【歌劇】イスメーネー【1】
「辛気臭い顔してんじゃないよ! 立って踊りな!」 イスメーネーは酒場で辛そうな顔をしている者を見ると、その背中をパァンと叩く。 びっくりして立ちあがった者の前で、いきなり踊り始めるのだ。 最初は茫然としていた者も、勢いにつられて踊り始める。 |
【歌劇】イスメーネー【2】
「大人しく祈っていても、神様は見てくれないよ!」 切実な顔で祈りを捧げる者の前で、彼女は踊り始めた。 イスメーネーは知っていた。踊りとは元来、神に捧げるもの。ただ願い事を呟きつづけるよりもずっと、踊った方が、祈りは天に届きやすいのだと。 |
【歌劇】イスメーネー【3】
「ありがとよ、私が美しく見えるのなら、それはダンスのお蔭だね」 イスメーネーは美貌を褒め称えられると、照れ隠し半分にそう言ってウィンクをする。 踊りは彼女の全身の細胞を活性化させ、スタイルを整えている。 何より躍動するその動きが、生き生きとした美しさを醸し出していた。 |
【歌劇】イスメーネー【4】
「理屈じゃない、情熱が私を躍らせるのさ」 イスメーネーは、今日も踊る。 己が魂を燃焼させるため、与えられし肉体を昇華させるため、一瞬でしかない人の命を、より美しく輝かせるために。 |