高卒嫌がらせドラフト

Last-modified: 2024-03-30 (土) 14:25:20

2011年に横浜ベイスターズ(当時)が行ったドラフトのこと。「高卒やけくそドラフト」とも呼ばれる。


概要

2012年から親会社がDeNAに交代することが既に決定していた同年はTBSにとって最後のドラフトとなったが、ベイスターズは直近10年のうち半数以上最下位になるなど深刻な暗黒期・戦力不足を迎えており、即戦力選手中心の指名になると思われていた。

ところが、首脳陣は本指名で高校生選手を8人も指名し、即戦力候補と目して指名したのは社会人選手の松井飛雄馬ただ一人*1、と完全に育成前提のドラフトを敢行。しかも全員と契約した場合は支配下枠の70人がすべて埋まった上、この年は東日本大震災の影響でクライマックスシリーズがドラフト後に延期されたため、同じく順延した第二次戦力外通告によって支配下枠に空きを作る必要に駆られたなどから、「TBSによるDeNAへの嫌がらせ」という見方が強まり批判へ繋がった。


指名選手一覧

現役選手の通算成績は2023年シーズン終了時点。高卒選手は名前を黄色・出身を太字で記載。

 順位    名前    守備位置    出身     一軍出場       備考     
1北方悠誠*2投手唐津商高なし横浜は2014年限りで戦力外。
2高城俊人捕手九州国際大付高347試合2022年戦力外で引退。
3渡邊雄貴内野手*3関西高なし2016年戦力外で引退。
4桑原将志内野手*4福知山成美高1027試合現役
5乙坂智*5外野手横浜高468試合現役*6
6佐村幹久*7投手浦添商高なし横浜は2014年限りで戦力外。
7松井飛雄馬*8内野手三菱重工広島92試合唯一の高卒以外(高卒社会人)。
2020年戦力外で引退。
8古村徹投手茅ヶ崎西浜高なし2020年に2度目の戦力外となり引退。
9伊藤拓郎投手帝京高2登板2014年限りで戦力外。
育成1冨田康祐*9投手四国IL/香川1登板横浜は2014年で戦力外。
育成2西森将司捕手四国IL/香川38試合2019年戦力外で引退。


実際の成績

結局、この年のドラフトは投手陣は北方悠誠を筆頭に壊滅的*10*11だったものの、野手では桑原将志が外野手転向後にブレイクを果たし球団初のCSおよび19年ぶりの日本シリーズ進出に貢献、その後一時期は不調に陥ったが2021年に再ブレイクし欠かせないレギュラーとして君臨。また、乙坂智と高城俊人も十分戦力と言える活躍をしており*12、再評価の進んだ現在では「言うほど嫌がらせではなかった」という見方が強い。

一方でその野手陣にも大スターというレベルにまで達した選手はおらず、評価できるドラフトかと言えばそうでもないということで、現在のところは「過去と比べればマシ」というよくある無難な評価に落ち着いた。
なお、2020年オフには石川雄洋の戦力外と梶谷隆幸のFA宣言による巨人移籍、2021年オフには上述の通り乙坂が戦力外となったため、この時獲得した桑原が横浜/DeNA在籍最古参野手となった*13


現場の意図

2018年に現代ビジネス*14に掲載されたコラムで、当該ドラフトに関わっていた人物が匿名で証言している。聞き手の村瀬秀信はベイスターズから公式の仕事を請け負った経験があるなど、球団・選手と深い関係を持っていることが窺える経歴から、信頼性の高い証言とされている。

村瀬秀信「TBS体制最後のドラフトで獲得した“即戦力ではない高校生”たち」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56707


 嫌がらせのドラフト

(中略)

日本ハムのGM時代の経験から、高田GMは常々適正となる選手数は65名と考えていた。初年度の目標である“最下位からの脱出”を目指す仕組みを作っていく中で、即戦力で戦える選手はひとりでも欲しい。そんな中、TBS体制最後のドラフトで獲得し、そのまま受け渡された“即戦力ではない高校生”たちは、その背景を鑑みてか「TBS体制が最後に残した嫌がらせではないか」とまことしやかに囁かれるようになった。

そんな論調を真っ向から否定する人物がいる。

「そういう話は聞いたことありますけどね。そんなわけない。冗談じゃないですよ。あの年のドラフトのことはいまだにいろいろと言われますけど、スカウティングというのは長期的な視野に立ってやっていることです。高校生に偏った指名も、あの当時の確固たる考えに基づいて行ったものです」

あのドラフトに編成として関わった人物は語気を強めて反論した。

村瀬秀信「横浜ベイスターズを誰よりも愛し、そして去っていった男の告白」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57174


 横浜の「B・O・S」

「ドラフトが終わった直後はああだこうだと言われるのが常ですけどね。スカウティングは5年、10年先を見据えてやっています。僕らは何にも気にしてませんよ。チームの編成というのは、親会社がTBSだろうがDeNAだろうが、球団がなくならない限り連綿と続いていくもの。意図的に貶めるような行為などするわけがない

横浜ベイスターズ末期において編成部門に深く関係していた男は、当時のドラフトの背景とその意図を語ってくれた。

「ベイスターズの後期における選手のスカウティングは、2008年に日本ハムから来た人間の功績で、ベースボール・オペレーション・システム(BOS)を採用していました。今ではどこの球団でも当たり前にやっていますが、チーム全体の設計図を作り、それに基づいた選手の獲得・育成計画をしていたわけです。もちろんこの年の高校生に偏った指名もBOSに基づいてやっているものです」

北海道に移転した日本ハムファイターズが構築したというベースボール・オペレーション・システムは、選手の能力や年齢、年俸などを数値化、可視化することにより、チームの補強にどんな選手が必要で、今いる選手をどのように育成するかなど、5年後、10年後を見据えたチーム作りの設計図となるシステムのこと。その立ち上げには現DeNAベイスターズGMの高田繁氏も深く関わっていることが知られている。

(中略)

「あえて支配下選手ギリギリまで獲ったという指摘もね、バカげてますよ。まず、あの時代は負けが続いて即戦力の投手が必要だった。前年までのドラフトも投手の指名が多くなっていたので、野手が不足していてね。特に内野手は2軍のゲームもできないぐらいだったんだよ。

この年は野手を獲る年なんです。ただ、野手なんて簡単にできないんだよ。年6~7人獲ってもレギュラー級になるのはその内の1人。さらに上位では即戦力ピッチャーが必要。地元選手も獲りたい……ということですよね」


関連項目



Tag: 横浜 ドラフト


*1 その松井も社会人とはいえ高卒3年目だったので、即戦力というよりは素材型であった。
*2 藤岡貴裕(ロッテ→日本ハム→巨人)、松本竜也(巨人)の外れ外れ1位。
*3 2015年より外野手に登録変更。
*4 2014年より外野手に登録変更。
*5 父親がアメリカ人であり、本名のフルネームは「乙坂・ルーセロ・智・ニコラス」。
*6 横浜は2021年で戦力外、メキシカンリーグを経て2023年現在は米アトランティックリーグでプレーしている。
*7 父親がアフリカ系アメリカ人であり、2014年からはミドルネームを含めた「佐村・トラヴィス・幹久」に登録名を変更。
*8 現役時代の登録名は「飛雄馬」。
*9 最終学歴は青山学院大学。この年指名された選手の内、唯一の大卒選手であった。
*10 北方は松本竜也の外れ外れ1位であり、もし松本を引き当てていれば少なくとも野球賭博の主犯格である笠原将生と出会い、そして賭博に手を染めることもなかったという意味でも悔やまれる結果となった。また、こうなってしまったのは巨人が相思相愛の菅野智之の抽選を外してしまったからという面も大きい。
*11 ここまでのドラフトが投手偏重過ぎのせいで投手がキャパオーバー、二軍まで詰まっていたため他球団へ行ける可能性のある若手が整理されたというチーム編成の失策もある。高田繁GMが「ファームでの登板機会はドラフト上位の若手や1軍からの再調整組がどうしても優先される。これだけ多いと調子が良くても投げさせてもらえないという選手が出てくる。完全に編成の、ひいては俺の責任。申し訳ない事をしてしまった」「うちではチャンスがなかったが、彼らはまだ若い。外に出てチャンスを掴んでほしい」と語っていた
*12 特に高城は高卒1年目の7月から一軍でマスクを被っている。
*13 出戻りならば藤田一也(2004年ドラフト4位。トレード先の楽天で活躍した後、2021年オフに戦力外となり復帰)がいたが2023年に引退している。また投手は田中健二朗(2007年高卒1位)と国吉佑樹(2009年育成1位)がいたが、田中も2023年に戦力外通告、国吉は2021年シーズン途中でロッテにトレード移籍した。
*14 講談社が運営するWebメディアサイト。日刊ゲンダイとは別物でスタンスは週刊現代に近い。