アナスタシア【1】
「神よ……名もなき死せる魂たちへ、永久の幸福を」 シスター・アナスタシアの祈りの声が、大聖堂にこだました。彼女の祈りは形だけではない、真の感謝がこもったものだ。神の加護をも思わせる温かさを、聞くものに感じさせる。 |
アナスタシア【2】
「これは、地上に名を残すことのなかった魂たちへの祈りです。せめて、神の御心には存在を残してほしいのです」 アナスタシアの祈りがいつでも温かいのは、彼女の心が温かいからだ。自分たちが暮らすこの街が、名もなき祖先たちの努力によって築かれたものであることを、アナスタシアは忘れていない。 |
アナスタシア【3】
「私は、すべての方に等しく愛を注ぎたいのです。私の愛は、ひとりの方に注ぐためのものではありません」 美しきアナスタシアの評判を聞きつけ、求婚をしてくる富豪や貴族もいた。だが、アナスタシアは自分の幸せよりも、万民の幸せを祈るために生きる道を選ぶ。 |
アナスタシア【4】
「私のことは、忘れてしまっても構いません」 アナスタシアは自分の記憶が後の世の人々に残ることを望まなかった。彼女の願いは多くが成就したが、その望みだけは叶うことがなかった。アナスタシア生誕の日は、記念日として今も街に残っているという。 |