スマブラ個人小説/Hooの小説/禁忌の継承者(4ページ目)

Last-modified: 2009-10-09 (金) 20:05:59

いよいよ禁忌の継承者も大詰め。“この世界”の命運やいかに……。

第31話 A song in praise of human

~亜空間最深部~
これは、戦士たちが亜空間の奥へと向かっている最中に起こったアーカードとタブーの話である。


アーカード「では……、元に戻すぞ」
七つに分かれたタブーのエネルギー体を手の中に握るように、一つに合わせる。
すると、青い光が溢れてきた。握った拳を広げてみると、一つの大きめな塊になっている。
それはアーカードの掌から独りでに飛び立ち、彼の斜め上の方向へと向かって行った。
そしてその塊を中心に、少しずつ人の形を成したものができて行く。胸部、腰、太腿、両腕、両足、頭部。
そして最後に背中から羽が出てきて……。タブーは復活した。
タブー「これは……。ああ、そうだ。思い出したぞ。この手の動かし方も、足の動かし方も、息のし方も、口を使って話すことも。一年ぶりだ、この感触。間違いなく私は復活した!!」
満願成就の夜が来た。遂に一年越しの悲願である復活を成し遂げたのだ。
タブーの気分は最高潮に達していた。
タブー「これで何もかも思い通り!思い通りになる!!フ…フハ……フハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
ひとしきり笑った後、あることを考える。
タブー「(手始めに何をしようか……。そうだな、私が元に戻った以上、アーカードは用済み。調子の確認がてら、OFF波動で始末してやろうか。光栄に思うんだな。私の力を真っ先に目にすることができるのだから)」
タブー「アーカード、よくやってくれた。今からお前にプレゼントを……」
そう言って振り向い――

ダン!!

――た瞬間、銃声と同時にタブーの左の翼に穴が開いた。
タブー「……な!?」
何が起こったのか理解できない。

ダン!! ダン!!

なおも銃声は続き、翼に空いた穴の数が増えて行く。
タブー「グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!! ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!! ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!
やがて左の翼は原形を留めないほどに粉々になっていった。
タブー「アーカードォォォォ!!誰を撃ってる!?ふざけるなぁぁぁぁ!!」
タブーは怒りの声を上げる。
両手に拳銃を構えているアーカードに向けて。
アーカード「お前のような下衆が考えることなど簡単に読める。大方、自分が復活したから、用済みとなったこの私を始末しようという魂胆だったのだろう?」
完全に自分の考えを読まれていたタブーは、言葉を詰まらせる。
一方、アーカードはそれに、と付け加えて話を続ける。
アーカード「お前はふざけるなと言ったが、ふざけてなどいない。ふざけているのはお前だ。私はお前の余興に付き合っていただけだ。児戯のな」
タブー「児戯……だとッ……!」
一年かけて復活の準備としてあらゆる実力者を操り、戦士たちを滅ぼさんとしていたことを児戯と称され、歯軋りをする。
アーカード「ああ、そうだとも。一つ訊くが、お前はどうして世界の征服に拘る?」
アーカードの質問に、先程まで怒りの感情を表していたタブーは、態度を一転して、ハッと小馬鹿にしたような笑い声を上げた。タブーにとってそれは愚問だからだ。
タブー「聞くまでも無いだろう。力を持った者は支配する権利がある。言わば『選ばれた者』だ。弱肉強食と言うじゃないか。弱者が強者に支配されるのは当然の理屈だ。しかし、それでも人間のように弱い存在でありながら歯向かってくる者もいる。哀れなことだ、自然の摂理をまるで理解していないのだから」
話している内に気分が高揚して来たのか、タブーの語気が段々と激しくなってくる。
タブー「だが許せぬ!!実を結ばぬ烈花のように死ね!!蝶のように舞い蜂の様に死ね!!屑は私に陳情していればいいのだ!!そうしておくならば人間の存在も大目に見てやろう。敗北者に対する憐みの情を以ってな!!」
アーカード「ク…ククク……クハハハッ……クハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ……!!」
タブー「何がおかしい!?」
タブーが話している最中に、アーカードが突然笑い出した。胸を手で押さえ、笑いで息が苦しくなるのを抑えようとするかのように。
アーカード「言いたいことはそれだけか?お前は自然の摂理がどうのとか言ったが、盛者必滅という言葉もある。こちらもまた自然の摂理だ。結局、力による支配など到底無理な話。絵空事、甘美な叶わない夢だ。この私ですら一つの国の民を全滅させることになったというのに、ましてや世界全体を抑えつけようなどと、馬鹿馬鹿しいにもほどがある。それよりも……」
ふと、アーカードは真顔になり、話を仕切り直す。
アーカード「本当にそれが目的なのか?」
タブー「……どういう意味だ?何が言いたい?」
それ、とは世界征服のことを指しているのだろうが、意図が理解できない。
仕方ないな、と言ってアーカードは話す。
アーカード「お前は世界を支配するとか言っておきながら、言葉の端々に、戦士たちに固執しているようなことを言っていた。実際の所、戦士たちと戦い、打ち倒すのが目的なのだろう?」
タブー「……ああ、そうだ」
質問に対し、タブーは歯噛みをしながら答える。本当に自分の考えが筒抜けである。
一時的にとはいえ、アーカードと同化していたのが原因なのか?と思いながら。
タブー「私は戦士たちが許せない。ただ老いてゆくだけの無力な存在であるはずなのに、歯向かってくることが許せない。そのくせにこの私を倒したという事実が許せない。そしてこの私がそんな奴らに倒されたという事実が許せない。私は支配する権限を持った選ばれし者。奴らはそれにひれ伏す脆弱な者たち。今度こそそれを証明するために、私は戦士との決着を望んでいるんだよ」
その答えを聞いて、アーカードは深い……とても深いため息をつく。失望した、とでも言うかのように。お前は何も分かっていない、とでも言うかのように。
アーカード「そのただ老いるだけの人間の方が、我々のような化け物の何兆倍も、何京倍も美しいというのに……」
彼にとって、人間とは特別な存在。羨望の対象とも言える。
アーカード「確かに人間は弱い。だがな、彼らは弱いなりに知恵を、勇気を振り絞り、強い意志を持って戦おうとする。その時の力など、お前や私の比ではない。それに気付かないようでは、勝負にすらなりはしないだろう。……お前が負けるという意味でな」
タブー「言わせておけば!!」
逆上したタブーはエネルギー弾を一つ飛ばすが、アーカードは余裕でそれを避ける。
アーカード「怒ったか化け物。随分と気が短いな。これ以上はまともに聞く気が無いだろうが、最後に一つ教えてやろう」
ここでアーカードは、自分の考えの根幹にあるものの一つを言う。
アーカード「闘争の本質だ。「それを(●●●)打ち倒さねば己になれない」。そのために何もかも(●●●●)をひっくり返して叩き売りだ。ガキの喧嘩だろうと戦争だろうと根っこに違いは無い。結局の所突き詰めていけば、この戦いもそういうことだ……そうだ、五百年前の()も!今のお前も!」
己を認識するために闘争というものは起こる。タブーの場合、己になるために打ち倒すそれ(●●)とは……
アーカード「戦士たちと戦いたかったんだろう?でなけりゃ一歩も前に進めなくなったんだろう?進む術も知らんのだろう?そんなに自分の存在を認識し、形として残しておきたいか。無用者になるのが怖いか。忘れ去られるのが怖いか。禁忌(タブー)?……ふざけるな。ふざけているのはお前だ。お前は餓鬼だ。一年前から何一つ変わっていない痩せっぽちの餓鬼だ」
そう言って、彼は闘気を発散させる。
アーカード「さあ、来いよ糞餓鬼」
周りの空気が一気に張り詰め、爆発しそうな錯覚を覚えそうなほどの強烈なものだ。
もし常人がこの場にいた場合、数秒で失神してしまうだろう。
タブー「……そうか、そうなのか。いいだろう、戦ってやる」
つまり、アーカードは「そんなに戦士たちと戦いたいなら、まずは自分を倒していけ」と言っているのだ。
タブー「だがな、アーカード。こちらからも一つ教えてやろう。お前は“もう一つの世界”で幾百万の命を吸ってきたと言うが、“この世界”においてそれは何の意味も成さない。仮に一つの命を失うほどの攻撃を受けたら、復活する前にフィギュア化という現象が優先され……つまり、お前の負けとなる」
自分の最大の特徴である不死性がここでは発揮されないと聞いて、アーカードは……
アーカード「それでこそ、面白い。どのような弱いカードであっても、それに全てを賭けねばいけないことがあるからな」
余裕でいた。闘争の中に身を投じる以上は、例えどんなに不利な条件であっても全力で戦って果てて行く。それがアーカードという男だ。

タブー「人間に肩入れする化け物など、消え果てるが良い!!」
アーカード「人間の素晴らしさを理解しない者など、この私にすら勝てはしない……」

ちょうどこの頃、戦士たちはチーム分けが終わり、亜空間の奥へ向けて走り出していた。
王になろうとするもの。かつて王であった者。こちらでもまた、一つの戦いが始まる。

第32話 百億の生、千億の死を見つめる者~No life king

ダン!!
戦いはアーカードの持つ拳銃の一つ、ジャッカルから発せられた銃弾によって始まった。
タブーは正面にバリアを張り、それを防ぐ。……が、ビキッという音とともに、バリアにひびが入った。
タブー「やはり……」
やはりあの銃、ただものではない。そうタブーは思う。
アーカードが持っている拳銃は二丁。
銀色の銃、.454カスールカスタムオートマチック――改造カスールと、黒い拳銃、ジャッカルである。
拳銃でありながら、その呼び名に相応しくない程の大きさを持つそれらは、非常に高い威力を誇る。
両方の銃は元々吸血鬼との戦闘を前提として作られていることもあるのだが、それを差し引いても強力すぎる代物である。特にジャッカルは「もはや人類には扱えない」とまで言われている拳銃だ。
その威力は、先程証明された通り――タブーの作り出したバリアにひびを入れた。
いや、実を言うと、先程のバリアは完全な状態で出せたわけではない。
本来ならマスターハンドの全力の一撃をも余裕で弾くだけの強度があり、ジャッカルから放たれる13mm炸裂鉄鋼弾でも問題は無いはずだった。
しかし、バリアはタブーの羽から出されるエネルギーを基にして作られている。
つまり、羽が片方しか無い今、バリアの強度は不安定となっているのだ。
おまけに、羽を使う事で大きくエネルギーを消費することになってしまうため、防御するのは得策ではない。
ならば銃弾を回避するのが無難か、とタブーは判断する。
ワープを連続で使い、狙われにくいようにしながら、粒子状のエネルギー弾を大量に放っていく。


……数分が経っただろうか。アーカードとタブーの撃ち合いは未だに続いていた。
しかし、両者の戦い方は大きく異なっている。
タブーは先程述べたとおり、ワープで銃弾をかわしながら攻撃を加えるのに対し、アーカードはそれを全く避けようとせず、くらうにまかせてひたすら銃を撃ち続けていた。
タブー「(命のストックなど関係無いはずなのに、微動だにしない。もしや本当に不死身か、あいつは……?)」
一瞬、そんな考えがタブーの頭の中を過ぎるが、それは無いとすぐに否定する。
アーカードの再生能力が高すぎるだけなのだ。
彼は体の一部分――例え頭であろうとも――が吹き飛んだとしても、即座に再生してしまうほどの治癒力を持っている。タブーが放っている攻撃は確実にアーカードにダメージを与えているものの、それを上回るスピードで回復をしているのだ。しかし……
タブー「(流石に無限に回復し続けられるわけではないだろう。このまま行けば、いずれ私が勝つ!)」
そう思った矢先、不意にアーカードが射撃を止める。
タブー「何のつもりだ?」
実を言うと、アーカードが何を考えているのか何となく読めてはいたのだが、一応訊いてみる。
アーカード「……まだ本気を出していないだろう」
やはりそうか。確かに、タブーは様々な能力を持っているものの、ごくごく一部しか使っていない。
アーカード「来い、全力で」
そう、それがアーカードの戦い方。相手に全力を、全てのカードを出させ、その上で打ち破る。
単純であり、しかしそれでいて難解な、力のある者にしかできぬ芸当である。
タブー「良いだろう。貴様のその言葉、後悔するが良い」
タブーはアーカードの思惑にあえて乗る。
こちらも本気を出し、相手の手の内を全て攻略し尽くさんと考えたからだ。
タブーは右手を掲げ、巨大な手裏剣を形成させ……投げた。
それはアーカードに向けて飛んで行くが、ジャッカルの連射で撃ち落とされてしまう。
アーカード「(まさかこれで終わり、という事は無いな。次は……)」
アーカードは、この攻撃を以前デデデと戦った際に打破した。当然タブーもそれは承知しているはず。
つまり、ブラフ。次に何が来るのか、とアーカードは待ち構える。
タブーは今度は――と言っても、手裏剣を投げた直後なため、ほとんど間をおかずにであるが――両手を広げ、ダークキャノンを出し、アーカードのいる一帯にめがけて撃った。
これをアーカードは……大きく後方に跳ぶことでかわした。
本来なら攻撃は受けるだけ受ける主義のアーカードだが、あの一撃をくらえばただでは済まない。
そう判断しての行動だった。
ダークキャノンが放たれた直後はまばゆい閃光でよく見えなかったが……先程まで自分がいた場所はクレーターになっており、極小の隕石が落下した後のようだった。
アーカード「中々、どうして……大した威力だ」
感嘆の声を上げ――自身の周りで小さな光が幾つも点滅していることに気が付いた。
タブー「そこだ」
タブーはパチン、と指を鳴らす。その瞬間、爆発が起こった。
実を言うと、タブーの先程のダークキャノンも一種の囮だったのだ。
ダークキャノンからレーザーと同時に発せられる強い閃光を利用して目をくらまし、その隙に、タブーは自分の能力の一つである「遠隔爆破」――予め光を発して予告し、その場所を爆発させるというもの――を使ったのだ。
それがアーカードを巻き込んだ。だが……
タブー「どうした、アーカード。早く立て」
先程の攻撃で仕留められたなどと、タブーは微塵にも思っていない。
爆炎が晴れた場所には案の定……不死王が立っていた。ハハハハハ、と高笑いしながら。
アーカード「そんな攻撃を隠し持っていたとはな。成程、確かにお前は強い。それならば、こちらもそれに応えてやろうじゃないか」
そう言うと、アーカードは両手を顔の横に添えた。
タブー「(……あれが来るか!)」
タブーには見覚えがある。数日前、彼がルーク・バレンタインという吸血鬼と戦っているのを陰から見ていたが、その最中に彼が見せたもの……
アーカード「拘束制御術式、第三号、第二号、第一号解放。状況A、「クロムウェル」発動による承認認識。目前敵の完全沈黙までの間、能力使用限定解除開始」
アーカードは両手を正面へ移動させ、両方の親指と人差し指を合わせて縦長の長方形を形作る。
アーカード「では教育してやろう。本当の吸血鬼の闘争というものを」
そう言った瞬間、アーカードの全身が陽炎のように揺らめき、右肩から犬の頭が出てきた。
やがてアーカードの姿は原形を失っていき、代わりに一匹の巨大な漆黒の犬が現れた。
犬は歯をガチガチと鳴らし、涎を垂らしながら威嚇している。
タブー「(そうだ、これだ。この禍々しい感じ……ルーク・バレンタインとやらが恐怖し、逃げ出そうとした理由が分からなくもない……)」
アーカードの使い魔の一つ、黒犬獣(バスカヴィル)。
その体には無数の目があり、グロテスクさすら感じさせる。その使い魔が飛びかかろうとする姿勢を見せ――

既に目の前まで接近して、大口を開けていた。
タブー「何ッ!!」
咄嗟にタブーは左腕を刃に変形させ、噛みつかれるのを防ぐ。
速い。相手が来ると分かっていたにもかかわらず、防御するのが精一杯だった。
ふと黒犬獣を見てみると、首の付け根のあたりからもう一つ頭が生えてきた。
……その口からはジャッカルを握ったアーカードの腕が出ている。

ダン!!

タブーは左腕を振り回し、黒犬獣を投げ飛ばすことでジャッカルの照準をぶれさせ、弾丸をかわした。
タブー「危なかった……!」
まさしくぎりぎりのタイミング。あと一瞬でも反応が遅れていたら、ただでは済まなかっただろう。
一方、投げ飛ばされた黒犬獣は姿を崩し、再びアーカードが現れた。
ただし、先程までの赤いコート姿ではなく、黒の拘束衣を着た恰好である。
アーカード「どうした、まだ一撃仕掛けただけだぞ。かかって来い」
タブー「ああ、まだこれからだ」
催促をするかのようなアーカードの挑発にタブーは乗る。
彼はワープをしてアーカードの背後に回り込む。
アーカードは即座に後方へ銃を向けるが、その瞬間にタブーは再びワープをして真上へと移動。
再びタブーはアーカードに反応される前にワープ……これを繰り返す。
早い話が、ワープを利用した錯乱。目で追えなくなるほどのスピードで移動をし、銃で狙いにくくさせる。
更に、少しずつ自分の体から分身を出していき、その効果を高めさせる。
そしてアーカードが我慢しきれずに分身の一体に向けて銃を撃ったら最後。その瞬間に串刺しにする。

ダン!!

案の定、アーカードは分身に撃った。
タブー「残念だったな!!」
それと同時に、本物のタブーはアーカードの背後へワープし、右腕を細長い槍のように変形させて――


心臓を貫いた。


貫いた場所は吸血鬼の生命の源。そこを攻撃されれば、いくらアーカードとて――
アーカードが突然、体をタブーに向けて捻った。
それによって体が切り裂かれることなど意にも介していないといった様子で。
アーカード「惜しかったな。あとたった数ミリだったというのに」
タブー「何故……!?」
アーカード「悪くは無い。だが典型的すぎたんだ」
僅かな質疑応答で、タブーは攻撃が通用しなかった原因を探ろうとする。
典型的すぎた、とは攻撃の手段のことか。背後からの攻撃は、不意打ちにあたって最も有効な手段。
だがそれ故に、先程の連続ワープによる錯乱を使われようと、後方から虚を突いてくることは分かりきっていた。
だから、アーカードはわざと攻撃を――心臓からほんの僅かに逸れるように体を動かし――受けた。そういうことなのか。
しかし、これ以上考えている暇はタブーには与えられていない。目の前でアーカードが拳銃を二丁突き出しているからだ。
対して、タブーの方はというと、槍に変形させた右腕がアーカードに突き刺さった状態で、すぐに引き抜くことはできない。それに、銃弾をバリアで防御する余裕も無い。

ダン!!

――そのため、タブーは左腕を正面に持って行き、盾代わりにすることにした。

ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!

銃弾が次々とタブーの左腕に当たっていく。
一発一発の衝撃が非常に大きく、タブーに着実にダメージを与えていく。

ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!

十二発目の銃弾が当たり、今まで防御に使われていた左腕は限界を迎え――至近距離からのアーカードの拳銃の連射をそこまで耐える辺り、タブーの頑丈さは相当なものだったが――下ろさざるを得なくなってしまった。
それによってタブーの前面はがら空きに。そこへ、アーカードはジャッカルの照準を合わせる。
狙うはタブーの胸部で光り輝くコア。

ダン!!

ジャッカルから放たれた13mm炸裂鉄鋼弾はコアを正確に貫いた。
それによってタブーの姿がぼやけ――
アーカード「……!?」
今まで余裕の態度でいたアーカードが、初めて驚きの表情を見せる。
違う。今撃ったものは違う。
現に、さっき撃ったタブーの姿はかき消えたというのに、タブーがもう一人目の前に存在しているのだ。
タブー「残念だったな。……尤も、こちらもぎりぎりだったが。お前が今撃ったものは私の分身だ」
タブーはジャッカルの弾が被弾する直前、咄嗟に分身を造り出し、盾にしたのだった。
タブー「今度はこちらの番だ」
そしてタブーは、未だにアーカードに突き刺さっていた右腕から光の鎖を取り出し、手前に引っ張った。
右腕がアーカードから抜け、光の鎖も抜け――ることは無く、突き刺さったままだ。
鎖の先端が返し矢のように逆方向に刃ができている構造上、こうなる。
タブー「そらッ!!」
タブーは鎖を思いきり振りまわし、アーカードを宙へ持ち上げ、地面へと叩き付けた。
タブー「ほら!!」
再びアーカードを振り回し、叩き付ける。

タブー「ハハハハハハハハ!!」
一方的にタブーのペース。既に数十回は地面に叩き付けられ、アーカードは動かなくなっていた。
そこでタブーはアーカードを念入りに鎖で縛りつけて放り投げ、羽を出す。
タブー「よくここまで手こずらせてくれたな。どうせ最後だ、この私の最強の技で終わらせてやろう」
タブーはOFF波動を出すため、エネルギーを溜め始める……。



――……ター!!マスター!!しっかりしてください!!

……どうした。五月蠅いぞ、婦警。そんな大声で私を呼ぶな。それよりも、何故ここにいないはずのお前が私のことを呼ぶ。幻聴が聞こえるようにでもなったというのか?

――あ、ちゃんと意識があるじゃないですか。安心しました。

……質問の答えになってないぞ。まあ良い。この私があんな奴に後れを取ることなど有りはしない。

――ですよね!マスターだったらあんな奴なんかに負けないですよね!やっつけちゃってください!

ああ、そうだな。



つい先程までピクリとも動かなかったアーカードは突然目を覚ましたかと思うと、自分の体を縛りつけている鎖を引き千切るべく、全身に力を込める。
タブー「馬鹿が!それはマスターハンドをも意のままにした光の鎖だぞ!その程度でどうにかなるとでも――」

ミチ ミチ

妙な音が立っている。
まるで何かが大きく押し広げられ、その繊維が割かれているような感じだ。
音源は――鎖。
タブー「(!まさか本気で破ろうとでもいうのか!?)」
直感的に察したタブーは、OFF波動を出すべく、急いで力を溜める。
一方、アーカードはバリィ、という音を立てて完全に光の鎖を引き千切り、タブーのもとへ走り始める。
彼我の距離は数十メートル。だが高い身体能力を誇る吸血鬼にとって、その距離は無いに等しい。
瞬く間に空中に浮かぶタブーのもとへ跳んで行き、貫手の構えを取って――
タブー「グッ……!」
タブーの胸を貫き、その中心で光るコアを鷲掴みにした。
アーカード「タブー、やはりお前では駄目だ。私を倒せるのは化け物ではない。私を倒して良いのは人間だ。強靭な意志の、人間の心を持った者でなければいけないんだ!」
タブー「させ…るかァァァァァァァァァァ!!!!」
アーカードがタブーのコアを握りつぶす直前、タブーはOFF波動を……放った。

第33話 FINAL FANTASY Ⅰ

亜空間の最深部へ向けて走っていた戦士たち。
漆黒の騎士と遭遇した時から時間はたっており、そろそろ目的地へ着くのではないかと皆が思い始めた頃、


ゴウッ


突風が起こった。
別に誰かが吹き飛ばされてしまうような強いものではなく、腕で顔面を保護する程度のものであった。
レミリア「……さっきのは何?」
しかし、ただの突風ではないことは全員知っている。
今のレミリアのように、顔を強張らせた者が大半だろう。先程の突風には強大なエネルギーが感じられたのだ。
マリオ「覚えがある。一年前、俺たちがタブーと戦った際に奴が見せた最強の技、OFF波動……それに近い感じがした」
もしやタブーは既に復活して、それを使ったのでは……。嫌な予感がする。
だが、それと同時に一つ疑問が残る。
仮にタブーが復活していたとして、何故周りに敵がいないはずの状況で攻撃技を使うのか……?
マリオ「とにかく、先を急ごう!」
疑問はこの場で考えても解決しない。そう思って再び戦士たちは走り出す。



アーカードはタブーが最後に放ったOFF波動を受けていたが……生きていた。
アーカード「やはりお前では無理だったな……」
独り言を呟きながら右手にあるタブーだったもの――コアを見つめ……手に思いきり握力を加える。
コアにはひびが入り、たちどころに砕けた。……それが禁忌の最後だった。
そしてアーカードは受けた傷を回復し――
アーカード「(……再生しない?)」
――ようとしているのだが、いつものように傷が塞がってこない。
僅かに回復はしているかもしれないが、それだけ。せいぜい一般人が持つ自然治癒力をほんの少し上回る程度のものだろう。
……さて、ここで一つ説明しておこうと思う。何故アーカードはOFF波動を受けながらフィギュアにならずに済んだのかを、だ。
元々タブーのOFF波動は羽から発せられており、片方の羽を完全に破壊されたことで威力が半減していた。
しかし、本来なら羽が両方破壊されていようとも一撃必殺の威力を十分に残している。
では何故アーカードはフィギュアにならなかったのか。
そこで一つ思い出して欲しい。
タブーはOFF波動を放つ直前、アーカードに自分の心臓にあたる部分――コアを掴まれていた。
生命を司る器官が破壊される直前に、満足な状態で技を放つことが可能だろうか。当然、威力は落ちるだろう。

以上の二つの要因により、タブーはOFF波動を本来の数割の威力も発揮できていなかったのだ。
……とはいえ、OFF波動がアーカードに何も影響を及ぼさなかったかと言えば、そうでもない。
OFF波動とは攻撃する対象の身体機能を強制的に「OFF」にさせ、フィギュア化させる技。
今回のそれは、威力が落ちていたことで身体機能の“一部”を停止させただけにとどまったのだ。
そう、アーカードの自己再生能力が「OFF」にされてしまったのである。
アーカード「これが奴の置き土産、というわけか……」
自己再生能力が使えないのは永久になのか、それとも一時的なものなのか……。
一つだけ言えるのは、このままの状態で戦士たちと戦わなければいけないということだ。
元々アーカードは戦士たちとの決着をつけさせるため、予めレプリカを造り、相手をさせていた。
そうやって戦士たちに手間をかけさせている間にタブーを倒すために。
だから、もうじき戦士たちは来る。来なければおかしいのだ。
アーカード「(……しかし参った。万全の状態で戦う事が出来ないとは……)」
待望の瞬間が目の前まで来ているというのに、こちらのミスで不都合なことが起こってしまうとは。
もし万全の状態でいられたら……。
アーカード「……それは違うか。常に良いことが起こり続ける保証など無い」
現状に対する不満の念が頭の中を過ぎったが、アーカードはすぐにそれを否定する。
闘争において、最善の状態で戦えないことなど珍しくは無い。
どのような作戦を立てようと、上手くいくとは限らないのだ。
アーカード「(……それに、)」
それに、と付け加えるような感じでアーカードはこう考える。
タブーと戦う直前に、「どのような弱いカードであっても、それに全てを賭けねばいけないことがある」と言ったのではないのか。
仮に闘争が行われたとして、誰かが自分を殺し、打ち倒し、朽ち果てさせようとした場合、殺そうとした奴も殺され、打ち倒され、朽ち果たされる覚悟を持ち合わせていないといけない。
因果応報。誰にも違えることのできない唯一つの理だ。神も、悪魔も、もちろん自分自身にも。
先に言った例え話にしろ、逆の立場――自分が誰かと戦うとした場合――も同様のことが言える。
今回の闘争において、仕掛けてきたのは自分。それに対抗するのは戦士たち。
ならば自分が打ち倒される覚悟を持ち合わせていないといけない。
体調が万全ではないと不満を述べ、戦士たちと戦って敗北した場合、それを言い訳に逃げる。
それは自分が打ち倒される覚悟を持ち合わせていなかったという事。
それではいけない。自分の都合の良いように闘争の理を捻じ曲げるなど、小悪党と変わらない。
アーカード「ならば私があいつらにしてやれるのは、今出せる力を出しきることだ」
それが、こうして戦う事を受け入れてくれた戦士たちに対するアーカードなりの礼というものだ。
アーカード「……来たか」
そして前方を見つめる。視界に入って来たのは、戦士たちの姿。



リンク「これって……どういう事なんだ?」
タブーが復活してしまったと思い、急いで戦士たちは亜空間の最深部へ来た。
だというのに、そこで待っていたのは、ある意味予想外な光景。
ファルコ「おい、何でテメェしかいねえんだよ?」
アーカードが佇んでいる。ただそれだけのこと。しかし、それがおかしいのだ。
何故復活したはずのタブーがいない。
先程のOFF波動は、この場にいる戦士、二十一人全員が感じ取っていた。実は気のせいでした、みたいなことなど有り得ないのだ。
ファルコがアーカードに向けて放った問いは、一体タブーをどうしたんだという意味も込められている。
アーカード「タブーはこの私が消した。……哀れな化け物だったよ。自分の力を妄信した末に散っていったのだからな」
一切の感情を込めず、アーカードは淡々と答える。
ソニック「おいおい、仲間割れってヤツかい?」
ソニックが囃し立てるように言うものの、当の本人は仏頂面のままだ。
アーカード「仲間、という表現は違う。私は“この世界”へ来てお前達と戦いたかっただけだ。タブーはそれを利用し、尚且つ自分の復活と世界征服をしようとしていた。互いに信頼していたわけではない。それぞれの考えが噛み合わないのが続いて行き……こうなったというわけだ」
マリオ「……なあ、アーカード。一つ聞きたいことがあるけど、いいか?」
そこへマリオが口を挟む。
マリオ「ちょっと引っかかることがあるんだ。アンタは空中スタジアムで「きっとお前たちなら、私のような化け物を倒してくれるに違いない」って言ってたよな。まるで自分が倒されることを望んでるようにも聞こえるけど、どうなんだ?」
それはマリオがアーカードと二度目の対面をした際に感じた疑問。
それに対しアーカードは口を真一文字に引き伸ばし――微笑みとも、自分への嘲笑ともとれるようなものだ――答える。
アーカード「その通りだ。私は人間に倒されることを切に願っている」
マリオ「どうしてだ?何でアンタみたいに強い奴が倒されることを望んでるんだ」
マリオは、強力な力を持っている者たちをこれまでにも大勢見てきたが、その中でも敵対した存在は自分の能力に絶対の自信を持っており、それを如何無く発揮しようとしていた――分かりやすい例で言えば、世界征服といったところか――者がほとんどだった。
しかしアーカードは、そういう者たちとは一線を画している。
一体どういった理由でそのような考えを持っているのか。
アーカード「……少し、昔話をしようか」
ポツリ、とアーカードが放った言葉。その言葉にこの場の者たちが耳を傾けることとなった。



昔、ワラキアという国に一人の少年がいた。
彼は公家の出身で高い身分にはいたのだが、ある時アラブ人から暴行を受け、心に傷を負った。
普通ならばその時助けを求めただろう。親、兄弟、或いは自らの信奉する神か……。
「神様、私は決してあなたにお願いなど言いません。神様、私は決してあなたに慈悲を乞いたりはしません」
だが、少年は助けを求めるために悲鳴を上げるような真似はしなかった。それは何故か。
少年はこのような信条を持っていたからだ。
『神は助けを乞う者を助けたりしない。慈悲を乞う者を救ったりしない。それは祈りではなく神に陳情しているだけだ。死ねばよい』


やがて少年は成長し、ワラキアを治める立場となった。
時は戦乱。彼は自らの信条の基、国民をも巻き込んで闘争の日々に明け暮れて行く。
祈りのために。神に陳情するのではなく、神に祈るために。


戦え。皆、戦え。
戦いとは祈りそのものだ。あきれかえる程の祈りの果てに神は降りて来る。
神の王国(イエルサレム)は降りてくる!!


百人のために一人が死ね。
千人のために十人死ね。
万人のために百人死ね。
ならば億土の神の世界(クリスタニア)のためにこの私の小さな世界が燃えて墜ちても、その果てに神は降りてくる。
それは私の祈りの果ての神の王国(イエルサレム)だ。


皆で祈れ(たたかえ)。
裂けて砕けて割れて散る祈りと祈りと祈りの果てに。
みじめな私の元に、あわれな私達の元に、馬の群れのように。
神は降りてくる!!天上から!!







……それで、降りてきたかね?神は。楽園(エルサレム)は。


神は降りてこなかった。彼は弟に裏切られ、戦争に敗北。
領民は全滅し、自分自身も敵の手によって斬首刑にさせられようとしていた。


どうした、答えろよ王様。狂った王様。


皆死んだ。皆死んだぞ。
お前のために。お前の信じるもののために。
お前の楽園のために。お前の神様のために。お前の祈りのために。
皆死んでしまった。


お前はもう王じゃない。神の従僕ですらない。
いや、もはや人ではない。
敵を殺し、味方を殺し、
守るべき民も、治めるべき国も、
男も、女も、老人も、子供も。
自分までも度し難い……全く以て度し難い化け物だよ、「伯爵」。


だが、それでもなお彼は諦めを踏破した。
彼は首を斬られる直前に吸血鬼となったのだ。


不死は素晴らしい。能力は眩しい。血液を通貨とした魂の、命の同化。
手に入れた強大な力を利用して散々暴れたりもした。


……しかし彼は疑問に思い始める。不死という存在そのものに。そして自らが闘争を続ける理由も。
不死になるという事は、時を経るにつれて人間だった頃の心を失っていくのと等しいのではないのか。
城も、領民も、思い人の心も。死なないということは最初から心が死んでいるのと同じ。


闘争だってそうだ。
彼は血みどろの戦いを望んでいた。しかしそれは戦争戦斗を望むものから変化していった。
……言うなれば死を望む絶叫といったところか。
闘争から闘争へ。何から何まで消えてなくなり真っ平らになるまで歩き歩き続ける幽鬼。
今の彼――つまりこの私がそうだ。


「不死の王」なんて大層な呼ばれ方をしているが、その実は人間でいる事にいられなかった弱い化け物でしかない。
そのような化け物は人間に倒されなければいけないんだ。
私が全身全霊で戦ってもなお打ち倒してくれるような、「強靭な意志」を持った人間たちに。
そのような者に会うため、私は戦いを続けていく……。



マリオ「……つまり、それがアンタの戦う理由か」
アーカードの話の後、しばらくの間は沈黙が流れた。
彼の持つ「人間をやめ、人外の存在になってしまったことへの悲しみ」……戦士たちはどのような思いを抱いたのであろうか。
そんな中、マリオが確認するように問いかけ、アーカードはそれに肯定する。
アーカード「ああ、そうだ。そしてお前たちに一つ頼みがある」
ここでアーカードは一息つく。
戦士たちならば、きっとこの願いに応えてくれるだろうと期待して。
アーカード「私は今、出せる限りの力を出してお前達と戦う。だから、お前達も全力で戦って倒して欲しい。……この我儘な化け物の願い、聞いてくれるか?」
勿論、その問いに否定の言葉を返す者はいなかった。
マリオ「分かった。俺たちはこれからアンタを倒すという意志のもと、戦いを始める」
マリオの言葉を聞き、アーカードは微笑んだ。そして感謝の言を一つ。
アーカード「感謝する」


……今ここに、戦士たちと一人の吸血鬼の戦いの火蓋が切って落とされた。

第34話 FINAL FANTASY Ⅱ

マリオ「行くぞ!」
数ある者たちの中で、一番手を取ったのはマリオ。彼はアーカードへ向けて走って行く。
アーカードはそれを迎撃するために銃を撃つような真似はしない。
マリオがマントで飛び道具を跳ね返せることを知っているからだ。
それを分かっていながら撃つのは下策、愚の骨頂。だからこそ、何もせずに待ち受ける。

一拍――と半分ほどの時間が経過した所で、両者の距離は一メートルを切った。
マリオは右ストレートをアーカード目掛けて放つ。
アーカードはそれをまともに受け――ずに手首を掴むことで阻止する。

本来アーカードは防御や回避をすることなど滅多に無い。自身の耐久性の高さが半端なものではないからだ。
しかし、今は回復力の高さが封じられているため、無駄に攻撃は受けられない。
だからこそ、本来は取らない選択肢を選ぶ。
元々、吸血鬼は高い身体能力を誇る。
一つ例を挙げるとすると、彼らは複数の兵士のマシンガンによる掃射だろうと余裕で避けてしまうのだ。
勿論、アーカードも同等、或いはそれ以上の身体能力を持ち合わせている。
だからこそ、防御や回避という行動を選択肢に加えることで、再生能力が失われたという弱点をカバーしているのだ。

右手首を掴まれたマリオだが、ここで攻撃を止める真似はしない。
今度はハイキックを――身長差を補うために軽くジャンプしながら――顔面に向けて放った。
しかしアーカードはそれを開いている左腕で防ぎ――

マリオがニッと笑った。

マリオの右手は開かれており、そこから紅い光が発せられている。
アーカード「(……させるか!)」
何をしようとしたのかアーカードは瞬時に理解し、マリオを投げ飛ばす。

マリオが投げ飛ばされたのと、彼の右手からファイアボールが放たれたのは同時だった。
マリオ「あー、惜しかったなぁ」
マリオは着地して、少しだけ悔しそうな感情を覗かせた声を上げる。
先程のハイキックはブラフ。本命は右腕だった。
掴まれていてほとんど自由が利かなかったのは確かだが、唯一動かせる個所があった。掌だ。
もし拳全体を掴まれていたらこうは行かなかっただろう。
もっとも、アーカードの反応速度がマリオの攻撃速度を上回ったことに変わりは無いが。
アーカード「何、今のは中々良かったぞ」
先ほどとは逆に、アーカードがマリオに向けて走って行き、攻撃を――

突如、彼の視界がピンク色に染まった。

それと同時に横方向から衝撃を感じ、軽く吹き飛ばされる。
ピーチ「私たちもいるってことを忘れないでほしいわ」
ピーチが割り込んで、ヒップアタック――ピーチボンバーを繰り出したのだった。
ゼルダ「はぁっ!」
そこへゼルダが間髪入れずにディンの炎を放つ。
一方、アーカードは炎の球体が迫ってくる間の僅かな時間に体勢を立て直し、後方へ退避。
結果、ディンの炎を当てることはできなかった。
しかし、これによってアーカードはマリオから引き離されたことになる。

ルカリオ「次の相手は私だ!」
マリオに代わる形で、ルカリオがアーカードの前に出る。
アーカード「次は人ならざる者か……」
ルカリオ「人間が相手でないと不服か?」
どことなく残念そうに言ったように聞こえたため、ルカリオは質問をしたが、アーカードは否と首を振って否定する。
アーカード「私を倒すという意思はあるか?あるのなら、相手をするに充分だが」
ルカリオ「……そうか」
ルカリオは相手の意思を汲み取る。
アーカードが倒されることを望んでいるのはただの人間ではない。
化け物と対峙しても尚、明確に「倒す」という意志を持った人間――正確に言うならば、そのような「強靭な意志を持った存在」と戦って逝くことを望んでいるのだ。
つまり人でなくとも、意志を持っているならば或いは……。

ダン!!

アーカードが改造カスールを撃ってきた。
それの銃弾がルカリオに当たり――
ルカリオ「甘い!!」
ルカリオの姿が消え、いつの間にかアーカードの頭上にいた。
実は、地上にいた方は影分身で作り出した幻影である。
ルカリオには相手を舐めてかかるつもりなど微塵も無い。その時の全力を以って戦う。
つまり、この影分身が最善の手。そして頭上を取った。後は真下に足を下ろし、相手の頭蓋を砕く。
そう思って右脚を――

掴まれた。

ルカリオ「何故分かった!?」
アーカード「吸血鬼に幻術の類は効かない。残念だったな」
短い会話だった。それ以上の言葉を続ける代わりに、アーカードは行動を起こす。
ルカリオの脚を掴んだ左手を思いきり振り回し、地面に叩き付ける。
地面が少し凹むほどの衝撃で、叩きつけられた本人は動けなくなった。

ファルコ「おい、次は俺が相手だ!」
今度はファルコが前に出る。
アーカード「……確か、私に真っ先に攻撃を仕掛けてきたのだったな」
ファルコ「ああ。あの時のケリ、付けてやるぜ」
初めて彼と遭った時、ファルコはアーカードに先制攻撃を仕掛けながら、その後あっさりと返り討ちに遭ってしまった。
本人にとっては我慢ならないことだ。だから、その時の借しを今ここで返す。

ファルコはブラスターを二丁取り出し、連射する。
アーカードは以前のようにわざと受けるような真似をせず、ブラスターから放たれるレーザーを余裕を持ってかわす。そして、お返しとばかりに改造カスールとジャッカルを連射していく。
銃撃戦だ。
互いに走って弾をかわしていきながら、隙を突いて銃撃という行動を数回、数十回と繰り返していく。

数分後、
ダン!!
ファルコ「グッ!」
銃弾がファルコのブラスターの内、片方に命中。
当然、この時点でファルコの得物は片方しか使えなくなった。
それで生じた隙を突くべく、アーカードはジャッカルの照準をファルコに合わせる。
対してファルコは何かを蹴り飛ばし――

ダン!!

銃弾がファルコが蹴った物体に当たった。その瞬間、物体が青く輝き、銃弾を弾き飛ばす。
ファルコ「どうだ、自分の銃弾の味は?」
ファルコが先ほど蹴り飛ばしたのはリフレクター装置。
それによって弾かれた銃弾はアーカードの脇腹を掠めた。
アーカード「ハハハハハ……悪くは無い」
そう言うと、アーカードの姿が炎のように揺らめき始めた。
アーカード「では、こういうのはどうだ?」
やがてアーカードは原形を無くし、代わりに黒犬獣が姿を現した。
黒犬獣は大口を開けながらファルコへ突っ込んで行き――

ボン!!

黒犬獣の口の中で何かが爆発した。
突然のことに驚き、首を振って周りを確認すると、ロケットランチャーを構えたスネークと目が合った。
黒犬獣は目標をスネークへと変え、突進しようと――

メタナイト「させるか!」

――したところで、メタナイトが上空から急降下。斬りかかって来た。
しかし、黒犬獣は体を少しだけ変形させ、すんでの所で斬られないような体形にする。
それによって、メタナイトの剣は目標を捉える事が出来なかった。
メタナイト「まだだ!」
だが、ここからが仮面の騎士の真骨頂。
二撃目、三撃目と次々と斬撃を加えて行く。
しかも攻撃の速度が次第に上がって行き、ダメージを増やしていった。

ダン!!

突如、銃声が響いた。
黒犬獣の口からアーカードの腕が出て、発砲したためだ。
メタナイトは咄嗟に避けたが、その間に黒犬獣は彼から距離を取って――

突っ込んで来たと思いきや、彼を飲み込んだ。
しかもそのままの勢いで、近くにいたMr.ゲーム&ウォッチまで飲み込んでしまった。
黒犬獣は二人を飲み込んだ後、他の戦士たちに狙いを定め――

「グォォォォ!!」
呻き声を上げながら、突然フィギュア化した二人を吐き出した。
理由は簡単。ゲーム&ウォッチが飲み込まれてフィギュア化される直前、ジャッジを使ったのだ。
不確定要素の多い技だが、幸いにも数字は「9」……最も強力なものを出していた。
さすがに強力な攻撃を体の内側から、しかも二回もくらった黒犬獣は体力の限界が近かった。
アーカード「……戻れ」
声がしたと思ったら、黒犬獣の姿は消え、再びアーカードが現れた。
アーカード「(こうして戦い、押されるのは何年振りか……)」
ふと、アーカードはそんなことを考える。
思い出すのは百年前、自身がロンドンに攻め入った際に戦った四人の人間のこと。
アーサー・ホルムウッド、キンシー・モリス、ジャック・セワード……そしてエイブラハム・ヴァン・ヘルシング。
彼らはただの人間だった。
しかし、その誰も彼もが諦めることなどせず、命を散らせながら戦っていき……最終的に自分を倒した。
今戦っている戦士たちだってそうだ。
一度は敗れた者もいたが、それでも尚、自分を倒すという意志のもと、こうして相見えている。
その中には人外の存在もいるが、彼らは彼らで面白いものがある。
ルカリオは影分身を破られてあっさりと倒れてしまったものの、それはあくまで影分身と吸血鬼の相性が悪かったからに過ぎない。別の戦い方をしたなら、また違った勝負となっただろう。
ファルコは前に一度倒されたが、それに臆せず、むしろその悔しさをバネにして一矢報いることに成功した。
メタナイトも同様だ。彼は自身の剣技に誇りを持っている。だからこそ、昨日戦って敗れながらも、再び同じ剣技で挑み、黒犬獣にその刃を通した。
そしてMr.ゲーム&ウォッチ。黒犬獣に一瞬で飲み込まれてしまったという状況の中、諦めずに一か八かの判断(ジャッジ)を下した。その結果、黒犬獣を撃退するのに成功した。
彼らは人間と同様の、揺るぎない意志を持っている。それ故に自分とこうして戦えているのだ。
アーカード「(何だ、やはり彼らはマスターハンドの狗ではなかった。昨日の戦いは結論を急ぎすぎていたな)」
初めて空中スタジアムで対面した時、戦士たちを見下して戦っていたことを後悔する。
アーカード「やはり、お前たちは素晴らしい。間違いなく宿敵に値する」
だから、その時のお返しも兼ねて現時点で出せる限りの力を出す。

今度はアーカードの背中から腕が生えてきた。
……いや、腕と形容すべきか困るかもしれない。
腕と言うわりにそれは異様に長く、関節とおぼしきものが二つも三つもあり、なおかつ何本も生えているからだ。
その様は、アーカードに触手か翼が生えたのかと思わせる。
何も黒犬獣を召還することだけが拘束制御術式解放ではない。このような使い方もあるのだ。
アーカード「……行け」
短く命令すると、それらは一斉に戦士たちのもとへ向かって行った。

第35話 FINAL FANTASY Ⅲ

トゥーンリンク「あんなのがあったなんて……!」
アーカードから腕のようなものが生えてきたかと思うと、いきなりこっちへ殺到してきた。
トゥーンリンクは咄嗟に盾で防ぎ、目の前にある腕の一本を斬り落とす。
だが、いかんせん数が多い。どれだけ斬っても波状攻撃のように次から次へと腕が向かってくる。
また腕が一本迫って来たので、斬り落とし――


背中に軽い衝撃が走った。
それと同時に、何か小さいものが少しずつめり込んでいくような不快感が伝わってくる。
考えたくないが……恐らく背中に当たっているものはアーカードの操る手。
きっと、手がこの身体を貫こうとしているに違いない。
何故痛みを感じないのかと一瞬疑問に思うが、それはきっと手がまだ身体の中に達していないから。
人は命の危機が迫ると、刹那の時間が何秒、何十秒にも引き伸ばされたかのような錯覚を受けるという話を聞いたことがあるが、今がそれなのか。
だが、それだけの時間が与えられようと、その手をかわすことはできない。
全ては手遅れ。トゥーンリンクは目の前に集中しすぎて後方の警戒を怠っていた。
そのため、アーカードの操る手は彼の背後を突き、補足することに成功。
トゥーンリンクがかわす動作をする前に、貫かれることは確実。
手はゆっくりと前進してい――


「ファルコンキック!!」


――くことは無く、ファルコンによって阻まれた。
そして彼はトゥーンリンクの安否を確認する。
ファルコン「大丈夫か!?」
一瞬の出来事だった。
ファルコンはふと仲間達の様子を見てみると、偶然にもトゥーンリンクの後方数メートルにアーカードの手があるのを見つけたのだ。
それが今にも攻撃するのではないかと直感的に察し、彼は走り出した。
ファルコンが走り出した直後に手が動き出したが、間一髪で間に合った。
彼のスピードが戦士たちの中でもトップクラスであるからこそできたのだろう。
他にこんな事ができるのは……ソニックぐらいか。
トゥーンリンク「うん、大丈夫だよ。キャプテン・ファルコン」
仲間の無事を確認したファルコンは安堵する。
ファルコン「そうか。だがあまり油断するな」
そう言うと、彼は目の前に迫って来た腕の一本を殴り飛ばす。
現状、この場にいる皆がアーカードが出してくる腕の相手で手一杯だ。
数は多く、いつこの攻撃が途切れるのか分からないが、今は目の前のことに対処するのが一番だろう。
トゥーンリンク「そうだね……じゃあ行くよ!!」
二人は戦闘を続行する。


ワルイージ「こんなの当たるかってのww」
周りの戦士たちが必死になって腕の相手をしている中、ワルイージはそれらを優雅に避けていた。
ワルイージ「ほいほいッ、ほいほいのほいッと」
目の前から突っ込んでくる腕があれば、体を地面すれすれまで平行に倒すマト○ックス避けをやり、
足元を狙ってくる腕があれば、ふわりとその場でジャンプし、
四方八方から迫ってくる腕があったら、ビールマンスピンをして腕の隙間を掻い潜ったり……
彼はちゃんと骨が付いてるのかよと突っ込みたくなるぐらい細い体の持ち主であるため、攻撃をくらう面積が少なく、意外に回避に向いているのだ。ちょっと得な体型である。
ちなみに、体型上攻撃を避けやすい仲間というと、背の低いオリマーも含まれる。
彼はというと、相変わらず攻撃をかわしながらピクミンを振り回していた。
つくづく思うが、ピクミンには優しくしてあげた方が良いような気がする。

さて、話を戻そう。
腕の攻撃を避けながらも、「埒が明かねーし面倒くせーなぁ」とワルイージは思っていた。
ワルイージ「何か一気に吹っ飛ばせるやつでも……」
近くにスネークがいるのを見て閃いた。
ワルイージ「おい、スネーク!」
呼びかけながら目標の人物に近付いて行く。
何だ、と訝しがるスネークを尻目に一言。
ワルイージ「借りてくゼ!!」
そう言うやいなや、スネークの持っている手榴弾を全てひったくってしまった。
スネーク「ちょっと待て何するやめろ!!」
奪われた本人は怒っているが、そそくさと逃げだしたワルイージにとっては関係の無い話である。
どうせこれで一網打尽にしてやればいいのだ。何も、問題は、無い。
ワルイージ「粉砕!!」
数ある手榴弾の内、一つだけ安全ピンを外す。
ワルイージ「玉砕!!」
で、持っていた手榴弾を全部アーカードに向けて投げる。
ワルイージ「大喝采!!」

ズドドドォォォォォォン!!!!

大規模な爆発が起こった。
ワルイージ「勝った!!禁忌の継承者、完!!」
高らかと勝ちを宣言するワルイージ。爆炎で周りがよく見えないが、きっと倒せたはず――


――無数の手が、迫って来ました。
ワルイージ「くぁwせdrftgyふじこlp;」
そりゃ手榴弾を投げたことで相手に居場所を教えてしまったも同然なんだから、当然狙われるわけで。
彼はお星様……もとい、フィギュアとなってしまいました。

……が、この行動が無駄だったというわけではない。
アーカードの操る腕は全てワルイージのいた場所に集まっている。チャンスだ。
マリオ「ポポ、ナナ!受け取れ!!」
マリオはクッパから渡されたスマッシュボールを二人に向けて投げる。
本当はマリオ自身が使いたかったのだが、それよりも彼らの切り札の方がこの状況を打開するのに向いていると思ったからだ。
ポポ「分かった。いくよ、ナナ!」
ナナ「うん!」
スマッシュボールを受け取った二人はマリオの意思を汲み、こう叫ぶ。
ポポ&ナナ「「アイスバーグ!!」」
その瞬間、周りの空気が冷える。
そして地面から氷山が盛り上がって来た。
氷山が発生した位置はアーカードの無数の腕がある一帯。
瞬く間にそれらは氷山に飲み込まれ、氷漬けとなった。
そして本体のアーカードをも飲み込まんとするが、彼は後方に跳ぶことで凍るのを免れる。
……しかしこれは、アーカードが自らの操る腕を放棄したのと一緒。
ソニック「よし、次は俺が行くぜ!!」
ソニックが追撃を加えるべく、その場で回転して力を蓄え始める。
対するアーカードはそれに気付いたのか右腕を手前に引き、貫手の構えを取る。

ソニック「お前には――」
ソニックはスピンダッシュをする。それとほぼ同時にアーカードも貫手を放った。

ソニックの目の前にアーカードの腕が迫る形になる。
だが、貫手に正面からぶつかるような真似はしない。
そんなことをすれば無理矢理力で捻じ伏せられることは分かっているからだ。
腕をぎりぎりのところでかわし、そのままアーカードの体にぶつかる。
更に追撃で蹴りを放ち、ソニックは相手から少しだけ距離を取った。

ソニック「圧倒的に速さが足りない!!」
アーカード「速さが足りないか」

奇しくも二人の声は重なった。
確かに、速度という点においてはソニックの方が遥かに上回る。
だからこそ、アーカードの攻撃は余裕でかわされたのだが……
アーカード「しかし、これはどうだ?」
ニヤリ、と彼は笑う。
それと同時に、ソニックの足元の地面が盛り上がり――
ソニック「おわっ!?」
先程氷漬けにされたはずの腕が一本出てきた。
辛うじてそれをかわすソニック。
自分を追いかけてくるそれを、体勢を崩しながらも何とか避けて行く。

実はアーカードの操る腕は全滅しておらず、一本だけ残っていた。
それが今ソニックを追いかけている腕だ。

ウルフ「おい、こっちに戻って来い!」
ウルフがそう言いながら、ブラスターを連射して腕の動きを抑える。
その間にソニックは離脱し、戦士たちの所に戻って来た。
ソニック「すまねぇな、ウルフ」
詫びの言葉を述べるソニックに対し、「ああ」と短く返す。
彼の眼はアーカードを捉えている。
アーカードの方もこちらを睨みつけているわけだから、次に相手をするのは自分になる……直感的にウルフは感じた。


アーカードが駆け出した――
ウルフ「(!こいつも!?)」
――と思いきや、すでに数メートル手前まで来ていた。
こいつも早い、とウルフは思う。
だが、ソニックやファルコン程ではない。落ち着いていれば見切ることはできる。
アーカードは左手を懐に伸ばしていて、そこから黒いものが覗いていた。
ウルフはリフレクター装置に手を伸ばし、いつでも作動させられるようにする。
恐らくあれはジャッカル。きっと懐から出した瞬間にそれを撃ってくるだろう。
ならば、それに合わせてリフレクターを発動させるまで。

アーカードの左手が懐から出て……それと同時にジャッカルの銃身も少しずつ姿を現していく。
ウルフはいまだに相手を引き付けようとしている。
リフレクターを使うをことを悟られてはいけない。
発砲を止められないよう、銃が完全に引き抜かれてから発動させるのがベストだ。
ほんの僅かな時間での思考だったが、その間にもジャッカルは銃口の辺りまで引き抜かれていき――


ウルフに向けられた。
ウルフ「(今だ!)」
それと同時にリフレクター装置を発動させた。

……が、発砲音がしない。
それどころか、数メートルの距離を取っていたアーカードの姿が見えない。
それは何故か。答えは簡単。

消えたと思ったのは、アーカードがジャッカルの銃口を向けた瞬間に跳躍し、一気にウルフとの距離を詰めたため。
発砲音がしないのは、そのジャッカルがウルフの腹にめり込んでいるため。

ウルフ「ガハッ!」
腹を思いきり殴られたウルフは、そのまま吹き飛んでしまった。
アーカード「一瞬の判断が結果を決める。そういうことだ」
アーカードは元々銃を撃つつもりなど無かった。
ジャッカルは、重量が16kgもある拳銃だ。それは鈍器としても十分すぎる威力を発揮する。
いわば鉄塊を振り回すようなものだ。
ウルフは、相手が銃を握っているのに気付いた瞬間に、それを撃つものだと思い込んでしまった。
その間違った判断に基づいた行動をし、相手の攻撃を許してしまったのだ。

マルス「ハァッ!!」
リンク「ヤッ!!」

今度は二人の剣士が斬りかかってくる。
ウルフは戦士たちの集まっている場所に居て、アーカードはそこへ突っ込んで行った。
それは近接攻撃を主とする者の間合いに入るのと等しいのだから、自然とこうなる。

しかしアーカードは慌てない。
彼から見て左側には剣を振りおろそうとするリンクが、右側には突きを出さんとするマルスがいる。
まず左手に握っているジャッカルの銃身にリンクのマスターソードを当てさせ、受け流す。
そして右手には影を造り出し――それは細長い棒状になっていて、それを握る――自身に迫ってくる剣先にそれを当てることで、切っ先を空に向けさせた。
マルス「それって……!?」
マルスは驚きに目を見開いている。
ファルシオンを弾いた影らしきものが、十字剣を形作ってアーカードの手の中に握られていたからだ。
アーカード「驚くことは無いだろう。私は刀剣が主な武器として使われていた時代から戦争をしてきた。剣だって扱える」
それに、とアーカードは二人の剣を値踏みするように眺めて呟く。
アーカード「お前たちの武器は由緒ある物のようだな。だが、化け物を倒す真の武器はお伽噺に出てくるような剣などではない……」
そう言って彼はジャッカルを懐にしまい、空いた左手の指で軽く自分の胸を叩く。
「何を言いたいか分かるな?」と呟きながら。
リンク「ああ、勿論だ」
アーカード「よろしい、ならば闘争だ」
僅かな会話を交わし、三人は戦闘を再開する。

マルスはマーベラスコンビネーションを試みる。
袈裟切り。
突き。
逆袈裟。
振り下ろし。
だがその全てをアーカードは紙一重でかわしていく。
続いてリンクが斬りかかってきたが、剣で受け流す。
これで二人の攻撃はおしまい……ではなかった。
攻撃を受け流されたリンクは、咄嗟に右脚を軸にして体を回転させる。
リンク「てやぁッ!」
彼の十八番、回転斬りだ。左手に握られたマスターソードは遠心力を上乗せした斬撃を放つ。

ガキィ!!

アーカードは、それを受け流すのではなく受け止めた。
ギチギチと刃が擦れ、火花が散る。

そこへ追い打ちがかかる。
マルスが横合いからシールドブレイカーを繰り出すべく、剣を手前に引く。
そして軽く助走をつけ、アーカード目掛けてファルシオンを――


アーカードが身体を手前に引いた。
それによって鍔迫り合いをしていたリンクがバランスを崩し、前のめりになる。
ちょうどアーカードのいた位置に――

マルス「(まずい!?)」
既にシールドブレイカーを出す勢いは止められず、このままではリンクに当ててしまう。
無理矢理体を回転させてファルシオンの切っ先を逸らし、最悪の事態を免れる。
しかし助走の勢いまでは殺しきれず、リンクに肩からぶつかってしまった。
二人とも体勢を崩してしまい、隙ができる。
それをアーカードは見逃さない。二人のいる場所に向けて剣を一閃。

咄嗟にマルスはカウンターの構えを取り――

ガキィ!!

激しい衝撃がファルシオン越しにマルスの腕に伝わる。
後はこの剣の力を別の方向へ受け流し――きれない!!
マルス「(力が……強すぎる!)」
アーカードの恐ろしいほどの腕力がマルスのカウンターを許さない。
ゆっくりとマルスは押されていき……
アーカード「……残念だったな」
そうアーカードが言うと、腕に力を込めて思いきり剣を振り払った。

マルス「うわっ!」
リンク「グ、ハァ…ッ……」

後ろにいたリンクごと、マルスを吹き飛ばした。
二人は地面に叩きつけられ、呻き声を上げる。

第36話 FINAL FANTASY Ⅳ

アーカード「さあ、次は誰が来るんだ?」
一人呟くアーカードに返事をするかのごとく、彼の周囲の空気が一瞬で変わった。
その瞬間、前方に緑色の半透明の刃が現れた。
それが素早くこちらへ向かってくる。
だが、いくら早かろうと直線的な動きでしかない。
アーカードは余裕で避ける――が、間髪置かずに空気が震え、再び刃が姿を現し、向かってきた。
それもまた避けて――


ザシュッ!


背中に衝撃が走る。どうやら刃はあれで終わりではなかったらしい。
切り裂かれでもしたのだろうが、致命傷には程遠い。

アーカードは素早く辺りを見回して、攻撃の主を探す。
先程の攻撃方法からするに、少なくとも遠距離戦に特化した者であることは間違いない。
そう考えて相手を探し――いた。


戦士たちからやや離れた場所に黒衣の少年――セネリオがいた。
彼は魔道書を開き、その周囲を風が舞っている。
アーカードはセネリオが先程の攻撃をしたのだと確信した。即座に彼のもとへ走りだす。
セネリオ「!…………」
一方、セネリオもそれに気付き、素早く二発目の魔法の詠唱を始めるが……
アーカード「甘い」
アーカードの声が耳元に響いたのを認識した瞬間、首を絞め上げられた。
セネリオ「くはっ……」
首を絞められて満足に息ができない。
手を振りほどこうとしても、アーカードの腕力には成す術が無い。
その最中にもセネリオの体は持ち上げられ、足が地面から離れる。

ふと、アーカードはセネリオの顔をまじまじと見つめた後、こう呟く。
アーカード「昨日見かけたときに違和感を感じたが……やはりお前、人間でないな?」
セネリオ「!」
その一言に、セネリオの瞳が大きく開かれる。それが何よりの肯定となった。
アーカードは伊達に長い年月を生きてきたわけではない。
相手が人の姿であろうとも、それが人間か非人間かを見分けることは造作も無かった。
アーカード「人の姿を持っていながら人ではない。だが化物かというとそうとも言い切れない。実に中途半端なことだ」
アーカードが言っている内容は、セネリオに対して直感的に感じたものに過ぎない。
しかし、セネリオはテリウス大陸において誰からも忌避される人外の種族として生まれてきたのは事実。
アーカードの直感は概ね当たっていたと言えよう。
アーカード「お前は何者だ?化物であるこの私と対峙しているお前は。人か?狗か?化物か?」
そう言って、首を絞める手の力を少しだけ緩める。
返事を聞こうというのだ。セネリオは息苦しさと戦いつつも、少しずつ言葉を紡いでいく。
セネリオ「確かに僕は……人間じゃない……。存在してはいけないものとして……生を受けた……。それによって……死にかけたこともあった……」
でも、とセネリオは言い、その瞳に意志が宿るのをアーカードは感じる。
セネリオ「そんな僕を助けてくれた人がいた……。『種族なんか関係無い』といった調子で……。そして僕は……人として扱われ……生きてきた……。その人の教えが僕の心の中にある限り……僕は人であり続ける……!」
アーカード「支えてくれる者がいるから化物としての道を歩まずに済んでいる、ということか。だがな、お前が朝日に背を向け、夜を歩き続けないといけない存在だという事実に変わりは無い。日の光がこちらを向くことなど無い……」
アーカードはそこまで言うと、ふと脳裏に“もう一つの世界”へと置いてきた僕の女吸血鬼の姿が過ぎった。
吸血鬼になったくせになかなか血を飲もうとしない彼女に、似たようなことを言ったのだ。
その後に「お前みたくおっかなびっくり夕方を歩く奴がいてもいいかもしれない」とは言ったが。
目の前の少年は似ても似つかないのに、何故自分は同じようなことを言ったのか。
化物になりきることを拒否する姿勢に、共通点でも感じたのだろうか。
少し苦笑しかけるが、ここで雑念は追い払う。
アーカード「……ともかく、残念だったな。お前の魔法では、私を倒すに至らなかった」
アーカードは右手に持った剣をセネリオの胸にあてがう。
しっかりと首を固定して動けないようにし、ゆっくりと貫いて行――


「もらった!」


――こうとしたところで、何かが飛んできた。
アーカードは左手に掴んでいたセネリオを放し、後方に跳ぶことで回避する。
飛んできた物体は彼から見て右手の方向、遥か彼方に消えていった。

「戦いの最中だってのに、悠長に話してる場合?」

攻撃をしてきた者、それは……
セネリオ「霊夢……!」
楽園の素敵な巫女こと、博麗霊夢だった。
もしかして助けてくれたのか?そう思うセネリオだったが、次の霊夢の一言は彼の予想をいろんな意味で超えるものだった。
霊夢「あ~、惜しかったわね。もうちょっと引きつけてれば上手く行ったかも」
セネリオ「……へ?」
彼の中の時間が止まる。
セネリオ「(今、霊夢は何て言った?『惜しかった』?ひょっとして僕を助けるためじゃなく、アーカードへの攻撃を目的としていた?いや、それ自体は間違ってないけれど……。落ち着け、KOOLCOOLになれ。霊夢の言った『引きつけてれば上手く行ったかも』というのは、アーカードが僕へ剣を突き立てる寸前まで攻撃のタイミングを待っていたってことなのか!?)」
彼の脳裏に、眼鏡をかけた名も知らない男が「つまり霊夢はセネリオを囮にしていたんだよ!!」と叫ぶ光景が浮かんだ。「な、何だってー!!」とはさすがに声に出さなかったが。
……ちなみに、セネリオがこの思考を開始してからまだ一、二秒しか経っていないので、致命的な隙はさらしていない。一応。
思考の海から抜けだしたセネリオは、アーカードから素早く離れ、霊夢のもとへ向かう。

セネリオ「……僕を囮にしていたんですか?」
霊夢「まぁいいじゃない。結果的に無傷で済んだんだし」
微妙にはぐらかされてしまった。
セネリオは何だか頭を抱えたい衝動に駆られ、納得できなかったが、霊夢のおかげで無事でいることは事実なため、「……とりあえず感謝します」と言った。律儀なことである。
霊夢は「そう」とだけ返し、アーカードに向き直る。


アーカード「次はお前か、人間(ヒューマン)……」
霊夢「私はヒューマンじゃないわよ。ちゃんと博麗霊夢って名前があるの」
アーカード「そうか。では、お前は何のために私を倒そうとする?」
アーカードに対して物怖じせずに――むしろ暢気な調子で――話す霊夢。
彼の質問に、霊夢は予想の斜め上を行く返答をした。
霊夢「何となくよ」
アーカード「…………」
アーカードは絶句してしまった。
てっきり目の前にいる巫女も、自分を倒すという強い意志の元にここへ来たのだと思っていたが……。
アーカード「……正気か?」
霊夢「そう聞かれて『狂ってます』って答える人なんかいないでしょ。私は結構な数の異変を解決してきたつもりだけど、相手を倒すという強い意志がどうとか、あれこれ考えたことなんて一度も無いわ。異変を解決するのは私の仕事。それ以上でもそれ以下でもないの。本当に『何となく』なのよ。強いて自分の務め以外の理由を挙げるとするなら……気ままにお茶を飲んで暮らすために戦ってるってとこかしら」
その話を聞いていて、アーカードは肩の力が抜けていくのを感じた。
暢気だ。あまりにも暢気すぎる。こんな姿勢で戦いに臨む者は見たことが無い。
アーカード「フ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
何だか馬鹿らしくなって笑い声を上げてしまった。
霊夢「何よそれ。馬鹿にしてるの?」
ジト目で反論する霊夢だが、アーカードは「そういうわけではない」と返す。
アーカード「あまりにもはっきりと『何となく戦う』と言いだす奴を見るのは初めてだからな。そんな考えでここまで戦ってこれるとは、ある意味驚きだ……。皮肉などではないぞ。本来なら目的を持っていない者など狗同然だと思っていたが、一切迷わずそんな事を言われたことに、かえって清々しさまで感じた。面白いお嬢さんだ」
まるで純粋に面白いものを見たかのような口調で、アーカードは言った。
霊夢「誉めてるのか、馬鹿にしてるのか……なんか納得いかないわね。それよりもさっさと始めましょ。そのためにこうしているんだから」
アーカード「ああ、勿論だとも」

その言葉を合図に、霊夢が先手を取った。
彼女は手に持っていた札をアーカードに向けて数枚投げる。
アーカード「フン……」
アーカードはそれらは簡単に落とせると言わんばかりに、剣で斬った――つもりだった。
斬れていない。札は刀身にまとわりつき、淡い光を放っている。
そして霊夢が何やら呪文らしきものを唱えているのが目に入った。

ボン!!

霊夢が呪文を唱え終わり、指を前方に突き出した瞬間、爆発が起こる。
爆発の対象は札が貼りついたもの。つまりアーカードが握る剣。
アーカード「そんな小技を持っていたのか。文字通り一本取られたな」
アーカードの剣はバラバラになり、使い物にならなくなった。
それの代わりとして、彼はまたも改造カスールとジャッカルを取り出し、構える。

ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!! ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!

二丁の拳銃を連射する。
霊夢「それでどうにかなるとでも?」
……が、当たらない。彼女は文字通り飛び回り、弾丸を避ける。
霊夢からしてみると、銃という武器から放たれる弾丸の速度は非常に速い。
幻想郷に住むどんな者でも、あれだけ速度のある弾を撃つことなど不可能だろう。
しかし、どれだけ速くとも、範囲の狭い『点』の攻撃であることに変わりは無い。
彼女は数多くの弾幕をかわしてきた実力者だ。
弾幕にすらならない拳銃の連射など、そうそう当たるものではない。

アーカード「だが、どうにかなってしまった時のことを考えていないわけではないだろう?」
しかし、アーカードはあくまで余裕でいる。
実際そうなのだ。どれだけかわされようとも、当たった時の霊夢側のリスクは大きい。
霊夢は銃口がこちらに対して直線上の位置を通らないように、常に低空飛行しながら移動している。
そうでもしないと、銃の照準に捉えられた瞬間に、即座に撃たれてしまうからだ。
銃弾に当たってしまった時の被害の甚大さを、彼女は考えていないわけではない。
だからこそ、そのような動きを取っている。
しかし、それでは必要以上に大きな動きを取らざるを得なくなってしまい、余計な疲労が蓄積されていく。
一方、アーカードは銃の照準を合わせることだけにさえ気を付けていれば良い。
条件さえ満たせば、後は引き金を引くだけで終わるからだ。
この状況が長引けば、明らかに霊夢の方が不利になってくる。

霊夢「何度も言わせないでちょうだい。私はあなたを倒すためにこうしてるのよ。逃げ続けるつもりなんて微塵も無いんだから」
だからこそ、霊夢は攻撃を仕掛ける。
彼女が最もよく使う攻撃方法はもちろん弾幕。今回もそれを放つ。
鮮やかな光弾が大量に放たれていく……が、
アーカード「その程度の攻撃、掠りもしないぞ」
アーカードの拳銃が当たらないのと同様に、霊夢の弾幕もまた一発として当たらない。
先程述べた『点』の攻撃についてだが、銃弾と同様に、これは弾幕についても当てはまる。
一見、弾幕は広範囲を攻撃するわけだから、面の攻撃だと思うかもしれない。
だがよく考えてみてほしい。
弾幕とは、一つ一つの『点』である光弾を大量に放つもので、そこには当然隙間が生じる。
それは点の集合体でしかなく、マシンガンの連射すら簡単に避けてしまう吸血鬼にとっては、弾幕をかわすことなど造作も無い。
アーカード「(この程度なのか?あまり失望させてくれるな、人間)」
弾幕をかわし続けている内に、そのようなことを考え始めたアーカードだったが、そんな折に、霊夢のいる方から、今かわしているものとは違った色の光弾が二つ放たれた。
アーカードはそれを当然のように避け――


――光弾がそれに合わせて動き、アーカードに当たった。

ホーミングアミュレット。霊夢が先程放った光弾の名だ。
それは読んで字のごとく追尾機能を持っていて、確実に相手に命中するようになっている。
一発の威力は低いが、連射して確実にダメージを与えていくことで相手を弱らせるというものだ。
当然アーカードはホーミングアミュレットのことなど知る由も無いが、それの特性はくらったことで――否、現在進行形でくらっているが――それとなく把握。
そして、互いに長期戦が不利になるという状態に持ち込んだことに感心する。
霊夢の場合、確実に攻撃を当てることができる代わりに、相手の銃口を常に意識して動かないといけない。必要以上に気を付けないと、たちまち銃弾の餌食となってしまうだろう。
アーカードの方は、一撃でも当てれば良いものの、ホーミングアミュレットによってじわじわと体力を削られている。早い段階で決めないと、無視できない事態になる。
今の状況はどちらにとっても有利であり、また不利でもあった。


アーカード「(ならば……)」
ならばこちらから先に仕掛ける。
追尾型の光弾はこの際くらうにまかせ、普通の弾幕を掻い潜りつつ、相手の元まで一気に接近し、仕留めようと考える。
そう思考してから、行動に移すまでに大した時間は要さなかった。

アーカードは走り出した。霊夢との距離、およそ二十数メートル。
ばら撒かれるだけの弾幕を避けるのに多少の手間はかかるが、それでもほんの一、二秒だけ到達を遅らせるための障害にしかならない。
弾幕を避け霊夢のもとへ接近する僅かな合間にも、ホーミングアミュレットを被弾し続け、肌を焼いて行くがアーカードにとってこの程度のものは傷のうちにも入らない。


そして霊夢の前に降り立った。
アーカードが走り始めた瞬間から数えて、およそ数秒後のことである。
霊夢「くっ!」
霊夢は後方に跳ぼうとするが、すでに遅い。
アーカードは手に持っているジャッカルを叩きつけようと――


誰かが「トルネード」と叫んだ声が聞こえた。


瞬間、ゴウッと突風が起こる。
……いや、突風と呼ぶには生易しい。竜巻だ。
竜巻は霊夢の目の前、つまりアーカードのいる場所で発生している。
アーカードはそれに巻き込まれ、上空へと飛んで行く。
「札を!」
再び声が聞こえた。
霊夢はそれが何を意味するのか咄嗟に理解し、ありったけの札を竜巻に向けて投げる。
それらの札は次々と上空へと巻き上げられ――全てアーカードに貼り付いていく。
後は彼が持っていた剣にしたようなことと同じことをすれば良い。
呪文を唱え――

ボン!!

爆発した。これは効いただろうと霊夢は判断し、先程の竜巻を作り出した本人――セネリオに向き直る。
霊夢「ちょっと、私まで吹き飛ばされたらどうするつもりだったの!?」
早速文句を言う。確かに竜巻は彼女の目の前で発生したのだから、巻き込まれてもおかしくは無かった。
セネリオ「別に巻き込まれなかったならそれで良いのでは?」
が、文句を言われた本人はいつも通りの仏頂面を崩さない。
自分が彼を囮にしたことを根に持っていたのかと考え、霊夢は唸ってしまう。
一方、セネリオはこんなことを言った。
セネリオ「それに、こうなることは予想できていましたし」
元々、彼は霊夢とアーカードの戦いを見始めたあたりで、そう長期戦にならないだろうということは悟っていた。
二人は弾の撃ち合いという遠距離戦において、どちらも一歩も引かないで戦っていた。
しかし、それが続けば無駄に体力を消耗してしまうことになる。
それならば一気に勝負を付けるべく仕掛けるのは定石、とセネリオは考えていた。
霊夢の方は現状を一気に打開するほどの強力な技を持ち合わせていないのは知っている。
先日、彼女がフランドールに放った封魔陣は、相手の弾幕をかき消す程度のものだし、もう一つの必殺技である夢想封印も――セネリオはそれを実際に見たわけではなく、あくまで話で聞いただけなのだが――単純な威力という点に関しては、特別に優れているというわけではないらしい。
しかし、アーカードはどうか。
彼には決定打たるものがある。二丁の拳銃は勿論そうなのだが、あれは未だに命中してない以上、まだ良い。
むしろ問題なのは彼の身体能力の高さだ。
離れた距離を一瞬で詰めるほどの脚力、そしてあらゆることを力技で押し切れるほどの腕力。
彼のあらゆる攻撃一つが致命傷になりかねないのだ。
その気になれば、霊夢の弾幕を無視して突っ込んでくることすらやりかねないだろう。
つまり長期戦になる前に、決定打を持つアーカードの方が先に仕掛けてくる可能性は高い。
だからこそ、彼が霊夢に接近戦を持ち込む可能性を考慮し、予め魔法の詠唱をしていた。
唱えたのは風系の上位魔法、トルネード。
普通のウインドではアーカードに避けられてしまうことを考慮し、辺り一帯を巻き込む『面』による攻撃としてトルネードを選んだ。
もっとも、霊夢を巻き込まないように発動させる位置を調整するのには苦労したが。

霊夢「予想できていたっていうのは、私との連携も含めて?」
霊夢はセネリオの行動を把握したわけではないが、とりあえず計算ずくでの行動だったことは理解した。
そのついでに、彼の放ったトルネードは自分との連携も考慮していたのかも確認する。
セネリオ「貴方の勘が鋭いおかげで上手く行きました」
霊夢「……そう」
本当にそこまで計算していたようだ。
よく考えてみると、打ち合わせなど全くしていなかったわけだから、本来なら連携も何もない。
自分のピンチが回避されたと思った瞬間、いきなり「札を!」と言われても普通は反応できないだろう。
ただし、霊夢の鋭い勘がそれを可能にしたのだ。
セネリオ自身、この連携は駄目で元々、上手く行けば御の字といった程度にしか考えていなかったが、幸いにも成功し、アーカードにダメージを与えることができた。


……一方、そのアーカードは竜巻が消えたことで地面に叩きつけられ、二、三度体を痙攣させたかと思うと……立ち上がった。
服のいたる所はぼろぼろ。顔には火傷が見られるが、その瞳には未だに闘志が宿っている。

霊夢「……やっぱり、まだくたばってなかったのね」
霊夢は再び札を持って構えるものの、

「次は私の番でも良いかしら?」

呼び止められた。この場にいるもう一人の吸血鬼によって。
霊夢「レミリア……か。本当に大丈夫なの?」
後ろから声をかけられたので、振り返って表情を確認する。
その時のレミリアは、不敵な笑みを浮かべ、これから起こることを楽しみで待ちわびているといった感じだった。
霊夢「……大丈夫みたいね」
霊夢は道を譲り、レミリアがアーカードと対峙する。


レミリア「吸血鬼アーカード……この時を楽しみにしていたわ。始めて貴方の噂を聞いた時、その馬鹿馬鹿しいまでの強さに憧れ、長い間思い煩って……ようやくその願いが叶おうとしているのだから」
レミリアは感慨深げに話す。
しかし、アーカードは自嘲するかのような笑みを浮かべ、こう返した。
アーカード「その憧れていた吸血鬼が、人間に倒されることを望む弱い化物だと知ってもか?」
レミリア「まあ、私は生まれつきの吸血鬼だから、残念ながら人間だった頃の記憶を持っている貴方の気持ちなんて分からないけど……」
彼女は話す。嘘偽りの無い感情を。
アーカードから人間に倒されるのを望んでいるという話を聞いた時、吸血鬼こそが最強の魔族だと信奉していた彼女が失望しなかったと言えば嘘になる。しかし、
レミリア「でも、私は貴方を恐れた。そして私は貴方に憧れた。吸血鬼の先達として、その影を追い求め続けた……。その感情は偽りなんかじゃないわ。事実として今も私の心の中に残っている」
それでもアーカードに対する畏敬の念は変わらない。
レミリア「私は元より人外の存在。貴方の希望に添えられないかもしれないけど……、私はこの姿を誇りに思っている。だからこそ、私は強い意志を持った者たちとは無関係に、あえて一吸血鬼として貴方に戦いを挑む」
レミリアは、徹底して魔族としての誇りを貫くというスタンスを表明する。
アーカードの望む形とは違うが、それが彼女の信念なのだから。
アーカード「そこまで思われていたとは、ある意味光栄だな……。いいだろう。自らが信じるその力、充分に発揮するが良い」
レミリア「身に余るお言葉……感謝するわ」


そしてレミリアは一枚のスペルカードを取り出し、宣言する。
レミリア「獄符『千本の針の山』」
符名を言い終わり……何も出ない。
何のつもりだ、とアーカードは問いかけるが、すぐに違和感を感じた。
彼の足元――否、そこを中心とした辺り一帯が光り始めている。
アーカード「!」
瞬間的に察し、上空へ跳び上がる。
それとほぼ同時に、地面から大量の光弾が重力に逆らって空中へと撃ち上がってくる。
まるで地面から幾百もの針が生えているようにも見えた。
しかし光弾そのものの速度より、先に跳んだアーカードの方が速い。
このままでは命中しない――
レミリア「神罰『幼きデーモンロード』」
――と思いきや、レミリアが更なるスペルカードを宣言した。
その瞬間、上空にレーザーが網目のように広がっていく。
アーカードのちょうど真上にレーザーが発生したわけだが、跳び上がった勢いを殺しきれない。
まるで素早く飛ぶ鳥が網に捕らえられるかのように、彼は自然とそこに突っ込むこととなってしまった。
以前プリムにも使ったこの弾幕は、本来なら攻撃というよりも、レーザーを張り巡らせることで相手の動きを制限することに重きが置かれている。そのため、素早く動く敵とは相性が良い技なのだ。
レミリア「(まだこんなものじゃない!)」
レーザーにアーカードが焼かれていく姿が確認できるが、この程度で倒せるような相手ではないとレミリアは思っていた。
彼女は空中へと飛び上がり、素早くアーカードへと接近する。
そして右腕を引き、ストレートを――


バシィ、と鈍い音が響き渡る。
彼女の右拳は、アーカードが繰り出した拳に阻まれた。
レミリア「くっ……!」
びりびりとした感触が拳を通じて腕に伝わってくる。
一方アーカードはというと、痛みを感じているのか相手の実力に満足しているのか、――どちらともとれるような感じに顔を歪めている。
アーカード「速力、腕力ともに申し分無い……。流石だ」
レミリア「そこら辺の吸血鬼に引けをとらないというぐらいには自負しているわ。私は貴方を超える第一号になる!」
再び両者は拳を交えるべく、腕を手前に引く。


吸血鬼との近接戦闘は死を意味する、と先代ヘルシング家当主は言っていた。
吸血鬼の最大の特徴は身体能力の高さ……もっと限定的に言えば、単純な腕力が高いところにある。
その腕力で近付いた者はたちまち八つ裂きにされてしまう。
だからこそ、彼らとの接近戦は非常に危険だという意味でそのように言われているのだ。
それでは、吸血鬼同士が接近戦を仕掛けるとどうなるか。
今回のそれはシンプルな殴り合いだが、答えは簡単だ。
二つの硬い物体が高速で正面からぶつかった場合、どちらも傷ついていく。

それと同様に、二人の拳は互いにダメージを与えている。
空中に飛び上がった状態から一転、地面へと自由落下していく最中でも殴り合いは続いている。
レミリアがアーカードの顔面を殴り、アーカードの拳がレミリアの腹部を捉え、両者の手がぶつかり、骨を砕いていく。


またもバシィ、と二人の攻撃がぶつかった音を立て、それとほぼ同時に地面に着地した。
その瞬間を見計らったかどうかは定かではないが、殴り合いから一転し、武器を取り出す。
レミリア「神槍『スピアザグングニル』!」
レミリアは北欧神話の神が扱ったものと同名の槍を、
アーカード「さあ、まだだ!押し進み、潰し、粉砕しろ!」
アーカードは自らの愛銃、改造カスールを取り出す。


先程までの肉と骨がぶつかり合う音から一転、今度は金属同士が激突したとき特有の鈍い音が上がる。
グングニルが振り回され、改造カスールの銃身がそれを受け流す。
レミリア「はぁッ!」
レミリアは再び槍を振り回すが、アーカードの銃にまたも受け流され――ない。
彼女は攻撃対象を明確に銃に定め、思いきり力を込めて振り抜き――


弾き飛ばした。
改造カスールは宙を舞っており、今のアーカードは丸腰。
レミリア「もらった!」
ここで一気に決める!
レミリアは大きく踏み込み、グングニルを全力で突き出す。
槍の穂先がアーカードの心臓を捉え――


――ることは無く、彼の脇腹を通過……否、通過させられた。
突進の勢いを付けていたレミリアは止まれず、アーカードにぶつかってしまった――と思いきや、グングニルを持っている手ごと彼の腕に挟まれてしまった。
当然、彼女は身動きを封じられたことになる。
アーカード「確かにお前は高い身体能力を持っている。カテゴリーA以上の吸血鬼と認識しても良いほどだ。……だが、足りないものがある」
アーカードはゆっくりと話す。彼とレミリアとの決定的な差。それは……
アーカード「経験だ」
二人の生きた年代にそれほどの差は無い。単純な腕力においてもほぼ互角と言って良い。
しかしレミリアはアーカードと違い、あるものが足りない。……それが戦闘経験だ。
アーカードは五百年以上も前、人間であった頃から闘争を続けてきた。
剣、槍、弓の時代から幾度も戦場を渡り、死地を潜り抜けてきた。
そして吸血鬼になった後も同様に戦いを続け、百年前にヘルシング教授たちに倒された後は吸血鬼ハンターとして同族を相手にしてきた。

レミリアには才能がある。自分の闘争センスをフルに活かして昔の幻想郷で大暴れし、そこは一時、彼女に乗っ取られかけたことがあるくらいだ。強いということは間違い無い。
だがアーカードと比べると、戦場を渡り歩いてきた数が圧倒的に少ない。
彼は戦闘においてどのタイミングで攻撃を繰り出し、最適な技を出し、そして確実に止めを刺せるのはどういう時かをその身に刻みこむほど理解している。
これらは主に人間であった頃に身に付けていったものだが、吸血鬼になってからもその記憶は本人の知らない所で――もはや本能と言っても良いくらいに――刷り込まれているのだ。
だからこそ、レミリアの止めの一撃を冷静に対処して防ぎ、尚且つ彼女の動きの自由を奪うことに成功した。
レミリア「私の攻撃は、貴方に届かないっていうの……!?」
本来なら彼女はアーカードの銃を弾き飛ばした時点で、槍のリーチを活かして中距離で戦うか、あるいは距離を置いて弾幕を出して牽制し、隙を窺ってから仕掛けるなりすれば良かったのだ。
しかし焦ってしまった。ほんの一瞬しかできなかった隙で、無理に決着を付けようとしたのだ。
戦闘の経験でまだ至らないところの多い自分が招いたこの結果――


――ジャッカルの銃口が胸に押し付けられているという現実を、レミリアは受け入れるしかなかった。
ダン!!
アーカード「残念だが……お前は、未だ私を超えるに至っていない」
そっとアーカードはフィギュア化したレミリアから離れる。
ゴトリ、と硬い物体が地面に当たる音が聞こえた。



――今の所、アーカードと戦士たちは、どちらも引けを取っていない。大きな変化は無く、五分の勝負と言って良いだろう。


アーカード「さあ、次の相手は誰だ?この私の夢のはざまを終わらせてくれる者は」


――しかし、その均衡を崩す者が現れる。


ばらばらと何の前触れも無しに、大量の紙――聖書のページがアーカードの周囲に現れ、舞い始めた。
アーカード「来たか!」
彼はそれが誰の仕業なのかに気付いた。こんな真似をするのはあの男しかいない。
ガキ…ィィィン!
聖書のページに紛れて出てきた刃をジャッカルの銃身で防ぎ、刃――銃剣の主と目を合わせる。
「我らは神の代理人、神罰の地上代行者。我らが使命は、我が神に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅する事。Amen!!
法皇庁第十三課の神父にしてアーカードと因縁のある男――アレクサンド・アンデルセン、見参。

第37話 FINAL FANTAZY Ⅴ

北アイルランドでの戦闘以来、二人は再び相見えることとなった。
アーカードは心底嬉しそうに、それこそ獰猛な笑みを浮かべる。
アーカード「敵よ!殺してみせろ!!この心臓に銃剣を突き立ててみせろ!!五百年前のように!!百年前のように!!この私の夢のはざまを終わらせてみせろ!!愛しき御敵よ!!」
“もう一つの世界”において、彼が認めた数少ない「人間」。
カトリックの狂信者でこそあれ、一切の迷い無く――それこそ純粋と言っても良いくらいに化物と対峙できるその姿勢。間違いなく強靭な意志を持った存在だ。
アンデルセン「語るに及ばず!!」
そんな二人の間に無駄な言葉の掛け合いなど必要ない。即座に戦闘へと移っていく。

両者の距離は五歩も離れておらず、ほぼ密着していると言っていい。
無論、その状況で先手を打てるのは近接武器を持ったアンデルセンだ。
二振りの銃剣を左右に広げ、横に薙ぐ。狙うはアーカードの首。
ブンッ、と軽量の武器にしては不自然な程の風を起こしながら標的へと迫り、その刃が首の皮膚へと触れようとしたところで――


アーカードの姿が消えた。肉と骨を断つ感触がアンデルセンの腕に伝わってくることは無く、銃剣は空振りする。
アーカードは後方に跳んだ?いや、違う。
身を屈めてかわしたのだ。
アーカードは以前アンデルセンと対峙した時、彼の剣戟を余裕を持ってかわしながら攻撃したのだが、それは通用せずに――油断も無かったわけではないが――首を刎ねられるに至ってしまったことがある。あの時の二の轍は踏まない。今度は攻めの姿勢で行く。
そのため、距離を放さずに攻撃を回避する方法として身を屈めたのだ。
アーカードはその状態から、相手の足元を狙って腕を振る。
本来、足払いは自分の足を相手にかけて転ばせるものだが、今の態勢では足を使えない。
だから腕を使う。とはいえ、彼の腕力でそれをやったら、転ばせるどころか相手の足を粉砕しかねない。

アンデルセンは跳躍することでそれをかわした。……が、
アーカード「王手(チェック)」
アンデルセン「何ィ!?」
アーカードがジャッカルの照準をぴたりとアンデルセンに合わせていた。
アンデルセンはそれほど高く跳んでおらず、またアーカードは身を屈めているとはいえ、ジャッカルを持った左腕をしっかりと伸ばしているため、アンデルセンとそれとの距離は一メートルと離れていない……至近距離と言って良い。彼の左目に、ジャッカルの銃口が黒光りするさまがはっきりと映る。
アンデルセン「させ――」
させるか!!
条件反射と言っても良いほどの速度で銃剣の腹をジャッカルに叩き付け――
ダン!!
13mm炸裂鉄鋼弾がそれと同時に放たれた――が、アンデルセンの眼鏡を弾き飛ばしただけで終わった。
銃剣を叩き付けられたことにより、ジャッカルの照準がわずかにぶれたためだ。
アンデルセン「……その銃は?」
アーカード「先程のような行動を取ったのなら、予想がつくだろう」
着地したアンデルセンと、体勢を元に戻し、少しだけ距離を取ったアーカードが僅かな質疑応答をする。
アンデルセンは大口径の銃弾を額に受けてもすぐに立ち上がる程の頑丈さを持つ。再生者であるが故にだ。
しかし、アーカードはアンデルセンが見たことの無い銃を持っていた。
本来なら腕で顔面をかばって銃弾を防ぐところだったが、そうするのは不味いと思わせる何かを――本能で、と呼ぶべきか――感じ取っていたのだ。だから防がずに外させた。
事実、彼の行動は正しかった。
アーカードはアンデルセンと戦った時には武器を改造カスールしか持っておらず、火力がやや不足していたために、アンデルセンに有効な攻撃を与えることができなかった。
それを解消するため、後に造られたのがジャッカルだ。
彼はもちろんジャッカルが造られた経緯を知らない。アーカードが新たに黒い拳銃を持っているという程度の認識しかしていない。
しかし、アンデルセンにとってはそれだけで危険信号たりえた。
彼は以前、アーカードとの戦闘で首を刎ね飛ばして慢心してしまい、まんまと復活され……不死性を目の当たりにさせられてしまった。だから今回は油断しない。
アーカードが新たに武器を見せるならば、十中八九それは自分への対抗馬。
ならば、それを使わせないようにするのは当然のことだ。

アンデルセン「新たな武器を手に入れたから。それがどうした!?当ててすらいないのによく言う。能書き垂れてねえで来いよ。かかって来い。HURRY!HURRY!!」
アーカード「言ってくれるじゃないか、アンデルセン。その意気だ」
挑発を軽く受け流し、アーカードは再び戦闘態勢を取る――


マリオが空中から突っ込んできた。


――が、邪魔が入った。
マリオはメテオナックルを仕掛けてきたが、アーカードは後方に二、三歩下がって回避。
当てる対象を失ったマリオの拳はズン、という音とともに地面にめり込ん――
「ファルコンキック!!」
――と思いきや、アーカードの耳にそんな声が響いた――と認識した瞬間、炎を纏ったキャプテン・ファルコンの蹴りを受けてしまった。
アンデルセン「邪魔をするか、貴様ら!!」
怒声を上げるアンデルセンだが、ファルコンもそれに負けない勢いの声を張り上げる。
ファルコン「そうじゃない、アンデルセン!お前の邪魔をするつもりは無い!!」
マリオ「おい、ぼっとするな!」
しかしアーカードが立っている以上、押し問答をしている暇は無い。
マリオが即座に彼に殴りかかりに行く。
アーカード「割り込みは心外だが……仕方ないか。まあ良い。かかって来い」


アンデルセン「……邪魔をしないというのなら、何をするつもりだ?」
マリオとアーカードが戦うのを見ながら、アンデルセンは呟く。
呟きを向けた相手はファルコン。一応、彼はファルコンたちに自分がフィギュア化した時に解除させてもらったという貸しがあるので無駄に争うつもりはない。
ファルコン「私たちに協力してくれないか?」
この提案を、アンデルセンは断る。
アンデルセン「前にも言っただろう。俺はあいつと自分のやり方で決着を付ける、と」
だが、ファルコンとて大人しく引き下がるわけにはいかない。
ファルコン「アンデルセン。アーカードは今、普通に攻撃を受け、傷ついている。私たちが前に戦った時にはすぐに回復していたというのに、だ。……これは推測だが、おそらく奴は『傷を回復しない』んじゃなく『回復できない』状態に弱っているのだと思う。タブーと戦っていたらしいからな……。しかし、奴はそれでも強い。私達と互角、いや、下手をすればそれ以上に戦っている。だから今は戦力が欲しいんだ。頼む、協力してくれ」
その話を聞いて、アンデルセンの眼の色が変わる。
アンデルセン「奴が本気で戦えていない……?せっかくこうしてやって来たというのに……?」


マリオ「うわぁッ!!」


だがマリオが吹き飛ばされてきたことで思考は中断させられる。
アンデルセン「……仕方ない、昨日の借りもある。今回だけは手伝ってやる」
ファルコン「そうか。感謝する」
急に先ほどとは真逆のことを言い出したアンデルセンを訝しがるものの、これ以上追及する暇は無い。
地面に倒れているマリオに「よくやった」と呟きながら、ファルコンは走り出す。

ファルコン「さあ、来い!」
標的の距離まで直進しておよそ百歩の距離。
そんなファルコンの掛け声などアーカードの耳に届くはずも無いが、呼応するかのごとく彼はジャッカルを――改造カスールの方はレミリアに弾き飛ばされて、拾う余裕が無いからだ――構える。
ダン!!
一発撃たれた。
ファルコンはそれを回避し、狙いを付けられないようにジグザグに走りながら接近していく。

更に数発の銃声がするが、素早い動きが持ち味の彼には掠りもしない。瞬く間に距離を詰めていく。
ダン!!
六発目の銃弾が放たれた。勿論、これもかわす。
彼我の距離は十数――十歩を切った。
ファルコン「ファルコン……」
右腕を手前に引き、力を溜め始める。
対するアーカードは獲物を持っていない腕で貫手の構えを作る。
一瞬、前の戦いで同じことをして力負けしたことをファルコンは思い出すが、それでも引くということはしない。
ファルコン「パンチ!!」
アーカード「ふんっ!」
炎を纏った拳と貫手が正面から衝突する。
それによって衝撃波が――風が吹いたのではないかと錯覚しそうな程のものが――起こった。
ファルコン「う…ぉぉ…」
だがファルコンが少しずつ押され始める。
あの時と同じだ。……しかし、今回は一人ではない。
ザクリ、といった擬音がしたと思ったら、アーカードの肩に銃剣が刺さっていた。
アーカード「何、ィ……?」
彼の肩に刺さったのはただの刃物などではなく、教会にて祝福儀礼を受けたもの。
当然それは魔族に高い効果を発揮し、アーカードとて例外ではない。
ファルコン「おおおお!!」
攻撃を受けた隙をファルコンは見逃さない。ここぞとばかりに拳を全力で振り抜き――アーカードの腕を弾いてそのまま顔面を殴り、吹き飛ばした。

ちなみに、彼から見て銃剣の柄はこちらを向いた状態で刺さっていた。つまりアンデルセンが援護射撃をしてくれたということ。
そしてその神父は――ファルコンの隣を駆け抜けていき、吹き飛ばされたアーカードの前で立ち止まった。
アーカード「まさか、な。お前がカトリック以外の者に協力するとは思いもしなかった」
アンデルセン「俺なりの考えだ。気にするな」
アーカードはよろめきながらも立ち上がり、アンデルセンは銃剣を構え直す。
そして両者は再び戦闘を始める。



霊夢「さて、どうしたものかしら……」
そう呟きながら、私は二人の戦いを現在進行形で眺めている。
もちろんその二人っていうのはアーカードといきなり現れてきた神父なんだけど。
にしてもあの神父、人間……よね?私だって妖怪とかもいる幻想郷に住んでるわけだからそれくらいの区別はつくけど。
まあ、その割には人間離れした動きをしてるのよね。あんな剣を投げたりするなんて、どこのメイド長よ。
……って、私自身も人間離れしてるってよく言われるから、あまり他人のことは言えないか。いや、そんなことは今はどうでもいいんだった。改めて二人の戦闘を見てみる。
神父は二振りの剣を素早く振り回してる。それによってアーカードが傷ついてるみたいだけど、決定打には至っていない。
ちょうど私がホーミングアミュレットを使った時と同じような感じね。
違うところはそれが接近戦で行われてるってくらいかな。
……でも、綱渡りの状態で戦っていることに変わりは無いか。
今は一方的に神父がペースを握っているからいいけど、もしアーカードに反撃の余地が少しでも与えられたら、その時点で銃で撃ち抜かれておしまい。
それを防がさせないといけないんだけど、神父が接近戦をしている以上、近付いたって邪魔にしかならない。
飛び道具で援護しようにも、間違って当ててしまう可能性はある。
それならとれる行動は一つ。私のスペルカードの一つ「夢符『二重結界』」でアーカードの動きを止める。もちろんあの神父まで巻き込まないように範囲は調節して、ね。
でも何というか、一つ問題があるのよね。どのくらいアーカードを足止めできるか。
レミリアとの戦いを見て思ったけど、吸血鬼としては彼の方が一枚も二枚も上手だった。
そんな相手に、私の結界がどれだけ通用するのかしら。
紫はあいつと対面した時に四重結界を張ったけど、あれですらすぐに破られていてもおかしくは無かったわね。
大きな犬を出したり、腕を何本も生やしたりといった出鱈目な攻撃を見てきた今ならそう思える。
私の二重結界は名前の通り、紫の四重結界よりも大幅に強度が劣る。
せっかく動きを封じた……と思ったら、「開けゴマ」よろしく結界をこじ開けるなんてこともやりかねないかも。そうなるまでの時間はどれくらいかしら。
十秒?五秒?三秒?……ひょっとしたら一秒もかからないのかもね。
せめてその間に神父、あるいは他の誰かが強力な一撃でも出してくれればいいんだけど……。
って、なに弱気になってんのよ、私らしくもない。
出来る出来ないの問題じゃなくて『やる』。今まで解決してきた異変だって、失敗したらどうとか難しいことは考えてこなかった。
今回だって同じ。有用な手段だって思ったなら、さっさとやりましょうか。



霊夢がアーカードの足止めをしようと考えていた頃、マリオは痛む体に喝を入れて立ち上がろうとしていた。
マリオ「(まだ俺はおわっちゃいねぇ……!)」
そう、アーカードに突っ込んで行き、逆に吹き飛ばされてもそれは戦闘の終了を意味してなどいない。
脳味噌が身体に信号を送り続け、腕を振り回すことができ、足が地についていている限り戦うことは可能だ。

起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ。

何度も自分の体に命令を下し、起き上がろうとする。
仰向けに倒れているわけだから、まずは伸び切った脚を垂直に曲げ、踏ん張れる体勢を作る。
そして左手を地面につけ、体を起こ――
マリオ「うわっ!?」
――そうとしたら尻餅をついてしまった。
手が滑ったのだ。何かの物体を知らず知らずのうちに手にかけていたらしい。
マリオ「(って、ちょっと待て。何でこれがここに?)」
彼は尻餅をつく原因となった物体を見つめる。
確かこんなものはついさっきまで無かったはずだ。そもそもこの亜空間に存在するということ自体有り得ない。
マリオ「(いや、今はそんなことはどうだっていい!これがあれば……!)」
だが細かいことは考えないことにする。
これ(●●)があれば、今の状況を打開することができる。その事実だけで充分だ。
マリオは左手にその物体を握りしめ、今度こそ起き上った。



そしてアーカードとアンデルセン。
彼らは戦っていた――とはいえ、アーカードが防戦を強いられているような状態だった。
ジャッカルで銃剣を防いではいるものの、アンデルセンの持っている銃剣は二つ。
片方しか防げず、もう片方で切り裂かれることとなってしまう。
おまけに、その攻撃が休みなく続いているわけだから反撃の余裕すら与えられていない。
アンデルセン「こんなものか化物!初めてやり合った時の方がまだ良かったぞ!」
そう言いながらアンデルセンは諸手突きを放つ。狙うはアーカードの首。
これをアーカードはジャッカルで防ぐ――が、まだ片方の銃剣が残っている。だから右腕を盾にして防いだ。
それは腕を貫通したものの、辛うじて首の手前で刃は止まった……が、
アンデルセン「どうした。このまま斬られても良いというのか?」
アンデルセンが手に力を込めることで銃剣が少しずつ前進し――首に突き刺さっていく。


さて、どうしたものかとアーカードはあくまで冷静に考える。
正直に言ってそんな余裕を持っていることなど許される状況ではないが、今のままでは現状を打破できない。
せめていつもの銃があれば――と思ったところで、視界の端に光るものが見えた。
……遠くに弾き飛ばされたものだと思っていたが、どうやら知らないうちに近付いていたらしい。
アーカード「……まだ、私の手札が尽きたわけではない」
言うが早いか、アーカードは膝蹴りをアンデルセンの鳩尾にくらわせる。
ごほっ、とアンデルセンは咳込み……当然、隙ができる。
すぐさまアーカードは彼から離れて横へ数歩動き、先程見つけたもの――改造カスールを蹴り上げて自分の右手へと持ってきた。
ダン!!
即座にそれを撃つ。
アンデルセンは銃弾を、両腕を正面に持ってくることで防ぐ。
ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!ダン!!
しかし、銃弾は撃たれ続ける。
腕、脚、腹と次々に当たっていった。
アンデルセンは再生者であるが、改造カスールが効かないかというとそうでもない。
銃弾の衝撃は少しずつだがダメージを与えていく。
ダン!!
そして彼の握っている銃剣を弾き飛ばした。
アーカード「終わりだ」
今のアンデルセンは丸腰。更に改造カスールの連射で足止めされていたことにより、ほとんど動いていない。
アーカードはジャッカルの照準をアンデルセンの額へと合わせ、引き金を――


アンデルセン側からして、アーカードがジャッカルを取り出してからの動作は非常に遅々としたもののように見えた。だが、それと同様に自分の行動も緩慢としている。袖の中から予備の銃剣を取り出そうとしているが、なかなか出てこない。

……早い話、これは錯覚に過ぎない。
実際の時間で言うと、これらの動作が行われ始めてから一秒も経っていないのだ。
アーカードの腕に貫かれそうになったトゥーンリンク然り。

ジャッカルの引き金がアーカードの指によって引かれ、爆音と共に13mm炸裂鉄鋼弾が打ち出される。
それは回転しながら前進していく。一メートル、二メートル……。
対するアンデルセンは銃剣を完全に取り出し、弾丸の正面へ持って行かせようとするが、そのころには彼の正面まで迫っていて、間に合わない。
アーカードがにんまりと笑顔を浮かべ――


突如銃弾が停止し、何もないはずの空間に蜘蛛の巣のようなひびが入る。まるで両者の間に見えない壁ができたかのようだ。
しかし銃弾はそんな現象など意に介せずに再び前進し、あっさりと壁を突き破る。
そのままアンデルセンの額に直撃する――


バキィ!!


――ことは無かった。
銃弾が当たったのはアンデルセンの額などではなく、彼の銃剣だった。
先程できた見えない壁によりほんの僅かだが銃弾のスピードが弱まったため、何とか銃剣を盾にし、弾丸の軌道を逸らすことに成功したのだ。

霊夢「夢想封印!!」
そんな中、先程の現象――二重結界によるものだ――を引き起こした張本人が続けざまにスペルカード名を宣言する。
数発の光弾がアーカードへと飛んでいき、それらが幾本もの柱となって彼の前に立ちふさがる。
アーカード「無駄だ」
が、アーカードは両手の拳銃を左右に振るってそれを紙か何かのように容易く破り――


ザクリ、と右足に銃剣が刺さった。しかもそれが地面にまで貫通し、縫い止められた状態となっている。
アーカードが夢想封印を破った一瞬の隙を突いて、アンデルセンが銃剣を投げたのだ。
ダン!!
銃剣を手で持って引き抜く余裕などアーカードには無い。
だからそれを撃ったのだが――
マリオ「これで……」
その間に、マリオが両腕を前に突き出して掌を広げていた。


……アーカードとタブーが戦った時、タブーは彼の動きを封じることに成功しておきながらも敗れてしまった。
アーカードの動きを制限することは困難を極めるうえ、一対一で戦っていた以上、素早く行動しようと複数の動作を同時にこなすことなどできないからだ。だからタブーはOFF波動を溜めている隙を突かれて敗れた。
しかし、戦士たちは違う。彼らもまたアーカードの動きを封じた。それは時間にしてみるとほんの数秒にも満たない――はっきり言ってタブーが光の鎖でアーカードを拘束していた時間よりはるかに短い――が、複数の人数で行動することで、相手に反撃する余裕を与えることなく手を打つことができる。
言うなれば連携。それがあったからこそ、一年前に戦士たちはタブーに勝てたのだし、そして今回もまた……


マリオ「終わりだ!!」
マリオの掌から炎が――それこそ普段使うファイアボールとは比べものにならないほどの――が放たれる。
マリオファイナル。彼の切り札だ。
マリオがアーカードに吹き飛ばされた時に拾った物体、それはスマッシュボールだった。
それを割って彼は切り札を出せる準備をし――アーカードに隙ができた所で放った。

炎の渦は容赦なくアーカードを飲み込み、全身を焼いていく。
アーカード「(これがマリオの切り札……そして思い、信念……か)」
焼かれながら、アーカードは何とはなしにそんな事を考えていた。
むざむざ攻撃をくらうつもりなど無かったが、威力が落ちていた状態だったとはいえタブーのOFF波動をくらい、そのまま多数の戦士たちと戦闘をし、その中でも傷ついてきたアーカードに体力など残っていなかった。
そして先程述べた戦士たちの連携。
それらの要素が合わさった結果、こうしてマリオファイナルをくらっているわけだが……彼の耳に、ほんの僅かだがアンデルセンの声が聞こえた。
アンデルセン「我らは一切の矛盾無く『そうあれかし』と叫んで斬り、世界をするりと片付き申そう。Amen」
それと同時に自分の胸に投げ飛ばされた銃剣が刺さったのが見えて――








――アーカードの意識は、そこで途絶えた。