【花神】バサラ【1】
「この時期になるとうずくのよね、カラダが」 女は、美しい鼻先から誘惑的な笑いをもらした。季節は春、野山には美しい花々が咲いている。かつてこの季節は女の支配下だった。いにしえの女神、だが今は闇に堕ち、一人の悪魔となっている。 |
【花神】バサラ【2】
「あら残念。この辺りには、あまり花が咲いていないのね」 山から人里におりると、女は挑発的につぶやいた。人々が足早に行き交い、雑然と建物が並ぶこの街中に、花などそう咲いているはずもない。 |
【花神】バサラ【3】
「ダメねえ、最近の女神は」 かつて女神だった頃を思い出すように、女は目を閉じる。まぶたの裏に美しい花畑を思い浮かべながら、女は種をまき散らすようなしぐさを見せた。とたん、街の人々や、建物に闇の種子がまとわりつく……。 |
【花神】バサラ【4】
「きれいな町になったわね。仮にも女神を名乗るなら、このくらいは行き届かせなくちゃ」 町の様相は一変した。行き交う人の流れは止まり、建物の床や壁・人々にまで極彩色の花が咲き乱れる。女がまいた種子が生命を吸い咲かせた花だ。その美しくも恐ろしい花を愛でながら、女は次の都市へと向かった。 |