人属性/LLR/デボラ

Last-modified: 2018-03-15 (木) 01:04:11

デボラ【１】

「この石の積み方では、いずれ千人の人々が死ぬわ」
堤防工事の現場を視察したﾃﾞﾎﾞﾗは、現場を監督する人間を呼びつけ、厳しく言い放った。現場監督は年若い女性のﾃﾞﾎﾞﾗを、男の意地をかけてにらみ返す。

「水の力というのは、こんなものではなくてよ」
ﾃﾞﾎﾞﾗは堤防の石のひとつを軽く蹴り飛ばした。しっかりと積まれていたかに見えた堤防はその一蹴りでもろくも崩れ落ちてしまう。現場監督は、崩れていく石とともに強気な面構えを崩さざるをえなかった。

「あなたの腕前が悪いのではなくてよ。ただ、お人よしすぎるのは考えものね」
堤防が崩れた原因は、現場監督が書いた設計図ではなく、部下を信じすぎてしまうその人柄にあった。国家による大規模工事ともあらば、手抜きをするものが多少は出てくるものだ。ﾃﾞﾎﾞﾗはそれを現場監督に諭すと、次の現場に向かった。

「どこかにいないかしら、私を導いてくれる人……」
指導者としては風格ある表顔を見せるﾃﾞﾎﾞﾗだが、大きすぎる権限は重みを伴っていた。自分を包み込んでいやしてくれる、頼れる手のひらが欲しい。でも忙し過ぎて恋をするﾋﾏはない。希代の指導者も、たまの休日には市井の乙女と変わらぬ思いを抱くのだ。