スマブラ個人小説/ラモソの小説/亜空の旅人/第1部第三章

Last-modified: 2012-10-08 (月) 22:25:44
 

 第1部

 第三章

ここまでのあらすじ

当局からの追っ手を振り切り亜空間へ突入したキャプテン・ファルコンら四人。だがアーウィンの自動航行システムはエラーを感知、その内容は“目的地が消失した”という驚くべきものだった。
同席するリンクのサポートの下でカービィが問題解決に取り組む間、マリオは一連の奇妙な事件についてなんらかの“つながり”の存在を予想する。ちなみにファルコンは昼寝の最中であった。
そうこうするうちにアーウィンは目的地を変更、到着した場所は宇宙空間、それもスターウルフらが大暴れしている戦場のただ中だった。逃げることもかなわず、四人の乗る三機のアーウィンはそれぞれの結末を迎えることとなった・・・。

「ばかものッ!!」ドンキー・コングは怒鳴りつけた。
 トゲノコ隊長は身を震わせ、涙をボロボロと流している。「す、すみま、すめむま・・・」
 彼は必死に謝ろうとしたが、嗚咽のせいでうまく言葉が出ない。
 ここはドンキーの執務室だ。隊長はマリオたち脱走者を取り逃がしたかどで叱られている。
「これでは、いつ戻ってくるか分からないではないか。 え? もし奴らが戻ってきたらどうするんだ」ドンキーは執拗に叱責する。トゲノコ隊長は完膚なきまでに自尊心を傷つけられ、地に伏した。
「・・・」ドンキーは腕を組み沈黙する。
 戻ってきたら・・・ドンキーは思った。

 

 まずいことになる。ドンキーは冷や汗をかいていた。

 

「捜索を続けるんだ」
 ドンキーは言う。トゲノコ隊長は、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げ、「ひゃい!」と情けない声で返事をし、執務室を後にした。

 

「ここはどこだぁ!?」ファルコはお決まりのセリフを叫んだ。「俺はファルコだぁ!!」
「ぺぽぉ~」カービィがたしなめる。
「・・・って、叫びたくもなるぜ。 なあ、丸いの?」
 ファルコはカービィの言語を知らないのだ。カービィはむっとした。
 ここは、どこかの海岸である。崖が延々と続き、向こうの方では何かが光っている。二人はとりあえず海岸沿いに歩くことにしたのだ。
 しかし、殺風景なのである。ファルコは海なんて見飽きていたし、かと言ってなにか目を楽しませるような―――海水浴に来たグラマーな水着女とか―――そういうものは一切無かった。
「あ~あ・・・参るぜ」「ぺぽ!」
 ―――ファルコは愚痴を言い、カービィはいちいちそれに反応する。二人の会話はいつまで経っても互いに一方通行のまま成立しないのであった。

 

 ファルコがぶつくさ言っているうちに、カービィは別のことを考えていた。
 ・・・ドンキーが何かわるいことを考えているみたいだ。ようすがおかしい。もしかしたら、ぼくたちのことをたおそうとしているのかもしれない。だから、ここへ逃げてきた。でも、行くあてがない。どうしよう。
 ファルコはわるい人じゃないから、いっしょに呼んでみたけど・・・かえってめいわくだったかもしれない。どうしよう。
 それに、一番伝えたいこと、わかってくれるかどうか・・・。

 

 マリオたちが、おかしい。フォックスもそうだ。なにか変。記憶を消されているみたい・・・。ファルコは、それを分かってくれるかな・・・。
 ・・・つづく。

 カービィは必死に考えをめぐらせていた。
 ―――脱出できたのは良いけど・・・身体をなくしてしまった。みんなもエネルギーが切れて眠ってしまったみたい。
 どこに身体があるのか分からない。探さないと・・・。
 でも、ぜんぜん見つからない。前と勝手が違う。メニュー画面の位置も中身も違うし・・・知らない人たちもいっぱいいる。改造されたのかも・・・。
 もしかしたら、ぼくの身体は、のっとられたのかも知れない。それか、スマブラを出る前の記憶を移植されたのかも・・・。
 どこ?ぼくの身体は・・・。端から探したら、みつかるかな・・・。
 オープニングは・・・。

 

「ぺぽっ!!」いた、とカービィは叫び、立ち止まって空を仰いだ。
 ファルコはだいぶ先を歩いていたが振り向く。
「ん? どうした? 足にウニでも刺さったか?」ファルコは冗談を言うが、カービィの真剣な眼差しを見て態度を変えた。
「・・・敵か? それとも・・・」
 ファルコは言い、手をかざしてカービィの見つめる先を向く。ただ空があるだけだった。
「ぺぽぽ・・・ぺぽ・・・」
 カービィが何か呟き始めた。
 ファルコは黙ってそれを聞いていたが、意味は不明だった。
 しばらくして、空から大きな風切音が聞こえてきた。ファルコはそれを見る。
 三機の被弾したアーウィンが、X字のフレアを横切ってこちらへ向かって飛んで来ていた。

 

「うぉい、狐か!? そっちはあぶねぇぞ!!」ファルコは叫ぶ。「レンダリングされてねぇから何が起こるか・・・」
 しかし、爆音を立てて驀進するアーウィンに声が届くはずも無く、アーウィンたちはそのまま飛び去ってゆく。
 あっという間に視界から消え、あとにはその余韻が微風として残るだけだった。ファルコは呆然と立ち尽くす。
「・・・あれは“討伐隊”のアーウィンだ・・・」ファルコは呟いた。
 カービィは黙ってそれを聞き、小さくうなずいた。
 ・・・つづく。

 ファルコもカービィも歩き疲れてしまったので、二人はアピールを取ってオープニングムービーから抜け、メニュー画面に入った。
 抽象化の後に真っ先に飛び込んできたのは、『大乱闘スマッシュブラザーズ』そして『X』の文字である。
「おい、Dが抜けてるぞ」ファルコは言ってはみたが、本気で思ってはいなかった。
 新作なのだ。ついに・・・。
「ぺぽ・・・」カービィは不審がる。
 なにもそんなに警戒しなくても良いだろ、と思いながら、ファルコはキャラクター選択画面に移った。
 視界めいっぱいにアイコンが並ぶ。まだ出ていないキャラも多いようだ。

 

「やあファルコ。 遅かったじゃないか」
 ファルコが控え室に入ったとたん、無駄に快活な狐の声が呼びかけてきた。
「狐・・・か?」ファルコは訊くが、自信はなかった。
「狐?」相手は不思議そうに訊き返す。「ぼくはフォックス・マクラウドだ。 今後、どうぞよろしく」
「・・・はぁ!?」
 自称フォックス・マクラウドのあまりに爽やかなあいさつに、思わずファルコは乱暴な返事をしてしまった。

 

 そのしばらく前。
 選手控え室では、キャラクター達が新たな出会いに湧きかえっていた。
 かつての勇者達も多くは健在だ。彼らは経験者らしく互いの無事をたたえあっている。
 そして、新たなる挑戦者達。
 背中に羽を生やした天使は、ピットという名を持つ。
 下品な小男はワリオだ。
 サムスは初代からの参加者だが、今回初めてスーツなしでも戦うことを決意したようだ。
 ポケモンからはレッドが勝負を仕掛けてきた。
 ディディーコングはしきりにはしゃいでいる。
 メタナイトはマルスと騎士道について熱く語り合っている。
 リュカはピーチとゼルダに世話を焼かれ、照れている。
 体格の良い、ハンマーを持った男はデデデ大王だ。
 そしてオリマーは赤ピクミンを引き連れている。
 彼らが一同に集い、互いの闘志を確かめ合っているのだ。
 そこにまた一人。
 ドアを開け、ドンキー・コングがやってきた。
「諸君、あと一人だ。 紹介しよう、フォックス・マクラウド君」
 ドンキーに呼ばれ、フォックスが入室した。
 部屋が静かになる。
「彼はオールスター時代からの歴戦の勇士だ。 しかし、不運なことに、事故でかつての記憶を全て失ってしまった。 どうか、彼のことをあたたかく迎え、はげましてやってほしい」
 ドンキーが呼びかけると、一同は大きな拍手でフォックスを歓迎した。
 フォックスは礼儀正しく「よろしくお願いします」とあいさつをし、輪に加わった。

 

 ・・・そして、ドンキーと入れ替わりにファルコとカービィが入室、フォックスに「はぁ!?」とあいさつをかまし、今に至る。

 

「妙な気分だぜ」ファルコは言い、部屋の端の方のベンチで脚を組んだ。
「まあ、そう言わずに」
 ファルコが見上げると、ゼルダがやってきて、ファルコの隣に腰かけた。
「・・・だって、あなたの相棒なんでしょう?」
「ふん。 ・・・さっきの態度を見ただろ? あいつは俺たちの知ってるフォックスじゃねえのさ」ファルコはそう言ってそっぽを向いた。
「・・・」
 ゼルダは、部屋の中央付近で集まる同僚達と、その中央でもてはやされているフォックスを眺めた。
 フォックスの、その横顔には、たしかにゼルダにも腑に落ちない違和感があったのだ。
 記憶を失った・・・?それだけでは説明のつかない、違和感・・・。ゼルダは人差し指を口元につけ、しばらくそのことについて考察を繰っていた。
 ・・・つづく。

 リンクは皆と共にフォックスの帰還にエールを送っていたが、誰かに服の袖を引っ張られて振り向いた。
 誰もいない。
 いや、足元だ。カービィがこちらを見上げていた。
「どうした?」何ということも無く、リンクは訊く。
「ぽよ・・・」カービィはささやくように答えた。「・・・ぺぽ」
 それで大体のことはつかめたので、リンクはそっと大団円から抜け出してカービィと共に部屋を後にした。

 

 そのしばらくのち。
「おい、青鳥」
 リンクは再び控え室に戻ってきて、ベンチでうたた寝をしているファルコに呼びかけた。
「・・・なんだ、長耳」売り言葉に買い言葉である。ファルコは寝ぼけたまま返事をした。
「・・・」リンクは怒ろうかとも思ったが、やめておいた。「ちょっと来い」
「は?」
 ファルコが抵抗するよりも早く、リンクは彼の翼をわしづかみにして部屋から引きずり出した。

 

 タイトル画面。
 たそがれ時である。海辺の崖には三人の戦士が集っていた。
 リンク、ファルコ、そしてカービィだ。今頃、三人を除くほかのキャラクター達でトーナメントでもやっていることであろう。
 カービィによれば、ここなら盗聴される心配が無いのだそうだ。
「・・・旧型のアーウィン?」リンクはきき返した。
 ファルコが請け負う。「そうだ。 あれは間違いねぇ。 ・・・さらに言うと、あれは私用タイプだ」
「“プライベート・タイプ”?」
「ああ。 古くなったアーウィンをスマブラ側に隠して回収して、ビルの底で保管していたやつさ。 俺たちはそれであることをしていた・・・まあそれはどうでも良いんだが、ずいぶん前からそっちの活動はしてなかったから、久しぶりすぎて見るまで忘れてたぜ」
 ファルコは思わせぶりに話を切る。リンクは黙って続きを待った。
「あれは密造したエンジンを使っているから、アフターバーナーの色が黄緑色だ・・・一目で分かる。 通常は赤い」
「ぺぽ・・・ぺぽぽ?」カービィが訊くが、ファルコには通じなかった。
「なんだって?」ファルコは頭をかく。「・・・悪いが俺には、お前の言ってることはわからねえんだ」
「あー・・・」リンクが通訳する。「カービィは、どうしてそんなことをしたのか、と訊いている」
「ん? ああ・・・」ファルコはにやりと笑う。「実を言うとな・・・アーウィンの機体識別マーカーはエンジンに組み込まれてんだ。 だから、エンジンだけ隕石かなんかにぶつけて、外側だけ回収、なんてことをして当局をごまかしてたんだぜ」
「・・・せこいな」リンクは正直に感想を漏らした。
 ファルコは鼻を鳴らし、「マリオあたりに訊いてみろよ。 あいつが実行犯だぜ」と言い放った。
 リンクは二の句が継げなかった。
 ・・・つづく。

 ある空きビルの地下深く。
 ノコノコ達が、放置された密造アーウィンを解体、処分していた。指揮をしているのは例のトゲノコ隊長である。
 もともと、彼の率いる機動隊の隊員は18人いた。1人は対フォックス戦にこの場所で殉職し、14人はここにいる。その他の隊員は・・・。

 

 アーウィンを自力で修理し、亜空間に飛び込んで行ったのだ。

 

 自殺行為だと隊長は説得しようとしたが、3人は聞く耳を持たなかった。あのときのことを根に持っていたのだ。
 隊長も無論(一番先にやられたので)恨んではいたが、あれは今は亡きフォックスの仕業なのであって、マリオたちを恨んでも仕方ないと考えていたし、責任者という立場上残らない訳にはいかなかったのだ。隊長が上司として彼らにしてやれることは、ただ、ジュゲムら他の作業員が来る前に飛び去った彼らのことを秘匿することだけであった。
 ・・・なんにしろ、脱走犯たちは解雇しなければならない。ドンキー・コング氏は以前、機動隊に“解雇を伴わない捕獲”を命じていたが、現在は訂正したので、彼らのような氏直属の機動隊員を含む全警察官がマリオらを解雇するために目を光らせていることになる。

 

 しかし、亜空間への突入はいくらなんでも無茶だ。あの世界はいまだに分かっていないことが多く、時にとんでもない大事故を引き起こす原因にもなっている。ここにあったアーウィンは、日常的にそこを飛んでいたようだが・・・。
 4人の脱走犯がどこへ向かったのか、残念ながらまだ分からない。編隊を組むよう設定されていた、故障中のアーウィンのコンピュータによると、行き先はどうやら“スマブラDX”内のステージだったようだが、今現在DXは閉鎖されているためそこにたどり着くことはないはずだ。
 その後は・・・おそらく行き先を変更し、もう到着している・・・?
 わからない。新スマブラ館の周辺一帯は厳重に警戒しているので、戻ってこようとすればすぐにわかるのだが・・・いや、脱走の際には一杯食わされたではないか。
 ―――彼らがどのようにしてスマブラ館へアプローチするのか、いまだ不明だが、それはどんな手段をもってしても阻止しなくてはならない。
 彼らは今のスマッシュブラザーズには不要な存在なのだ。既に代わりは用意された。
 マリオは一人で充分なのだ。

 

 マリオはくしゃみをした。
「でぇ~い、寒いぜぇ」
「当たり前だろ!」スノーベアが突っ込みを入れる。
 頂上にて。対戦相手はヨッシーである。
 マリオとヨッシーは、とりあえず全ステージを一通り見てまわる事にしたのだ。
「・・・でも、あなたはそんなかっこうで寒くないんですか?」ヨッシーがスノーベアに訊く。
 スノーベアは笑った。
「はは、それ、俺に言ってるのかい? この毛皮と皮下脂肪で、寒いか、だって? 寒いのはアンタの方だろう? 爬虫類さんよ」
「うう・・・」
 事実、ヨッシーは極端に寒がりで、今も歯の根が全く合っていないのであった。しかし、主であるマリオがここにいるのだから、どうしようもないのだ。
「・・・しっかし、あのアーウィンはなんだったんだろうなぁ」マリオが言う。ヨッシーは呆れてしまった。
「まだ言ってるんですか?」
「アーウィン? 何の話だ?」スノーベアが訊く。
「ああ、さっき、“ライラットクルーズ”にいたんですけどね・・・」凍えないよう身体を揺すりつつヨッシーが解説した。「なんか、マリオさんが“アーウィンの中に俺がいた”とかって騒いでたんですよ。 ワタシは見間違えだと思うんですけどね・・・だって、墜落する戦闘機のコックピットに誰が乗ってるかなんて・・・」
「見えたんだよ!」マリオは言った。「見間違えるはずもねえ。 あの赤い帽子は間違いなく俺だった!!」
「いいえ、そんなはずはありません。 あなたの動体視力はそんなに良いはずありませんから」
「いいや、俺の目に狂いはねえぜ」
「馬鹿言わないで下さいよ!」
 ・・・ヨッシーとマリオはしばらく言い合いをしていた。
 サングラスの下から鋭い目でそれを睨んでいたのは、他でもないスノーベアであった。
 ・・・つづく。

『ハーイ、こちらプリンで~す!』
『アイクでーす・・・』
『ねぇねぇアイクさん、今日はどうしてテレビじゃなくてラジオ放送なんですか? しかもマイク一本でレコーダー直取りなんて、いくらこの番組が低視聴率を記録し続けているといってもあまりに乱暴すぎるんじゃないでしょうか?』
『今、戒厳令が出ててスタッフがスマブラ館に近づけないからでーす・・・』
『そうなんですか! 私もそうではないかとにらんでおりましたよアイクさん!!』
『ですよねー』
『そこで私! ちょっと考えてみました! 何をかと言うと・・・あのですねー、ごにょごにょ・・・』
『あの、耳元でしゃべるのやめてくれませんか?』
『だって内緒にしたいじゃないですか!』
『うあっ!』
『あっ、ごごごごめんなさい! つい大声になってしまって・・・』
『いいですよ、もう・・・それで?』
『あ、で、考えたことなんですけど、この番組を一旦休止して、再開できるまで時期を待とうっていう話なんです。 その、いつも期待してくださっている視聴者の皆さんには非常に申し訳ない話なのですが、どうか、お許しいただけますでしょうか?』
『いや、問いかけても応えてはくれないと思うんですけど・・・』
『いえいえ、こういうのは気持ちで通じるものなのですよアイクさん! 私には優しい視聴者の皆々様の応援がひしひしと耳に伝わってきましたよ!! ハイ、ありがとうございます! そして今まで本当にありがとうございました! 再び皆様とお会いできるよう誠心誠意努力いたしますので、どうか、このたびの放送休止、お許しくださりますようよろしくお願いします!!』
『よろしくお願いします・・・』

 

 アイクはカセットデッキの停止ボタンを押した。ガチャリと音がしてリールの回転が止まる。
「は~い、オツカレちゃん!」上機嫌にプリンが言い、背後からアイクの背中を叩いた。
 ・・・また一つ、あざが増えた。アイクはため息をつき、カセットテープを取り出して振り向く。
「・・・叩くの、やめてくれません?」
 しかし、そこにプリンはいなかった。上機嫌でさっさと出て行ってしまったのだ。再びアイクはため息をつく。
 ここは新スマブラ館、サウンドテスト室。いままでのほこりっぽさはなくなったが、その代わりにやたらと狭くなってしまった・・・らしい。一ヶ月ほどの付き合いのうちに、プリンから聞いた話だ。
 プリンさん、か・・・。
 ため息が幾度と無く洩れる。
 新参者のアイクは、ロイという相棒を失った彼女に散々に振り回され、ついに根暗と化してしまったのだ。いきなりテレビ番組に出演することになり、会社員とあだ名され、都合よく使い走りにやられ、さんざんビンタを食らい、面目は丸つぶれ、いやペシャンコにのされるまで叩きのめされてはもう・・・「ほら、行きますよ?」プリンがドアから顔をのぞかせ、呼びかけていた。
「一刻も早く、視聴者の皆さんの元へ戻らなければならないのですからね」
「はい・・・プリンさん」
 アイクは立ち上がり、以前に比べ格段に重く感じる愛剣“ラグネル”を肩にプリンの後を追った。

 

「ところで・・・それ、鞘は無いんでしょうかね?」薄暗い廊下を歩きながら、プリンが訊く。
「ああ・・・そうなんですよ」アイクは答えた。よく訊かれる質問なのだ。「まあ、神剣ですから・・・」
 プリンは大きな目でアイクを見上げる。
「そうなのですか・・・剣呑ですね」
 そう言って、プリンは再び前を向き直った。「うっかり壁とかに刺さないでくださいよ」
「わかってま・・・!」
 グサッ。
 ・・・つづく。

 新スマブラ館が設立してから一ヶ月半ほど経つ。
 警備は依然として最高レベルのままであった。さらに“スター・フォックス”系のステージは閉鎖され、他のステージも順を追って点検がなされているためバトルの進行に支障をきたしている。
 それでもドンキー・コングは警察官達に一連の捜査活動を続けさせていた。・・・いや、“軍”と呼んだほうがふさわしいだろう。
 ―――どちらでも良い、とドンキーは思った。
 どちらでも、大差は無い。

 

 ここは執務室。
 間取りは前作と同様だが、警備が物々しくなったことが部屋の印象をいくらか変えている。
 前作。
 その存在自体が現在では抹消されてしまっている。例外が四人の脱走者と三機のアーウィンであった。
 リフレクター・バグ。
 本事件のキー・ワードだとトゲノコ隊長は報告した。本作では修正された、重大なシステム・バグ・・・。
「―――“ライラットクルーズ”においての調査の結果、二機の旧型アーウィンの残骸を発見しました」
 トゲノコ隊長が報告を始める。ドンキーは思案に耽るのをやめて目を開けた。壁にはスライドが映されている。こういう時、白い壁は役に立つのだ。
「写真は♯1の回収前のものです。 隕石に激突し、大破したものと見られます。 エンジン、Gディフューザーシステム共に停止していました」
 スライドが切り替わる。スクラップになったエンジンのアップだ。
「未認可のエンジンを使用されていたため、識別マーカーがありませんでした」
「・・・」
「♯2においても同様です。 機体外装、その他の部分は前作の“惑星コーネリア”および“惑星ベノム”内のアーウィンのものを流用していた模様です。 リフレクター・バグ発生装置が取り付けられており、また自動制御システムの改造も確認されています」
「・・・」
 スライドが切り替わる。
 キャプテン・ファルコンの死体だ。
「写真は♯1の搭乗者とみられます。 前作のキャプテン・ファルコンで、死因は全身打撲と失血です」
 次のスライドも死体の写真だった。
「こちらは♯2の搭乗者とみられる、前作のマリオです。 アーウィンから離れた場所で発見されました。 死因は頚骨骨折です」
「・・・」
「今回発見された遺体は現在捜査中の容疑者2名と同定しました。 よって、この2名の捜査は打ち切り、引き続き残り2名の捜査は続行します」
「・・・」
「続きまして、ビル地下の密造基地についてです」
 スライドが切り替わる。空きビルの地下20階、アーウィンの格納庫の写真だ。
「基地の内部の状況から、約5~6年間使用されていなかったものと思われます」
 スライドが切り替わり、比較的原型に近い密造アーウィンが映し出された。
「これは基地にあった密造アーウィンの一機です。 解析の結果、“ライラットクルーズ”で見つかったアーウィンと同様の改造が施されていることが分かりました」

 

「・・・で、リフレクター・バグと言うのは?」
 トゲノコ隊長の報告が一通り終わったところでドンキーは質問をした。
 しばらく間をおいて、隊長は頷いた。
「それは・・・」
 ・・・つづく。

 トレーニングルームにて。ステージは終点である。
 カービィ、リンク、そしてファルコはある計画を実行するための下準備を行っていた。
 皆無言である。段取りは既にオープニング画面で済ませていた。
 3人はありったけのスマッシュボールをかき集め、それを持ってオープニング画面に戻り、亜空間にとらわれたマリオたちを救出することにした。
 現在、身体を失ったマリオ、キャプテン・ファルコン、リンク、カービィの4人は亜空間を抽象化した状態で漂っており、彼らが再び具体化をするには多量のエネルギーが必要である。それを補うために、まさにエネルギーの塊であるスマッシュボールを用いると言うのだ。
 それを提案したカービィにも、そんなことが可能なのか、確証はなかった。ただ、試すだけ試してみるのだ。
 ・・・ありったけのスマッシュボールをキャリアに詰め込み、背負うと、3人はトレーニングルームを抜け出してオープニング画面に直行した。
 途中、レッドとピカチュウに目撃されてしまったが、とりあえずリンクが「シーッ」とやって黙っておくよう頼んだ。
 先頭のファルコがたどるルートはかなり複雑だったが、警察に直接見つからないようにするためには仕方の無いことであった。
 あちこちに見張りが立ち、外にまで捜査の目を向けている今、スマブラ館内の警備はかなりむらがある。・・・さすがに監視カメラにはばっちり記録されてしまっているだろうが、まさかリアルタイムで視てるなんてことはあるまい。

 

 幸い、前半戦はアクシデントには見舞われずに済んだ。オープニングの海岸までたどり着き、3人は一安心した。
「はあ・・・キャリアってのは意外と重いもんだな」ファルコは肩をたたく。カービィがそれを笑った。
「ぺぽ、ぺぽぽー!」
「・・・なんだって?」ファルコはリンクに訊く。
 リンクは翻訳してやった。
「そんな事言ってるから、いつまで経ってもヒラのままなんだ、とかなんとか」
「なんだとぉ!?」
 ファルコはカービィに掴み掛かったが、背後に気配を感じて振り返った。

 

 ボロボロになったアーウィンが三機、彼らのすぐそばに佇んでいた。
「・・・もうお出ましか」ファルコは言う。
「ぺぽぅ、ぺぽぽ・・・」カービィが言い、リンクが訳す。
「これはただの映像に過ぎず、実体は無いのだそうだ」
「へぇ・・・」ファルコは肩をすくめた。「で、これからどうするんだ?」

 

「わあっ、イテテ!!」ファルコがふらつく。
「ぎゃあああああ!!」両肩を強く踏まれ、リンクは悲鳴を上げた。
「ぺぽ!!」カービィは下の2人を叱る。
 コックピットの中の様子を探るため、3人は肩車をしているのだ。一番下がリンクで、次がファルコ、一番上はカービィで、カービィが動くたびに下の2人がたじろぐのであった。
「ぐええ・・・もっと減量しろよな」ファルコが言う。
「お前もだ!!」リンクも言った。
 ふいにキャノピーが持ち上がり、2人は黙る。
 中では、キャプテン・ファルコンの幻影がシートに収まったまま眠っていた。当然、生命反応は一切ない。
「ぺぽ!」
 カービィが合図をする。
 リンクは足元のキャリアを剣で切り開き、中からスマッシュボールを取り出してファルコに手渡した。ファルコはそれをカービィにまわす。
 カービィはそれを受け取り、狙いを定めてキャプテン・ファルコンに投げつけた。
“ヂョイン!”と言うような奇妙な音がして、スマッシュボールはファルコンの幻影に吸収される。
 ファルコンの幻影は少しだけ実体を取り戻したらしく、シートに沈み込んでいった。
「ぺぽぽ!!」もっと、とカービィは言う。
 指示を受け、リンクとファルコは次々とスマッシュボールをリレーしていった。それをカービィがファルコンに投げつける。ファルコンはずぶずぶとシートの幻影に沈んでゆく。

 

 しまいには、ファルコンの身体はドサッと音を立てて地面に落ちた。
 3人は不安定な合体を解き、ファルコンの下に駆けつける。
 まだエネルギーが足りないらしく、ファルコンの身体は少し透けていた。
 少々見目が悪い。特にリンクは、なんだか吐き気に似た感覚をもよおして遠くへ避難してしまった。慌てて、ファルコとカービィがスマッシュボールを手当たり次第に投げつける。

 

 最後の一球はファルコのものだった。
「くらえ!!」ファルコが叫び、思い切り腹にぶつけると、ファルコンはガバッと飛び起きてむせこんだ。
「げえっ、げほっ、げほっ・・・?」
 呼吸を整え、ファルコンはあたりを不思議そうに見回した。
 DXキャプテン・ファルコンの復活である。実に一ヶ月半ぶりの目覚めであった。
 ・・・つづく。

 カービィと共にアーウィンに飛び乗り、空中戦を切り抜け・・・リンクは今まで一度だってした事のないような経験をした。
 死も、その中の一つである。
 そして、再生も・・・。
 辺りを照らすまばゆい光に、リンクは思わず微笑んだ―――誰かが、自分のことを助けてくれたのだ。それが誰なのか、リンクには分かっていた。
「ぺぽっ」
 相棒のカービィが、リンクの名を呼ぶ。
 きっと、彼が自分を復活させてくれたのだ。感謝しなければ・・・そう思ったリンクは横たわったままカービィを見上げた。すると・・・。

 

 カービィは、2人いた。
 さらに言うと、リンク自身も、なぜかもう1人いたのであった。

 

 Xからはカービィ・リンク・ファルコの3人が、そしてDXからの復活メンバーはファルコン・カービィ・リンク・マリオの4人が同じ場所に集っていた。彼らは互いの過去を語り合い、情報を補完しあうことにした。
 そこであった話を要約すると、こういうことだ。
 まず、マリオら4人がスマブラ館を抜け出したとき、その時点まではスマブラのバージョンは“DX”であった。4人が亜空間を漂っているうちに、スマブラ館が“X”へと移行、引き続き参戦するキャラと新人たちが集まった。
 そのとき、4人のパラレルと呼べる存在が発生、オリジナルの4人は亜空間に閉じ込められてしまった・・・。
「おそらく、そういうことだろう」DXのリンクは話をまとめる。

 

 他のキャラたちの話を聞きながら、マリオは考える。
 ・・・なんとか戻ってくることは出来たが、どうやらここに自分達の居場所は無いようだ。あの時見たもう一人の自分は現実のものだったらしい。
 それに、目的を達成できていない。目的・・・なんだったっけな。
「―――ジュゲムだ! 全ては奴のせいだ!!」話の途中でファルコンが叫び、マリオは思い出した。
「そうだった・・・ジュゲムの疑惑の判定が、そもそもの原因だったな」
「どういうことなんだ?」ファルコが訊く。
 彼なら信用が置けるだろう。ファルコンとマリオは顔を見合わせ、うなずいた。

 

「・・・つまり、これから奴を改めてとっちめに行くってのか?」ファルコは呆れ返ってしまった。「せっかく俺らが復活させてやったのに、また命を無駄使いする気かよ」
「だって、そうするしかないじゃねえか!」ファルコンが弁明する。
 Xのリンクがたしなめた。「確かに、ここに居場所が無いあんたらはそうかもしれない。 でも、私達は・・・」
「居場所がある、と?」DXのリンクが言い返す。「ふざけるな。 私達を復活させた時点で、貴様らは共犯者だ」
「まあ、そうカッカすんなって・・・」
 マリオが言い、そばにいたほうのカービィをリンクに抱えさせた。ついでにもう一匹も、Xのリンクにくれてやる。
 2人のリンクは沈黙した。

 

 しばらく後。Xリンクはカービィの愛らしさに買収され、マリオたちに疑問を投げ返すのは、あくまで冷静を貫こうとするファルコのみとなった。
 だが頭に血が上っている復活組らに勢いで劣り、最終的に―――。
「・・・分かった。 降参だ」ファルコはやけくそになって両手を挙げた。「協力してやる。 これで良いだろ?」
 ファルコンは満面の笑顔で感謝し、突進した。
「助かるぜぇッ!! やっぱお前良い奴だな!!」「うわっ、近づくんじゃねえ!!」
 ・・・ファルコとファルコンは取っ組み合いを始めた。2人を放置して他のメンバーは話を進める。
「まずはここから出なくては。 スマブラ館から、な」DXのリンクが言った。カービィたちが賛成する。
「ぺぽ!」「ぺぽぽ!」
「出ると言っても、警備は厳重を極めているぞ」Xのリンクが反論した。DXのリンクがさらに言い返す。
「そうは言っても、ここにいたってどうにもならないし、スマブラ館に残っても何もならない」
「他のやつらも手伝わせるとか?」マリオが提案した。
「いや」DXのリンクが否定する。「その前につかまるのがオチだ。 作戦は、迅速かつ慎重に・・・」
「いっそのこと、強行突破しちまえよ」
 乱闘中のファルコが言った。全員がそちらを振り向く。
 無言。
「・・・な、なんだよ」ファルコが戸惑う。「そんなに意外かよ。 だって俺らはスマブラ族だろ?」
「その通りだ!!」ファルコンが抱きつくと、マリオたちは歓声を上げた。
「よっしゃ! それで行くぞ!!」マリオは意気揚々に叫び、立ち上がって他のメンバーたちとハイタッチをした。

 

「・・・気がすすまねえんだが」あまったスマッシュボールが入ったキャリアを覗き込み、ファルコは言った。
「やるしかない」彼の肩に手を置き、Xのリンクが元気付ける。「私達はスマブラ族だぞ?」
 しばらくうつむいて考えをまとめ、ファルコはため息をついてうなずいた。
「まったくだぜ・・・」ファルコは言った。「じゃ、行くぞ」
「「「「「「おう!」」」」」」6人が応えた。
 ・・・つづく。