フェンリル【1】
「オオカミの王よ、何を憂いておる?」 北の大地にそびえる、切り立った岩山。その頂に、女王は立っていた。女王が語りかけているのは巨大なオオカミだった。オオカミに女王を襲う気配はなく、女王にもオオカミを怖れる色がなかった。 |
フェンリル【2】
「人の子の女王よ、我は不安なのだよ」 オオカミの王は、人の言葉で女王に返事をした。獣の姿をしてはいても、オオカミの王は人の心と知恵を持っている。女王とオオカミの王は、この山の麓に広がる魔族の国を共同で統治していた。 |
フェンリル【3】
「オオカミの王よ、不安なのはこの国の行く末か?」 女王とオオカミの王は、愛情や友情で結ばれているわけではない。女王はオオカミの王の力を。オオカミの王は女王の美しさとカリスマ性を。この国の統治に役立てているだけなのだ。 |
フェンリル【4】
「末永く平和に治めたいものだな、女王、あなたとの関係のように」 互いが互いを利用し合う関係。だからといって、オオカミの王は女王が嫌いなわけではなかった。女王の方もおそらくはそうであろう。二人が特別なわけではない。世の中の大半はこんな関係で成り立っているのだ。オオカミの王は、そう悟っていた。 |