ノインテーター【1】
「心強いですわ、ここがどこかもわかりませんでしたのよ」 濃霧の中で出会った少女は、うれしそうにほほえんだ。少年はここが雲の中、天の上なのかと錯覚した。天使と見間違えるほど、少女の肌は白く、瞳は澄んで紅かったのだ。 |
ノインテーター【2】
「少しでも離れたらはぐれてしまいますわね、手をつなぎましょう」 少女の手のひらの柔らかさは少年をうっとりとさせるものだった。少し冷たい気がしたが、たちこめる霧のせいだと理解した。生まれて初めて手をつないだ女の子がこれほどまでに美しいとはーー少年は霧に感謝したい気分で、胸がいっぱいだった。 |
ノインテーター【3】
「もうどのくらい歩いたかしら? なかなか出られませんわね」 霧の中をいくら歩いても、人の気配がある場所には出られなかった。白い闇のせいで辺りの景色も見えない。だが、さまよい歩くこの時間が終われば初恋のこのひと時も終わってしまうのだ。少年は霧が晴れない事を、心のどこかで願っていた。 |
ノインテーター【4】
「おなかがすいてしまいましたわね。……あら、こんなところにおいしそうな……」 霧の中を見回していると、少年は急激な痛みに襲われた。ふたたび目を開いた時、少年の視界に飛び込んできたのは……ほおを染め、口の周りを血で染め、少年の血を舐める少女の姿だった。 |