【月光】タンムズ【1】
「死を司っているというだけで皆に敬遠される。これは酷い仕打ちだと思わないか?」 死を司る冥界の執政官、タンムズ。大量の書類を前に黙々と作業をこなす彼女であるが、ふと顔を上げてはそんなことを呟いた。彼女にとって死は相棒であり、仕事仲間。それほどまでに恐れられる理由がわからないのだ。 |
【月光】タンムズ【2】
「いっそ、そうやって私を嫌う者たちを殺してやりたいところだが……おい、何を怯えている。ただの冗談だろうが」 口数が少なく、仕事一辺倒なタンムズが発したその言葉に、周囲の者達が凍りつく。彼女は笑い、ただの冗談だと言ったが、それでも共に笑える者はいなかった。 |
【月光】タンムズ【3】
「いったい何が悪かったというのだ、『殺す』なんてただの冗談だろう」 そう言って、表情を何一つ変えぬままタンムズは作業に戻った。周囲の者達は内心でホッと胸を撫で下ろす。この執政官のジョークセンスの無さを指摘できる者は、少なくとも冥界には誰もいない。皆、死にたくないからだ。 |
【月光】タンムズ【4】
「なぜ、それほどまでに死を嫌がるのだろうか。誰だって、いつかは絶対に死ぬのにな」 今日も誰かを冥界送りにしながら、タンムズはふと呟いた。書類に書かれていた人間は、不死の命を求めた挙句に死したという。なぜ、人は死を疎む? 不思議に思いながら、タンムズは表情一つ変えることなく判子を押した。 |