黄泉【1】
「そう嘆くことはありません、ここも悪いところではありませんよ」 生を失い、この国に落とされた死者に、威厳ある声は語りかけた。声の主は黄泉、この国の支配者である。 |
黄泉【2】
「生きている間に聞いた事があるでしょう、住めば都という言葉を。ここも同じです」 死者にとって、この国はもはや二度と日の当たる場所に戻ることのできない、永遠の監獄だった。だが、いつまでも動揺していては魂の平穏を得ることはかなわない。黄泉の威厳は死者たちに落ち着きを与えた。 |
黄泉【3】
「逃げたものがいるのですか。それは不思議なことではありません」 時々、死の国から逃げ、生ある世界に戻ろうとするものもいる。法に照らし合わせれば大罪だが、黄泉は動じない。現世に未練を残して落ちてきたものなどいくらでもいる、黄泉はその気持ちを理解していた。 |
黄泉【4】
逃亡者が連れ戻されても、黄泉は声を荒げない。現世に戻ったことで、もはやそこが自分の居場所でないことを彼らは悟ってくるからだ。肉体もなく、死霊や化け物として扱われる。死の国にこそ安息があることを学んでくれば良し、黄泉はそう考えている。 |