ブロナハ【1】
「ようこそ、ボクの奈落へ。ここに来たのは、君でちょうど五万人目だよ」 人が忽然といなくなる、いわゆる神隠し。この不運で不思議な事件に巻き込まれた人間の中には、ブロナハの奈落に迷いこんだものもいる。 |
ブロナハ【2】
「ここから出る方法はすごく簡単だ。壁をよじ登ればいい」 ブロナハの奈落は巨大な井戸のような構造になっている。周囲はむき出しの岩になっており、そこを登っていけば、いずれは外に出られるのだ。ただし、目指すべき出口は奈落の底からは点にしか見えないほど、高い位置にある。 |
ブロナハ【3】
「ボクは邪魔しないよ。登りたければ登ればいい」 かつて何人もの人間がブロナハの奈落を脱出するために、壁登りに挑んだ。三日三晩登り続けても、まったく近づいた感じのしない奈落の出口に絶望して、そのまま身を投げる者も少なくない。 |
ブロナハ【4】
「それでも登り切った人間も僅かながらいるんだよ」 五万人の中には、本当に奈落の壁を登り切った者も数名だけいた。しかし、登り切った彼らが幸せだったのかどうかは分からない。奈落の出口に到着した彼らが見たのは、ブロナハの笑顔だった。 「次の奈落へようこそ。ここから出る方法はすごく簡単だ。壁をよじ上ればいい」 |