ニルヴァーナ【1】
「今の貴方では、私を見つける事は出来ません」 男は、この地にいると言われる神、ニルヴァーナを求めて彷徨い歩いていた。国王より下された勅命。それを邪魔立てするものは容赦なく切り捨てた。敬愛する国王が生を終える時は必ず神の膝元に送り、安らかな最期を迎えていただくのだと誓って。 |
ニルヴァーナ【2】
「私たちが出会う事はないでしょう、その目が血に曇ってしまっている限りは」 時が経ち、男は疲れと焦りを増した。ニルヴァーナは闘争心のあるものには見えないのだという。だが、これまで常に力で道を切り開いてきた男には、決して納得できるものではなかった。 |
ニルヴァーナ【3】
「進むべき道を失った時に、真の道が見える事もあるのです」 男はニルヴァーナを見つけられないまま年老い、老人となった。国王の訃報が届いた時、男は絶望に血を吐き、錆びた剣を捨て、その場に横たわる。その頭の重みを受け止めたのは、ニルヴァーナの柔らかな腿であった。 |
ニルヴァーナ【4】
「私は常に貴方のすぐ傍にいたのですよ」 慈悲深い眼差しが向けられていた。優しい掌が頭を撫でていた。辺りには獅子と兎が争う事なく過ごしている。男は微笑を浮かべた。ニルヴァーナは生命の最期を見守り、安寧を与えるものなのだ。国王もきっと、最期の時はこの膝の上で迎えたのだと確信し、男はまぶたを閉じた。 |