ダキニ【1】
「すくんだ心臓など、食うに値しない」 血なまぐさい戦場のただ中に、薄着の女が歩み出てきた。兵士たちはその美貌を見て下品な笑みを漏らす。うまそうな得物だ。だがその期待は、次の瞬間に裏切られる。女が振り払った曲刀が屈強な兵士たちを鎧ごと切り裂いたのだ。 |
ダキニ【2】
「おびえてくれるなよ、固い心臓は苦手なんだ」 女の力量に驚いた兵士たちが、背を向けて逃げ出すと、女はつまらなさそうにためいきをついた。その瞬間、若い兵士が勇敢にも斬りかかってきた。女は曲刀で攻撃を受け流し、返す刀で兵士を斬り裂く。心臓を傷つけないように斬り裂く。 |
ダキニ【3】
「ウデはともかく、活きはよかったな坊や。これからはお姉さんと一緒に生きようじゃないか」 女は切り殺した若い兵士の元にひざまずくと曲刀を操り、器用に心臓だけを肉体から取り出した。女の赤い唇が、より赤い心臓へと寄ってゆく。 |
ダキニ【4】
「うまい、これで永遠にお姉さんと一緒だ。ともに戦おう、坊や」 女は若い兵士の心臓をのみこんだ。こうして何千、何万もの心臓を食い、心臓の持ち主の力を己の力として戦い続けるのだ。より強き者の心臓をその白く美しい喉に通すために。 |