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人属性/LR/アガトーン

Last-modified: 2018-03-22 (木) 02:58:45

アガトーン【１】

「ああ、どうか私の声を聞かないで……」
上流階級の貴族屋敷。その一室には、優美な令嬢が篭っているという。彼女の名はｱｶﾞﾄｰﾝ、世間は彼女の名と美しさを噂するが、誰も彼女の声を知らないｰｰｱｶﾞﾄｰﾝの声には、聞いた者を悲劇へ導く呪いがかけられているからだ。

「貝になりたい。水底で物言わぬ貝に……」
謎に包まれた深窓の令嬢。その噂は世間を駆け、尾鰭背鰭がつき、「ｱｶﾞﾄｰﾝを一目見たい」という者を呼び寄せる。今日もまた王子気取りの貴族青年達がやってきた。壁の外の喧騒を聞きながら、震えるｱｶﾞﾄｰﾝは口を塞ぐ。

「来ないで……もう私の声で、誰かを不幸にしたくはないの……!」
今日こそは。諦めの悪い男達が屋敷の門を壊して雪崩れ込む。女中に匿われつつ、ｱｶﾞﾄｰﾝは逃げ出した。口を塞ぎ、走り続けた。遠い遠いどこかへ、誰も悲劇に遭わせぬ場所へと。

「こんな私でも……幸せになって、いいのかしら」
逃げ続けたｱｶﾞﾄｰﾝを匿い保護した男は、彼女の声を聞いても破滅しなかった。彼は呪いにより聴力を封じられていたのだ。それは運命だったのかもしれない。呪われた二人は惹かれあい、共に歩む道を選ぶ。