アル【1】
「それでは手術を始めましょう」 アルは極めて優しい悪魔である。口調は丁寧で、性格は穏やかだ。人に擬す彼女が怒ったり騒いだりしているところを誰も見たことがない。しかも、人間から臓器を奪い取るときには、麻酔までかけてくれるのだ。 |
アル【2】
「これはいい膵臓ね、こっちの肝臓も美しいわ」 アルにとって人間とは美しい臓器を育てるための畑であり、容器である。奪い取った臓器の代わりに魔族の腸を戻し、彼女は『宝物』をその手にする。起きた人間はやがて魔族に変化する。決して慈しみなどは見せない。 |
アル【3】
「こんなにたくさん集まって、どうしたのかしら?」 アルの残虐な臓器の乱獲は巧妙に隠されていたが、人間も愚鈍ではない。王国騎士を中心とした討伐隊が組織され、ついにアルの住む屋敷へと攻め込んだ。しかし、アルはそんな彼らを見ても、動揺するそぶりは少しも見せなかった。 |
アル【4】
「自ら臓器を提供するため駆けつけたその勇気、感謝するわ」 それはまさに地獄絵図だった。雨のように降り注ぐメスは、次々と人間たちを斬り裂き、アルの屋敷は血の海となった。多くの宝物を手にした彼女は思った。このまま王国中の人間の臓器を余さず狩ってやろうと。 |