【妖艶】リリン【1】
「また、お会いしましたわね」 森の広場を訪れた少年へ、彼女は優しい笑みを投げかけてくれた。数日前、この広場で彼女の姿を見て以来、少年はその美しさの虜になっていた。夢にも毎夜、彼女が現れる。眠りの国で彼女との甘いひと時をすごすために、仕事を休んで一日中ベッドにもぐりこんでいるほどだ。 |
【妖艶】リリン【2】
「お疲れのようですわね、お顔に出ていますわ」 彼女が心配そうに顔をのぞきこんできた。生きた宝石を思わせる色の瞳を見ただけで、理性が砕け散りそうになる。少年が毎夜見ている夢は、決して彼女には告げられない恥ずかしいものであった。恋などという淡いものは通り越していた。 |
【妖艶】リリン【3】
「よくお休みになってくださいね、生命力は殿方の魅力のひとつですのよ」 彼女のくすぐるような笑い声を心地よく思いながら、少年は家路についた。今夜はより濃密な甘さの夢を見られるであろうことに、やましい心をときめかせながら。 |
【妖艶】リリン【4】
「今宵こそは……あなたのすべてを、わたくしに」 その夜、夢の中で彼女は少年のすべてを受けとめてくれた。若い欲望、残された生命力、すべてが彼女のなかに吸い込まれていく。少年の体はベッドに横たわったまま、冷たくなっていった。彼女の名はリリス、人を誘惑し、生命力を吸って生きながらえる悪魔である。 |