パナケーア【1】
「もっと生きたいのですか? ならばその望み叶えて差し上げましょう」 さながら天使のような顔をして、魔女は魔薬を老富豪に渡した。 老富豪は奪い取るかのように魔薬を手に取り、礼も言わずに飲み干した。 自分以外の者が自分に媚び、望みを叶える事は、当然の事だった。 |
パナケーア【2】
「死神は、永遠に貴方を見放したのです」 そう言い残し、魔女は去った。 老富豪は、満足した。己のものだった富を、死によって他人に譲る事など、到底我慢の出来る事ではなかったからだ。 富豪は生き続けた、子や孫が老いて死ぬ頃になっても生き続けた。 |
パナケーア【3】
「死にたい? 今になってその翻意はないでしょう」 再び訪れた魔女に、老富豪は地に頭を付けて死を願った。 魔薬により永遠の命を得たものの、体だけは朽ち腐ってゆく。 不気味な姿に変容した老富豪には、もはやそばに寄る者すらいなくなっていた。 |
パナケーア
「死という然りを拒んだものへのそれが罰なのです」 魔女は二度と老富豪に言葉をかける事はなかった。 人も富も失い、朽ちていく体にのたうちまわるだけの姿を、あとは面白おかしく眺めるだけなのだ。 魔薬に手を出した者の苦しみは永遠に続く。世界が、失われた後であろうと。 |