【秋節】ドリアード【1】
「人間だ。ねぇ、なにしてるの? なにしてるの?」 くすくす。深い深い森の中で、無邪気な笑い声を聞いたのならば、それは木に宿る精霊ドリアードが近くにいる証だ。もし貴方が森に敬意を持つ者ならば、安心するといい。まもなく美しい姿をした精霊が、貴方の前に現れるはずだ。 |
【秋節】ドリアード【2】
「迷っちゃったの? じゃあ、道を教えたげる。でもそのかわり、わたしと遊んで?」 ドリアードは、森に敬意を抱く人間に対しては友好的だ。そして同時に、遊び好きでちょっと悪戯好きなところもある。かくれんぼをしようと精霊は誘ってくるが、木々に深くまぎれる彼女を見つけることは至難の業である。 |
【秋節】ドリアード【3】
「はい。この森でいちばんきれいな花、あなたにあげる」 ドリアードから花や果物をプレゼントされたのならば、それは彼女が貴方を気に入った何よりの証拠だ。おそらく、精霊とかくれんぼをして一生懸命彼女を探したのだろう。見つけられなかっただろうが、ドリアードにとってはそれが楽しいらしい。 |
【秋節】ドリアード【4】
「またきてね。まいごになったら、また遊びましょ」 もし貴方が道に迷ったのであれば、気付けば森の出口に立っていることだろう。振り返ったそこに、もう美しい精霊はいない。ただ、鬱蒼とした緑の中、くすくすと楽しげな含み笑いが木霊してーー木々を葉々を揺らす風に、いつのまにか消えるのみ。 |