リツコ:ポリソーム、用意!

リツコ:レーザー、出力最大!侵入と同時に、発射!

マヤ:浸蝕部、6の58に到達、来ます!

BGM停止


一同:…

レイ:きゃあっ!

リツコ:レイ!?

BGM:1-3

マヤ:レイの模擬体が、動いています!

リツコ:まさか!

マヤ:浸蝕部、さらに拡大、模擬体の下垂システムを侵しています。


ミサト:レイは!?

マヤ:無事です!

リツコ:全プラグを緊急射出!レーザー急いで!

ミサト:A.T.フィールド!?

リツコ:まさか!

ミサト:何、これ…?

リツコ:分析パターン、青。間違いなく、使徒よ。


冬月:使徒?使徒の侵入を許したのか!?

リツコ:申し訳ありません。

冬月:言い訳はいい。セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離しろ!


シゲル:セントラルドグマを物理閉鎖、シグマユニットと隔離します。

ミサト:ボックスは破棄します!総員待避!

ミサト:何してるの!早く!

アナウンス:シグマユニットをBフロアより隔離します。全隔壁を閉鎖、該当地区は総員待避。


ゲンドウ:分かっている。よろしく頼む。

ゲンドウ:警報を止めろ!

シゲル:け、警報を停止します!

ゲンドウ:誤報だ。探知器のミスだ。日本政府と委員会にはそう伝えろ。

シゲル:は、はい!

マコト:汚染区域はさらに下降!プリブノーボックスからシグマユニット全域へと広がっています!

冬月:場所がまずいぞ!

ゲンドウ:ああ、アダムに近すぎる。

ゲンドウ:汚染はシグマユニットまでで抑えろ。ジオフロントは犠牲にしても構わん。EVAは?

マコト:第7ケージにて待機、パイロットを回収次第、発進できます。

ゲンドウ:パイロットを待つ必要はない。すぐ地上へ射出しろ。

シゲル・マコト:え?

ゲンドウ:初号機を最優先だ。そのために他の二機は破棄しても構わん。

マコト:初号機を、ですか?

シゲル:しかし、EVA無しでは、使徒を物理的に殲滅できません!

ゲンドウ:その前にEVAを汚染されたらすべて終わりだ。急げ!

シゲル・マコト:はい!


アナウンス:シグマユニット以下のセントラルドグマは、60秒後に完全閉鎖されます。真空ポンプ作動まで、後30秒です。

加持:あれが使徒か…仕事どころじゃなくなったな…

加持:よっ!


オペレータ:セントラルドグマ、完全閉鎖。大深度施設は、侵入物に占拠されました。

冬月:さて、EVA無しで、使徒に対し、どう攻める?

Bパート

BGM:2-11

リツコ:ほら、ここが重水の境目、酸素の多いところよ。

マヤ:好みがハッキリしてますね。

シゲル:無菌状態維持のため、オゾンを噴出しているところは汚染されていません。

ミサト:つまり、酸素に弱い、ってこと?

リツコ:らしいわね。

マコト:オゾン注入、濃度、増加しています。

シゲル:効いてる効いてる。

冬月:いけるか?

マヤ:0Aと0Bは回復しそうです。

シゲル:パイプ周り、正常値に戻りました。

マコト:やはり、中心部は強いですね。

冬月:よし、オゾンを増やせ。

リツコ:変ね…

シゲル:あれ?増えてるぞ。

マコト:変です…発熱が高まってます。

シゲル:汚染域、また拡大しています!

マヤ:だめです、まるで効果が無くなりました。

マコト:今度はどんどんオゾンを吸っています!

リツコ:オゾン止めて!


リツコ:すごい…進化しているんだわ。

BGM:3-4

ミサト:どうしたの!

シゲル:サブコンピューターがハッキングを受けています!侵入者不明!

マコト:こんな時に!くそっ!Cモードで対応!

シゲル:防壁を解凍します!疑似エントリー、展開!

オペレータ:疑似エントリーを回避されました。

シゲル:逆探まで18秒!

オペレータ:防壁を展開!

オペレータ:防壁を突破されました!

オペレータ:疑似エントリーをさらに展開します!

マコト:こりゃあ人間技じゃないぞ…

シゲル:逆探に成功…この施設内です…B棟の地下…プリブノーボックスです!

マヤ:光学模様が変化しています。

シゲル:光ってるラインは電子回路だ。こりゃあコンピューターそのものだ。

マコト:疑似エントリー展開…失敗、妨害されました!

ミサト:メインケーブルを切断。

オペレータ:だめです、命令を受け付けません!

ミサト:レーザー打ち込んで!

マヤ:A.T.フィールド発生、効果無し!

シゲル:保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを走査中、12桁、16桁、D-WORDクリア!

マコト:保安部のメインバンクに侵入されました!

マコト:メインバンクを読んでます、解除できません!

冬月:奴の目的は、何だ!?

シゲル:メインバスを探っています…このコードは…やばい、MAGIに侵入するつもりです!

ゲンドウ:I/Oシステムをダウンしろ。

シゲル:カウント、どうぞ!

マコト:3、2、1!

マコト:電源が切れません!

マヤ:使徒、さらに侵入、MELCHIORに接触しました!

マヤ:だめです!使徒にのっとられます!

マヤ:MELCHIOR、使徒にリプログラムされました!

アナウンス:人工知能、MELCHIORより、自律自爆が提訴されました。否決、否決、否決、否決。

シゲル:今度は、MELCHIORがBALTHASARをハッキングしています!

マコト:くそぉ、早い!

シゲル:なんて計算速度だ!

リツコ:ロジックモードを変更!シンクロコードを15秒単位にして!

シゲル・マコト・マヤ:了解!

冬月:どのくらい持ちそうだ?

シゲル:今までのスピードから見て、2時間くらいは。

ゲンドウ:MAGIが、敵に廻るとはな…

リツコ:


リツコ:彼らはマイクロマシン、細菌サイズの使徒と考えられます。

リツコ:その個体が集まって群れを作り、この短時間で知能回路の形成にいたるまで、爆発的な進化を遂げています。

冬月:進化か。

リツコ:はい。彼らは常に自分自身を変化させ、いかなる状況にも対処するシステムを模索しています。

冬月:まさに、生物の生きるためのシステムそのものだな。

ミサト:自己の弱点を克服、進化を続ける目標に対して、有効な手段は死なばもろとも。MAGIと心中してもらうしかないわ。

ミサト:MAGIシステムの物理的消去を提案します。

リツコ:無理よ、MAGIを切り捨てることは、本部の破棄と同義なのよ。

ミサト:では、作戦部から正式に要請するわ。

リツコ:拒否します。技術部が解決すべき問題です。

ミサト:なに意地張ってんのよ!

リツコ:私のミスから始まったことなのよ。

ミサト:あなたは昔っからそう。一人で全部抱え込んで、他人を当てにしないのね。

リツコ:…使徒が進化しつづけるのなら、勝算はあります。

ゲンドウ:進化の促進かね。

リツコ:はい。

ゲンドウ:進化の終着地点は自滅、死、そのものだ。

冬月:ならば、進化をこちらで促進させてやればいいわけか。

リツコ:使徒が死の効率的な回避を考えれば、MAGIとの共生を選択するかもしれません。

マコト:でも、どうやって?

リツコ:目標がコンピューターそのものなら、CASPERを使徒に直結、逆ハックを仕掛けて、自滅促進プログラムを送り込むことができます。が、

マヤ:同時に使徒に対しても防壁を開放することにもなります。

ゲンドウ:CASPERが早いか、使徒が早いか、勝負だな。

リツコ:はい。

ミサト:そのプログラム、間に合うんでしょうね。CASPERまで侵されたら、終わりなのよ。

リツコ:約束は守るわ。


アナウンス:R警報発令、R警報発令、NERV本部内部に緊急事態が発生しました。D級勤務者は、全員待避してください。

マヤ:な、何ですか、これ。

リツコ:開発者の悪戯書きだわ。

マヤ:すごい、裏コードだ!MAGIの裏コードですよ、これ!

ミサト:さながら、MAGIの裏技大特集、ってわけね。

マヤ:わぁ~、こんなの見ちゃっていいのかしら…わぁ!びっくり!これなんて、intのCよぉ!

マヤ:これなら、意外と早くプログラムできますね、先輩!

リツコ:うん…ありがとう、母さん…確実に間に合うわ。


リツコ:レンチ取って。

ミサト:大学のころを思い出すわね…

リツコ:25番のボード。

ミサト:ねぇ、少しは教えてよ、MAGIのこと。

リツコ:長い話よ。その割に面白くない話。

リツコ:人格移植OSって知ってる?

ミサト:ええ、第7世代の有機コンピュータに個人の人格を移植して思考させるシステム。EVAの操縦にも使われている技術よね。

リツコ:MAGIがその第1号らしいわ。母さんが開発した、技術なのよ。

ミサト:じゃ、お母さんの人格を移植したの?

リツコ:そう。

リツコ:言ってみれば、これは、母さんの脳味噌そのものなのよ。

ミサト:それでMAGIを守りたかったの?

リツコ:違うと思うわ。母さんのこと、そんなに好きじゃなかったから。科学者としての判断ね。


マコト:きたっ!

BGM:2-15

マコト:BALTHASARが、乗っ取られました!

アナウンス:人工知能により、自律自爆が決議されました。

ミサト:始まったの!?

アナウンス:自爆装置は、三者一致の後、02(ゼロニ)秒で行われます。

アナウンス:自爆範囲は、ジオイド深度マイナス280、マイナス140、ゼロフロアーです。

アナウンス:特例582発動下のため、人工知能以外によるキャンセルはできません。

シゲル:BALTHASAR、さらにCASPERに侵入!

冬月:押されてるぞ!

シゲル:なんて速度だ!

アナウンス:自爆装置作動まで、後、20秒。

冬月:いかん!

シゲル:CASPER、18秒後に乗っ取られます!

アナウンス:自爆装置作動まで、後、15秒。

ミサト:リツコ、急いで!

アナウンス:自爆装置作動まで、10秒、

リツコ:大丈夫、一秒近く余裕があるわ。

アナウンス:9秒、8秒、

ミサト:一秒って…

リツコ:ゼロやマイナスじゃないのよ。

アナウンス:7秒、6秒、5秒

リツコ:マヤ!

マヤ:行けます!

アナウンス:4秒、3秒

リツコ:押して!

アナウンス:2秒、1秒、0秒。

BGM停止


アナウンス:人工知能により、自律自爆が解除されました。

シゲル・マコト:いゃったぁーッ!

アナウンス:なお、特例582も解除されました。MAGIシステム、通常モードに戻ります。


アナウンス:R警報解除、R警報解除、総員、第一種警戒態勢に移行してください。

シンジ:何がどうなっているんだろう?

レイ:……

アスカ:もぉーう、裸じゃどこにも出れないじゃないのぉ!早く誰か助けてー!


アナウンス:シグマユニット開放、MAGIシステム再開まで、マイナス、03(ゼロサン)です。

リツコ:もう年かしらね、徹夜がこたえるわ。

ミサト:また約束守ってくれたわね。お疲れさん。

リツコ:ありがとう。

リツコ:ミサトの入れてくれたコーヒーを、こんなに美味いと思ったのは始めてだわ。

ミサト:う…ふ…ふん…

リツコ:死ぬ前の晩、母さんが言ってたわ。MAGIは三人の自分なんだって。

リツコ:科学者としての自分、母としての自分、女としての自分。その3人がせめぎあってるのが、MAGIなのよ。

リツコ:人の持つジレンマをわざと残したのね。

リツコ:実はプログラムを微妙に変えてあるのよ。

リツコ:私は母親にはなれそうも無いから、母としての母さんは分からないわ。

リツコ:だけど、科学者としてのあの人は尊敬もしていた。

リツコ:でもね、女としては憎んでさえいたの。

ミサト:今日はお喋りじゃない…

リツコ:たまにはね…

リツコ:CASPERにはね、女としてのパターンがインプットされていたの。最後まで女でいることを守ったのね、ほんと、母さんらしいわ。