【艶美】猫又【1】
「この猫屋敷へようこそいらっしゃいました。あなたを歓迎いたしましょう」 猫のアヤカシは穏やかに微笑む。これまで、この屋敷に多くの人間が訪れた。しかし、屋敷の主の心を満たしたものは未だにいない。 |
【艶美】猫又【2】
「あなたがいらしてからどれほどの時間が流れたでしょうか」 猫と共に過ごす生活は、慎ましくも満たされるものだろう。時間の流れも忘れるほどに、幸せかもしれない。だが、忘れてはいけない。時間は常に流れているのだ。 |
【艶美】猫又【3】
「私の髪も随分と長く伸びました。あなたと出会ってからもう80年も経つのですもの、当然よね」 人がその一生を終える時、自分が幸せだったか考えるという。猫に魅入られ、猫と過ごした生活は幸せだっただろう。数十年の月日を数日だと感じるほどに。 |
【艶美】猫又【4】
「また散って逝ってしまった……私はいつ満たされるのかしら」 血染めの花弁が風に舞う。猫のアヤカシは悲しみと期待を胸に、屋敷の戸を開けた。 すぐに新たな旅人が猫屋敷に迷い込むだろう。そして、儚くも甘美な生活に取り込まれていくのだ。 |