雷切【1】
「雷よりも速く、か」 空を覆う雷雲を見上げつつ、女剣士は冷笑を浮かべた。つぶやいた言葉が指すのは、自らの剣の目指すべき境地だ。だが、言葉通りのことが現実に成せるのだろうか? 女剣士自身も、常に疑問に思っていることだった。 |
雷切【2】
「今宵はお主か。……ふむ、相手にとって不足はなさそうだ」 女剣士のもとに、一人の武芸者が現れた。今宵の果たし合いの相手だ。腕は立つようだが、女剣士にすれば負けるような相手ではない。彼女にとって真の相手は、別に存在した。 |
雷切【3】
「いざ、尋常に勝負」 女剣士と武芸者は、闇夜の中で互いににらみあったまま沈黙する。動きはじめるときは、次に稲光が輝いたときだということはわかっていた。長い静寂ーー。そして、雷光が天高くきらめいた。 |
雷切【4】
「できた、雷よりも速く!」 稲光が地上に落ちるまでの刹那にも満たない時間に、女剣士の刀はさやから抜き放たれていた。居合の一撃。刃は武芸者の首元をすり抜ける。切れ目はない。武芸者は自らが斬られたことにさえ、気づかないまま死んでいた。この夜、女剣士は己が目指した境地に、ついにたどり着いたのだ。 |