【聖夜】聖ルシア【1】
「どうか私のことはお気遣いなく。この寒さよりも、もっとつらい思いをしている人がいるのですから」 暖炉もない教会の中、ルシアは祭壇に向かって祈り続けた。神の生誕祭を待つ待降節の時期。厳しい寒さは、時に身を切る刃となって襲ってくる。 |
【聖夜】聖ルシア【2】
「神の御心に届くのは、切なる祈りだけなのです」 夜の闇に伴って寒さが増し、強風が教会の中に吹き込むようになっても、ルシアは決して祈るのをやめようとしない。彼女の懸命な姿は見る人を感動させるが、寒さはより過酷なものになっていく。いよいよ心配した町長は、町の男たちを連れて教会に踏み入った。 |
【聖夜】聖ルシア【3】
「私の魂は常にここにある。それゆえに、聖なる霊が私の肉体を守護してくれるのです」 大男たちが数人がかりでルシアを連れ出そうとしているのに、小さく軽いはずの修道女の体は動かない。仕掛けやまやかしがあるのではない。人知を超えた何ものかの力に、ルシアは守られていた。 |
【聖夜】聖ルシア【4】
「みなさま、善き生誕祭を迎えられますように」 生誕祭の前日、海から大きな嵐が近づいてきた。大きな被害が予想されたが、町を前にした嵐は、なにかに弾き返されるかのように海へと引き返していった。……それがルシアの祈りの力による奇跡だったのか、単なる偶然だったのかは、誰にもわからない。 |