【千子】村正【1】
「今宵、そなたと勝負せねばならぬようじゃのう」 巫女は刀の封印を解きながら、冷笑を浮かべた。本来なら、この刀は使いたくはない。だが、今夜、退治せねばならない妖怪は、この刀でなければ斬れそうにもなかった。 |
【千子】村正【2】
「相変わらず凶暴じゃのう、普通ならここで終わっておるわ」 妖怪を前に刀を抜くと、巫女は顔を引きつらせた。妖怪は自分の力がたたえられたのかと勘違いしているようだが、違う。巫女がおそれているのは、刀の力なのだ。 |
【千子】村正【3】
「じゃがわしも負けはせぬぞ。そなたを振るうために、さんざんな修行をさせられたのじゃからな」 巫女は気を緩めれば刀の妖力に飲み込まれそうになる心を、必死に張りながらそれを振った。刀の力に飲み込まれれば、巫女は目の前にいるそれとは比べものにならぬほどの妖怪になってしまう。 |
【魔神】村正【4】
「出来れば、お主の顔は二度と見たくないわ」 その場で刀をさやに納め、封印する巫女。この刀の威力に比べれば斬った妖怪などものの数ではない。だが、それだけに。次に刀を抜いた時、自分の心が刀の妖力に飲み込まれずにすむのか? 巫女のおそれは、日に日に増していった。 |