ベネトナシュ【1】
「私の剣は傷付けるためではない、護るためのものだ……」 天界に負け知らずの剣客あり。それは女神ベネトナシュを指す言葉である。彼女は数多の戦いを潜り抜けてきた剣士であるにも関わらず、戦いや争いが嫌いであった。しかし『天界を守る』という使命の下、ベネトナシュは剣を抜かねばならなかった。 |
ベネトナシュ【2】
「本当なら誰にも剣を向けたくない。だが……理想だけでは、生きられぬ」 平和を望みながらも戦いに明け暮れるという矛盾。繰り返される葛藤。苦い現実。遠退く幸福。「理想だけでは生きられない」と女神は己に何度も言い聞かせるも、剣を持つ手は震えていた。 |
ベネトナシュ【3】
「お前はなんのために戦っている? ……私は、『天界を守るため』だ」 暮れなずむ戦場。ベネトナシュは虚空に問いかける。返答はなかった。戦場に立っていたのは彼女だけだったからだ。返り血にまみれ赤く染まった女神を、赤い夕陽が塗り潰す。理想を押し殺した『自問自答』が、虚しく紅の空に響いた。 |
ベネトナシュ【4】
「私の力は……なんのため、誰のため、存在しているのか……」 今日もまた、ベネトナシュは戦場に赴かねばならなかった。望む理想はどこまでも遠く。眼前には吶喊してくる敵軍の群れ。女神は剣を握り直す。本当は誰も傷付けたくないーーそう思いながら、矛盾を抱いたベネトナシュは敵を斬り戦い続ける。 |