【水衣の冥后】プロセルピナ【1】
「きれいな宝石ね、地上に咲く桜のよう」 冥界にそびえる宮殿の奥深く。この宮殿の主ともいえる女悪魔はつぶやいた。周囲には手下の悪魔と、豪華な貢物の山。しかし、その声には隠し切れない悲しみの色がにじんでいた。 |
【水衣の冥后】プロセルピナ【2】
「色は桜と同じ。なのに、この宝石からは、あの花びらのような温かみが感じられない」 過去を振り返る女悪魔の名は、プロセルピナ。かつては地上で穏やかに暮らしていた女神だった。 |
【水衣の冥后】プロセルピナ【3】
「あの日、私はこの冥府に来て……そして、すべてを与えられた。それまでのすべてと引き換えにして」 プロセルピナはかつて冥府の王の声に導かれ、この世界に舞い降りた。この宮殿と、多くの悪魔たちを従えるだけの権力を与えられた。だが、それは必ずしも幸せな生活のはじまりではなかった。 |
【水衣の冥后】プロセルピナ【4】
「数万粒の宝石よりも、今はひとひらの花びらが欲しい」 冥府で暮らす時間が長くなるほど、地上の花が恋しくなる。絶大な権力を示す玉座よりも、ひだまりの差す地べたに座りたい。今が耐えがたいわけではないというのに、どうしてか美しいものを見るたび、プロセルピナは地上を思い出してしまうのだ。 |