スプリガン【3】
「またお前か、いつもタイミングが悪い時に来るな」
数日後、スプリガンが断った仕事の依頼人が、また酒場を訪れた。だが、この日スプリガンは悪酔いしていた。仕事を蹴ったため金がなく、質の悪い安酒しか飲めていないようだった。
スプリガン【4】
「ほらよ、お仕事完了! さて、この金でうまい酒を・・・・・・」
巨大なハンマ-を取り出すとくたびれた剣をその場で鍛錬してしまうスプリガン。その技術の高さは、折り紙つきのものだ。しかし報酬を受け取り酒場に戻る彼女の意識は、すでに次の酒盛りへと向いているのであった。
【花嫁】リリン【2】
「ん~? 誰とだっけな~?」
花婿は誰か? 悪魔たちが尋ねても、リリンはいつものようにはぐらかすばかりだ。これは自分たちに言えないような相手なのではないか?悪魔たちの間に憶測が飛び交う。
【花嫁】リリン【3】
「式の時にはさらいに来てね、リリン待ってるから!」
リリンが目を潤ませて放った言葉を、悪魔たちはそれぞれが自分に向けられたものだと解釈する。おそらくこれは望まぬ結婚なのだ。まさか、政略結婚か? 相手はあの有力貴族か、あるいは異種族か? さまざまな憶測が魔界中に飛び交っていく。
【花嫁】リリン【4】
「あ~、冗談だったのに・・・・・・ま、いっか♪」
悪魔たちはリリンの結婚を阻止するため、自発的に軍隊を作ってさまざまな場所へと攻め込み始めた。それを見送るリリンは困惑の表情を浮かべる。実はこのウェディングドレス、友人が趣味の裁縫で作ったものを試着しただけだったのだ。
【ハロウィン】バアル【1】
「さあ、祭りの夜の始まりよ!」
そう叫んでバアルはライブステ-ジへと向かった。今宵はハロウィン。魔界のトップシンガ-でもある彼女が一年のうち最も輝く日なのだ。普段は控えめな彼女だが今日はとびきりオシャレな衣装を着ている。
【ハロウィン】バアル【2】
「さすがは昔からのファン、この姿でも『わかる』のね」
ジャックオ-ランタンのマスクをかぶったままのバアル。だが、歌い始めるとともに会場前列のやや奥から大きな声援が湧いた。彼女がデビュ-した初期からのファンがいつも陣取っている席だ。
【ハロウィン】バアル【3】
「この歌い方は、最初から変えていないものね」
マスクの奥から響く声はくぐもっているが、歌い方でファンには歌い手の区別がつくらしい。バアルは本格的な歌のトレ-ニングを積んでいる。ストレ-トな正統派の歌だ。
【ハロウィン】バアル【4】
「私の個性が強すぎるのもあると思うの」
バアルは苦笑する。彼女の歌唱技術が高すぎて、正統派の歌い手は誰も彼女の真似はできないのだ。だが、どれだけ個性的な歌声を集めても、バアルの歌声がかすむことはない。天使の歌声を持つ悪魔の歌は、今日も魔界に響き続ける。
ハッグ【2】
「よそ見なんて絶対に許さないわ。さあ、来なさい。私のところへ・・・・・・」
きこりが女に近づくと、女の姿はかき消えた。そして不思議なことに、女はまた別の木陰から現れ、手招きをする。不可思議だ。だが、きこりはすでに女の美貌のとりこになっている。疑問にも思わず、夜の闇が森を包むまで女を追い続けた。