饕餮【1】
「あたしに興味があるのかい?」 晩酌をしていた女は含み笑いを浮かべた。酒場にいた男性客たちの幾人かが、自分のうわさをしているようだ。普通なら聞き分けられるはずもないささやき声の数々を、女の耳は正確にとらえていた。 |
饕餮【2】
「度胸がないようだね、この町の男どもは」 大柄で豊満な肉体を前に、並みの男たちは気後れして声をかけることもできなかった。うつむく男たちの顔を見て、女は笑みを浮かべたまま、けだるげにため息をついた。 |
饕餮【3】
「まずそうな男ばかりだ。さすがのあたしですら食う気がしないよ。今夜は本当に、つまらない」 男たちから興味をなくした女は、店主につまみを注文した。運ばれてきた品に男たちが仰天する。トカゲの黒焼きに毒蛇のまる揚げ。はたから見ているものたちにとって、口に入れたくもない品々だ。 |
饕餮【4】
「いい度胸だね。もう少しあたしを怒らせてみせな。食ってやるよ」 やがて体格のいい男が女に絡みはじめた。初めは相手にしなかったが、しつこさに呆れると、舌なめずりをして男の腕に自分の腕を絡ませる。地を這うような声に悲鳴をあげた男へ侮蔑の視線を送ると、女は、気だるげに酒場を去っていくのだった。 |