スマブラ個人小説/Hooの小説/禁忌の継承者(3ページ目)

Last-modified: 2009-08-09 (日) 19:34:03

この連載長編もいよいよ佳境へと突入します。皆さん、最後までお楽しみください……。

第22話 ロゴスなきワールド

~空中スタジアム~
戦士たちが己の実力を試すために大会が開かれる場所。
一年前は亜空軍が押しかけ、一時は亜空間に飲み込まれてしまった場所。
昨日には戦士たちとアーカードの死闘が繰り広げられた場所。
現在、そこにいるのは“この世界”の創造神であるマスターハンド、そして『境界を操る程度の能力』を持つ妖怪、八雲紫であった。
マスターハンド「……それにしても、あいつらは大丈夫だろうか」
紫「あら、心配なの?」
紫がスキマを利用して戦士たちを禁忌の継承者たちの居場所まで届けたのが前日の夜のこと。
それから太陽が昇り、そして西に傾いていき、今は薄暗くなり始めていた。
送り出した時間からして、戦士たちは禁忌の継承者の目を醒まさせて戻ってきてもいい頃なのだが、未だに誰も戻ってこない。そのことを気にするマスターハンドに、紫が声をかける。
紫「心配いらないんじゃないの。私はあの子たちのことはよく知らないけど、簡単にやられたりしないだろうってことぐらいなら分かるわ」
千年以上の時を生きてきた妖怪にとっては、歴戦の猛者たちも子どものようなものらしい。
マスターハンド「そのような言い方は年寄り臭いぞ」
紫「何か?」
ボソッと言った言葉を紫は耳ざとく聞きつけてくるが、マスターハンドは「何でもない」と返してうやむやにする。
「Hey!マスターハンド、戻ってきたぜ!」
いきなりそんな声が聞こえてきた。声がする方を振り向くと、入口の方にソニックがいる。
マスターハンド「お前か。ということはマリオたちが一番乗りでここに来たという訳か」
だが、ソニックは苦笑いを浮かべ、
ソニック「いや、ちょっと俺だけ先走ってここに来ちまったから、当分は来ないぜ」
と言った。
マスターハンドは「なんだそりゃ」と突っ込みたくなる気持ちを押さえて、
マスターハンド「しかし、無事にクッパの説得はできたのだろう?」
と質問をする。
ソニック「まっ、途中で戦ったりしたけど結果的に上手くいったぜ」



ソニックが空中スタジアムに戻って来たのを皮切りに、他の戦士たちも続々とやって来ていた。まずはマリオたち。
マリオ「戻って来たぞ、マスターハンド」
ヨッシー「ただいま~」
ポポ&ナナ「「いや、ただいまはおかしいと思うけど……」」
ピーチ「戻って来たわよ」
ルイージ「戻って(ry」
クッパ「我が輩が来たからには百人力だ!!安心するがいい!!」

次に来たのはリンクたちだった。
リンク「マスターハンド、無事にガノンの目を醒まさせることに成功したよ」
アイク「……戻って来たぞ」
ゼルダ「そちらにお変りは……無いようね」
トゥーンリンク「ここまで来るのに疲れたよ……」
ドンキー「だらしねぇな、トゥーン」
マルス「まあまあ、彼だって頑張ったんだからさ」
ガノン「マスターハンドよ、今度は同士として相見えることとなった。出来る限り協力しよう」
ディディー「それでさ、タブーのエネルギー体を持ってきたのはいいけど、どうすりゃいいの?」
マスターハンド「まあ、それは全員揃ってからだ」

次にやって来たのはカービィたち。だが、その表情は暗い。
メタナイト「すまない、マスターハンド、紫殿。私たちのチームは失敗してしまった……」
カービィ「ゲームウォッチもそこにいたんだけどさぁ……」
ピカチュウ「邪魔者が入っちゃったんでチュ」
プリン「アーカードの奴プリ!」
ネス「あの人を止めようとしたけど、できなかったんだ……」
リュカ「それで、タブーのエネルギー体とゲームウォッチのフィギュアを奪われちゃったんだ」
デデデ「面目ないゾイ……」
紫「まあ、気にすることは無いわ。彼の能力を考えれば、一つぐらい失敗するチームがいたことは予測済みよ。それに、多少の失敗があってもこの作戦の成功は覆らないわ」
ルカリオ「どういうことだ?」
紫「それはみんなが来てからのお楽しみ」

そして、フォックスたちはグレートフォックスに乗ってやってきた。
フォックス「フォックス・マクラウド、クリスタル、ファルコ・ランバルディ、オリマー、ロボット、以上五名、ただいま帰還した!」
クリスタル「結構戻って来た人は多いみたいね」
ファルコ「こっちは異状無しだったぜ」
マスターハンド「うむ、ご苦労。ところで、ウルフはどうした?」
オリマー「ウルフさんは、私たちのところには入りませんでした」
ロボット「だが、あいつはきっと来るだろう」
マスターハンド「そうか」
……と、ウルフェンがやってきた。中からウルフが出てくる。
ウルフ「フン……、来てやったぜ」

そして、スネーク達も戻ってきた。
ワルイージ「オレ、参上!!」
ワリオ「おいワルイージ、オレ様も(ry」
ファルコン「全く、騒がしい奴らだ」
レッド「ははは……」
スネーク「とにかく、俺たち五名は全員無事だ」

紫「さて、残るはあの子たちだけね……」
時刻は既に深夜。一番最後に来たのは……
霊夢「紫、戻ってきたわよ」
魔理沙「フランも無事だぜ」
フランドール「うん!」
サムス「どうやら私たちで最後みたいね」
ピット「それにしてもずいぶん暗くなったね……」
レミリア「何、夜は吸血鬼の天下。今なら天使如きに負けはしないわよ」
咲夜「お嬢様、冗談に聞こえませんのでそれはお止めください」
セネリオ「……さて、全員が揃ったところでどうすればいいんですか?」



闘技場の中央にて、霊夢が正座をし、両手を前に組んで何やら呪文のようなものを唱えている。
彼女の正面には、戦士たちがそれぞれ集めた、五つのタブーのエネルギー体があった。これから結界をかけ、手を出せない状態にするらしい。他の戦士たちは、霊夢を遠巻きに取り囲むように立っていて、その様子を見守っている。

マリオ「しかし、タブーの復活を止めることって、意外に簡単なことだったんだな」
エネルギー体が全て集まると、タブーが復活してしまうということは知っていた。
だが、これを逆に言ってみるならば、それらが全て集まらない限り、タブーの復活は起こらない。
極端に言えば、戦士たちの内どこか一チームでもエネルギー体の回収に成功した時点で、十分にタブー復活の妨害となるのだ。紫が言うには、五つも集められたなら上出来らしい。
さて、話を本題に戻そう。霊夢がタブーのエネルギー体に結界(簡素なもののようだが、それでも簡単には破壊できない代物らしい)をかけた後、それを紫が幻想郷のとある場所へ持って行き、二度と解けないような強力な封印を施すのだそうだ。ちなみに、具体的な場所については、
紫「それはヒ・ミ・ツ」
……らしい。

やがて、霊夢の体から霊力がオーラのように溢れ出て、彼女の周りの風景がほんの少しだけ歪んで見える。
詳しいことは知らないが、呪文が完成したようだ。
霊夢はタブーのエネルギー体を閉じ込めようと――

ゴリッ、と彼女の後頭部に何かが突き付けられた。
「それらを全て渡してもらおうか」
突き付けられし物は白銀の銃。突き付けし者は――
一同「アーカード!!!!」
マリオはファイアボールを出すべく右手を前に突き出す。
ピットが神弓の弦を引く。
フォックス、ファルコ、ウルフの三人はブラスターを構える。
ディディーがピーナッツポップガンで狙いをつける。
クリスタルはスタッフを構え、ヒートブラストを放てる状態にする。
サムスはアームキャノンの照準を合わせる。
ゼルダがディンの炎を放つべく、腕に魔力を込める。
スネークがロケットランチャーを構える。
ネスはPKサンダーを、リュカはPKフリーズを放つためにPSIを使う準備をする。
魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、マスタースパークを放てるようにする。
咲夜は銀のナイフをいつでも投げられる体勢をとる。

だが、あらゆる角度から攻撃されようとしているにも関わらず、アーカードは微動だにしない。
余裕の笑みを浮かべたまま、話をする。
アーカード「何、タブーのエネルギー体の回収などさして苦労もせずに済むものだ。お前たちが集めたものをもらえば良いだけの話だからな」
そんな中、紫は一歩前に出てアーカードに話をする。
紫「なるほど。貴方のワープする能力を使えば、今のように割り込んでいくことも可能、という訳ね。それなりに頭が回るようで安心したわ」
紫がそう言い終える瞬間、アーカードと霊夢を取り囲むように半透明な薄紫色の壁が何枚も現れた。
紫「だから、予め何をすべきかという予測も立てやすかったのだけれどね。前もって結界を張れるような状態にしておいたのよ」
「ほう……」と感心するアーカードを尻目に、紫の話は続いていく。
紫「四重結界。そこに閉じ込められた者は、この私が結界を解除するまで外に出ることはできない。……まあ、強力な攻撃をすれば内側からでも破壊することは可能でしょうけど。でも、攻撃の反動が自分に跳ね返って来て自滅するのがオチね」
紫はタブーのエネルギー体を集めた後、それらをまとめて奪わんとする者が出るだろうと考えていた。
その予測は見事に的中。アーカードを結界の中に閉じ込めることに成功した。
ただ、本当は彼のみを閉じ込めるのが理想的で、霊夢も一緒にそうなってしまったのは予想外――というより後頭部に銃を突き付けられているという状態ではやむを得なかったのだが。
アーカード「フ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
紫の話を聞き終えたアーカードは突然笑い出す。
アーカード「成程成程、そうか。ならば試してみようか」
彼は霊夢に突き付けていた454カスールの銃口を放し、目の前の何も無い空間――結界に向け直す。
そして引き金を引――くことは無かった。
「初めまして、ヴラド・ツェペシュ公。お目にかかることが出来て光栄ですわ」
アーカードに歩み寄る者がいたからだ。その者の名はレミリア・スカーレット。
彼女はスカートの裾を少しだけ持ち上げ、軽くお辞儀をする。
その姿は優雅であり、尚且つ紅魔館当主としての威厳も併せ持っていた。
アーカード「これはこれは……。初めまして、女吸血鬼(ドラキュリーナ)。私の昔の名前を知っているのか」
対するアーカードも銃を下ろし、右手を自分の胸の前に当てて礼をする。こちらの方も様になっている。

魔理沙「おいおい、レミリアってああいう性格だったのか?」
レミリアとアーカードのやり取りを遠巻きに見ている魔理沙は、隣にいる咲夜に質問をする。
魔理沙が知る限り、レミリアとは「吸血鬼こそが最強の種族」だとか言っていてプライドが高く、他人にお辞儀をするような真似はしない。彼女とアーカードがどんなやり取りをしているのかはここからは聞き取れないが、レミリアの方がやや丁寧な物腰であるように見える。
咲夜「お嬢様は実際の血縁関係でもないのにアーカード……ヴラド・ツェペシュの末裔を名乗っているのよね。あの男に対して憧れみたいなものを持っているようだから、そうしているんじゃないかしら」
魔理沙「……そうなのか」
二人(?)の吸血鬼は未だに何か会話をしているようで、時折笑みを浮かべたりしている。
……尤も、互いに腹の内側を読もうとしているかのようにも見えるのだが。

レミリア「ところでお願いがあるのだけれど、そこにいる少女……霊夢には手を出さないで頂けないかしら」
アーカード「元々そうするつもりは無い……。私がこの結界を破ろうとすればどうなるかは分からないがな」
さあどうする、とでも挑発するような言い方に、レミリアは心の内でだけ舌打ちをする。
仮に結界の中にはアーカード一人しかいなかったとしても、彼は破壊しようとしただろう。
それならそれで構いはしないのだが、同じく結界の中にいる霊夢が巻き込まれる危険性があるとなると、話は別だ。
レミリア「……つまり、貴方の目的である『タブーのエネルギー体の回収』、そしてそこから出ることができれば誰にも被害は及ばずに済む。そういうことで良いのかしら?」
アーカード「そういうことだ。理解が早くて何よりだな」
だが、今まで静観していた紫が二人の会話に割り込んでくる。
紫「レミリア。貴方、自分の言っていることが分かっているのかしら?せっかくアーカードを捕まえることができたというのに、それを逃すのよ。……タブーが復活したも同然というおまけ付きでね」
レミリア「勿論そうよね。でも……」
紫の言うことが分からないほどレミリアは愚かではない。こちらの持っているエネルギー体を全て渡すのはタブーの復活につながるということぐらい、分かりきっている。しかし、
レミリア「彼はタブーを復活させた後に、何らかの行動……具体的には言えないけど、意外性が伴ったものを起こす。そうじゃないかと思えるのよ」
と言った。タブー復活後に何らかの行動を起こす、と言われたアーカードは表情を変えずにただじっと聞いている。
紫「……そう言える根拠は?」
レミリア「『運命を変える程度の能力』と言えば良いのかしら」
紫「その能力でそうなるように運命を変えるとでも?目に見えない以上、信用できないわ」
レミリアは『運命を操る程度の能力』を持っており、文字通りに運命操作が可能である。
しかし、その能力が目に見える形で発揮されることは無いので、実感することはできない。
それに(これは極端な例だが)、もし勝負において「自分が勝つ」ように運命を操作すれば絶対に負けることは無いのだが、彼女は以前に霊夢と戦って敗北したという経験がある。
つまり、万能な能力というわけではないのだ。
運命を操作しきれる保証など何処にも無い、そう紫は言っているのである。
霊夢「でも、レミリアの能力なんか関係無しにこの吸血鬼は何かやらかすわよ」
突然、霊夢が会話に割り込んできた。
紫「あら、霊夢。貴方はいつから予言者にでもなったのかしら?」
霊夢「そんなんじゃないわよ。私の勘の鋭さは知っているでしょう?」
紫「……何よそれ」
何だか怒りだとか呆れだとかいうものを通り越して、思わず霊夢をジト目で睨んでしまう。
霊夢「それは冗談だけど、仮にアーカードがタブーを復活させたとしても、私たちが塵芥と化してあげれば良い話よ。化け物を倒すのは人間の役目、そうじゃなかったかしら?」
言葉の後半は確かにそうなのかもしれないが、この緊迫した場において――しかも事実上人質となっているのに――冗談を言うとは。
肝が据わっているのか、暢気なだけなのか……。紫はこっそりと溜息をつく。
ちなみに、アーカードは霊夢の言葉を聞いてクックックと笑い声を洩らしている。
アーカード「化け物を人間が倒す。確かにその通りだな、人間(ヒューマン)。……さて、どうするんだ?私を閉じ込めておく代償としてこの人間を犠牲にするか、それとも私にタブーのエネルギー体を渡したうえで開放するかを、だ」
紫「……仕方無いわね」
今まで難色を示してはいたが、実の所、紫もこうするのが妥当なのかもしれないとは思っていた。
同じ結界に閉じ込められている霊夢に万が一のことがあっては不味い。
紫「霊夢、彼にエネルギー体を渡してあげなさい」
かくして、アーカードに全てのエネルギー体が渡され、結界も解除されることとなった。
アーカード「交渉成立だな。ところで、一つ聞きたいことがあるが……」
そう言って、アーカードは周囲の戦士たちを見回して尋ねる。
アーカード「お前たちが私と戦う理由……それはあるのか?」
昨日、アーカードは戦士たちに対して「戦いの意味を見出せないものは狗だ」と言い放った。
しかし、彼はもう一度確認してみたくなったのだ。戦士たちが自分を満足させるに足る相手かという事を。
その質問に、皆を代表してマリオが答える。
マリオ「ああ、あるさ。あの時はあまりにも突然だったから答えられなかったけどな。……何、答えは簡単だ。俺たちは“この世界”を守るために戦っている。一年前もそうだったさ。俺たちが好きな“この世界”を支配だのどうだのと勝手に荒らさせるわけにはいかない。だから、お前のように平和を脅かす存在を俺たちは全力を以って倒す。……これじゃ不十分か?」
アーカード「そうか、陳腐な理由だな。……だが、“何かを守るため”は今も昔も戦いの理由の一つとして使われている。きっとそれは、時代を経ても変わらない真理なのだろう」
アーカードは笑い顔を浮かべる。しかし、それは今までに見せたような不快感を誘うものではなく、どこか慈しみを持ったような目をして、ほんの少しだけ口の両端を持ち上げる――微笑みだった。
アーカード「きっとお前たちなら、私のような化け物を倒してくれるに違いない。……いいだろう。『マスターハンドの狗』などと言って悪かった。二度と言うまい。お前たちは今ようやく私の敵になった。倒すべき強大な勢力の、私の大事な、素敵な宿敵となった。……亜空間に来い。そこで決着をつけようじゃないか」
そう言うと、アーカードはワープをして消えてしまった。
マリオ「亜空間に来い、か……」
マスターハンド「恐らくそこでタブーを復活させるのだろう。我々も早く行かねばなるまい。紫よ、私たち全員をスキマで送って行ってもらえるか?」
「お安い御用よ」と紫は返すが、そこへレミリアが割り込んでくる。
レミリア「お願いがあるのだけど、そうする前に咲夜とフランを幻想郷に帰してあげてくれないかしら」
咲夜「お嬢様!?」
フランドール「どうしてなの、お姉様!?」
突然、戦線離脱をしろと言われたも同然の二人は驚いてしまう。
レミリア「フランをこれ以上危険な目に遭わせるわけにはいかないわ。だから咲夜、貴方はフランを連れて先に戻ってなさい」
咲夜「しかし、それではお嬢様の身にもしものことがあった場合……」
咲夜は食い下がろうとするが、レミリアは「黙って私の話を聞きなさい」と言い、こう続ける。
レミリア「私とて吸血鬼の端くれ。そう簡単にやられたりはしないわよ。それに……」
そこで言葉を区切り、フッと微笑む。
レミリア「この戦いが終わって紅魔館に戻って来た時に、誰も当主の帰還を祝ってくれる人がいないっていうのも寂しいでしょう?だから咲夜、貴方の命令はフランと一緒に私の帰りを待ち、祝いの準備をしておくこと。良いわね?」
そう言われては、咲夜は「分かりました」と言うしか無かった。
レミリア「じゃあ紫、二人を……」
紫は既にスキマを開いて待っていた。準備が良い妖怪である。
咲夜「それではお嬢様、お気をつけて……」
フランドール「お姉様、絶対に帰って来てよ。そしたら、いっぱい、いっぱい遊ぶんだから……」
レミリア「心配しないの。私は約束を守る。だからフランも大人しく約束を守っていてね」
優しくフランドールの肩を叩くレミリア。外見に大きな違いは無いのに、レミリアの方が遥かに大人びて見える。姉だからだろうか。
フランドール「うん!!」
元気よく返事をすると、フランドールはスキマの中へと駆け出して行った。咲夜はそれを追いかける形となり、二人とも中に入り、空間の裂け目が閉じて、そして消えた。
今頃は、幻想郷に着いているだろう。
紫「では、私たちも行きましょう」
紫はもう一つの裂け目を作り出した。
「応!!」
皆が大声で応え、その中に入って行った。
マスターハンド「この戦いもいよいよ大詰めだな……」
戦士たちが行動を起こしてからまだ一日しか経っていないが、かなり内容の濃いものだった。
これから起こる戦いも修羅の巷の一夜の夢なのだろう。
だが、それを経て何かが変わっていくのではないか。そう思えてくる。
紫「ええ、そうね。では、私たちも亜空間に行きましょう」
最後に空中スタジアムに残ったマスターハンドと紫もスキマの中に入り、そして消えた。


――かくして役者は全員演壇へと登り、暁の惨劇(ワルプルギス)は幕を上げる。

第23話 赤より紅い夢

~亜空間~
全ての戦士たちが亜空間に到着し、中に入っていく。
そこの入り口に、Mr.ゲーム&ウォッチのフィギュアがあった。
メタナイト「まさかこんな所で再開するとはな……」
メタナイトが近付いていき、フィギュア化を解除させる。
ゲーム&ウォッチ「う~ん……。メタナイトさん、あなたが助けてくれたのですね?有難うございます。そして皆さん、お久しぶりです」
彼(?)はお辞儀をする。その動作はぎこちないものではあったが、全ての戦士の中でも最古参であるためか、落ち着きを伴った丁寧さを感じさせた。
ルカリオ「それよりも、何でお前がここにいるのだ?」
確かゲーム&ウォッチはアーカードに「やるべきことがある」とか言って攫われたはず。
それなのに彼が放置されていたとはどういうことなのか。
ゲーム&ウォッチ「実はアーカードに伝言を頼まれたのです……」
彼はいきさつを話し始めた。
そもそも、アーカードにデデデ城からここへ連れ去られた後、影虫を生産させられたらしい。
しかし、それから作られたものはプリムのようなザコではなく、ボスパックンやレックウザといった、亜空事件の際に戦士たちと戦ったことのある強敵たち――影虫をもとにして作られており、本物ではないため、ここでは便宜上『レプリカ』と呼んでおく――だという。
また、一部の戦士と因縁があった敵も数体造られたらしい。
その後、ゲーム&ウォッチは用済みだということで、戦士たちのもとに帰されたのだ。
ゲーム&ウォッチ「ただ、アーカードからそう伝えるように言われた後、すぐにフィギュア化されて影虫を生産させられていたのです。私がフィギュアになっていた間の記憶は曖昧なので、詳しいことは分かりません……」
ファルコ「俺たちとそういう奴らを戦わせてアイツは高みの見物って訳か?いい身分だぜ」
皮肉を込めたようにファルコが言う中、マリオはゲーム&ウォッチに質問をする。
マリオ「それで、レプリカが何体造られたかは分かるか?」
ゲーム&ウォッチ「私が覚えている限りでは、少なくとも六体は造られていました。ひょっとしたらもっと多いかもしれませんが……」
ドンキー「何かよ、面倒臭ぇからそいつらは全員無視してとっととアーカードの所へ行くことはできねぇのか?」
その言葉に対し、マスターハンドが異論を唱える。
マスターハンド「それはお勧めできないな。もしアーカードと戦闘している最中にレプリカたちの襲撃を受けたらどうする?そんなことになったらそれこそ我らの勝ち目は無くなってしまうぞ」
オリマー「それじゃあどうすれば……」
セネリオ「……再びチーム分けをしてみてはどうですか?」
ポツリと放たれた言葉に、全員の意識がセネリオへと向く。
それに対し多少の重圧を感じながらも、彼は静かに話し続ける。
セネリオ「但し、以前行われたチーム分けのように均等に分けるのではなく……それぞれのレプリカたちを必要最小限の人数で相手をし、できるだけ多くの人員をアーカードとの戦闘に割きます。……一先ず全員で奴がいるであろう亜空間の最深部へと向かって行き、レプリカと遭遇した際には一つのチームが相手をし、残りの者たちは先へ急ぐ。後はそれの繰り返しです。……レプリカを倒したチームは……可能であるならば、アーカードと戦う戦士たちと合流し、協力するようにしてください。チームの数は……ゲーム&ウォッチが言った『少なくとも六体』という数を前提とし、七つに分けます。レプリカを倒すチームの人数は一つにつき四人。残りの者全員でアーカードを倒す。……これでどうですか?」
長い話を終えると、彼は疲れたのか、軽く溜息をついた。
マスターハンド「うむ、今はそれが最善の方法だろうな。ならば、早速チーム分けをするとしよう」
そういう訳で、皆の話し合いのもとでチーム分けが行われることになった。
以下がその結果である。


レプリカと戦うチーム
チーム1:ルイージ、ヨッシー、ドンキー、ディディー
チーム2:レッド、プリン、カービィ、デデデ
チーム3:サムス、ピカチュウ、フォックス、クリスタル
チーム4:クッパ、ガノン、ワリオ、ロボット
チーム5:ネス、リュカ、ピット、魔理沙
チーム6:アイク、マルス、セネリオ、霊夢
アーカードと戦うチーム
マリオ、ピーチ、ワルイージ、リンク、ゼルダ、トゥーンリンク、アイスクライマー、メタナイト、オリマー、ファルコ、ウルフ、キャプテン・ファルコン、ルカリオ、スネーク、ソニック、ゲーム&ウォッチ、レミリア

ちなみに、マスターハンドと紫は亜空間の外で待機することになった。
万が一アーカードが外へ逃げようとした場合にも対処できるようにするためである。


マスターハンド「皆、タブーの復活を止めさせるためにも行って終わらせて来い」
マリオ「ああ。あいつとの馬鹿踊りも今日で仕舞いにさせてやる……そしてみんな」
マリオは戦士たちを見回して言葉を紡ぐ。
マリオ「これから俺たちは地獄へまっしぐらに突撃する。無理にとは言わないけど……いつものようについて来てくれるか?」
戦士たちの代表的な存在として……一年前、亜空間の中に突撃した際、マリオは皆を先導した。
今回もマリオはその立場を全うするつもりでいる。
そして彼の言葉に異議を唱える者はいなかった。
なぜなら戦士たちの心にあるものは使命だからだ。
一つの使命を共通意志として、無数の命が一つの命のように動き出す。
彼らの使命――“この世界”を守るということを放棄する者はいない。
マスターハンド「在り来たりなことしか言えないが……健闘を祈る」
戦士たちは亜空間の奥へと向かって走り出した。



戦士たちが亜空間に到着したばかりの頃。
亜空間最深部にアーカード、そして間もなく復活の時を迎えようとしているタブーがいた。
アーカードは既にエネルギー体を六つ持っていて、あとは自分の体に宿っているものを取り出して、全て合わせればタブーは復活する。
アーカード「タブー、お前は私を介して戦士たちに宣戦布告をした。もう戻れないぞ」
タブー「何を言っている。幕はとっくに開きっぱなしだ、一年も前に。ただ観客がこっちに向いていなかっただけのことだ。私が戦士たちに倒されたあの瞬間から、復活のシナリオは考えていた」
アーカード「私と手を組むこともその中の一つ、ということか」
タブー「それは少し違うな。確かにそれは私の復活のシナリオの一つに過ぎないが、それでいて最も重要なピースでもあった。禁忌の継承者……と言っても、もうお前一人しか残っていないが……の中で私がいちばん目をかけていたのがお前なのだからな」
アーカード「だから、お前が持つ中で最も便利な能力である『ワープ』を私に授けたという訳か」
アーカードがそう言う通り、ワープの能力は戦士たちの先回りをしてゲーム&ウォッチのフィギュアを回収したり、空中スタジアムにて全てのエネルギー体を手に入れるために使ったりと大いに役に立った。
タブー「ああ。ところで、私は戦士たちの殲滅を継承者たちにやってもらうつもりでいたが、予想以上に奴らは強かった。一年前のあのとき以上に、な。やはりあいつらはこの私が直々に倒してやらねばならないな。いわばこの私が復活した後の、世界を制するための試練と言ったところか」
ククッ、とタブーは小さく笑い声をあげる。
アーカード「そうか、お前にとっても奴らは特別な存在という訳か。何、あいつらならレプリカどもを倒してここへやって来るだろう」
ところで、戦士たちの他にアレクサンド・アンデルセンもついさっきここにやって来たという。
それを聞いた時には、アーカードは嬉しさのあまり笑ってしまった。
アンデルセンは彼が認める『人間』であり、『宿敵』でもあるからだ。
そいつと再び戦えることを考えると、興奮せずにはいられない。
だが、その前にやるべきことがある。
そのため、時間稼ぎとして、アンデルセンのもとにもレプリカを一体送っておいた。
アーカード「さて、そろそろお前を復活させるとするか……」
タブー「ああ、頼む……」
アーカードは自らの体からエネルギー体が体外へ出るイメージをする。すると、青い球体が右手から出てきた。後はこれを他のエネルギー体と組み合わせればタブーは復活するのだが……
アーカード「(タブー、貴様は一つ勘違いをしている)」
アーカードは心の中でそう呟く。

貴様は戦士たちのことを「試練」であり倒すべき存在だと考えているようだが、実際は逆だ。
化け物が倒すのが人間なのではない。化け物を倒すのが人間なのだ。
私は百年前にロンドンに攻め入り、全身全霊を以って戦ったが、完全に敗れた。
たった四人の人間にだ。否、人間だったからこそ敗れた、と言うべきか。
敵が幾千ありとても突き破り、突き砕し、戦列を散らせて命を散らせてその後方へやって来る。
人間とは夢のような存在だぞ、タブー。
それをただ倒すための存在としか見なせないお前に、戦士たちと戦う資格はあるのか?

第24話 妖魔夜行

亜空間の中をひたすら走っていく戦士たち。
クッパ「なあ、マリオ」
横に並んで走っていたクッパが、マリオに話しかけてくる。
マリオ「何だ?」
クッパ「実は我が輩、城の宝物庫にあるスマッシュボールを一個だけ持って来たのだ。何かの役に立つのではないかと思ってな。だが、我が輩よりもアーカードと戦うお前の方が持っている方がふさわしいだろう。……大事に使えよ」
そう言って、虹色に光り輝く球を渡してきた。
マリオ「ああ、ありがたく使わせてもらうぜ」
マリオがそれを受け取った瞬間――
「ゲハハハハ!!よく来たな!!」
戦士たちの前にボスパックンが姿を現した。
一年前の再現なのかは知らないが、両手に鉄製の籠を持っている。
ドンキー「早速お出ましってぇわけか」
ボスパックン「そんじゃあ行くぞ!!」
右手の籠をドンキーに向けて振り下ろし――

だが、それが当たったという感触はボスパックンには伝わってこなかった。
ドンキーが振り下ろされた籠を掴んでいたからだ。
ドンキー「おいおい、そんなもんか?それじゃあ……」
ドンキーは腕を振り回す。すると、巨体であるのボスパックンの体が少しずつ浮かび上がっていく。そして、
ドンキー「うらぁ!!」
何も無い方向へボスパックンを投げ飛ばした。
マリオ「ドンキー、あいつの相手はやれるか?」
ドンキー「おう。あんな奴ぐらいどうってことないぜ」
ヨッシー「そうなると……僕も戦うことになるのかな?」
ディディー「まっ、楽勝だね」
ルイージ「兄さん、ここは僕たちに任せて。それと、そっちも気を付けてよ」
マリオ「ああ、それじゃあな!」
そう言うと、マリオたちは駆け出して行った。
後に残ったのはルイージ、ヨッシー、ドンキー、ディディー、そして……
ボスパックン「オイ、てめぇら……無視すんじゃねえ……」
起き上ったボスパックンだった。
投げ飛ばされておきながら全く追撃を受けなかったという事実を侮辱と受け取ったのか、声は怒りに震えている。
ディディー「お前にかまっている暇は無いんだからさ、とっとと終わらせるよ」
ボスパックン「この野郎!!」
挑発にあっさりと乗ったボスパックンは籠を横に払う。
それをディディーはジャンプしてかわす。
その後も両手の籠を無茶苦茶に振り回すようにしてボスパックンは暴れるが、誰にも当たる気配はない。
ボスパックン「馬鹿にしやがって……これならどうだ!!」
ボスパックンは大きな口を開けて泥を吐きだした。
泥は辺り一面に撒かれてゆき、地面を汚していく。
ヨッシー「ちょ、滑るよ、これ!」
泥に足を取られて、思うように動くことができない。
ボスパックン「無様だなぁ、おい!」
ボスパックンは大きくジャンプをし、四人の真上に跳び上がる。
ズドォン!!
そして、四人を押し潰した。
ボスパックン「勝ったッ!!禁忌の継承者、完!!」
勝利を確信したボスパックンは、勝利の声を上げる。
「泥で動きを封じた後に自らの全体重を乗せた踏みつけをする……か」
突然、どこからか声が聞こえてきた。慌てて首を左右に動かすが、人影は見えない。
それでもどこにいるのか探し続ける。声の主は話し続ける。
「まぁ、イイ線は言ってると思うよ?でもさ、それで勝ちを宣言するには早いんじゃない?むしろ今、こうやって自分の体に上られているんだから、そっちの方が危険だと思うよ」
そこまで聞いて、ボスパックンは自分の体を見回す。
そこでようやく、ルイージがしがみついてることに気付いた。
巨体である自分の体に敵がしがみつくという可能性を失念していたボスパックンは慌てて振りほどこうとするが、
ルイージ「もう遅いよ!」
ルイージはボスパックンの体を踏み台にしてジャンプする。
そこからボスパックンのあごに向けてアッパーを繰り出す。
ルイージのアッパーは放たれる時に瞬間的に膨大なエネルギーが蓄積されるのを利用して、相手を大きく吹き飛ばす。当てるタイミングを計るのは難しいが、上手く決まれば強力な一撃となる。
その技の名こそファイアジャンプパンチ。
ボスパックン「グハァ!」
それをくらったボスパックンは何とか踏みとどまって耐えて見せる。
ボスパックン「こんなもの……!」
だが、正面を見据えると、そこにはバレルジェットで空を飛び、ピーナッツポップガン二丁を構えたディディーがいた。
ディディー「残念だったね」
そう言うと同時に、ピーナッツを連射してきた。
嵐のように放たれるそれらは全てボスパックンの顔面にヒットし、今度こそ仰向けに倒れることとなった。
そして今度はヨッシーがふんばりジャンプでボスパックンに接近。
ちょうど腹の真上に当たる部分に来たところでヒップドロップをお見舞いする。
ボスパックン「グボァ…ッ!」
弱点にもろに攻撃をくらったボスパックンは呻き声をあげ、苦しみにより口の中から少しだけ泥を吐きだす。
ドンキー「そんじゃ、これで終いにするぜ」
今度はドンキーがボスパックンの体によじ登り、腹の上で腕を回し始めた。
ボスパックン「させるかぁ!」
上体を起こそうとするが、
ドンキー「もう遅いぜ!!」
ジャイアントパンチが駄目押しとばかりにボスパックンの腹に当たった。
ボスパックン「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
断末魔の叫び声をあげながら、ボスパックンは影虫となって消えた。
ルイージ「それじゃあ、早く兄さんたちの所に行こう!」
ヨッシー「うん、そうだね」
四人はマリオたちがいるであろう亜空間最深部に向けて走り始めた。

第25話 幻視の夜~Ghostly Eyes

亜空間のどこかの場所にて、向かい合っている二つの影があった。
影の一つはアリティア王国の王子、マルス。彼はファルシオンを水平に構える。
それが向けられている先にいるもう一つの影は、亜空軍の中でも大型の敵であるアーマン。
両者の距離は十歩ほど離れているが、巨大な敵が相手の場合は接近しているのとほとんど変わらない。
先手を打ってきたのはアーマンだった。巨大なアームを出し、それをマルスに叩きつけようとする。
しかし、マルスは右にステップすることで回避。そこから走り出して十歩の距離を詰める。
マルス「ハァッ!!」
そして鋭い突き――シールドブレイカーを放ち、装甲ごとアーマンの弱点を貫いた。
ファルコ「やるじゃねえか、マルス」
そう感嘆の声を上げるファルコはブラスターで襲いかかるプリムを撃った。

マリオ「ひとまず、ここら辺の奴らは全部退けたな」
ボスパックンをルイージ達に任せた後、戦士たちは亜空間の奥へと進んでいたのだが、少し進んだところでプリム等に足止めを食らっていたのだ。どうやらアーカードが影虫で作り出したのはレプリカだけでなく、普通の亜空軍の兵士も含まれていたらしい。
マルス「それじゃ、早く先に――」
カービィ「危ない!」
マルス「!?」
カービィの声に反応して横に跳んだ瞬間、何かが光り、マルスが先ほどまでいた場所に穴が開いていた。
マルス「これは……!?」
光の出た方向を見ると、蛇を連想させる細長い体をした、それでいて巨大な竜――レックウザがいた。
口からは白煙のようなものが溢れており、先程マルスに向けてブレスのような攻撃でも放ったのだろうと推測できる。
デデデ「次のレプリカはこいつなのかゾイ……」
デデデはハンマーを構え、戦闘態勢をとる。
カービィ「それじゃ、ボク達の出番だね」
プリン「この私の実力を久々に見せてやるプリ!」
レッド「行けっ、リザードン!!」
リザードン「やっと出番か!」
マルス「それじゃあ、あれの相手は君たちに任せていいんだね?」
デデデ「ワガハイたちが負けるはずが無いゾイ!コイツを倒したらさっさとお前たちと合流しに行くから、心配はいらんゾイ!」
デデデは自信たっぷりな口調でそう言った。
マリオ「じゃあ、頼んだぞ!」
戦士たちは先に進んで行った。

レックウザと対峙するデデデ達。先に仕掛けてきたのはレックウザだった。
自分の尻尾を振り下ろし、地面に叩きつける。
四人はそれをかわすが、そこから尻尾が横薙ぎに払われる。
リザードン「グォッ!」
デデデ「グッ!」
素早く動けなかったリザードンとデデデはそれをくらってしまった。
一方、プリンとカービィは空を飛び、レックウザの顔面へと接近していく。
プリン「これでもくらうプリ!!」
カービィ「ヤァッ!!」
プリンは連続ではたくを繰り出し、カービィはファイナルカッターで斬りつける。
グゥゥ、と攻撃を受けてうなり声をあげるレックウザだが、お返しとばかりに大口を開けてプリンに突っ込んできた。攻撃動作を終えたばかりのプリンに回避する術は無い。このままではレックウザの口の中に――
レッド「リザードン!!」
リザードンが両者の間に割って入った。両手でレックウザの口の端を押さえ、動きを止める。
レッド「かえんほうしゃだ!!」
指示を受け、真っ赤な炎を吐きだす。狙うは、レックウザの口の中。
ギァァァァ、とレックウザは悲鳴を上げる。体内から焼かれたのが堪えたのだろう。
しかし、その直後に電撃弾を何発も吐き出してきた。
プリン「これって危ないプリ!」
口の中を火傷した状態でブレス系の攻撃を放つのは難しいはずだが……怒り狂ってその痛みを忘れているのだろうか。
カービィ「ボクが行くよ!」
カービィがそう言って走り出した。
誰かが制止の声をあげたような気がするが、すでにカービィの耳には入っていない。
ファイナルカッターをくらわせた直後に距離を取っていたため、それを詰め直すことになる。
おおよそ数十メートルと言ったところか。
カービィの体が小さいことと、怒りによる相手の攻撃は狙いが甘いものになっているためか、電撃弾は一発も当たらずにレックウザへと接近できた。
カービィ「フンッ!」
ハンマーを取り出し、体を思いきり回転させて胴体に殴りつける。その際に生じる遠心力を利用して更に体を回転し――カービィがハンマーに振り回されているように見えるが、ちゃんと制御はしている――二発目もくらわせた。そこから、今度は空中に飛んでレックウザの頭上へと行き、自らの体を硬い石へと変形させる。
それは頭部に直撃し、レックウザを地面に這わせることとなった。
デデデ「カービィ、よくやったゾイ!後はワガハイがやる!」
今度はデデデがレックウザへと接近し、ハンマーを大きく振りかぶる。狙うは頭。
本来なら隙だらけの攻撃も、今のレックウザにかわす術は無い。
吸い寄せられるかのようにハンマーはレックウザの頭に直撃し、止めを刺した。
プリン「一丁上がり、プリね」
レッド「それでは、僕達も行きましょう」
この四人もまた、亜空間の奥へと向かって行ったのだった。

第26話 NIGHT OF NIGHTS

ピーチ「ルイージ達といい、デデデさん達といい……大丈夫かしら」
マリオの隣を走っているピーチが――ドレスの裾を邪魔にならないように持ち上げながら、である。そんな走り方でも他の皆に後れを取らないあたり、高い脚力を持っていることを物語っているのだが――心配そうな声を出す。
マリオ「まあ、デデデ達なら苦も無くレックウザを倒して追いかけてくるさ。ルイージは……ちょっと心配だけど、あいつ一人ってわけじゃないから、大丈夫じゃないか?」
そもそもこの変則的なチーム分けにしたって、レプリカを相手にする側には、必要最小限かつ素早く倒せるだけの人数が割り振られているわけだ。不安要素は無いはず。
それに、亜空事件の時のボスパックンはカービィ一人で、レックウザはフォックスとディディーだけで倒せるような相手だったのだから、もっと少なくても良かったくらいだ。
ただ、亜空軍の敵にはまだまだ強力な奴らがいる。正直に言うと――

「よう、懐かしい奴らがいるじゃねえか。一年前にはお世話になったよなぁ」
翼竜を連想させる外見。それでいて、身体のあちこちに機械が宛がわれている姿。
それが戦士たちの前に姿を現した。そして、反応する者が一人。
サムス「メタリドリー!!」
サムスの宿敵であるメタリドリーであった。

――このメタリドリーのように、四人では少々荷が重い相手だっている。
一年前にサムス、ピカチュウ、ファルコン、ディディー、ドンキー、オリマー、ロボットの七人が戦ったのだが、ぎりぎりで勝てた相手であった。
サムス「マリオ、ここは私に任せて」
ピカチュウ「僕も忘れちゃだめでチュ!」
フォックス「俺もコイツの相手をするぞ」
クリスタル「私だってやらせてもらうわよ」
だが、厳しい戦いになろうとも引くわけにはいかない。
マリオ「分かった。……無事でいろよ」
この場をサムス達に任せ、戦士たちは奥へと向かって行った。
メタリドリー「何だよ、たった四人で相手をしようってのか?」
メタリドリーは残念そうな声を上げるが、戦士たちが奥へ行っても追いかけない辺り、サムス達と戦うことを選んだのだろう。
フォックス「そんなこと言って、大人数と戦うのが嫌だったからこっちを選んだんじゃないのか?」
メタリドリー「ヘッ、言ってくれるじゃねぇか!!」
フォックスの挑発に対し、メタリドリーは鋭い尻尾を突き出して突進することで応える。
それをフォックスはかわし、ブラスターを連射する。
メタリドリー「そんな玩具でどうするってんだよ!!」
だが、ブラスターが効いた気配は無く、今度は巨大な火球を吐き出してくる。
フォックスはそれをリフレクターで跳ね返し、逆にメタリドリーにくらわせた。
メタリドリー「グォッ……そんな技を持ってやがったのか。今のは効いたぜ」
言っている内容とは裏腹に、さほど効いているような感じは受けない。寧ろ余裕の表れと言ってもいいだろう。
クリスタル「それじゃあ、これならどう?」
今度はクリスタルが自らの名を冠した杖を取り出し、走り出した。
走りながら杖の先端から小さな火の玉――ヒートブラストを連射していき、距離を詰めていく。
メタリドリーにとっては火の粉が降りかかるようなもの、あるいはそれ以下かもしれないが、牽制となれば充分。
クリスタル「ハァッ!」
そして空を飛んでいるメタリドリーの真下まで行ったところで、クリスタルスタッフを地面に突き刺し、瞬間的に魔力を込めた勢いを利用して飛び上る。
そうやってメタリドリーの眼前に迫った彼女は、スタッフを水平に構える。
生物というものは、どんなに硬い鎧や皮膚で覆われていようとも、目や喉、口内のように柔らかい場所というものはある。そして、その部分に攻撃を受ければ少なからずダメージを受けるだろう。
クリスタルが狙うのはメタリドリーの右目。そこを目掛けてスタッフを突き出す。
メタリドリー「くらうか!!」
だが、メタリドリーは頭部を後方に動かして回避。右目まで後数センチの所でスタッフの動きは止まった。
否、限界まで突き出しての結果だったのだ。
もう少しスタッフが長ければと思わずにはいられないほど惜しいことであった。
メタリドリーは攻撃をかわした勢いを利用して翼を大きく動かし、小規模の突風を作る。
クリスタル「キャアッ!」
フォックス「!クリスタル!!」
クリスタルは吹き飛ばされ、地面に激突する所だったが、すんでの所でフォックスが受け止める。
メタリドリー「そのまま仲良くくたばりなッ!!」
そんな二人に息をつく暇すら与えず、メタリドリーは突進してきた。
体を垂直にし、硬質な翼を地面にかすらせるように当てている。それをぶつけるつもりなのだ。
翼と地面が接している所からは火花が飛び散っていて、威力の高さを物語っている。
それが二人に襲いかかろうとした時――

ドン!!

サムスがミサイルを放った。
真横からヒットしたため、メタリドリーはバランスを崩してしまう。
それによって翼の位置もずれ、フォックスとクリスタルに当たらずに通過して行った。
メタリドリー「サムス、てめぇ!」
怒り声をあげるメタリドリー。彼女の方を振り向こうとしたら――
ピカチュウ「僕も忘れないでほしいでチュ」
視界一杯に黄色い電気ネズミの姿が入って来た。
でんこうせっかを使い、ピカチュウは瞬時に接近、メタリドリーにしがみ付いたのだった。
ピカチュウ「ピカァッ!!」
鳴き声を上げて電撃を放つ。それはメタリドリーの全身を駆け巡り、痺れさせた。
メタリドリー「グッ……てめぇらの思うようにはさせねぇ」
メタリドリーはそれでも空を飛び続け、ピカチュウを振り落とそうとする。
上に右に左に下に。
あらゆる方向へ飛んで体を大きく揺らしてみるも、ピカチュウはしつこくしがみ付いて電撃を流し続ける。
そうしている内にメタリドリーの体力が奪われ、地面に落下することとなった。
グハァ、と呻き声をあげるメタリドリーにサムスが近付いていく。
サムス「……有象無象の区別無く、私の弾頭は許しはしない」
そしてアームキャノンを構える。放つは最大まで溜めたチャージショット。
メタリドリー「させるかァ!」

ドォン!!

メタリドリーが口から火球を放つのと、サムスがチャージショットを撃つのは同時だった。
巨大なエネルギー弾がメタリドリーの胸部にヒットし、止めを刺す。
だがそれと同時に火球はサムスに直撃し、大きく吹き飛ばされた。
サムス「(これで……おしまい……)」
攻撃を受けて遠のいていく意識の中で、彼女は敵を倒せたという満足感を感じていた。



「サムスや……起きなさい!サムスや……」

う~ん、誰の声よ……って、前にもこんなことがあったわね。またあのオッサンがいるのかしら。
でもこのまま起きないと話が進まないだろうし……仕方ない。起きてみようか。

パワードスーツ「あ、やっと起きた。いやぁ、また会うことになっちゃうとはねぇ~」

……で、今度は何の用?

パワードスーツ「あら、意外と冷たい。まあ、今回はメタリドリーを倒したお祝いとしてここにやって来ましタ」

それは嬉しいんだけど……ちょっと今疲れてるのよ。休ませてくれないかしら。

パワードスーツ「いやいや、まだ本来の目的、アーカードの打倒が残ってるでショ!?それまでもう少しの辛抱だからほら、頑張ッて!立て、立つんだサムスーッ!」

……分かったわよ。さっさとここから出て行けばいいんでしょ?

パワードスーツ「そゆこと。じゃ、頑張んなさいネ~」



「………ス!……ムス!しっかりしろ、サムス!」
サムス「ああもう、うるさいわね!静かにしてよ!」

……驚いた顔をしたフォックスと目が遭った。
フォックス「そ、そうか……すまなかった。さっきまで声をかけても反応が無かったからな……」
クリスタル「一体どうしたっていうのよ?」
何やら気まずい沈黙が流れる。どうやらサムスは気絶していたようで、フォックスが起こそうと声をかけ続けていたらしい。で、さっきまで妙ちくりんな夢を見ていたサムスは寝ぼけた頭で反応してしまったのだ。
サムス「あ、いえ……こちらこそごめんなさい。何だか寝ぼけていたわ・……」
とりあえずサムスは謝っておく。そりゃもう心配してくれた仲間に怒鳴ってしまったのだから仕方ない。
ピカチュウ「じゃあ、そろそろ僕たちも行かないと。マリオたちの加勢をしないといけないでチュよ?」
メタリドリーとの戦闘には思っていた以上に時間がかかってしまった。
今頃、マリオたちは既に最後の戦いを始めているのだろうか。
それともどんな結末であれ……終わっているのか。だが、何れにしても行かねばならない。
サムス「ええ、そうね」
それを見届け、手を差し伸べるために四人は亜空間の奥へと向かって行った。

第27話 微塵の躊躇も無く一片の後悔も無く括約筋を緩められる。

マリオ「くそっ、またコイツらか!」
先に進もうとする戦士たちの前を、再び大量のプリムたちが塞いでいる。
距離としては百メートル近く離れているが、プリムの数がやたらと多く、小山が動いているような錯覚を受ける。相手の数は軽く三桁を超えるだろう。
こちらの人員は、三つのチームがレプリカの戦いで離脱したことにより二十九名に減っている。それでも十分な人数だが、相手をするとなると少々時間がかかりそうだ。
だが、そこへある者が一歩前に出る。
レミリア「まったく、面倒なことね。こんな奴らの相手なんかしてられないっていうのに……」
亜空間に入って一度目のプリムの襲撃を受けた際、彼女は特に戦っていなかった――別にサボっていたとかそういう訳ではなくて、あの時はごく一部の戦士が相手をするだけで十分な数だったから、全員が戦ったわけではないのだ――ので、霊夢と魔理沙を除く皆がレミリアの戦い方を初めて見ることとなる。
レミリア「塵に還される覚悟はできた?神様にお祈りは?ガタガタ震えて命乞いをする心の準備はOK?」
一枚のスペルカードを取り出して、こう宣言する。
レミリア「神罰『幼きデーモンロード』」
スペルカード名を宣言すると同時に、数本のレーザーが発射された。
それらは瞬く間に分裂していき、枝のように広がって行きながらプリムの大群に襲いかかる。
それだけで半数近くのプリムがレーザーに焼かれて消えることとなった。
もしこの瞬間を上空から見ていれば、網目模様を描いたレーザーがプリムたちを攻撃する様子が見えただろう。そこから更にレミリアが大量の光弾を放ったことにより、残りの半数のプリムたちも全滅した。
ネス「つ、強い……!」
いくら相手が弱いとはいえ、大量の敵を一瞬で消し去ってしまうとは。
アーカードと同じ種族であるという吸血鬼。外見が幼い少女とはいえ、その実力は伊達では無いということか。
この場の皆が紅魔館当主、レミリア・スカーレットの強さを認識した。
レミリア「貧弱、貧弱。こんなんじゃ準備運動にもなりゃしない……?」
退屈そうに言葉を紡ぐレミリアの視線が、先程プリムたちを屠った場所に釘付けになる。
そこでは大量の影虫があり――あれだけの数のプリムを倒したのだ。使われた影虫の量も相当なものに違いない――暗紫色の水溜りを形作っている……と思いきや、それらが蠢いて小山のようなものを形作っていく。
小山は次第に大きくなっていき、体が二つに分かれた巨大なロボットとなった。
片方の体は青いボディで両腕と頭部に巨大な刃を持っており、もう片方はそれとは対照的にピンク色のボディで両腕にはレーザーキャノンが備え付けられている。
二つの体を繋ぐは巨大な一対の車輪。その名はデュオン。
レミリア「前言撤回。面白そうな奴が出て来たじゃない」
セネリオ「……あれは貴方が戦う相手ではありません」
レミリアはデュオンに近付いていこうとするが、セネリオが制止の声をかける。
レミリア「何よ、私だったらあいつを造作も無く倒せる。それに不満でも?」
邪魔をされたために苛立ちを含んだ声で話し、睨みつけるが、セネリオは涼しい顔をして動じない。
セネリオ「勿論不満です。この戦いは戦士たち全員が予め立てた作戦に従わないと勝利はできない。……一人が勝手な行動をとることは許しません」
レミリアはというと、無言でいる。一応話を聞く気ではいるようだ。
セネリオ自身、まだ伝えていないことがあるので話し続ける。
セネリオ「貴方をアーカードと戦うチームに入れたのは勿論貴方の要望でもあるのですが……彼と同族であるということも踏まえてそうしたんです。吸血鬼に対抗するには吸血鬼で。……それに先程の戦闘を見て、尚更アーカードとの戦いに貴方は欠かせないと思いました。だからこそ、万全の状態で戦えるよう、ここは退いて別の方たちに任せた方が良い。もしものことがあってはいけません。それに……こうしている間にもアーカードはタブーを復活させようとしているかもしれない。……彼のもとへ辿り着くまでの時間を短縮させるという意味でも、こうしてチーム分けをしているのですから」
ガノン「そういうことだ。それに、私は奴の能力や攻撃パターンなどを知っているからより安全に戦える。ここは我々に任せてくれないか?」
セネリオが話し終えるのを見計らって、ガノンドロフが割り込んできた。
ワリオ「なっ……我々ってオレ様も入るのかよ!」
ワリオは突っ込むが、ロボットが「静かにしろ」と小突く。
レミリア「……分かったわ。しょうがないわね……」
渋々、という様子ではあったが、レミリアは退いて、デュオンの相手をガノンドロフたちに任せることを決めた。
ガノン「レミリア・スカーレット、ご理解頂けたようでなによりだ」
ワリオ「まっ、ここはオレ様に任せな!」
クッパ「さあ、お前たちは先に行って来い。吾輩ならば心配は無用だ」
ロボット「我々はすぐにお前たちと合流しに行く」
マリオ「分かった。油断するなよ」
戦士たちは四人を残し、駆け出して行った。



霊夢「レミリア、さっきはよく他人の意見をまともに聞いたわね」
戦士たち全員が亜空間最深部へ向けて走っている中、霊夢は隣に並んで走っている(正確に言うと翼を動かして低空飛行をしている)レミリアに話しかける。
さっきとは、デュオンと戦おうとレミリアが先行しそうになったのを、セネリオが止めた時のことだ。
レミリア「自分で言うのも何だけど……私の自信家な性格からして大人しく話を聞くとは思わなかった。そう言いたいの?」
霊夢「全く以てその通りよ」
実際の所、レミリアは自らの高い実力に比例するかのようにプライドが高い。
吸血鬼とは自らの力を自覚する、知性ある鬼であると言った人物がいるが、レミリアはそれの典型的な例と言っても良いだろう。そんな彼女が素直に他人の意見を受け入れることは、ある意味驚きである。
レミリア「確かに彼の言い方は気に入らなかった。……でもね、私の最大の目的はアーカードと戦って勝利すること。正直な話、他の皆とは違って世界がどうとかあまり考えていないのだけれどね……。ともかく、私はあの吸血鬼を恐れ、敬い、憧れているの。だからこそ、彼を超える。そうするために、常に全力を出せるようにしないといけない。獅子は一匹の兎を倒すのにも全力を尽くす。まして相手が獅子を超える猛獣であるなら尚更。私としたことが、あんな少年に言われるまでそれを忘れていたとはね……」
プリムたちとの戦闘によって少々血気盛んになっていたのが治まったと言ったところか。
霊夢「(そう言えば、レミリアは自分のことを獅子に例えていたわよね……)」
ふと、霊夢はちょっとくだらないことを考えてしまう。
霊夢「(レミリアが血の気の多い猛獣だとすると、それを抑えたセネリオは猛獣使いってところかしら……なんてね)」
冗談半分な考えを浮かべて、それは無いかと苦笑した。

……霊夢は勿論、この場の誰にも知る由は無いのだが、実はセネリオは後々の未来にてテリウス大陸全土を巻き込む戦争に参加した際、獅子王の甥――獣に変身できるラグズという種族で、おまけに血気盛んであるから、文字通りの猛獣と言っても差し支えは無い――を丸め込んで、気に入られるようになる。
ある意味では、霊夢の考えは当たりと言えよう。さすが鋭い勘の持ち主なだけはある。
もっとも、それを知る機会はおそらく無いだろうが。



一方、クッパ、ガノン、ワリオ、ロボットの四人はデュオン相手に順調に戦っていた。
ロボット「ハッ!」
ピンク色の体――ガンサイドから放たれるレーザーをロボットは回避し、ロボビームを撃つ。
それはガンサイドの右腕に備え付けられているレーザーキャノンの銃口に命中し、破壊した。
ロボット「今だ、ガノン!」
ロボットの掛け声と同時にガノンドロフが走り出す。お世辞にも彼の足は速いとは言えず、本来ならデュオンの放つレーザーの餌食になっていただろう。しかし、二つのレーザーキャノンのうち片方が破壊されている今、攻撃の密度は低くなり、レーザーの弾雨を潜り抜ける隙ができる。目標まで数メートルと言うところまで近づいたところで、ガノンはスライディングを仕掛ける。ただし、普通のスライディングではない。足元から漆黒の炎とも形容できる暗黒の力を放出し、威力を増幅させたもの――裂鬼脚だ。
それが片方の車輪にヒットし、小さな凹みを作る。しかし、まだ終わりではない。
烈鬼脚を出す直前に予め腕を手前に引いておき、魔人拳を使う準備をしていたのだ。
予備動作の一部を前もって行う事で、大技の隙の大きさは軽減できる。スライディングの体勢から立ち直れば、すぐにでも魔人拳を放てるという状態だ。
ガノン「ハァッ!!」
魔人拳が先程付けた凹みと重なるようにして当たり、大きな亀裂が走った――と思いきや、ギィギィというタイヤの油が切れた自転車のような歪な音を立てて車輪が外れた。
それによってバランスを失ったデュオンは、何とか動こうとしてぐるぐると同じ場所を回った後、大きな音を立てて倒れた。
そこへクッパがガンサイドの頭めがけてクッパドロップを繰り出す。
グシャ、という音とともに頭が潰れ、ガンサイドは機能を停止した。
だが、まだ刃を持ったソードサイドの方は機能している。起き上がろうとして必死に左右の腕を振っている状態だ。横倒しの状態ではあるのでまともに動けないが、それでも近くにいることは危険である。……その危険な状態に、ワリオは見舞われることとなる。
ワリオ「おわッ!」
迫りくる刃を何とかかわそうとするが、二撃、三撃と繰り返されるうちに掠り始める。やがて……

ガキッ!

ワリオ「ふぁ、ふぁぶふぇぇ……(あ、危ねぇ……)」
間一髪で、ワリオは刃を口に咥えて受け止めていた。だが、それにも構わずデュオンは腕を振り回し続ける。結果的にワリオも振り回されることとなり……
ワリオ「(む?腹に違和感が……)」
何とも言えない感覚がワリオの腹にある。そう、とあるガスが腸の中に溜まっている感じだ。そういや最近トイレですっきりしてないな、とか意識し始めたあたりで急に腹痛が起こった。
ワリオ「む゛お゛おおお゛お!!」
ヤバい。これはヤバい。振り回される遠心力によってガスが腸の中から体外へ出て行こうとしている。
だが、現実は無情というものだ。我慢している内にガスによって腹がどんどん膨らみ、終いにはギュルルルという怪音を立て始めた。
ワリオ「(あーもう、こうなったら出してやる!どうなっても知らんからな!というかこいつにお見舞いするんだから別にいいだろ!)」
腹痛に耐えかねたワリオはガスを放出するという結論を出す。見敵必屁(サーチアンドファート)といったところか。だがワリオ、お前は忘れている。確かにお前のそれが引き起こす爆風は凄まじい威力だが、放出するガスの特性上、臭いが爆風以上の脅威となってしまうのだぞ。それを味方が周囲にいる状態で使おうというのだ。……まあ、今の彼にそんなことを言っても無駄だろうが。







=只今、汚らしい爆音とともにガスが放出されています。しばらくお待ちください=






ロボット「クッ……何だったんだ、今のは!?」
デュオンにワリオが振り回されていたと思ったら、突然ワリオを中心に爆発が起こった。
それによってデュオンに止めが刺されたのは確認できたが、その瞬間に黄色い爆風が辺りを包み、目の前が見えなくなった。やがて黄色い煙は晴れてきたが……
ロボット「クッパ、ガノン!大丈夫か!?」
クッパとガノンドロフが倒れていた。ロボットは二人に駆け寄るが、ガノンドロフは全く反応は無い。
一方、クッパは辛うじて意識が残っていたらしく、こんなことを言った。
クッパ「くそぅ……最悪、相打ちの覚悟はしていたが、こんなことになるとはな……。墓標はこの亜空間、墓守りは……誰でもいいか。まあ、碑文はこうだ。『すごく格好良い大魔王が悪いレプリカをやっつけてここに眠る』……だが、あいつのせいで変わっちまう。あいつが屁なんぞするから『ヘタレの根性無し、仲間の屁に巻き添えをくらってあっけなく死亡』になっちまう……」


クッパは ちからつきた。


ワリオ「畜生……上手く行ってたと思ったのに二人もやられちまうとはな……敵は侮れないってことか……」
ワリオはさり気なく今の事態を敵のせいにしようとするが、当然誤魔化されるわけがない。
ロボット「お前のせいだろうがーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
それはそれは大きな声が亜空間に木霊したそうな。
余談だが、何故ロボットがワリオっぺをくらって無事だったのかと言うと、クッパたち三人の中でワリオから一番離れた場所にいて爆風に巻き込まれず、尚且つ臭いを感じない機械の体だったためである。
めでたし、めでたくもなし……。

第28話 夕凪五月雨の歪んだ影法師

それは突然のことだった。
戦士たちが走っていた中をガシャン、と真上から何かが落ちてきた。
幸い誰にも当たりはしなかったが、予想外の出来事に皆動きを止めてしまう。
落ちてきたものの正体はロボットだった。外見は、金髪の小太りの少年といったところだ。
何故ロボットと判別できたのかと言うと、肌は金属特有の光沢で光を跳ね返しており、頭頂部に赤いランプがあったからだ。
リュカ「!みんな下がって!!」
リュカが突然叫ぶように声を上げる。戦士たちがそれに反応して後方へ下がった瞬間――

ドカン!!

ロボットが爆発した。しかし、皆が予め距離を置いていたことで被害が無かったのは幸いだろう。
ルカリオ「先程のものは一体……?」
リュカ「あれには見覚えがあるよ。そのロボットは作った奴自身がモデルになっているんだ。そいつの名前はポーキー。きっと次の相手は……!」
リュカの説明を遮るように、今度は上空から大きな機械が降ってきた。
機械はロボットが爆発した場所に着地すると、鋭利な突起が装着された脚のようなものを出す。足は八本あり、蜘蛛のように見えなくもない。
「正解、正かーい。お前たちの次の相手はこのポーキー・ミンチでーす」
機械の中心部にはカプセルのような透明な仕切りがあり、その中には簡易ベッドに横たわっている小柄な老人がいた。
ポーキーと名乗った老人は笑い顔を浮かべて皺が寄った顔を更に皺だらけにし、話し続ける。
ポーキー「まぁお前らの戦いをさっきから見ていたんだけどさ、どうせボクのことも誰かさんに押し付けて奥へ行くんだろ?それならそれで構わないさ。でもとっくにタブーは復活してると思うよ?そいつとあの赤い吸血鬼に勝てるとでも思ってるのかい?馬鹿だなあ、かないっこない奴らに挑んでいくなんて。せいぜい虫けらの様に足掻いて死んでいったら?アハ、アハハハハハハハハハ…ゴホッ、ゴホッ…」
ポーキーは早口に挑発の言葉を言うと笑い声をあげ、むせったのか咳こんだ。
ファルコ「何だと、てめぇ!」
ウルフ「待て、ファルコ」
挑発に乗りかけるファルコだったが、ウルフが制止する。
リュカ「皆さん、先に行ってください。あいつとは僕が決着をつけます」
そんな中、リュカが戦うことを宣言した。両の眼には強い意志が宿っている。
普段は臆病な彼がそんな様子を見せるあたり、並々ならぬ事情があるのだろう。
ネス「僕も戦うよ。ポーキーとその……色々あったしね」
ネスはどことなく噛んで含めたような口調でそう言った。
魔理沙「それじゃ、チーム分けになってる以上、私もここに残ることになるな」
魔理沙は帽子をかぶり直して、右手にスペルカード、左手に箒を構える。
ピット「例え結果が見えていようと、僕たちは諦めたりしない……!」
ピットは神弓を取り出して、そう言い放つ。先程のポーキーの発言に対する返事だろう。
マリオ「ネス、リュカ、ピット、魔理沙……頼んだぞ」
戦士たちは亜空間の奥へと向かって行った。


ポーキー「そうそう、一つ教えてあげるよ」
この場に残っている者がリュカ達とポーキーのみになったところで、ポーキーがいきなり話をし始めた。
ポーキー「リュカ以外は知らないだろうから説明するけど、ボクはかつてノーウェア島という所に眠っていた闇のドラゴンを復活させて世界を滅ぼそうとした。結局、失敗に終って、ボクは絶対安全カプセルの中で未来永劫を生きることになっちゃったんだけどね。そんなボクが何故ここにいるかって?答えは簡単さ。ボクはあくまで影虫を基にして造られた『偽物』。造られた対象の思想と記憶だけを持った人形と似たようなもんさ」
ネス「……そんな話をして、一体何になるっていうんだい?」
ポーキーの言葉の真意が見えず、ネスが質問をする。
ポーキー「いや、何、この場にネスがいるからこう言いたかっただけさ。『こっち(ボク)はあっち(君)と違う』。ネスはボクのことを友達だと思ってくれていたようだし、ボクもそう認識しているけど、もう何もかも手遅れ。ネスがギーグを倒した後にボクは様々な世界を旅して、見た目は老人、頭脳は子供っていう状態になった。おまけに不死にもなった。そして最終的には、さっきも言ったように絶対安全カプセルの中で永遠の時を過ごさざるを得ないようになっちゃった。もう君と同じ道を歩むのは不可能。……だからこそネス、君はボクを説得しようなんて砂糖をたっぷりかけたココアみたいに甘っちょろい考えは捨てて全力で倒した方が良い。それを認識させるために、わざわざ自分が『偽者』だと言ったのさ」
ポーキーにとってネスとは数少ない友人であり、理解者でもあった。
実際、ネスの深層心理にある「マジカント」という場所では、彼(正確にはネスが思い描いたポーキーの姿だが)は「お前が羨ましいよ」とネスに話していた。結局、ポーキーは悪の道へと進んで行ったのだが。
ネス「そう、なんだ……。君が異世界に飛んで行った時には何とか出来ないものかって思ったけど、もう手遅れなんだね……」
苦いものを飲み込むような表情でネスは言う。
リュカ「……ネスの友達だったって言うならそこまで悪い奴じゃなかっ‘た’のかもしれない……」
今度はリュカが口を挟んできた。静かにゆっくりと。だが、はっきりとした口調で。
リュカ「……でもね、僕にとってコイツはお母さんの敵と言っても良いような存在なんだ。コイツがノーウェア島に来なければ、僕の家族は幸せでいられたんだ……!」
リュカが住んでいたノーウェア島にポーキーがやって来た時、悲劇は起こった。
ポーキーは現地の動物を機械と融合させた「メカキマイラ」を部下たちに作らせていたのだが、その中の一体、メカドラゴがリュカの母親を殺したのだ。それがきっかけで家族はバラバラになってしまった。
その後、リュカはその辛い経験を乗り越えて成長したが、完全に傷跡が癒えたとは言い難い。そのため、リュカにとってポーキーとは、「許せない」存在なのだ。
リュカ「……だから、僕はお前を倒す!」
人差し指を突き出して、そう宣言する。
ポーキー「アハ……アハハハハハハハハハハハハハハハ!!そうだよ、その目だよ!!強い意志を持って歯向かってくる奴らがいるからこそ、ボクは退屈せずに済む。さぁ、やれるもんならやってみな!!」
かくして、ポーキーとの戦いは幕を上げた。

先手を打ってきたのはポーキー。機械に取り付けられた八本の足を高速で動かし、カニ歩き――走り出したのでカニ走りか――をしてピットに向かって突進する。
ピットは横方向に飛んで避ける。ポーキーはというと、突進の勢いが良すぎたのか遥か彼方まで走って行ったところでようやく止まった。しかし、自らの姿を模したロボットを三体出してきて、こちらに向かわせる。
ネス&リュカ「「PKサンダー!!」」
ネスとリュカの二人は自在に操ることのできる雷を放ち、全てのロボットに命中、爆発させた。
ほっと一安心――
ポーキー「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
――する間もない。ポーキーはネスたちの目の前まで来ていて、機械の右側についた四本の脚の内、一本を支えとして地面に突き刺し、残りの三本で高速の突きを何度も見舞ってきた。
ポーキーがロボットを放った目的は攻撃ではなく、ネスたちとの開いた距離を埋めるための牽制。結果的に、ポーキーの接近を許すこととなってしまった。
ネス「くっ!」
無駄無駄――もとい、突きのラッシュを紙一重でかわせるほどネスは身体能力が優れているわけではない。バックステップで脚の射程外へと逃げる。
しかしリュカは逆の行動をとった。突きのラッシュが始まる直前にポーキーが乗る機械の真下に潜り込んで攻撃を回避。そして力を蓄えて――
リュカ「ふんっ!」
上方、つまり機械に向けて念力の塊を放つ。
PKスマッシュゲイザー。リュカが持つPSIの中で最も強力な技だ。しかも最大まで力を溜めて放った一撃だからさぞ効いたことだろう。
実際、ポーキーの乗った機械はあちこちから白い煙を上げており、動きを止めざるを得なかった。
そこへピットが追撃とばかりにパルテナアローを放つ。
光の矢は不規則な軌道を描いていき、目標である機械の脚の一本に命中、破壊する。それだけでなく、ピットは更に連続で矢を射って、二本目、三本目の脚も破壊した。
ポーキー「やるねぇ……ゴホッ、ゴホッ……さすがは“この世界”の戦士、さすがはネス、リュカ……それとおまけ」
ポーキーは咳をしながら相手の実力を評価する。だが、彼は顔を笑みで歪めてこう続けた。
ポーキー「だからさ、ボクもちょっと本気で戦わないといけなくなったかな。え~と……そうそう、このスイッチだ。ポチっとな」
何かのボタンを押したのか知らないが、機械がピンク色の光を弱々しく放つ。

やがて光は機械を包み込むようにし、消えた。
ポーキー「これでもうだぁれもボクを倒すことはできない」
魔理沙「?何だかよく分からないが、そろそろ私も混ぜてもらうぜ。魔符『スターダストレヴァリエ』」
魔理沙は一枚のスペルカードを切る。スターダストレヴァリエと呼ばれたそれは、小さな星型の光弾を大量に発射し、ポーキーのもとへ殺到する。だが――
リュカ「それは駄目!」
リュカの叫び声と光弾が当たったのは同時だった。
光弾が当たった瞬間、機械が一瞬だけピンク色に光った。そして弾は弾き返される。……魔理沙の放った弾幕を全て。
リュカ「みんな、伏せて!」
当然、跳ね返されたそれらは四人に襲いかかることになったわけだが、リュカの指示が早かったために大事には至らなかった。
魔理沙「おいおい、今のは何なんだ?」
リュカ「多分、あれはサイコカウンター。PSI攻撃の威力を軽減して、跳ね返すんだ」
余談だが、リュカが素早く支持を出せたのは、彼が最初にポーキーと戦った時にサイコカウンターを使われたため、その存在を知っていたからである。
ポーキー「半分正解。だけど半分ハズレ。さっきの魔法使いの攻撃はPSIじゃないのに跳ね返しただろ?今回のこれは飛び道具全般を跳ね返せるように強化したのさ」
ネス「でも、その手のシールドなら……!」
そう言って、ネスはPKサンダーを放つ。彼の知る限りでは、サイコシールド等の類は電撃系のPSIで破壊できる。
ならばPKサンダーを機械に当てれば、効果は抜群。サイコカウンターとやらは破壊され、上手くいけば機械をショートさせて動けなくすることも可能だ。


……だが、PKサンダーが当たったというのに、全く反応が無い。
ポーキー「何で効かないんだ、って顔してるね?残念でした。これはネスが知っているサイコシールドとは別のタイプでね、電撃で破壊できないようにしてあるんだ。その代りに全く雷の威力は軽減できなくなったけどね。……でも、その弱点だって機械のあちこちに絶縁体を入れておくことで補ったよ。人間は学習する動物だってことを知らないわけじゃないだろ?素敵なことじゃないか。何もかも台無しだ。さあ……楽になりなッ!」



魔理沙「まったく……ふざけた奴だぜ」
そうぼやきながら、私はポーキーって爺さんがモデルになってるらしいロボットがこっちに迫ってきたので、弾幕を放って爆発させた。どうもこのロボット、爆薬だか起爆装置を仕込んであるのか知らないが、破壊する瞬間に爆発するという代物らしい。遠距離攻撃主体の戦闘スタイルが幸いしたぜ。もし肉弾戦だったら爆発に巻き込まれていただろうな。
でも、本体の方はそうは行かない。むしろ不利だと言ってもいい。何だよサイコカウンターって。飛び道具を跳ね返すなんて反則じゃないか。まぁ、直接攻撃だと危険なロボットを前衛に向かわせて、自分は攻撃が届かない距離まで下がる。なおかつ遠距離攻撃の対策も施すことで守備は万全ってわけか。これは典型的な示威籠城戦だな。
こんな策を持ってるなんて、意外と頭はいいらしいな。でも、これをやってるってことは、裏を返せば爺さんの最後の防波堤。破られたら後が無いってことだよな。……あまりにも高い防波堤だけど。
ところで、リュカって奴はサイコカウンターのことを「PSI攻撃の威力を軽減して、跳ね返す」って言ってたな。それなら一つ試してみようってことで、マジックミサイルを一発、爺さんに向けて撃ってみる。
案の定跳ね返ってきたから、余裕を持ってかわした。
そしてマジックミサイルを当てた場所を見てみると、わずかに傷が付いていた。成る程、そういうことか。
リュカの言葉は「PSI攻撃を相殺しきれるわけではない」とも解釈できたけど、ビンゴだったな。つまり、サイコカウンターがあろうと、多少なりダメージを与えることはできるってわけだ。PSIだけじゃなく、私の弾幕にもそれが当てはまることが分かったし。
……さて、ここで問題だ。万能ってわけじゃないけど高性能な飛び道具反射機持ちの爺さんに、どうやって有効な攻撃を与えられることができるか。
跳ね返されてもそんなに痛くない程度の弱い威力の飛び道具でチマチマ攻撃して少しずつダメージを与えていく?
NON.さっきも言ったが、あの爺さんは示威籠城戦をしている。こっちが同じ真似をしたところでジリ貧なことに変わりは無いだろうな。
私のマスタースパークで一気にケリを付ける?
NON.さすがにそれ一発で破れるほどサイコカウンターは脆くないだろうな。というか、それを跳ね返されて自滅でもしたら笑い話にもならない。
サイコカウンターが有効じゃない物理攻撃?
NON.あの機械の装甲は見た目通りに堅そうだ。第一、ここにいる奴らは私も含めて肉弾戦が得意ってわけじゃないし、爆発するロボットを掻い潜って進んで行くこと自体危険だ。
……結論はと言うと、今の私たちに必要なのは、サイコカウンターも爆発するロボットも物ともせず、あの堅そうな装甲に穴を開けられる、そんな方法(ルール)だ。
とんだ無理難題……いや、ちょっと待て。ある意味、物理攻撃が一番有効なんだよな?なら、あれをやってみる価値はあるかもな。



魔理沙「……なあ、みんな。ちょっと聞いてくれ」
突然、魔理沙が三人に向けて声をかけてきた。
三人は耳を傾けようとする。もちろん攻撃の手は緩めない程度に、である。
魔理沙「ここは任せた!」
そう言うやいなや、箒に乗って上空へと飛んで行ってしまった。
しかも速い。あっという間に姿が見えなくなった。
ピット「……え?ちょ、ええ!?」
一瞬の出来事だったためすぐに理解しきれず、ピットは間抜けな声を上げてしまう。
ポーキー「アハ、アハ、逃げたね、ありゃ。どうする?君たちも惨めに逃走するかい?」
ネス「そんな事はしない!」
もちろん、三人に逃げるという選択肢は無い。各々の攻撃を加えて行く。


……だが、そのどれもがポーキーへの決定打とならない。
ロボットたちを爆破していき、本体へ近付いて行って、武器を使って攻撃しようとしても機械の脚で受け流されて反撃をされる。そうしている内に再び距離を置かれ、ロボットたちの相手をするという状態が三度ぐらい続いた。
しかもその間、ポーキーはただ逃げ回っているだけでなく、脚の一本を上方に掲げてどす黒い橙色の光球を作り上げていた。しかもそれはだんだんと大きくなっており、危険なものだという事を嫌というほど伝えている。恐らくあれはポーキーの切り札。使われたら最後だろう。
リュカ「させない!」
ポーキーは四度距離を取ってロボットを数体出し、光球のエネルギーを溜める。
切り札が使われるのを防ぐため、リュカは何度目か分からないPKサンダーを放ってロボット一体をまず爆発させる。
ピット「行け!」
ピットはパルテナアローで残りのロボットを撃破させつつ、光球のエネルギーの蓄積に使われている機械の脚に向けて別の矢を放つ。
矢は他の脚で防がれたが、防御に使われたそれは破壊された。
切り札の使用を防ぐのが理想的だったが、これでも充分。直接攻撃を脚で防がれる心配はない。ようやく攻撃を通すことができる……!ネスがバットを構えて走――
ポーキー「おっと、足元を見てごらん」
――ろうとした矢先、声を掛けられて動きを止めざるを得なくなる。
足元を見てみると、人の握り拳ほどの大きさがありそうな丸い物体がいくつもあった。
薄暗い亜空間の中なので見にくいが、ネスの所だけではない。リュカやピットの所にも――否、もっと正確に言うならば、辺り一面に大量の丸い物体が転がっていた。
ポーキー「王手(チェック)」
ポーキーがその物体と同じものを放った瞬間、自身は猛烈な勢いで後方へと下がった。
ネス「待――」
待て、と言おうとしたが、言葉を失ってしまう。投げられた物がチッ、チッと時計の針が動くような音を出し、赤く点滅し始める。

爆弾。

瞬時にそう理解したが、体の反応よりも、それが足元にある物体の一つに当たり、爆発する方が早かった。

瞬く間に轟音が響く。辺り一面に転がっていた物体の誘爆に全員が飲み込まれた。
ポーキー「ボクがただ逃げ回っているとでも?バカじゃないの?そうしている間にスーパーボムを少しずつ落としていったのさ!最後に投げた物も含めて計五十個。どうだい、効いただろう?」
三人はその爆発に辛うじて耐えていたものの、かと言ってすぐに動けるわけでもない――重態だ。
対するポーキーは頭上の光球を限界まで大きくしていった。そして、それは不気味に明滅し始める。切り札の準備完了といった頃か。
ポーキー「ゴミのような分際で五月蝿く飛び出るからそうなる!!さあて、よくもまあやりもやってくれたねえ!!さあて、どうしてくれようかねえ!!ゴホッ、ゴホッ……ゼー、ゼー……うるさい子虫は潰してしまいましょう。虫の人生はこれにてーーッ……終ゥーーッ了ゥーーッ」
リュカ「ここで……終わり……!?」
ネス「くっ……」
ピット「くそっ……!」
ポーキーの切り札を避ける体力は三人には残されていない。このまま攻撃を受けて終わってしまうのか?


……そう覚悟した瞬間、ポーキーの上方からミサイルの形をした光弾が数発飛んできた。
ポーキー「……ん?」
ポーキーは上を向いてみる。
そこで見たのは、虹色の流星だった。



魔理沙「……さて。もう充分、か?」
三人にあの場を任せた後、私は爺さんの上空――と言っても、爺さんの乗っているデカい機械がほとんど見えなくなるほどだから、かなりの高さだろうな。あいつのいた辺りから光が見えるから、見失う事は無いけど。
私はそこまで来たところで、箒とミニ八卦炉にそれぞれ魔力をため始めていた。
実を言うとそれぞれに溜めている魔力の種類は別物でな。ちょっと説明しとこうか。
まずは箒のほう。こっちには物質を硬化させる魔法を使ったぜ。読んで字のごとく、魔法を使った対象の硬度を大幅に上げるって代物だ。これを使えば、竹箒でも鋼鉄のような硬さになる。今から体当たりを仕掛けて、この箒で穴をあけるってわけだ。あん?いくらお前が速いからってあの機械に穴を開けられるほどのスピードは出せないだろjkだって?まあ待て。まだ説明は終わってないぜ。さっきミニ八卦炉にも魔力を溜めといたって言っただろ?今度はそっちの説明だ。そもそもミニ八卦炉っていうのは本気を出せば山を一つ焼き払えるぐらいの炎を出せる。だけど、それだけのものを放出するとなると、当然反動だってデカい。使った方が軽く吹き飛んじまうくらいだぜ。だからそんなことが無いように、私がマスタースパークを使う際は、反動で吹き飛ばない程度に威力を調整して出す。
昨日フランに使ったマスタースパークだって、できるだけ威力を出せるようにしつつ、なおかつ反動を考慮したもの――「正真正銘全力で放ったもの」じゃなくて、「可能な限り全力で放ったもの」ってところだな。
誤解の無いように言っておくけど、後者は手を抜いてるって意味じゃないぜ。前者の方が実用性を度外視した使えない代物ってだけだ。
話がちょっと逸れちまったな。まあ、何だ。早い話、私はその反動のデカさを上手く利用できないかって考えていた時期があったんだ。いっそのこと、ミニ八卦炉を攻撃に使うんじゃなくて、反動を推進力に変えてスピードをアップさせることができるんじゃないかってな。超高火力のエンジンだと思ってくれればいいぜ。で、ミニ八卦炉にちょこっと改造を加えて箒の後ろにくくりつける。後は限界まで溜めたマスタースパークを放つだけだ。
まるでやった事があるとでも言うような口ぶりだな、ってか?もちろんやったさ。
死ぬかと思ったぜ。
いやぁ、速いのなんの。マスタースパークを出した瞬間、地の果てまで飛ぶんじゃないかってくらいの勢いで飛んだもんな。箒から振り落とされないようにするだけで精一杯だったぜ。烏天狗なんか目じゃないな。
下手すりゃ十分足らずで幻想郷を一周できたかも。
それだけのスピードがあれば、この箒だって装甲に穴をあける破城槌ぐらいにはなるだろ?もし失敗して地面に激突すりゃ、ただじゃ済まないけどな。
全く、あなたって無茶するわね。って声が聞こえてきたような気がするが、多分気のせいだぜ。
言うとすれば霊夢かな。いや、紫も言いそうだな。レミリアや咲夜、パチュリーにアリスも……ってちょっと待て。
何で私の知り合いは小言が多い奴らばかりなんだ?まあいいか。
とりあえず目の前のことに集中しよう。高ぶる気持ちを抑えるために二回深呼吸をして、真下の方を見る。
何だか汚い色の光がさっきよりも大きくなっているような気がする。
ひょっとして、あいつらのピンチだったりするのかな?特に根拠は無いけど、そう感じた私は数発マジックミサイルを撃っておく。あの爺さんが攻撃しようとしてたなら、こっちへ注意を向けるはずだ。もう一回深呼吸をして覚悟を決める。
そして、マスタースパークを発動させる。ここから一気に急降下するわけだけど、数秒以内にはこの箒、地面に激突するな。その間に爺さんが私を撃ち落とすのか、私がこれを突き立てるのか。さあ、世界一短い決闘の開幕だぜ。
魔理沙「覚悟しな、爺さん。亡霊を装いて戯れなば、汝亡霊となるべし、ってな」



魔理沙が急降下をし始めてから、目標地点にたどり着くまでの時間はわずか五秒だった。
以下は、その間に起こった内容である。


ポーキーがマジックミサイルに気付いて上を見上げたのと、魔理沙がマスタースパークを発動させたのはほぼ同時だった。
ポーキー「!あいつか!」
ネス達に使おうと思っていたレーザーの照準を、魔理沙に向け直そうとする。
これで一秒。

ポーキーがそれを放つ力を蓄える。とは言っても、すでに溜め終わる寸前だったから、ほんの数瞬でそれは終わる。
一方、魔理沙の方も相手の行動に気付いてないわけではない。体当たりを当てるだけでなく、次に来るであろう攻撃を避けねばならないので、意識を研ぎ澄ませる。
二秒経過。

ポーキー「この一撃で造作も無くお前は死ぬ……」
魔理沙「この一撃で一切合切の決着だ……」

ポーキー「さあ、来い!!」/魔理沙「さあ、来い!!」

ポーキーがレーザーを放つ。濁った色をしたそれは巨大な光の帯のようになっており、魔理沙のマスタースパークをどことなく彷彿とさせた。
それが魔理沙の目の前まで来て……
三秒経過。

ポーキーが放ったレーザーを魔理沙は……かわした。
魔理沙の意識が極限まで研ぎ澄まされていたことにより、今の彼女の時間感覚は常人のそれとは少々異なっていた。
一瞬という時間が、何秒にも何十秒にも思える、といったところか。例えるならば、剣豪同士の立ち合いにおいて互いに全く隙が無く、斬りかかるタイミングをひたすら待っているような状態――その時においても、同じように集中力を高めることで時間の流れがスローになったかのような錯覚を受ける。
だが、魔理沙がレーザーをかわせた理由はもう一つある。
弾幕勝負をしている者としての経験だった。彼女は幻想郷に異変が起こる度に霊夢と共に(と言っても、競い合う面の方が強いが)異変解決に向かい、その中で数え切れないほど弾幕勝負を重ねてきた。それ故、飛び道具が向かってきたらあとどれぐらいの時間でこちらに被弾するか、その際どこへ逃げればよいのか、また、弾にかすっても大丈夫な距離はどれぐらいかを瞬時に理解するほど、経験が体に染みついている。
以上の二つの要素が上手く混ざったことにより、魔理沙はレーザーを回避することができた。
もしどちらか一つでも欠けていたら、そうはいかなかっただろう。
目標地点到達まであと一秒。最早、遮るものは何も無かった。



魔理沙がポーキーに突っ込んで行く様を、三人は黙って見ていた。
理解できたのは、遥か上空から魔理沙がマスタースパークを放って急降下してきたこと。
マスタースパークの虹色の炎は長い尾を引いていて、とても美しかった。
流れ星みたいだな、というのが感想である。
そしてポーキーがレーザーを放つ。だが、虹色の炎は途切れない。
おそらく、ポーキーの切り札は不発に終わった。しかしそう思った瞬間、ポーキーのいる辺りで爆発が起こった。
ネス「……魔理沙さん!!」
爆発によって煙がもうもうと立ち込め、前が見えなくなる。しかし、三人はその中を進んで行く。
さっきの爆発は、魔理沙の体当たりによって起こされたものだろう。彼女の安否が気になる。
煙の中には、ポーキーの乗っていた機械の残骸がちらほら見受けられたが、影虫に分解していって消えた。
この分だと、ポーキー自身も倒されたに違いない。
だが、魔理沙の姿が見つけられない。この煙の中のどこかにいるはずなのに。
ピット「まさか……」
最悪の予想をしてしまう。そもそもこれだけの爆発が起こったのだ。何があっても不思議ではない。
「お~い、何か宝探しでもしてんのか?なら私も混ぜてくれ」
突然、そんな声が聞こえてきた。何とも能天気な、しかしこの場の皆を安堵させるものだった。
煙が晴れていく中、声のした方に目を向けてみると、霧雨魔理沙がそこにいた。
普通に二本足で立っていて、どこにも異常はなさそうだ。
余裕のある表情でにやにや笑っているのを見ると、思わず三人の頬も緩んでしまう。
リュカ「あの爆発だったのに、よく無事だったね。一体どうしたの?」
魔理沙「何、私は箒無しでも空を飛べるんだぜ」
つまり、こういうことだ。魔理沙はポーキーに激突する寸前――一秒にも満たない、コンマ数秒というところまで来た時に、機械や地面との接触を避けるために箒から飛び降りたのだ。
ちなみに、魔理沙は箒無しでも空を飛ぶことが可能である(わざわざ箒に乗っている理由は、「その方が魔法使いらしいから」に過ぎない)。これだけ言うと簡単に聞こえるかもしれないが、実際は音速になろうかというスピードを出している箒から飛び降り、尚且つその勢いのまま地面に接触しないように飛行しないといけないのだから、難易度は非常に高い。
魔理沙の飛行技術が高いのか、単に運が良かったのか……。ともかく、彼女は無事だった。
魔理沙「さぁ、早くみんなのとこへ……」
歩き出そうとした瞬間、魔理沙の視界が揺らいで、地面に倒れそうになる。
ピットにすぐに支えてもらったので地面に顔を着けるような真似はせずに済んだが、これ以上立っていることができず、座らざるを得なかった。
無理もない。ついさっきまで無茶な飛行をしていたのだから、三半規管がおかしなことになっていようと不思議ではないのだ。
ピット「まったく、無茶をするよ……」
ピットに小言を言われ、ハハハ、と乾いた笑い声を上げて肯定することしかできなかった。
魔理沙「その通りだな。でも、お前たちだって他人のことは言えないだろ?」
そう言って、魔理沙は仰向けに寝転がった。他の三人もそれにつられたのか、次々と座りだす。
実際、魔理沙の言う通り、ネス達はスーパーボムの爆撃を受けていて、そのダメージは回復していない。
これ以上戦線に赴くのは無理だ。
結論:ネス、リュカ、ピット、魔理沙VSポーキー、勝者:ネス達。ただし全員満身創痍。
リュカ「でも、あの人たちならきっとやってくれる……」
この四人は亜空間の奥へ向かった戦士たちの勝利を信じている。
だからこそ、しばしの休憩をとることにしたのだった……。

第29話 KNIGHT OF KNIGHTS

アイク「はぁああッ!!」
アイクは助走をつけて高く跳び上がる。そこから身体を回転させて勢いを増し、相手に斬りかかろうとした。
対する相手は、漆黒の鎧を着た男。



話は少し前――戦士たちがポーキーをネス達に任せ、亜空間最深部へ向かっていたところまで遡る。
「待て」
声が聞こえてきた。誰のものかは分からないが、一瞬だけ戦士たちは立ち止まってしまう。
それを見計らったかのように、亜空間の闇の中から一人の男が現れた。
闇と同化できそうな漆黒の鎧を着ており、腰には両手でないと扱えなさそうな巨大な剣を帯刀している。その姿を見て反応する者が一人。
アイク「漆黒の騎士……!」
いかにも、と鎧の男は答えた。そして、後方を指差す。
漆黒の騎士「ここを過ぎれば最深部までもうすぐだ。あの吸血鬼の居場所は近い。ただし……」
そう言って白銀の剣を抜き、アイクに向ける。
漆黒の騎士「お前は私と戦え」
アイク「……いいだろう」
指名されたアイクはラグネルを構える。漆黒の騎士が持っているそれとデザインが酷似した剣だが、こちらの刀身は黄金――誰の目にも、双方の武器が好対照であることが分かる。
アイク「来い。戦ってやる」
セネリオ「……それなら僕たちもここに残ります」
チーム分けとなっている以上、セネリオ、マルス、霊夢も戦う義務がある。
アイク「いや、ここは俺一人でやる」
しかし、アイクはそれを断った。
セネリオ「でも……!」
セネリオは引き下がる。ここでは語らないが、彼にとってアイクとは自らの命を救ってくれた存在であり、信頼に足る相手だと思っている。だからこそ、万が一のことがあっては不味いと思っているのだが、アイクの意思は変わらない。
アイク「安心しろ。俺は勝ち目の無い戦いはしない」
漆黒の騎士「私は複数でかかってこようと構わないが、良いのか?」
漆黒の騎士の確認にも肯定する。
アイク「ああ。ナドゥス城の時のように、決着をつけてやる」
マルス「それじゃあ、本当に一人で良いんだね?」
マルスの言葉に、アイクは「何度も同じことは言わせないでくれ」と返す。
霊夢「……まぁ、あなたが一人で戦うことにこだわる理由は分からないけど、勝てるって言うなら心配いらないわね。それなら私たちは先に行かせてもらうわ」
ほんの少し欠伸をしながら――何とも暢気だが――霊夢はアイクの考えに同意したことを示す。
そんな中セネリオはまだ迷っている様子であったが、
霊夢「ほらほら、あなたも行くの。ここは彼に任せちゃいなさい」
どこからかお払い棒を取り出し、セネリオをつつき始めた。
セネリオ「……何をするんですか?」
あからさまに嫌な顔をするものの、当の本人はどこ吹く風といったところだ。
霊夢「あなたは軍師なのよね。作戦を立てるのは結構だけど、状況の変化に柔軟に対応できるようにしたら?」
それに、と付け足してこう続ける。
霊夢「せっかく彼が一人で大丈夫って言ってるのに、頑なに動こうとしないなんて……信用してないの?」
セネリオ「そ、それは……」
痛いところを突かれて、セネリオは言葉が詰まってしまう。
アイク「……じゃあ、皆。ここは俺に任せて先に行ってくれ」
間髪入れずにアイクが口を挟んだことで、反論する者はいなくなった。
マリオ「ああ、分かった」
セネリオ「……アイク。そうすると決めた以上、必ず勝ってください」
セネリオもようやくアイクの考えを理解したのだろう。はっきりとそう言った。
アイク「勿論だ。一度倒した奴に後れをとるような真似はせん」
アイクを残し、他の戦士たちは先へと進んで行った。


漆黒の騎士「……準備はできたか?」
今まで黙っていた漆黒の騎士が声をかける。
アイク「ああ。だが一つ聞きたいことがある。アンタもレプリカだよな?」
返事は帰ってこない。とりあえず、肯定と受け取って話を進める。
アイク「レプリカの目的は俺たちを倒すことだと思ってたんだが、どうもそんな感じがしない。ここを通す代わりに俺と戦えというアンタの態度もそうだし、さっき会ったポーキーという奴も、戦士と戦うことに拘っている感じは無かった。影虫を基にして造られた以上、造り主の吸血鬼の僕にでもなってるかと思っていたんだが、実際はどうなんだ?」
ここまで一気に話して、アイクは一息つく。

思考、と言えるかどうかの微妙な間の沈黙があったところで、漆黒の騎士が口を――兜をしているために表情は分からないが――開く。
漆黒の騎士「……あの吸血鬼から与えられた指示はただ一つ。『各人の好きなやり方で戦士たちと戦う事』。元々、私のようなレプリカは造られてからまだ一日も経っていない。プリムのように意志の無い者ならともかく、我々のように個人で思考を持っている者を服従させるのは無理だと判断したのだろう。ならば私はこうすることを選んだというわけだ。それに、あの吸血鬼は寧ろレプリカの攻撃を掻い潜って、戦士たちが目の前に立つことを前提としている。どのような手段を用いてでも、自分を倒しにかかって来ることを、だ。もしそうでなくて手間取っているようだったら、相手をするに値しない、と考えているらしい」
アイク「……なら漆黒の騎士、俺との戦いでアンタが敗れることは前提になってるのか?」
漆黒の騎士「……無論、そのようなことは無い。逆にこちらからも一つ聞いておこう。お前は以前私と戦った時、支援を受けていた。今回はそうではないのに、一人で勝てるという保証はあるのか?」
以前、アイクと漆黒の騎士の決戦が行われた時、アイクは妹のミスト(アイクは元々一騎討ちを望んでいたのだが、兄の身を案じたミストが付いて来たのだった)の協力を受けながら漆黒の騎士に勝利した。今回はそれは無く、真の意味での一対一となる。
アイク「ああ。俺はあれからも強くなることを怠っていない。アンタこそ、見くびらないでくれ」
漆黒の騎士「そうか。思い上がりではないと知って安心した。……前置きが長くなってしまったな。そろそろ始めようか、ガウェインの息子よ」
その言葉を合図に、アイクは駆け出した。



そして話は冒頭へ戻る。

アイクは跳び上がった勢いを利用して斬撃をお見舞いしようとする。
しかし、漆黒の騎士は自分の剣――エタルドを水平に掲げることで威力を相殺。
そのままラグネルごと、アイクを弾き返す。
弾き飛ばされたアイクは背中から地面に接触するのを防ぐため、空中で体制を整えて着地し――

ガキィッ!!

着地したと思った瞬間、漆黒の騎士が眼前まで迫って来ていた。
そう認識するのと、エタルドが振り下ろされてきたのがほぼ同時。
辛うじてラグネルで防ぐことはできた。
漆黒の騎士「良い反応速度だ」
鍔迫り合いになった後、即座に互いに剣を押し合う事で再び距離をとる。
やはり強い、とアイクは思う。
漆黒の騎士は鎧を纏っていながら、自分と互角のスピードを出せる上、本来両手持ちであるエタルドを片手剣のように軽々と――これは自分も同じだが――扱ったりと、重装歩兵にありがちな「素早い動きができない」という弱点を克服している。
身体能力は互角、互いに装備している武器も対をなしている存在だからほとんど違いは無い。
要するに、問われるのは純粋な技量。単純に言って剣の扱いに長けた者の方が勝つ。それがこの戦いだ。

再びアイクが仕掛ける。
今度はジャンプではなく、地上を走って距離を詰める。
そして剣の間合いに入る数歩手前でラグネルを下向きに構え、そこから逆袈裟に斬りかかろうとする。
漆黒の騎士は後方に下がることでそれを回避するが、アイクの攻撃は終わらない。
ラグネルを手前に引き、今度はそれを横に一閃。更に、剣を振り切った勢いを利用して自分の体を独楽のように回転させ、そのままもう一度ラグネルを横に振りはらった。
しかし、漆黒の騎士は更に後方に下がることで剣の間合いからほんの少しだけ出て、アイクの攻撃を全てかわす。最後の攻撃を見切った瞬間、漆黒の騎士は先程とは逆に一歩踏み込み、エタルドの射程内にアイクを捉える。
攻撃を受け流さずに回避に専念したのは、こちらの反撃をスムーズに行えるようにするため。一撃が重いアイクのラグネルは、防御するよりかわす方がリスクは少ないからだ。
連撃を出し切ったアイクは隙だらけ。そう思ってエタルドを振り下ろし――

ガキィ、と乾いた金属音がする。
アイク「甘い!!」
その時漆黒の騎士に衝撃走る。
衝撃を感じた脇腹を見てみると、鎧に傷が走っていた。
漆黒の騎士「……成程」
カウンター。アイクの作り出した隙は作為的なもの。相手を誘導し、逆に迎え撃つ。
その一瞬の思考の間に、アイクは今度は剣を空中に放り投げ、高く跳び上がった。
漆黒の騎士「来るか……」
次の一撃はおそらく必殺。それならば叩き落とすまで、と漆黒の騎士はエタルドを自分の胸元へ引き付け、全力で振り上げるために力を溜める。
その直後、アイクが降下してきた。ラグネルを逆手に持ち、体から炎を連想させるオーラが溢れている。
漆黒の騎士はエタルドを振り上げる。それはラグネルを掠り、アイクの胴を捉えた。しかし、アイクはひるまない。
アイク「そぅりゃぁッ!!」
最大間で溜めた「噴火」を使い、小規模の爆発が起こった。


アイクは着地したと同時に膝をついた。ラグネルは持っていない。
漆黒の騎士の心臓に刺さっているからだ。
漆黒の騎士「先程のカウンターといい、闇雲に責めたりなどしなくなったか……。そして新たな技の習得……確かに、強くなっている。この私としたことが、油断するとはな……」
ラグネルが刺さっている場所からは影虫が溢れ出しており、漆黒の騎士の体は少しずつ崩れてきている。
アイク「俺は強くなれるだけ強くなる。今までも、これからもだ」
漆黒の騎士「そう……か……。だが、一つだけ言っておく……。ナドゥス城の時も、この時も……私は本当の……実力では……次……剣を交え……気を付け……」
言葉は段々かすれて聞こえなくなっていき、漆黒の騎士の全身は鎧ごと影虫になって消えた。
後に残ったのは、ラグネルのみ。
アイクは地面に刺さったラグネルを引き抜こうと立ち上がった瞬間、腹部に激痛が走る。
アイク「ガ…ハァ……」
先程受けた攻撃の影響が、ここになって来たようだ。痛みに耐えきれず、思わず倒れこんでしまう。
何だか、視界が少しぼやけてきた。これは不味いかもしれない。少なくとも、これ以上戦えるような状態ではない。
アイク「(俺はここまでか……頼むぞ、皆……)」
アイクはゆっくりと目を閉じ、静かに眠った。

第30話 黙示の日まで~Apocalypse now

戦士たちが亜空間に到着したばかりの頃、一人の男も亜空間に来ていた。
「我に求めよ。さらば汝に諸々の国を嗣業として与え地の果てを汝の物として与えん」
神父服に身を包んでおり、首から十字架をぶら下げたその男は、何やらぶつぶつと呟きながらプリムの一団と戦っていた。
「汝、黒鉄の杖をもて彼らを打ち破り、陶工の器物のごとくに打ち砕かんと」
ビームソードを持ったプリムが斬りかかってくるが、男は銃剣で受け流して返り討ちにする。
「されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ」
今度はブーメランを投げてくるプリムがいた。それに対し、男は持っていた銃剣を投げて、跳んで来るブーメランごとプリムを貫く。
「恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ」
武器を投げて丸腰になった男に数体のプリムが襲いかかるが、男はプリムを殴る。一発くらっただけで、呆気無く倒れてしまった。
「子に接吻せよ。恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん」
このままでは埒が明かないと判断したのか、残りのプリムたちは一直線に並び、武器をバズーカに持ち替え、光弾を連射してきた。
しかし、それが何発、何十発、何百発当たっても男には効かない。
再生者(リジェネーター)である以上、微小な攻撃を幾らかくらった所で、即座に回復するからだ。
「その怒りは速やかに燃ゆベければ……」
そして男は袖の中から何本もの銃剣を取り出し、
「Amen!!」
投げた。
銃剣は全てのプリムに突き刺さり、全滅させた。

男の名は、アレクサンド・アンデルセン。



アレクサンド・アンデルセンは、不愉快極まっていた。
亜空間の奥へと進もうとしているのに、亜空軍の雑兵に邪魔されていたからだ。
だが一方で、愉快とも言える感情の高ぶりもあった。昨日、スネークやレッド達と戦場の砦で話をした際に、亜空間にてタブーと戦士たちが戦ったという話を聞いたが、仮にアーカードがタブーを復活させようとするならば、やはり亜空間の中で行うのではと思い、そこに来てみたら案の定、プリムのような雑魚敵が邪魔をしに来たというわけだ。推察は当たりだったということである。
今は不愉快な感情の原因が取り払われたことで、多少は機嫌が良くなっており、早足で歩き始める。
アンデルセン「待っていろ化物。決着を付けに……」
突然、殺気を感じた。方向は後方、距離はすぐ近く……背後だ。
何か巨大な質量を誇る物体を振り上げているという感じが……止まった。
振り下ろしてくる。そう感じ取った瞬間、横方向に跳んだ。ちなみに、アンデルセンが殺気を感じ取ってからこの動作をするまでの間にかかった時間は、コンマ一秒にも満たない。

ズドン!!

彼のいた場所に丸太を思わせる物体が振り下ろされ、地面に凹みができる。
アンデルセンはそれを振り下ろしたものがいると思われる場所へ銃剣を振る。
手応えは……あったことはあったが、先端が掠ったような、ほんの僅かなものでしか無かった。
「今の一撃をかわすとは……大したものだ」
不意打ちを仕掛けた人物が喋り出す。アンデルセンに匹敵、あるいはそれ以上の高身長で、鎧を着ている。
更に、その男は自分の身長と同じくらいの大きさを誇る大剣を持っている。
もしこの場にアイクかセネリオがいたら、彼のことをこう呼んだだろう。
狂王アシュナード、と。もっとも、アンデルセンは面識が無いし、名前を教えてくれる者もいないので、知りようが無いのだが。
不敵な笑みを浮かべる顔には、頬のあたりに傷があり、そこからは生命の源である血液の代わりに影虫が流れ出ていた。つまり……
アンデルセン「……貴様も影虫でできているのか」
如何にも、とアシュナードは答えた。
アシュナード「元々戦争で死んだ身だが、何の因果か復活させられて、こうしてここにいることになった」
不敵な笑みを浮かべ、目をぎらつかせながら――それこそ狂気と呼ぶに相応しいもので――話を続ける。
アシュナード「それにしてもあの吸血鬼、我に戦えと命令するとは……中々に面白いことを言ったものだ。一国の王を顎で使おうとするなど、傲岸にも程がある……。だが、だからこそ、あいつは面白い。あの吸血鬼は、いるだけで戦火の渦を呼び起こす……。存在そのものが暴風。立ち去った後には破壊されたものしか残らない。それこそ我が悲願。テリウス全土を巻き込まんと戦争をし、負の気を撒き散らしてメダリオンの邪神を復活させようとしたが……。そのような回りくどい真似をせずとも、奴なら簡単にそれをやってのける。だから、私は奴の言葉に乗って――」
アンデルセン「五月蠅い!!死人が喋るな!!」
アシュナードの話を、アンデルセンは大声で遮る。話の中には理解できない単語が並んでいたが、それは重要なことではない。アンデルセンにとって肝心なのは――
アンデルセン「この私の眼前で死人が歩き、不死者が軍団を成し、戦列を組み前進する。唯一の理法を外れ外道の法理をもって通過を企てる者を、教皇庁が、第13課が、この私が許しておけるものか。貴様は震えながらではなく、藁のように死ぬのだ!!」
――そう、カトリック信者である彼の目の前に、死んだ者が立ちはだかっているという事実である。塵は塵に。
死者が生きているという矛盾を正すべく、アンデルセンは戦うことを決めた。
アシュナード「クックック……。そうか、ならば貴様の能力はどれ程のものか見せてもらおう……」
先手はアンデルセンが取る。左右の手にそれぞれ銃剣を構え、右手の銃剣で相手の脇腹を捉えんと一閃。
アシュナードは巨剣――グルグラントを手元に引き寄せ、それを防ぐ。
間髪置かずに突きが二回繰り出されるが、それもまた受け流した。
シィィィィ、と歯を合わせた口から息を漏らしながら、アンデルセンは攻撃を続ける。
左手の銃剣を逆手に持ち直し、首を狙って振る。
案の定、相手が後方に下がることで避けられてしまうが、今度は空いた右手の銃剣を振り下ろす。
だが、アシュナードはグルグラントの腹を盾にして防ぐ。そして、
アシュナード「フンッ!!」
銃剣ごとアンデルセンを弾き飛ばした。
アシュナード「二刀流の扱いは良し。だがこれでは――ッ!?」
彼の言葉は途中で遮られる。アンデルセンが、吹き飛ばされた状態でありながら、体制を整えて大量の銃剣を取り出し、投げてきたのだ。
アシュナードは咄嗟に、防具で覆われていない頭を守るようにグルグラントをかざし、それで防ぎきれない部分は鎧で弾く。
アシュナード「……前言は撤回しよう。剣士に匹敵する素早い攻撃に加え、弓兵の一斉掃射のごとく刀剣を投げるという攻撃の柔軟性の高さ……見事だ」
本来、銃剣はサイズにおいて長剣などの武器と比べると威力が見劣りしてしまうのだが、その弱点を、アンデルセンは持ち前の素早い動きに加え、二刀流にして手数を増やすことで補っている。
加えて、彼は複数の銃剣を同時かつ正確に投げる技術も持っており、例え相手が銃を使ってこようと互角以上に戦う事が出来る。遠近両用。それこそがアンデルセンの最大の武器なのだ。
アンデルセン「……反吐が出る」
もっとも、敵に褒められた所でアンデルセンは喜びもしないが。
アシュナード「では、こちらからも行こう」
今まで防御に回っていたアシュナードが攻めに転じる。
剣を大きく振り上げ――地面に叩き付けた。
だが、アンデルセンは先程の攻撃によって距離を取っていたため、剣は届きはしない。
何をやっているのだ、とアンデルセンは一瞬思ったが、すぐにその考えは打ち消される。
アシュナードが剣を叩きつけた場所から突風が起き、地面を抉りながらこちらに向かってきたからだ。
かわす暇が無く、防御の構えを取って――
アシュナードが目の前まで来ていた。
アシュナード「我が剣はこういう芸当もできるのでな」
衝撃波。グルグラントを振ることで空気を振動させ、相手にぶつける。
アシュナードはそれを接近戦に持ち込むための盾代わりに使い、距離を詰めたのだ。
奇しくもアンデルセン自身、似たような戦法を使ったことがあるので、このやり方に引っ掛かってしまったことに内心で苛立ちを覚える。
だが、まだ危険ではない。アシュナードは剣を横に振ろうとしているが、大剣という性質上、どうしても隙ができる。今、この瞬間がちょうどその時だ。
自分の銃剣ならば、それよりも早く攻撃することができる。そう判断し、アンデルセンは諸手突きを放つ。
アシュナード「甘い」
アシュナードは片方の銃剣を、剣の柄を握っていない左手に突き刺させ、もう片方を右肩で防いだ。
アンデルセンは銃剣を抜こうと引っ張ってみるが、抜けない。
一方、刺された傷の痛みなど意に介さない様子で、アシュナードは更に距離を詰める。お互いの息が顔にかかるほどだ。
この瞬間、アンデルセンは一旦距離を置き、予備の銃剣を取り出すことを決める。
別に剣を振る動作は無い。まだ余裕は――ッ!?

ゴッ、と頭に鈍い衝撃が走った。視界が揺れる。何をされた!?相手が剣を使ったようには見えない。
「相手の攻撃を避けたと思ったら、視界が揺れていた」
何を言っているのか自分でも分からないが、そんな感じだ。否、一つだけ考えられることがある。

頭突きだ。

人間が使える中で最も手軽な攻撃方法、体術――頭突きは少々異なるが――を使ったのだ。
重量を伴う武器を用いるよりも数段速い。まさかそれを使ってくるとは。予想外だった。
そう思った瞬間、アンデルセンの視界に、剣を横に一閃させようとするアシュナードの姿が映る。
回避は間に合わない。咄嗟に取り出した二本の銃剣を交差させて防ごうとするが、相手の剣が叩きつけられた瞬間、防御などお構いなしに吹き飛ばされてしまった。しかも、先程吹き飛ばされたのと違い、今度は相手の攻撃をくらったのだから、防御をしていたとはいえダメージがある。
何とか着地はしたものの、アンデルセンは膝をついてしまった。
これだけで終わるはずが無い、追撃が来るだろうと思い、アンデルセンは素早く立ち上がるものの、アシュナードは動く気配が無い。
アンデルセン「……どういうつもりだ」
相手の意図が読めず、訝しげに尋ねる。
アシュナード「我が部下になる気は無いか?」
予想外のことを言ってきた。
アシュナード「その戦闘力、四駿と同等……否、下手をすればそれ以上だ。それ程の存在を潰すのは惜しい。我が軍門に下るというのなら、それなりの歓迎はしてやろう」
勧誘。元々アシュナードは力のある者を好み、彼が治めていた頃のデイン王国では種族、身分を問わずに実力によって地位が決まっていた。そしてアシュナード自身、気に入った存在がいれば、敵であろうと味方に引き入れようとする。
一方、その提案を聞いたアンデルセンは……
アンデルセン「…ハ…ハハ…ハハハハ…ハハハハハ……ゲァハハハハハハハハハハハハハハ!!
笑っていた。狂ったような声を上げ、嗤っていた。
アンデルセン「異教徒に不意打ちを食らい、異教徒に攻撃できず、異教徒の戦法に嵌まり、異教徒に地面に膝をつかせられ、挙句勧誘までされる。第13課の、神罰の地上代行人であるこの私に向けて。何たる恥辱、何たる屈辱。貴様は我々を舐め切った。よかろう、あばずれめ。我らの神罰の味、噛みしめるが良い」
そこまで一気に言うと、アンデルセンは銃剣を一本投げた。
顔面に向かって飛んできたので、アシュナードはそれを避ける……が、
アシュナード「(……速い)」
先程の投てきよりも速度が上がっている。
アシュナード「(勧誘したことで怒り、戦闘力が上がったとでも言うのか?面白い。まだまだ強さを秘めているということか……)」



――我らは己らに問う。汝ら何ぞや!!


アンデルセンは、第13課の仲間に常日頃呼びかけている心構えを心中で喋る。
神の代理人としてどうあるべきかを、だ。


――我らは熱心党(イスカリオテ)。熱心党のユダなり!!


目の前の男は自分を、仲間たちを侮辱した。だからこそ、あいつに思い知らせてやらないといけない。
第13課(我々)の理念というものを。


――ならばイスカリオテよ、汝らに問う。汝らの右手に持つ物は何ぞや!!


――短刀と毒薬なり!!


銃剣を一本投げる。簡単にかわされてしまったが、まだ終わりではない。
二本、四本、八本、十六本と投げる数を増やしていく。


――ならばイスカリオテよ、汝らに問う。汝らの左手に持つ物は何ぞや!!


――銀貨三十と荒縄なり!!


アシュナードは先程と同じように剣で顔面をかばい、他の部分は鎧で防ぐ。
読み通り。アンデルセンは高く跳び上がり――この間も銃剣を投げ続けて――限界まで上がり、後は重力に従って落下するのみというところで新しい銃剣を握る。
アンデルセン「ならば!!」


――ならばイスカリオテよ、汝ら何ぞや!!


そのまま急降下し、斬りつける。
対するアシュナードは剣を振って衝撃波を放ってくるが、それでも怯みはしない。
そもそもアンデルセンは再生者だ。多少の傷を恐れる必要など無い。
銃剣を首筋に突き立てようとする。アシュナードはそれを左手で掴むことで辛うじて防ぐ。
そして投げ飛ばすことで状況を元に戻す。
投げられたアンデルセンも、一旦態勢を整えるため、何もせずに着地する。


――我ら使徒にして使徒にあらず、信徒にして信徒にあらず、教徒にして教徒にあらず、逆徒にして逆徒にあらず!!


アンデルセンは懐から鎖を取り出す。何十本もの銃剣が括り付けられているものだ。
それを頭上で振り回す。アシュナードの方は様子を見ているのか、仕掛けてくることは無い。
それならば此方の好きにさせてもらおうと、アンデルセンは鎖を回すスピードを速める。


――我ら死徒なり。死徒の群れなり。ただ伏して御主に許しを請い、ただ伏して御主の敵を打ち倒す者なり。闇夜で短刀を振るい、夕餉に毒を盛る者なり。我ら刺客なり。刺客(イスカリオテ)のユダなり!!


限界まで早く振り回された鎖をアンデルセンは投げる。狙いはアシュナード……ではなく、その周囲。
アシュナードを取り囲むように、周りの地面に次々と銃剣が刺さっていく。
アンデルセン「爆導鎖!!」
アンデルセンがそう叫んだ瞬間、一本の銃剣の柄がまばゆい光を放ち、爆発した。
すると、他の銃剣も次々と爆発していき、辺り一帯が爆煙で見えなくなった。
元々、全ての銃剣には火薬が仕込まれており、爆発物として利用することが可能である。
この爆導鎖のように一本の鎖につないでおけば、連鎖反応で大量の銃剣を同時に爆発させることができ、絶大な攻撃力を誇るのだ。
だが、今回のそれは攻撃を目的にして使ったのではない。爆煙によって相手の視界を潰し、こちらが奇襲をして一気に仕留める。


――時到らば我ら銀貨三十神所に投げ込み、荒縄をもって己の素っ首吊り下げるなり。されば我ら徒党を組んで地獄へと下り、隊伍を組みて方陣を布き、七百四十万五千九百二十六の地獄の悪鬼と合戦所望するなり!!


煙の中に突っ込んで行き、相手の姿を……見つけた。
剣を大きく振りかぶっていた。
アシュナード「(このような陳腐な策を使ってくるなら、食い破るまで……)」
アシュナードは相手の策に気付いていなかったのではなく、あえて乗ったのだ。その上で、力ずくで突破する。何故なら、自分の力に絶対の自信を持っているからだ。ある意味、何よりも力を重視する狂王らしい考え方といえよう。
しかし、アンデルセンもここで止まる気は無い。例え相手が待ち構えていたとしても、こちらが早く仕留めれば良いだけの話。
そう判断して銃剣を突き出すのと、アシュナードがグルグラントを振り下ろしたのはほぼ同時だった。



亜空間の一角に立つ二つの人影、アンデルセンとアシュナード。その内の一つが地面に伏した。
その人影は……アンデルセン。彼の右肩は大きく切り裂かれており、傷が腰にまで走っている。
一方、アシュナードはしっかりと地面に足を付けていた。歯茎が見えるほど大きく口を開いた笑い顔を浮かべており、一言。
アシュナード「……見事」
そう言った瞬間、アシュナードの首筋に裂け目が走り、そこから止めどなく影虫が流れ始め……全身が影虫に分解され、消えた。素早さを活かしたアンデルセンの攻撃が届いたのだ。もし、あと数瞬、彼の攻撃が遅かったらアシュナードの剣で真っ二つにされていただろう。
勝者、アレクサンド・アンデルセン。
アンデルセン「DUST TO DUST.塵に過ぎないお前らは塵に帰れ」
地面に伏していたアンデルセンは立ち上がる。本来の目的、アーカードの打倒に行かないといけないからだ。
右肩の傷は再生力の高さによってそのうち元に戻るだろう。
ここで時間をかけてしまったのは予想外だった。もしかしたら、アーカードと戦士たちが既に戦っているかもしれない。仮にそうであったならば、自分のやることは一つ。最高のタイミングで、横合いから思い切り殴りつける。いずれにせよ、このままじっとしているわけにはいかない。そう思い、ゆっくりと歩き始めた。