鬼丸国綱【1】
「新月か……。風までもが生暖かい、今宵は怪異がいっそう騒ぐな」 侍は、夜空を見上げてつぶやいた。決意をあらわすように、手にした刀を今一度握りしめる。闇にはびこる物の怪を斬るのが、侍・鬼丸国綱の役目だった。 |
鬼丸国綱【2】
「女だが、それがどうした?」 女の匂いがすると騒ぐ怪異たちの前に、鬼丸国綱は堂々と出て行った。男のような服装はしているが、確かに女だ。それでなめてくるような低俗な怪異ならば、鬼丸国綱にとって物の数ではなかった。 |
鬼丸国綱【3】
「その女の手にかかって死ねるのだ、喜ぶがいい」 鬼丸国綱が刀を振るうたびに、怪異たちの断末魔が闇夜に響く。匂いを頼りに打ち掛かってくる怪異もいたが、鬼丸国綱は夜風と一体化したような滑らかな動きでそれをかわした。 |
鬼丸国綱【4】
「雑魚ばかりか、本丸はここではない」 切り伏せた数百の怪異の亡骸を見おろしながら鬼丸国綱はつぶやいた。さきほど感じた大きな気配はここではなかったようだ。鬼丸国綱は夜風の匂いを頼りに、真の敵がいる場所を求めて歩き出すのだった。 |