【転生】奈落【1】
「ここに堕ちし罪人よ、すべてを諦めよ」 連れて来られたばかりの男に、女王はそう告げた。女王の容貌は生前に男が見たどの女よりも冷たく、美しかった。ここは死後の世界、その中でも地獄と呼ばれる地。だが、ここも悪くないと男は思った。 |
【転生】奈落【2】
「そなたは罪を償うまで、光ある世界に帰ることはできない」 冷たく言い渡される。しかし罪と言っても男のそれは事故だ。酔っ払いながら馬車を運転し、貧乏人の子供を一人ひき殺しただけだ。しかも罪には問われていない。誰にも見られなかったから、そそくさと逃げ出したのだ。男は、高をくくっていた。 |
【転生】奈落【3】
「そなたの罪にふさわしい罰はこれじゃ」 男が連れて来られた地獄の一角には大釜があった。そこに湧き立つ湯の中で、肉体を煮続けられる罰が与えられるという。男は青ざめ逃げ出そうとしたが、女王の部下である鬼たちに腕をつかまれ、大釜の中へと放り込まれた。 |
【転生】奈落【4】
「後悔の時間は、たっぷり与えようぞ」 生者ならとうに絶命している苦しみが男を包み込んだ。だが男は死者だ、もう死ぬことは出来ない。この苦しみを四千年の四千倍にあたる時間、受け続けて、初めて許されるのだという。罪は一瞬、だが罰は永遠なのだと気付いたが、もはやすべては遅かった。 |