アナクレオン【1】
「さぁさぁお聞き。私が語るのは、戦乱の世に生きたとある英雄の物語ーー」 竪琴を奏で、争いの歴史を弾き語る吟遊詩人、それがアナクレオン。彼女が詠う物語は誰もが知っている有名な物語ばかりだ。けれど彼女は時折、誰も知らないような物語をひっそりと口ずさむ。 |
アナクレオン【2】
「昔々、戦争を続けていたとある王国に、一人の英雄がおりましたーー」 永く戦争を続けてきた二国のうち、一方へ現れた英雄。剣の達人で指揮能力も優れたその英雄は、何年も膠着していた戦を次々と勝利に導いていった。戦争は終結に向かうかと思われた。だが、残されたもう一方の国にも『英雄』が現れたのである。 |
アナクレオン【3】
「二人の英雄は殺し合う宿命にありながらも、愛し合ってしまったのですーー」 それは神の悪戯か。いつしか二人の英雄は互いに惹かれあっていることを自覚する。けれど二人は殺し合わねばならなかった。二人に愛など許されなかった。決して結ばれぬ運命だった。二人は戦場で剣を交わす。その実力は、互角。 |
アナクレオン【4】
「さぁさぁお聞き。私が語るのは、馬鹿らしくも美しき、昔々の物語ーー」 刹那、女の剣が男の心臓を貫いた。「なぜ避けなかった」「なぜだろうな」笑った男は、愛する人を抱き締めるように事切れーーそして戦争は終わった。かつて英雄と呼ばれた吟遊詩人は静かに詠う。愛した人へ、変わらぬ想いを寄せながら。 |