メルコム【1】
「そんなに驚くようなことかね? 当然だろう。地獄にも公務員くらい居るのだよ」 自身を官僚であると形容したメルコムに、地獄に堕ちてきたばかりの男は驚きの声をあげた。そんな男の様子を見たメルコムは、再び帳簿へ視線を落としながら答える。 |
メルコム【2】
「公務が存在するのだから当然だろう。そして彼らにも給与が発生する。ゆえに、私のような役職も必要になってくるわけだ」 地獄の公務員に給与を分配するのが、メルコムの役目である。なにせ担当する数が多いので、メルコムは常に忙しい状態だという。 |
メルコム【3】
「面倒な仕事だよ。少ないだの、多いだの、言いがかりばかりさ」 それは必ずしもメルコムのミスが多いという話ではない。地獄の公務員たちは、給与の格差に不満を感じると、メルコムにいいがかりをつけに来る。自分の上役に文句を言えない代わりに、うっぷん晴らしをしにくるのだ。 |
メルコム【4】
「公務員になりたい? ご想像通り安定しているよ。安定した地獄だ」 なぜか最近、新参者たちが公務員になりたがるので、メルコムはそう答えることにしている。ストレスはたまるし、仕事は面白くない。死んでまで働きたがる元地上人たちの気持ちは、メルコムには理解できないものだった。 |