シジールマ【1】
「その剣の冴え、私の勝てる相手ではないな」 その台詞がまるで勝ち誇るかのように出た事に、彼女を追い詰めた騎士は若干の違和感を覚えた。 だが、シジールマはすでに追い詰められている。 このような魔女如き敵ではないーー勝利を確信し、騎士は剣を振り下ろした。 |
シジールマ【2】
「どうした、剣先が鈍っているぞ」 シジールマは、嘲笑うかのように騎士の剣を躱した。 偶々だ、と己に言い聞かせ、騎士は繰り返し剣を振う。 だが、当たらない。 この魔女は身を風と化す魔術でも使ったのだろうか。 |
シジールマ【3】
「勘違いするな、私が躱しているわけではない、お前が外しているだけだ」 騎士はその言葉を受け、ようやく己が剣をまともに振れていない事に気付いた。 子供の頃から当たり前に剣を操ってきたというのに。 剣というものを、これまでどう振っていた? もはや、それすらも分からない。 |
シジールマ【4】
「愚か者め、才に溺れるからこうなるのだ」 シジールマの嘲笑いに、騎士はようやく悟る。 この魔女は、勝利など求めてはいない。相手から生きてゆくための才を奪い、絶望へと突き落とす事が目的なのだ。 剣という翼を奪われた騎士が、その絶望の底から羽ばたく事は二度となかった。 |