【剣使】蛍丸【1】
「気を付けな。この辺りは、暗くなると辻斬りが出るよ」 夕方、食堂の主人は一見客の少女に、そう警告をした。黒髪の少女は無言でうなずき、代金の銅貨を手渡す。この少女が、うわさの辻斬りであることに気付けと食堂の主人に求めるのは、さすがに無理があるだろう。 |
【剣使】蛍丸【2】
「最近、殺人鬼が出るんだよ! おうちが遠いのなら、おばさんの家に泊まっていくかい?」 薄暗くなった町人街で、老婆が声をかけてくれた。少女は、黙って首を横に振る。辻斬りは誰彼かまわず切り捨てるわけではない。伝わらないことはわかっていながら、心の中でもう安心するようにと老婆に告げた。 |
【剣使】蛍丸【3】
「おや、今夜はツイている。こんな時間にワシ好みの酒のつまみが食えるとはな」 料亭の前で、口ひげの男が少女の肩に手をかけてきた。反政府組織の幹部だ。男が部下に、少女を拉致するように告げた瞬間、ホタル色のまばゆい光が闇夜を横切った。男の腰は胴から永遠に離れていた。 |
【閃剣使】蛍丸【4】
「なにをする、貴様ーっ!」 男の部下たちが、刀を抜いて少女に斬りかかってきた。だが、あまりに動きが違う。先に刀を突きだしているのは部下たちの方なのに、少女の刀はそれよりも早く部下たちを斬る。後の先と呼ばれる達人の技だ。……不思議な話だが、この夜以降、この町には辻斬りが出なくなったという。 |