シャ・ノワール【1】
「だめな子ねぇ。あんなやり方じゃ、女はなびかないわ」 真新しい教会の屋根の上。このお気に入りの場所から、シャ・ノワールは日々、街を見下ろしていた。ここに座って街を眺めていると、いろいろなものが見える。若者が不器用に女を口説いている姿さえもよく見えた。 |
シャ・ノワール【2】
「いきなり得意な料理を聞くって、どういうことぉ? 切り口がおかしすぎるわ」 あまりにも会話の運び方が下手な若者に、あきれて笑うシャ・ノワール。もう数週間、彼の奮闘ぶりを眺めているが、うまくいったことは一度もない。外見には大きな問題があるようには見えないのだが、本当に話しかけ方が下手なのだ。 |
シャ・ノワール【3】
「そうねぇ。少しだけ遊んであげようかしら」 シャ・ノワールは屋根から飛び降りると、町娘の格好に姿を変えて若者に近づいた。思った通り、若者はシャ・ノワールにも声をかけてきた。とりあえずは引っかかってやるふりをして、若者が調子づいたところに肩すかしを食らわせてやるという遊びだ。 |
シャ・ノワール【4】
「そ、そんなこと言われても……困っちゃうわよぉ」 よく話を聞いてみると、若者が女性に声をかけているのは、余命いくばくもない母親のためだという。若者の花嫁を死ぬ前に一目見たがっているので恋人のふりをしてくれ、と真剣に頼まれたシャ・ノワール。根はお人よしな彼女は、本気で悩んでしまうのだった。 |