【2015聖夜】カーミラ【1】
「ごきげんよう、素敵な夜ね」 聖夜の日暮れ、少女は約束の時間より少しだけ早くパーティ会場に着いた。そこで待っていたのは、愛しい婚約者の青年ではなく、一人の女性だった。女性のこの世のものならざる美貌に、少女の心臓は一瞬、凍てついたように動きを止めた。 |
【2015聖夜】カーミラ【2】
「素敵なドレス。恋人と待ち合わせかしら?」 女性に褒められ、凍てついていたはずの少女の心臓は突然、熱を帯びた。このドレスを婚約者のために着た事など、既に頭から吹き飛んでいた。今はただ、目の前の女性の指に撫でられ、唇に触れたいとだけ願うようになっていた。 |
【2015聖夜】カーミラ【3】
「それとも一人なの? なら、静かなところで少しお話をしない?」 待ち人はいない。少女の唇は、無意識に『嘘』を紡いでいた。一刻も早く、煩わしい婚約者の視線が届かない暗闇に逃れ、目の前にいる女性と二人きりになりたかった。 |
【2015聖夜】カーミラ【4】
「貴女は、もう、私のものよ……」 暗闇の中、女性の唇が少女に近づいてきた。待ち焦がれていた柔らかな接吻。その唇は受けた瞬間に、硬質な牙へと変化した。女の心を術で惑わす女吸血鬼。そんな噂を思い出した時、すでに少女の魂は「人」のそれではなくなっていた。 |