[邪眼]カトブレパス【1】
「・・・・・・会話とか・・・・・・歩行とか・・・・・・面倒・・・・・・」
カトブレパスは、日がな一日豪華なリビングで過ごす。ここは快適だし、外に出るとわずらわしいことが多いので、わざわざ動いたりしない。かわりばえのしない場所にずっといても、退屈しない理由が彼女にはあるのだ。
[邪眼]カトブレパス【2】
「・・・・・・今日は・・・・・・どこを見よう・・・・・・」
壁の向こうどころか、千里の果て、たとえ異世界であろうとも「視る」ことができる。それがカトブレパスの持つ邪眼の力だった。彼女はこれを、もっぱら娯楽のために使う。他の有意義な使い方も思いつくが、目立つことも、利用されることも面倒。やっぱり、ただ視ているのがいい。
[邪眼]カトブレパス【3】
「・・・・・・見えた・・・・・・エキドナと・・・・・・子供たち・・・・・・おもしろい」
地獄を見れば、悪魔や魔物たちがいつも派手に殺し合っている。極上のエンタ-テイメントだ。自分が争い事に巻き込まれるのは御免だが、他人が争い合うのを見るのはカトブレパスにとって至上の娯楽だった。
[邪眼]カトブレパス【4】
「・・・・・・そら・・・・・・綺麗・・・・・・目の保養・・・・・・」
地獄で血みどろの争いを見た後は、天界に目を移し、美しい女神やかぐわしい天使たちの姿を楽しむ。世界のあらゆる出来事は、自分が視て楽しむためにある。カトブレパスは今日も一歩も動かずに世界の全てを見通している。
バンシーナ【1】
「あぁ、だめ・・・・・・止まらないでください、お願い・・・・・・」
その日、馬車に乗って林道を通りかかった紳士は、道の傍らで泣いている女性を見かけて馬車を止めた。先を急ぐ旅ではなかったこともあり、老紳士は馬車を降りて女性に話しかけた。
バンシーナ【2】
「なぜです、なぜ私のようなものを気に掛けてくださるのです・・・・・・?」
女性はぽろぽろと大粒の涙を流しながら、老紳士にそう尋ねた。あまりの美しさに己の心臓が跳ねるのを感じながら、女性の気持ちを大切にするのは貴族としての務めだと紳士は答える。
バンシーナ【3】
「私は、あなたのような立派な方に気にかけていただけるような女ではありません」
女性がそう答えると、後姿が亡き妻に似ているのだと老紳士は答えた。紳士は妻の形見のハンカチをポケットから取り出し、涙にぬれた女性の頬をぬぐおうとした。
バンシーナ【4】
「ああ、またもこんな優しい方を、私は・・・・・・」
差し出したハンカチが女性の頬に触れる直前。老紳士は突然心臓発作を起こしてその場に倒れ、女性は新たな悲しみに再び泣き出した。彼女に恋をして慈愛を与えた人間は、みな紳士のように旅立ってしまう。終わらない悲しみの連鎖が、そこにあるのだ。
ベヒモス【2】
「さ-て、メシだ! 食うぞ-」
一日で最もベヒモスがうれしそうな顔をするのが食事の時間だ。食欲旺盛、好き嫌いなく何でも食べる。しかも、一度に食べる量がハンパではない。肉なら牧場ごと食い、野菜なら畑ごと食う。そんなうわさをされるほどだ。
ベヒモス【3】
「それ食わないのか? あたしが食べちゃってもいいか?」
何でも美味そうに食べるベヒモス。一緒に食事をするのは楽しい。だが、常人は胃袋に限界があるので、食べきれなくなる。他人の食べ残しでもベヒモスはためらいなく口をつけるので、いくら作り過ぎても困ったことにはならないという。
ベヒモス【4】
「どうだ!たくさん食べると、力が出るんだ!」
食事が終わると力比べの時間が始まる。今日は相撲をとっているようだが、ベヒモスの剛力は凄まじい。何人もが束になってかかっても、勝つことができなかった。
「どうだ!たくさん食べると、力が出るんだ!」
食事が終わると力比べの時間が始まる。今日は相撲をとっているようだが、ベヒモスの剛力は凄まじい。何人もが束になってかかっても、勝つことができなかった。