スマブラ個人小説/Shaillの小説/スマブラキャラの毎日 17

Last-modified: 2014-02-25 (火) 21:39:41

始めに

そろそろ終わりが近づいてきたな
マスター「マジか!?」
嘘だと言ったら?
マスター「なんだよ・・・」
まぁ、マジだけど
クレイジー「本当なんじゃないか!」
でもまぁ、安心しな
第二期でU版を書こうと思ってるから。俺の趣味っつーか、日課になってるし
マスター「・・・ルカリオとかは?」
彼奴はいなくても問題ない(ルカリオ「おい!」)
でもアイクはリストラされたとしても出します。絶対
ただ俺の特性として、予定通りにいかないんだよなぁー・・・
マスター「そこは勝手に頑張れ」


オリジナルキャラクター

第49話 精鋭科学技術

昨日の今日
リンク「・・・」
アイク「っし、終わったーーー!」
ようやく、飾り付けが終わった
長い道のりだった。本当に、地味で長い道のりだった
リンク「・・・」
アイク「あー!なんか飲もう!ラベルには気をつけないとな!」
アッハッハッと笑うアイクを横にしても、リンクは黙ったままだ
いつもなら黙れの一言、下手したら右拳くらい飛んでいる頃だが・・・
アイク「・・・どうしたんだよ。ボーッとするなんてらしくねぇぞ?」
リンク「考えごとだ。気にするな」
アイク「ふーん。昨日の態度といい、変わってきてるな、お前。初めてじゃねぇか?ゼルダ姫の命令に背いたのは」
リンク「・・・騎士の誓いに懸けて、守っただけだ」
アイク「守った。何をだ?」
リンク「いろいろ」
アイク「・・・よく分かんねえけど深くは聞かないでおく」
リンク「・・・」
大体の準備は整った。あとは作者に料理を出してもらえば完了かな・・・?
マスター「まだだ。まだあるぞ」
マリオ「ほぇ?」
ネス「また面倒のものを・・・」
マスター「クリスマスに大切なアレ。アレの飾り付けがまだ終わっていないだろう」
アイク「・・・ツリーの飾り付けか」
マスター「ビンゴ!今日やっと届いたんだよ」
ウルフ「届いた?どういうことだ?」
ファルコ「・・・どんだけ上質な木を使うんだよ」
マスター「高さ20m、昇進証明の名木だぞ」
フォックス「やっぱ上質なんじゃねーか!」

 

ロボット「What a big tree!」
ポポ「うおっ、でかーー!」
ホールには運ばれたクリスマスツリーの原型は、太さも高さも半端じゃなかった
フィジー「え?まさかこの図体にも飾りを?」
マスター「当たり前だ。このままじゃ味気ないだろ」
メタナイト「周囲はともかく、頂の星は誰が取り付けるんだよ・・・」
トゥーン「鈎爪ロープとフックショットならあるけど」
マリオ「・・・どっちもいま一つなんだよな」
アイク「うーん、どこかに引っかけれて、長さも調節出来る鈎爪ロープとフックショットを足したみてえな物がありゃいいんだけどなぁ・・・」
スリナム「そんな都合の良いもんあるわけねぇだろ」
メリカ「・・・」
アイク「・・・」
メリカ「・・・ん?何、このセリフ」
アイク「お前・・・」
メリカ「?」
アイク「・・・ワイヤー、あるよな?」

 

メリカ「私のリールはこんなくだらないことに使う物じゃないんだけど・・・!」
アイク「いいじゃねぇか。有効利用だぜ」
メリカ「・・・ちッ」
服の中ならコードを引っ張り出すと、リールの先端に接続する。そしてクナイのようなもう一方の先端を、鈎爪ロープのように投げ、天井に突き刺した
すると、メリカの身体が自然に上昇していく。キリキリと音立てながら、フックショットのようにワイヤーを巻きとっているのだ
アイク「おぉ・・・スゲー便利じゃねえか」
難なく天辺に星を付けると、降下して、着地
メリカ「これでいいわね」
スネーク「ど、どうなってるんだ?それ」
メリカ「・・・このコードと接続してるから、私の意志で上下出来る。電圧もかけられるわ」
ネス「教会のテクノロジーすごいな」
ガイアナ「ああ・・・そうだな・・・」
メリカ「この程度ですごいって言ってたら、この先やっていけないわよ」
アイク「どういうことだ?」
メリカ「もっとすごいのが存在するってこと。このプロテクターを始めとして、あと8つぐらいあったと思う。よく覚えてないけんだけど・・・」
リンク「・・・」
アイク「へぇー、俺も見てみてぇな」
メリカ「・・・」
マスター「おーい!星しか飾らないクリスマスツリーなんか見たことあるか!まだ終わってないぞ!」
アイク「見たことない?今ここで作ったらいいじゃねぇか」
クレイジー「いや無理があるだろっ!」
アイク「・・・メリカ任せた」
マリオ「任せた」
ラオス「任せた」
メリカ「・・・」
仕上げとばかりに、マスターにサンタ帽をかぶせられた
マスター「うむ、任せたぞ。キャンプのときの仕事の早さ、また見せてくれ」
メリカ「・・・ちょっと頭冷やしに行きます」

 

外の風はびっくりするほど寒かった。半袖にほぼ素足で土の上を歩いているので、その冷たさは直に伝わってくる
メリカ「・・・なによ、彼奴ら。人任せにしやがって・・・」
まったくそのとおりだ
メリカ「先端技術産業の上をいく精鋭技術の結晶をコキ使うとか有り得ないわよ。そうよ、有り得ない・・・!」
土の上で地団太踏んだ。冬の固まった地面が見る間に砕かれていく
メリカ「・・・ん?」
そして足が埋まった。ごそっと大根のように引っこ抜くと、
メリカ「・・・落ち着け私」
・・・さっき自分が口走った、精鋭技術ってなんだ?
メリカ「え・・・?あれ?あたし、どうにかしてる・・・まさか故障?」
急に息が苦しくなってきた。体の活動量がおかしい。狂ってる。でも、自分で制御出来ない・・・!
胸を抑え、自ら考えたまじないを復唱する
メリカ「あの方は、私に中身を与えてくれた。あの方は、私をふつうだって、守るって言っていた・・・だから、なにも怖がることはない・・・私が教会に行くことはない・・・ハズ」
あの人を想うと、なんだか、心が落ち着く
でも、それはただのおまじない。身体になんの影響も及ぼさない
メリカ「・・・何、なんで?この痛・・・頭が、割れちゃいそう・・・!」
両耳から何かが・・・まさか、ハッキング・・・・!
頭を振って邪念を払う
メリカ「嘘・・・!嫌、こんな、誰もいない場所でそん---」
メリカ『・・・Fガg、pッttb・・・ッ!』
彼女のヘッドフォンのランプが異常を示すように、赤く点滅していた
・・・そして、痛みがようやく収まった。早くみんなの所に戻って・・・
メリカ『-でも守られてるだけじゃあ---私ガあたしニ戻る日ハ来ナイじゃないの』




マスター「~~~~」
アイク「・・・」
マスター「~~~遅いッ!メリカはいったい何をやってるんだ!」
アイク「頭冷やすのに時間かかってんのか、怒っちまったのかどっちかだわな。水が溜まりすぎて小便でもしてたりして」
なはは、と笑うアイクの額にも冷や汗が垂れている
リンク「貴様、やるな」
アイク「・・・俺・・・ちょっと探してくる」
ドアに手をかけた途端、
レッド「おーい!みんなー!」
アイク「ぐほぁ!」
向こう側からレッドがやってきて、アイクは扉に顔面を打ちつけた
確か彼はポケモンの世話をして、会場にいなかったんだな。お努めご苦労様だ
アイク「いつつ・・・ったく、どうしたんだよ・・・」
レッド「落とし物を届けに来たんだよ。なんせここは馬鹿デカいしね」
マリオ「落とし物?」
そしてレッドが片手で差し出した物に、一堂の目は釘付けになった
レッド「リザードンが外でサンタ帽を拾ったんだけど。誰の物だよね?」
リンク「!」
マスター「それは・・・!」
間違いない。メリカの帽子だ
アイク「お、お前・・・!それどこで拾った!?」
レッド「いやぁ、リザードンが言ってただけなんだけど・・・」
アイク「すぐに案内させろッ!」
なにか大事件の予感がする

 

レッド「ここみたい」
行き着いた場所には、ぽっかり空いた穴と、爪で引っかいた痕があった
フィジー「・・・」
アイク「メリカ・・・!くそっ、何処へ行った!?」
マスター「落ち着けアイク」
アイク「これが落ち着いていられるかッ!!」
リンク「・・・」
早くも取り乱すアイクの頭に、
ゴン!
鈍い音を立て、アイクが溜まらず頭を抱えた
アイク「☆!!?」
リンクがダブルハンマーナックルをたたき込んだのだ
リンク「・・・落ち着けと言っている。敵は一目瞭然だろう。彼奴は教会の連中に何らかの方法で誘拐された。今はそれだけの話だ」
アイク「それだけって、テメェ!」
リンク「分からんのか。ここで慌てふためいたところで何になる?お前はそれでいいのか?」
アイク「・・・」
リンク「言わずもがな。救いの手を伸べるか?」
アイク「あ、当たり前だ!約束したからな・・・彼奴と」
マスター「約束?」
アイク「・・・教会に取り入れられそうになったら全力で阻止する、って」
リンク「ふん・・・」
マリオ「そうか。いまは一刻を争う。グズグズしている暇はないぞ。早く行かないと彼奴はもう・・・ダメかもしれない。あそこまで不安定な人間はいないからな」
連中に操られたとしたら・・・戦いは避けられないか
メリカの力は見たことないが・・・どうあれ、やらなくちゃならない
リンク「待て。俺も行く」
フィジー「・・・!」
リンクが自ら名乗りを上げた
アイク「お、お前が自分から!?」
リンク「・・・貴様だけではあれには敵わないしな」
アイク「お前が出しゃばる理由なんかないだろ!」
リンク「歴とある」
アイク「・・・」
そう断言するリンクの目は、マジの目だ
アイク「・・・分かった、ついてこい」
リンク「決まりだな。奴には貸しがある。たっぷりと返さねばなるまい」
アイク「・・・不思議だ、お前の力を借りるなんてな」
呉越同舟、という言葉がある
仲の悪い者同士でも、同じ舟に乗れば互いに助け合う。らしい
マリオ「聖堂教会の場所は知っているか?」
アイク「知らん。急いで調べねぇとな」
マリオ「大丈夫。その件については既に手配、交渉済みだ。先に案内をつけておいた。一緒に行ってこい」
アイク「んん?ここにそんな情報通いたか?」
アイクが眉を寄せている間に、
リンク「・・・スネーク、頼みがある」
スネーク「なんだ、珍しいな」
リンク「相応の準備が必要だからな。少しばかり物資を要請したい」
スネーク「なになに・・・・ふん、分かった。今すぐ用意する。待ってろ」
彼が頼んだ物とは・・・?




アイク「・・・お前だったのか。案内人ってのは」
終点から出発した彼らの先導を務めたのは・・・
アキュリス『おっさん。私、今から案内やめたっていいんだよ?』
なんと。偵察機器を飛ばしたアキュリスだった
リンク「なんだ?これは」
丸型機械をじろりの睨む
アキュリス『ひ・・・っ!?』
アイク「まぁ・・・わけあって俺たちの仲間だ。信用してやってくれ」
リンク「ふんっ」
アキュリス『・・・・・あっ、ここしばらく直進ね』
アイク「了解!」
そして直進なのをいいことに、アキュリスはアイクの耳元で
アキュリス『・・・ねぇ、何あの人?感じ悪いんだけど』
初めてのリンクにおびえている。まぁ、普通はそうだわな
アイク「バカ。滅多なこと言うと殺されるぞ?」
アキュリス『・・・』
リンク「なにを騒いでいる?」
アイク「いや別になにも」
リンク「・・・ハイリア人の耳を侮るなと言っていたが」
アキュリス『ゲ・・・ッ!?』
リンク「・・・今回は容赦してやる。ここでこれを潰す訳にはいかないからな」
アイク「そうだぞ。本当、そうだぞ」
リンク「・・・貴様は今ここで殴っても構わんのだぞ」
アキュリス『・・・』
アイク(・・・大丈夫かな・・・このチーム)

 

全力で走って数十分
アキュリス『ここだよ』
リザードンからアキュリスに代わった案内役は、ある一階建ての建物の前で停止した
そこは町を離れて林を抜けた場所に、厳かに建っていた
アイク「これが・・・教会、か?」
立ちふさがる門を見上げながらアキュリスに訊ねる
アキュリス『うん。あっ、電波が・・・私のサポートもここまでね。あとは任せたわ』
リンク「待て。入り口はここだけなのか?」
アキュリス『え?・・・うん、裏口も地下道も通ってない。なんせ秘密の結社だからね』
アイク「そうか・・・まあいい。裏から工作するのは騎士様らしくないしな。正面から切って出てやる」
リンク「では、俺も貴様の茶番に付き合ってやるか」
門戸を押して入り口を開けていく
アキュリス『ご武運を祈る』
こてん、と偵察ロボが地面に落ちた。電源が切られたのだろう
アイク「・・・よし、入るぞ」




聖堂教会 内部
教会というだけあって、壁の隅から隅まで真っ白で清潔感が保たれている
歯医者のキツイ匂いと消毒液のような匂いを足して2で割ったような、独特の香りがより一層際だたせた
人がいる気配は・・・ないな
アイク「迷宮みたいだな・・・」
リンク「馬鹿言え。人が出入りする建物だ。そう設計に凝る必要はないはずだぞ」
アイク「・・・」
まるで病院みたいだ。一つの通路にいくつもの部屋が隣り合い、扉の上には部屋名の札が出ている
アイク「義鋼体実験室とかってないか?」
リンク「そんな都合の良いこと、あるわけないだろ。よっ、と」
アイク「ヨット?」
柱ごとに、リンクが何かをしている
アイク「なにしてんだ?」
リンク「保険をかけている」
アイク「・・・」
よく分からない答えが返ってきたな。もう教えてくれないのは、経験上知っているパターンなので聞かないでおいた
リンク「・・・それはそうと、アイク」
アイク「なんだよ?」
リンク「奴と会った時にはどうするつもりだ?」
アイク「決まってんだろ。捕獲して連れ戻す。おかしくなってんならアキュリスに直してもらう」
リンク「・・・」
アイク「おい?」
リンク「・・・いや、なんでもない」
アイク「お前らしくないな。何かあったのかよ?」
リンク「・・・あぁ。あった。大きな心境の変化がな」
アイク「へぇ、どんな?」
リンク「そいつは言えない。それより何か勝算はあるのか?」
アイク「一応あるっちゃある。メリカはヘッドホンのコードで電気を流してる。だからそこをスパッと切っちまえば、きっと動けなくなるはずだぜ。まぁ、アキュリスには気の毒だけど。出来ればすんなり奪い返したいんだけどな・・・」
リンク「・・・そうか。気が変わったら狙ってやる」
アイク「はあぁ?」
リンク「いや、なんでもない。気にするな」
与太話をしているうちに、荘厳な扉の前までやってきた
頭上には、手術中、ではなく
-調整済み
のライトが照っている
アイク「メリカ・・・おかしくさせられちまったのか?」
手遅れか
リンク「調整が済んだのならば、そうなんだろうな。最早、戦闘は避けられんぞ」
メリカを、傷つけることになっても・・・
アイク「いってやるさ」
メリカに、さらに深い傷を負わせないためにも
俺は 目の前の扉をこじ開けた




調整室は、縦横20mほどの正方形の形をしていた。高さもそれなりにある
習慣付けられた現状確認に、周囲を見渡す
他の部屋に続いているであろうドアが一つ。入室してきた扉の横には、ガス栓、と書かれたガラス張り
そしてなにより、中央の寝台に腰掛け、こちらに背中を向けている・・・
アイク「メリカ!んぐっ!?」
慌てて近付こうとしたが、リンクに襟を摘まれ、猫掴みにされた
アイク「な・・・なにすんだよ!」
リンク「・・・ダメだな、お前も。あれが見えんとあっちゃ、俺の目が間違っていたのかもな」
アイク「あれ、って・・・?」
リンクが指したのは、ちょうど俺たちの首の高さに仕掛けられた・・・リールだった。先端が壁に刺さり、もう一方は反対の壁のフックに掛けられ、そこから伸びてメリカと接続されていた。光が反射して筋が見える
アイク「メリカ・・・お前っ・・・」
厚みがあるから切れはしないものの、電流を流されれば死んでいたぞ・・・!
メリカ「・・・」
リールをメジャーのように収納させると、彼女は半分だけこっちに振り向いた
その目には、獲物を見つけた狩人のように鋭く、そして喜色がある
メリカ「・・・よぅ、客人。リールに焼け焦げにされずに済んじまったか。まぁ、それでいい。この程度で死ぬ命と闘ってもつまんねぇしな」
男の口調でメリカが喋り始めたところで、うっすらと読めた
教会は俺達が奪い返しに来ることを予測して、メリカをいいように改造したんだ
性格の変化で口調が変わっても、言葉遣い・・ましてや性別まで変わることはなかったしな。記憶も抜かれているようだ
こうなったら・・・すんなり、とはいかないな。戦って勝つしかない
リンク「焼身刑でご挨拶とは、けっこうな出迎え方だな。よもやそんな物で死に様を晒すなどと思ってはなかろう」
メリカ「ふふん、五哀殺は私も好きだ。でもこれは所詮、遊び前の余興にも過ぎない。お前らがあたしに見合うだけの資質があるかを試しただけだ」
アイク「遊び、か・・・遊びときたか。俺たちがここへ来た理由は分かってんのか?断じてお前を喜ばすためじゃないぞ」
メリカ「知るか。この部屋に踏み込んできた時点であたしの餌だ。煮たり焼いたり刻んだり、あたしの思うまま。でもすぐに食べたりしない。それは勿体ないからな。死んじまうまでは飯給ってやるよ」
重層な音を立て、背後の扉が閉まった。あの厚みからしてリンクでも破れない。ドアはメリカの後ろか・・・
これで退路は断たれ、密室が作られた。交渉する間もなかったな
メリカ「これで思う存分闘れるな、誰かさん。あたしをガッカリさせんなよ。すぐ死ぬようなことがあったら、そうだな・・・死体も残らないよう、粉々に刻んでやる」
寝台を横に蹴飛ばし、武器を展開させていく。カメレオンにジャマダハル、右の顔にはプロテクター、胸ポケットにはリークが入っている。そして壁には・・・ー
リンク「どれほど細かく刻んだところで、死体は残るものだ。義鋼体・メリカ。貴様を今ここでぶっ壊してやる」
リンクが背中の鞘からマスターソードを引き抜いた。リンク・・・本気だな
俺もラグネルを構えると、
アイク「・・・・メリカ」
メリカ「はぁ?さっきからなんだメリカメリカって。耳障りなんだよ!」
・・・そんなに、忘れてしまったのか
アイク「約束しただろ。ここには戻らない、って」
メリカ「知らねえな」
アイク「俺は知ってる」
メリカ「・・・」
だから、メリカ
アイク「荒治療になりだろうがな。思い出させてやるよ。お前のずっと求めて大事にしていた、記憶をな」
それを聞いたメリカは、眉を寄せていらっとしているように見える。怒らせたかな
メリカ「・・・くだらない。せっかく純粋に楽しめると思ったのに、水を差すかよ。大体なんだ!餌の分際で何をするって?笑わせんなっ」
アイク「・・・」
メリカ「餌は無抵抗に食べられる。これ、常識な。お前らは虫にすら喰われるんだ。無様だよなぁ?」
こいつ・・・狂人か
メリカ「・・・ふんっ、おもしろくないな。話題が尽きやがった」
リンク「・・・」
メリカ「話題が尽いちまった」
アイク「なんで二回言うんだ」
メリカ「うるせぇな」
その一瞬、メリカの足裏に力が籠もった。波打つように関節が伸縮し、爆発的なパワーを生み出す
アイク(っ、来るッー!)
刹那、俺に向かって段違いのスピードで駆けてきた。そしてその速さを維持しつつ、回し蹴りを打つ
アイク「ッ!」
背中を反らして紙一重でかわし、反撃とばかりにラグネルを振るった
横斬りはしゃがんで、斬り上げはサイドステップで、下段斬りは宙返りして避けられた
身体能力と柔軟さを巧みに使い、まるで曲芸のように変則的な動きをしてくる
やりにくぞ、かなり・・・!
続けざまに剣を振るが、一向に当たる気配がない
数撃ちゃ・・・ラグネルの横薙に対応し、メリカがくるりと剣の上をすり抜け、片手で倒立する姿勢になった
好機
アイク「んんッ!」
上から下へ、叩き割りを打ち込んだ。これはもう避けられないぞ
メリカ「ふん!」
バチンッ


リンク「・・・」
アイク(手応えがないッ)
メリカは、ラグネルを両足に挟んで受け止めたのだ
引き抜こうとするも、異常な脚力にアイクでも苦戦する。それに足を絡められているのでなおさらだ
この状況・・・かなり不利だ
俺が離せばラグネルが奪われる。これは絶対に出来ない
かといって、引っ張り続けたままだとどうなるか。もしメリカが離したとしたら、俺はどうしてもよろけてしまう。その間に俺の心臓を討つことは、メリカにとっては造作もないことだろう
メリカ「ほらほらほら!さっきまでの威勢どうした!」
アイク「ぐッ・・・!」
メリカが足の力を抜こうとした途端
大量の剣がメリカに向かって降り注いだ
メリカ「っん~!」
足を解き、ラグネルを蹴り台にして後転したあと、飛来する刀剣を全て弾き返す
メリカ「・・・もう一人いたんだな。雑魚すぎて忘れてた」
アイク「サンキュー。助かったぜ、リンク」
リンク「・・・」
メリカ「お前・・・変な技使うな。剣を投げつけるのか。勿体ないな」
リンク「勿体ないのは、貴様如きと戯れる時間のほうだ!」
今度はリンクから駆けた。確かな標的を狙って・・・
リンク「見えているぞ。貴様のその刃、何ら特別でもない。むしろ鋳造されている安物だ・・・!」
リンクの振り上げたマスターソードが、腕の刀と斬り結んだ
メリカが、しまった、といった表情を見せたあと・・・
カメレオンの刃が粉々に破壊された
アイク(あれは、ソードブレイカー・・・!)
リンクの言ったとおりだった
安い製法で仕上げられた刀は膝蹴りでも折ることが出来るのだ。だから、聖剣の一撃ともなればたやすいだろう
リンク「お前も手伝え。両側が攻め入るぞ」
アイク「おうよ!」
メリカ「挟み撃ちにする気か・・・いいぜ、掛かってきな!」
左利きのリンクがメリカの左側に回り込み、右利きの俺が左側に回り込んだ。お互い、連携が利くな
このダブルプレーにもメリカは対応してきた。肩と踵のカメレオンとジャマダハルを使って反抗を続けるも、使い古して軌みをあげていた金属だけはどうしようもない
メリカ「は、ぐ・・・!」
二つ三つと折れていく刃。段々とガードが甘くなっていく
アイク「もう狙えるかっ?」
リンク「・・・造作もない」
アイクがヘッドフォンのコードを見定め、ラグネルを振り下ろした
メリカ「ッ!」
とっさにジャマダハルを投げ捨ててプロテクターを展開させる
ガキンッ!
聖剣とあっても、タイル状に変形した盾は貫けなかった
アイク「・・・リンク!」
メリカ「は・・・!?狙いはコードだけじゃあ・・・!」
彼女の背後から、床を踏みしめ、メリカの心臓部に八極拳を放つ
リンク「管を切らずとも、仮死に陥らせることは可能だ」
ドンッ、と鈍くて重い音がした。命中したのだ
背中から胸に到るまで、手榴弾が炸裂するのと同等の衝撃が走っただろう
メリカ「そん、な・・・!あたしの、負け・・・ッ!?」
びくんっ・・・
メリカの体が跳ね、そして立ったまま動かなくなった
昏睡したか・・・
荒治療、と先に断っておいたんだ。恨むなよ
メリカ「---」
アイク「よし、今のうちに連れて帰ろう。今は一時的に死んでるだけだからな」
リンク「・・・」
アイク「ーリンク・・・?」
リンク「・・・違和感がある。そう思わんか?」
アイク「・・・?」
メリカから視線を逸らそうとしない
これは・・・
確かに、変だ
アイク「ー!」
おかしいぞッ。死んだ筈なのに、なんで・・・なんでずっと立ったままでいられるんだ・・・!?
メリカ「-Just kidding♪
けろっとした声で、なんちゃって、ってか
リンクは確かに左胸を突いた筈だ。外すことはあり得ない
アイク「っ・・・そうか!」
はたと思い出した。アキュリスが言っていた・・・
メリカの心臓の位置はあんなところじゃないんだ!
リンクはそれを知らない
だから壊したのはペースメーカーであって、本当の心臓は、今も腎臓のあたりで元気に活動中ってわけか
メリカ「・・・惜しかったな。外は全滅、中は一個壊されたけど、まぁいいや。あたしを殺す気でいたら今頃やられてたかも。でも今のは本気じゃない。ここから本格的な調理に入るから、覚悟しとけや」
これは嘘じゃないな・・・
そう判断出来るのは、壁に仲良く立てかけられた二つの武器だ
その内の一つ・・・斬破刀のような巨大な漆黒の剣を手に取ると、ぶおんっと一振り。外見だけでも200kgは超えているであろう塊を、片手で
アイクを真似たのか、肩に乗せた
メリカ「お前らには、コイツで相手してやるよ・・・!」
アイク「・・・ー」
気が変わった。あれは恐らくただの大剣じゃない
特性は判らないが、気を付けないとな・・・
メリカ「最期に残る光景なんだ。焼き付けておけよ。良かったな、清潔な部屋で」
リンク「・・・その剣は相棒か。随分と頼っているようだが」
メリカ「これは正真証明、最強の剣なんだ。お前らみたいな胡散臭い武器とは違う。聖剣なんかじゃ到底、敵わないぜ」
リンク「優劣はやってみないと分からんだろうッ」
リンクがマスターソードを盾にしながら突っ走った。鍔迫り合いに持ち込んで様子見、ってとこか
賢明だな
だが、それが命取りとなった
対してメリカは・・・すっ。右足を引いて斜め横を向いた
大剣を水平に顔の高さまで持ち上げ、両手を後ろに引き、右腋を大きく開けた姿勢を一瞬でとった
なんとなくだが・・・あれは防御を無視した構えだと判った
リンクは既に攻撃体勢だというのに、いったい何を・・・
メリカ「触れれば斬れん・・・!」
リンクの追い斬りに、メリカは袈裟斬りで対抗した
刹那ー
・・・パキンッ
金属同士を打ち鳴らす音の代わりに、マスターソードから情けない音が聞こえた
リンク「!?」
何故か軽量になった剣に動揺を隠せない
メリカ「理解出来たか?これが剣の違いだ」
次に、華欄、と、金属の破片が床に落ちた
まるでバターをスライスするようにあっさりと、
退魔剣を斬った・・・!
リンク「~~~!」
アイク「嘘、だろ・・・」
一部始終を客観で見届けた俺は二の句が継げないでいる
それだけじゃない
マスターソードは、あの正体不明の剣と交錯する前に切断されていた
真空斬りのように不可視の空気で斬ったのか?でもあの図体を亜音速で振るのは、メリカでも無理がある
リンク「・・・どうやった。どんな仕組みだ、それは」
マスターソードは紛れもない聖剣だ
それを斬るとなると・・・魔術を帯びているとか?いや、教会は理由は知らんが魔術学院と対立してるんだろ
物理的に切断したんだ。だが聖剣を斬るとなれば・・・ん・・・もう、矛盾の螺旋だ
メリカ「・・・なんで誰も思い付かなかったんだろうな。火ィ噴かせたり光出したし・・・余計なことせずに普通の剣を進化させていけば、最強に成り得たっていうのに」
リンク「普通の、剣・・・だと?」
メリカ「そうだ、なんの細工もない。この型は世界で最初に鍛えられた剣の形を模してる。本来の剣の姿を表してんだ。一つ違う点はな、ただひたすら鋭くしただけだ
アイク「どういうことだ?」
メリカ「先端の細さは約1nm。うん、解りやすく言ったら0.000001mm、だいたい酸素分子レベル・・・だっけ」
リンク「そこまで細いのなら簡単に折れてしまうだろうが」
メリカ「・・・この剣の材質は宇宙で一番硬いんだ。カーバイン・・・?カルビン?とか言ったっけな。金剛石の3倍の硬度だ。それを束ねて作った」
アイク「・・・」
なるほど
硬くて細い。この二つの要素を極限まで高めた技術の結集、ってわけか
今の話で推測してみたが・・・
打ち合う前に剣が裂かれたのは、先端の刃が肉眼では見えないほど細いからだろう
自身のリーチを攪乱するのにも利用できるな。実際、まだ見測れていない。白兵戦だと絶大な効果を発揮してくれる
こうもべらべら喋ってくれたのは、絶対に破れないという自信の表れか
確かに・・・・手詰まりだな
メリカがあの剣を放してくれたらいいが、あの筋力では不可能だろう
思えば、防御を無視したあの構えも、絶対的な切れ味を誇る剣があるからだな
折ろうとすれば切られる
リンクはマスターソードを損失した。だがリンクに武器が尽きることはない。切られたのがラグネルじゃなかったのは幸いだな
かくなる上は、腕ごと、斬る
でも俺に・・・そんな無慈悲なマネが出来るのか?相手は他でもない。少し前まで一緒に話していたメリカだ
と、自問自答している間にも、メリカは攻め寄ってきた
メリカ「ほらっ、早く逝っちまいな!」
縦に斬り裂こうとした剣を寸前でかわす
しかし、それは視えている範囲だけで、だ。寸前では遅い
あとコンマ一秒でも反応が遅れていたら体が真っ二つになってたな
アイク「く・・・!」
何発もかわしているが果たして、避けるだけで反撃が出ない。あの剣に対して、反撃と自滅は同義だからだ
メリカ「あは・・・ーっ!」
勝利を確信した笑みか・・・いや、最初から確信していただろう
死ぬまで飯給る、とか言っていたな。そんなにも虐めるのが愉しいのか
メリカ「ふふっ、あっはははははは!情けなーい!弱い男は嫌いだ。どうした?手も足も出ないのか?」
アイク「・・・・ッ」
ノッてきたメリカが、ついに狂気の声を上げた
避けながら、俺は・・・もう、どうでもよくなった
こうなったら俺の流儀、強行突破だ。後先のことは考えない
成功するかは分からない。成功したとしても、その後に殺されるかもしれない
なにしろカーバインの融点が判らないんだ。適当な火力は望めない。出来る限りの最大火力を出さなくちゃならないんだ
幾ばくか服が破かれ、裂け目から血が流れていく
俺はラグネルを握り締めた
同時に、壁に追いやられた。大剣の一刺が迫り来る・・・
アイク「・・・」
目前の背景を見据えた。狙いは、リンクの仕返しのつもりか、左胸だ
あれは大剣なだけあって幅が広い。何度か避けるうちに、直感で間合いも読めてきたぞ
アイク「これぐらい、出来ろッ!」
そう叫んで、俺は左肱を震わせた
宇宙一堅い剣に叩き込むんだから、骨が砕けるかな。それも計算ずくだ。だが対処法なんかない
そのときはそのときだ
ごっ!激しい衝撃が腕に伝わり、そのあとに激痛に見舞われる。案の定バキバキに骨折したな。痛ぇし、硬ぇな
だが・・・
メリカの剣は心臓ではなく、真横の壁を突き刺した
俺は、一瞬間の左肘打ちで軌道を反らせたのだ
メリカ「!」
防ぎきれない一撃と悟っていたメリカは、少し、焦っている。だが電線だけは守ろうと、片手で制した
なら仕方無い。その隙にメリカの股をくぐって距離を取ると、
あの剣を打ち破る超必の技を繰り出さんと、ラグネルを縦に持った。左手は動かないが、もうどうにでもなりやがれ
アイク「あっ・・・」
ここで・・・やらかしたことに気付く
この技には両手が必要だ。今の俺は片手しか持ち上がらない
メリカが壁ごと斬って剣を引き抜くと、
メリカ「・・・やるな。あたしはあの一撃は絶対かわせないと思ってた。でもただそれだけだ。仕掛けるのはいくらでも出来る」
再び俺に標準を合わせる。狙いは右腕
あれはもう逸らせない。命は取られないまでも、両手が使えなくなるんだ。いつ殺されてもおかしくないな
しくじった・・・左腕がただの無意味な犠牲になりそこねない
アイク(どうすればいい・・・!)
そんな内心の焦りが伝播したのか
誰かが、隣でラグネルを支えてくれた
アイク「!」
リンク「みずぼらしいぞ、アイク。おいしい場面を独り占めさせようものか」
リンク・・・協力してくれてるのか。俺を本気で殺そうとしたお前が
これはー負けるはずがない。俺たちは、腐っても聖剣の担い手なんだからな!
アイク「最強の剣とか言ったな・・・?」
メリカ「ああ、そうだ。お前らには絶対に破れないぞ」
絶対、か・・・絶対ねぇ。リンクを横目で見ると、どうやら同じことを思ったようだ
アイク「確かに凄い剣だ。だがな、その栄華・・・今ここで散らせてやるよ」
これは賭けだ
メリカ「へんっ。散らせるもんなら、散らしてみなッ!」
メリカが地を蹴った。ヘタな新幹線よりも速い彼女なら、数秒もせずに間合いを詰めてくる
あらゆる障壁を無視できるあの剣は、ラグネルごと貫通して、俺たち二人の首をかっ斬る気だ
俺は・・・
腕を伸ばし、前方にバットを構えるように、ラグネルを縦にした
一世一代の勝負どころだぜ、ラグネル
今までお前の本気を出せなかったな。すまん。溜まってんだろ。だから、ここで全力で解き放ってくれ
それでお前も・・・臨終だ!
---ッッ!
二双の大剣が交じり合い、そして突き抜けた




ガキンッ---!
交錯したあと、メリカは俺たちの後ろに、俺たちはメリカの背後にいた
これは・・・剣を貫通した。だが俺達の首だけは斬られていない
アイク(ちっ・・・)
俺は内心で舌を鳴らした
首との位置が位置なだけに、付け根から、ごっそりと
ラグネルも切られた・・・!
華欄と、一際大きな金属片がマスターソードと並び、床に落ちた
聖剣も尽きたな。これじゃあ使いものにならない
だが、それは彼奴も同じこと・・・
アイク「・・・俺の勝ちだ、メリカ」
メリカ「あ・・・えっ・・・?」
不思議そうな声を出したメリカの手には、なにもない
代わりに、俺の足元から彼女の足元に向けて、液体がこぼれていた
メリカ「あれ?あたしの剣・・・・なんで?どうして!?」
解せない、と慌ててキョロキョロ見渡す。無論、剣らしい物はない
いや・・・剣の原型なら足元に落ちているだろう
アイク「大噴火<ソード・ベグニオン>・・・俺のファイナリティだ。つっても、もう二度と使えねぇけどな」
メリカ「・・・?」
アイク「お前の剣を溶かしたんだ。カーボイン?が液体になる温度が判んねぇから、ざっと7000℃ぐらい出してな。でも、そこまで出そうとなったら、ほんの一瞬だけだ。その一瞬を見計らって、ラグネルから炎を出した。お前が俊足だったのは助かった。その一瞬でも、あの剣が焔の中を通過してくれたからな」
メリカ「そんな・・・バカな!ダストが死ぬとか有り得ないし!」
それでもやっぱり視えない部分があったのはキツかった。ラグネルに刺しかかった瞬間に焔が出たから、結果的にラグネルは折れ、メリカの剣は液状化した訳だ
それより・・・
メリカ「こんなの嘘だ!あたしの、ダストソードが・・・死んじゃった・・・!」
膝を衝いて高熱の液体を掻き集める
リンク「?」
剣が、死ぬ・・・?これは理解に苦しむな
メリカ「αもβもBalloesteらもまだいるのに・・・!...way...not way...!」
アルファ、ベータ、ブロスト・・・
メリカの言っていた武器のことだろうか
メリカ「あたし達の友達を殺した奴は、10倍、いや、100倍殺す。なぁ?バレット」
立ち上がり、壁に掛けていたもう一つの武器を粗手に取った
アイク(・・・やっぱりそうきたか)
こっちの損害は絶大だ
俺は体中を切り刻まれた挙げ句、左腕を自傷。マスターソードとラグネル損失
頼みの綱といえば、拳か投影くらいだが、対応できるか・・・?
メリカはリールと同じように、電線をバレットと呼ばれた二段構造になっている大型機関銃の後部に接続した
銃、なんだろうが・・・引き金が見当たらない。銃身の青いライトがチカチカと点滅しているだけだ
リンク「・・・気を付けろ。あれもただの機関銃じゃない」
アイク「あぁ、分かってる」
分かってる、けど
もう防御する術がない。逃げ回るにも、やはり限界がある
メリカ「送填完了・・・照射ッ!」
駄目だ・・・!
メリカの銃が唸りを上げた・・・
・・・カコッ
と思われたが、銃口からは何も出なかった
メリカ「・・・ん?あれ?バレットどうした?」
リンク「なんだ・・・?」
不発か?
バレットはまるで生きて訴えるように、メリカに反発している
メリカ「お前まで・・・!動けよ!」
バレット[・・・]
メリカ「~~~ああもう!!悪い子だな!悪い子にはお仕置きだッ!!」
ついに・・・いや、さらに怒りの緒が切れたメリカが、がちんっ。突如、バレットのライトが青から赤の光に切り替わった
アイク「!」
リンク「っくるぞ!」
途端。銃の下層から、蒼い弾が飛んできた。数百ほど
これはイクシオン型粒子砲・・・!それも散弾だ
リンク「下がれ、アイク!」
俺の前に躍り出たリンクが、両腕を顔前でクロスさせて弾丸を防ぐ。俺が防御出来ないことも分かってたんだな。防弾繊維の服も前もって着ていたのか。お前の周到さには負けるよ
バレット[Barrrrrrrie!]
リンク「ーッ!」
メリカ「バレットに一枚の服で耐えきれるかよっ」
連射されるイクシオンの威力は依然落ちていない。徐々に服がボロボロになってきたぞ・・・
すると、ひとしきり暴走したバレットを止め、
メリカ「ふん・・・お前ら、さっきからなかなか見所があるな。食べるほうが勿体なくなってきたぞ」
鼻を鳴らしながら、俺たちをなめるように見てきた
アイク「なにが言いたい・・・?」
メリカ「今すぐあたしに降伏しな。下につけ。そしたら殺しはしないでやる。一生コキ使うだろうけど」
人指し指で床を差した
跪けってか。騎士がそんな野暮なことする訳ねぇだろ
アイク「断る」
リンク「同じく」
即答してやった
メリカ「---そっか・・・せっかく最後に生きるチャンスを上げたつもりだったのになぁ・・・」
元から細い目をさらに細め、
メリカ「でも仕方ない。お前らは自ら死を選んだんだ。お望みどおり、冥土に連れてってやるよ!」
ガコン。再びバレットを支えると、引き金もなしに火を噴いた
防弾服はもう使い物にならないと悟ったリンクが、目前に盾を投影する。装甲車の壁みたいに分厚い40mm超の防弾盾をな
それがバレットから撃ち出される粒子ビームをことごとく弾き返した
メリカ「小賢しい・・・。よし、その盾ごと溶かしてやる」
下層からの発砲が収まったバレットを床に衝き、今度は上層に電気が流れた
あの形状は、間違いない。小型のレールガンだ
リンク「・・・アイク」
アイク「なんだ」
リンク「俺が合図したら、背中を押して支えてくれ。俺が衝撃で飛ばされないようにな」
それは・・・上層部の攻撃に対応出来る策がある、ということだ
アイク「あぁ、右手だけでやってやる」
直感でだが、何をするのかが概ね分かってしまった
これは、勝てる
だが、それはメリカを死に追いやるのと同じことだ
アイク「・・・」
リンク「なんだ。気が引けるか?」
アイク「・・・まあな」
リンク「四の五の言ってられんぞ。やらなければやられるのだ。たとえ、やる相手がお前の大切な人でもな」
アイク「お前・・・」
リンク「これは荒い治療だ。そうだろう?なら、さっさと治してやれ」
アイク「・・・ああ、引き受けたぜ」
メリカ「何言ってんの?もうチェックメイトだぜ」
チャージ完了したバレットは、今にも電撃が溢れそうだった
あれがメリカにファイナリティか?核の次に破壊力に長けるレールガン。小型だとしても、あの威力は桁違いなんだろうな
リンク「よく狙えよ?義鋼体」
メリカ「・・・小細工は無意味だ。バレットは絶対にやられないぞ」
また絶対、か。お前それ好きだよな
だがな・・・
メリカ「発射」
お前こそもう王手が掛かってんだぞ・・・!
リンク「今だ、押せッ!」
小型とは思えない極太の稲妻が放たれた。直撃したら焼け焦げるな、全身
対して・・・リンクはレールガンが放たれた直後、前方にミラーシールドを展開させた。投影とはまた違う・・・恐らく、あれは本物だ
神刀を受け止め、炎や氷や雷撃をも弾き返す最強の盾。メリカはその正体を知らない
バンッ!
ミラーシールドに反射して180°回転した雷撃は、撃った本人であるメリカの元に帰っていく
メリカ「え・・・?」
常識外れな光景に目を丸くして、次の瞬間っ
バチバチバチバチバチッッッ!!!
超高圧電流が、メリカの体内を駆け巡った
同時に、焼け付くような痛みが襲う
メリカ「ッ---!!!」
皮膚が焦げて、溶けて、原型を止めない
メリカ「う、嘘だ!こん・・・な、の、有り得ない・・・!ただの!マグレ・・・な、ん、だってば!」
所々が黒煙をあげ、体内の荒れ狂った回路も助長した
やがてメリカという生命を侵し尽くすまでに
メリカ「あたしは・・・ー負けて、なんか!・・・ない!ぁああッー!!」
たまらず地に伏せてのたうちまわる。だがそれで痛みが収まるはずがない
メリカ「た・・・助けてよ・・・誰でもいいからぁ・・・!」
アイク「・・・ッ」
つい足が出そうになったが、堪えた
見ていると手を差し伸べてしまいそうになる。俺は視線を逸らした
リンク「・・・終わったな」
アイク「・・・」
リンク「貴様は・・・典型的なお人好しだな。今更聞いても益ないことだが、やらないほうがよかったか?」
アイク「・・・どっちもどっちだ」
リンク「・・・」
倒れたまま動かないメリカに近づいた
メリカ『---』
アイク「・・・痛かったろ」
果たして、痛い、だけで済ましていいのだろうか。いっそ死んだほうが楽だ、と言っても過言でもなかっただろう
それくらい・・・いや、それ以上の痛みだっただろう
アイク「でも、後は任せろ。お前をこんな目に遭わせた連中をブッ潰して、お前を今度こそ解放---」
そのとき、話の腰を折るように
---ぴく
アイク「な・・・!?」
リンク「む・・・」
今、ちょっとだけ跳ねたぞ・・・?
これはまさか、まだ・・・!
メリカ『・・・Fーgtgtgtrtth』
ガタガタと機械的に痙攣し始めた
アイク「おいっ!どうなってんだ!?」
リンク「まだ生きているだと・・・往生際の悪い奴だな」
さすがのリンクにも焦りの色が浮かぶ
メリカ『O-lala』
そしてカメレオンの破片を取って掴むと、
ぶおんっ!
アイク「!」
立ち上がりざまに振るってきた
間一髪アイクがかわし、リンクの元まで後退した。それを追うような素振りはせず、立ち止まったままニヤニヤ笑ってやがる
メリカ『K-ill-er』
アイク「こいつ・・・おかしくなってる・・・!」
リンク「それは元からだッ」
メリカ『H-Huu♪』
唐突にプロテクターを外して前屈みになり、穴の空いた目でじっと見てきた
アイク(・・・・!なんだ・・・あれは!?)
メリカの穴の空いた右目が・・・
奥のほうから徐々に、紅く光ってきている・・・!
メリカ『C-atch』
アイク「やめろっ、メリカ!」
ただこっちを見ているだけだが、何かが来る。ただ漠然とそれだけは分かる
アイクの声すら耳に届いていないのか。ついに溢れんばかりの光が溜まり、
メリカ『P-ress!』
メリカの目から何かが飛び出した瞬間、
リンク「投影、連続投射ッ!」
リンクが剣を編み出した
その一瞬間だけ、パッと部屋は紅い光に覆われた




なんだ・・・今の光は
アイクの焦点が合致したとき、有り得ない光景が目に移った
リンク「---!」
ミラーシールドとリンクの胸に、大穴が空いていた
アイク「リンクっ!?」
メリカから発射されは光の筋は、ミラーシールドを突き抜けてリンクを貫通したのだ
アイク(あの光は・・・レーザービーム!)
あいつ本当に眼からビームを撃ちやがった!
レーザー光線は、光速。光と同じ速さで標的を討つ。それはとても人が避けられるものじゃない
よたよたとおぼつかない足取りで懸命に立っているが、ダメだ
あれは致命傷だ。やがて死ぬぞ・・・!
それを主張するかのように、投影した剣が消えていく。魔力源のリンクが死にかけているからだ
水素切れでメリカが倒れたのを確認し、リンクに肩を貸した
リンク「・・・俺も、焼きが回ったか・・・、お前の助けを借りるとはな・・・!」
アイク「あまり喋るなっ、痛むだろ」
リンク「この程度・・・屁でもない・・・。それより、この部屋は危険だぞ」
アイク「・・・?」
危険・・・?
メリカは既に動かない。何か危険物があるのか?
リンクは顔を上げて、すん、と鼻をひくつかせた
リンク「この臭い・・・ガスが漏れているぞ。この密室だと、もろとも中毒で心中だな・・・」
アイク「ガス・・・まさか!」
振り向いて見れば、ガス栓のガラス張りにも直径5mmほどの穴が空いていた。ガス欠だ・・・!
メリカのやつ・・・リンクと壁がちょうど同一直線上になるよう誘導したのか
アイク「くそっ・・・どうすればいい・・・!」
自由に動けるのは俺一人。救出が必要なのは二人。取り分け、メリカはかなり重量
いや、それ以前にこの部屋から出る方法を・・・
アイク「そうだ。他にもドアがあっただろ!」
俺の提案は、リンクに、ふんっ、と鼻で笑われた
リンク「浅はかだな・・・既に調べ済みだ・・・。あそこに、脱出経路はない。それどころか・・・dangeor・・・危険物で溢れ返っている・・・」
こんな危機的状況でも、いつも通り悪態を突くリンクに安堵していいのやら
アイク「じゃあ、どうすれば・・・!」
リンク「案ずるな、手は打ってある・・・。言ってただろ・・・保険をかけておいた、と」
アイク「だからその保険ってなんだ!」
リンク「・・・」
リンクは一拍置いて、
リンク「・・・いいか?気取るつもりはないが・・・俺に構うな。貴様に助けられては・・・俺の名誉も傷つくってもんだ。これは自己満足のため、お前に申しつける。俺の名誉のために、俺を助けるな・・・」
アイク「お前・・・」
初めてだな、リンクの・・・強がってる姿を見るのは
アイク「お前・・・なんでもう諦めてんだよ!」
リンク「・・・当然だ・・・一縷の奇跡に頼るつもりはない。全ては奴らの計画通りだった」
アイク「まだだ。まだ助かる望みはあるはずだ!」
リンク「それは貴様だけだ」
アイク「そんなことないッ!お前だってまだ---!」
そこで息を継いだ俺は、息が詰まりそうになった。過呼吸じゃないぞ
リンクが取り出した・・・あれは、スネークの・・・
アイク(-起爆スイッチ!)
リンクは、教会ごと壊してこの窮地を逃れるつもりだ
でもそれじゃあお前は・・・!
リンク「せめて、お前だけは生きろよっ」
最後の力で俺を蹴飛ばしてふらふらと壁にもたれると、躊躇いなくそれを押した
C4爆弾を設置していた場所は柱だ。この建物が崩壊するのは目に見えている
二人の間に挟まれた俺は・・・
アイク「ーッ!」
リンクとは逆の、メリカに向けて駆け出した。天井が抜け落ち、瓦礫が降ってくる。それから守るように上に庇った
ここに彼奴を捨て置くことは出来ないッ!
リンク「・・・やはり、そちらを選んだか・・・・馬鹿め。・・・・・・まぁ、聞こえてないか」
緑の騎士は、ふっと小さく笑った
振り返ったところで、彼奴の体はもう見えない。代わりに退魔剣の欠片が近くに落ちていた
瓦礫の山に埋もれたか、それとも既に---
アイク「っ・・・最後の最後まで皮肉気な言葉を残しやがって・・・。俺はな、お前みたいな奴なんか尊敬するぜ」

第50話 そして恋の行方は・・・

アイク「くっ・・・!」
邪魔な瓦礫を押し退け、やっと外の空気にありついた。一階建てだったのは幸いだな
見上げる空が赤い。もう夕方終わりかけか
メリカ『・・・』
右手でつないでいたメリカを岩の中から引っ張り出す
最後にはビームまで撃ってリンクを殺しやがった
アイク「強かったんだな・・・お前」
だがこうなれば何よりも無害。動くことは出来ないし、動かすつもりはない
アキュリス『あーあ、おっさん。派手にやってくれたねぇ』
アイク「アキュリス・・・」
アキュリス『せっかく私が直してあげたのに。また直せ、とか言うなよ』
アイク「・・・すまん。それは約束出来ん」
アキュリス『マジかぁ~!また重労働だわ~!お詫びにソフトの一つや二つは買ってよね!』
アイク「ガキかお前は・・・」
アキュリス『・・・そういえば、もう一人いないね。まさか、やられちゃった?』
アイク「リンクか。彼奴は・・・。彼奴は、すげぇ騎士だったよ?」
アキュリス『・・・?』
アイク「よしっ、アキュリス。みんなを呼んできてくれ。さっさと見つけてやるぞ」
アキュリス『あっ、うん』




その後
崩落した教会の跡は、マスターがなんとか処理してくれることになった
リンクは倒壊の下敷きになっていたのをゼルダ姫に発見された。ボロボロの姿で
しかし、なんと。胸に穴を空けられて岩塊に打ちつけられても、まだ死んではいなかった。さすがと言うか
だが生死をさまよっている状態だ。俺はもう済んだが、まだ保健室でゼルダ姫に手厚い治療を受けているだろう
メリカも人体の部分だけラトビアに治してもらった。あとで機械の部分もアキュリスに修理してもらおう
一段落したらいろいろ厄介なことになりそうだな
斯く言う俺は・・・

 

寮 アイクの部屋
メリカを連れて、自室にやってきた
あれこれしている間にもう夜だ。ろくに食べてないし
それより今は眠い、疲れた、面倒臭い(なにが)
メリカをベッドに横にして、俺はイスにどっかと座った
ベッドがうまったからな。仕方ない。ここで寝るか
座った途端、急に眠気が襲ってきた。どうやら体の芯にまで疲労が溜まっていたらしい
だんだん視界が、微睡んできたぞ・・・
メリカ『・・・』

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ギシ・・・
アイク「ん・・・?」
不意に目が覚めた。窓からの光は月明かり。まだ深夜なのに
・・・いや、待て
アイク「・・・ん?えっ?な、何だ、これッ!」
ギシッ、ギシッ
身体がイスから離れない・・・!?
手首足首がイスの下側で何かに縛られて、拘束されてんだ!
メリカ「いつもより18000秒早い目覚めだな。気分は優れないか」
その拘束犯は、ベッドに腰を下ろして悠々と話しかけてきた。男の口調だな
う、動けない!完全に立場が逆転してるぞ
でも水素切れのはずなんじゃ・・・
アイク「なんで・・・動いてられるんだ?」
メリカ「・・・」
メリカは黙ったまま立ち上がり、俺にぐいっと顔を寄せると、
メリカ「・・・限界水素。あたしに組まれた再起動のシステム。ランダムで時間が過ぎれば、貯蓄されてた水素が自動で使役される。戦線撤退のための機能なんだが、まさかこんなときに使えるとはな」
アイク「俺をどうするつもりだ」
メリカ「・・・お前に逃げられたら困るから、ちょっと捕まえさせてもらっただけだ」
アイク「困る・・・?」
そこで顔を離し、扉を背もたれにしてこっちを睨んだ
メリカ「これで誰も入れない。お前を生かすも殺すもあたしの自由だ」
俺も睨み返した
アイク「・・・」
いざとなったら、身体をリールで切って窓から脱走する。それか大声で叫ぶ
近所迷惑だろうが、いってる場合じゃない
メリカ「浅はかだったな。あたしを助けるなんて、馬鹿のやることだ」
アイク「悪かったな」
メリカ「まだあたしが喋ってるんだ。口挟むんなら、顎外してあたしの舌ァ突っ込むぞッ」
アイク「・・・」
なんだよ。それ
メリカ「で、だ。お前・・・・なんで助けた?」
それは・・・何故、と訊かれると答えに詰まる
なぜなら---
アイク「・・・」
メリカ「答えられねぇってのか?」
アイク「・・・ああ」
メリカ「死にたい?」
アイク「死にたくない」
メリカ「じゃあ言え」
アイク「・・・それは、言わない」
メリカ「じゃあ死ねッ」
またこっちに歩み寄ってきた。武器こそないが、あの力があれば素手でも殴り殺せるだろう
ならいっそのこと手首を引きちぎって・・・!
メリカ「手ェ抜いて逃げようってんなら、もっかい折ってやる!」
読まれてるし!
アイク「って、な・・・!?」
メリカは両手でアイクの腕を掴むと、
バキンッ!
躊躇なく、豪快に俺の腕を、俺の上腕骨を・・・
ほ、本当に折りがった!両方とも!
メリカ「これで分かっただろ。お前はもうあたしのものだ」
アイク「ッーー!!」
メリカ「痛いか?痛いだろうな。でも、こんな痛みはお遊びだ。お前らがあたしにした痛みに比べたら大したことないだろ」
アイク「な・・・なんで、こんな、ことを・・・!」
メリカ「言ってるだろ。逃がさないためだ」
アイク「俺をここに閉じ込めて、どうするつもりだ・・・!」
メリカ「・・・それはお前の返答次第だなぁ~」
アイク「・・・!」
どうやら従うほかなさそうだ。殺す、って言われたら、それは現実になるだろうしな
メリカ「あたしの質問に答えろ。さっきのはもういい。そうだな・・・」
アイク「・・・」
メリカ「・・・もう一人の、緑の奴は何してんだ?」
リンク・・・名前覚えられてねぇんだな。ちょっとだけかわいそうになってきたぞ
アイク「彼奴は・・・お前にやられて、今は寝てんじゃないのか」
メリカ「・・・?」
それを聞いたメリカは、キョトン。不思議そうに顔の表情を変えた
メリカ「彼奴まだ生きてたじゃんか」
アイク「お前自分で撃っただろ。なかった事になんか出来ないぞ。目からビームでよォ」
メリカ「!」
何かに気付いたのか・・・
アイク「まさか記憶にないのか?」
メリカ「あたし・・・裏から操られていたのか・・・」
アイク「・・・?」
メリカ「いいか、よく聞け。緑を撃ったのは、あたしの最後の切り札、『片眼力光線<ハーフ・ライト・レーザー>』。文字通り片目からレーザービームを発射させる。でもあたしには撃った記憶がない。もしその話が本当なら、どっかの誰かかがあたしを狂わせて、操り人形にして使わせたんだ」
アイク「それは、たぶん・・・教会の仕業だろうな」
遠隔操作までされるのか
だったら、もし奴等がまだ生きているとしたら、この場で狂わされることも否定出来ない
メリカ「・・・それも有り得なくないな。まぁ、そのときはそのときだ。数秒後の未来が先送りされるだけかもしれないし」
アイク「それだけは勘弁してほしいな・・・」
メリカ「ならせいぜいあたしの機嫌を損ねないように頑張りなっ」
ニヤリと笑ったメリカは、本当に心の底から笑っている
メリカ「そういや・・・」
アイク「?」
メリカ「・・・お前ら随分とやってくれたよなぁ?」
その笑いは一瞬で消え失せ、彼女の目が完璧に据わった
そのまま俺の太股の上にのしかかり、上から見下ろしてくる
メリカ「ものすごく痛かったんだぞ。うん。死にそうなくらい痛かった。でも頑張って耐えたんだ。何故ならあたしは絶対だからだ。お前らみたいなのには負けない。だから必死で堪えたんだ」
アイク「また絶対か・・・お前、なんでそんな言葉が好きなんだ?」
メリカ「あたしは人工の天才なんだ!それが自然体なんかに敗れたらいけない!これは世界の法則だッ」
アイク「・・・」
その人工天才は、縛り付けた人間の太股で喚いている
メリカ「だからあれは偶然だ!不条理だッ!あたしはあんな結果認めないし、許さない。あたしに敗北なんて絶対にないッ!!」
そう自ら断言した。まるで敗北者が勝利を執ったかのように
メリカ「だからダストが死んだのはたまたまだ。バレットがやられたのもたまたまだ。お前らは単に運が良かっただけなんだ!」
アイク「メリカ・・・それは、違う」
メリカ「何が違うッ!」
お前から聞いたな。だったら、俺なりに感じたことを言わせてもらおう
アイク「この世に・・・絶対なんてものはないんだ。それが世界の法則だ」
ただそれだけだと、短く告げた
メリカ「・・・!!」
それだけといえばそれだけだ。だがその一言はメリカにとって、信じていたものが壊されたのだ
口を震わせて、見開いた目に雫が溜まっていく
メリカ「ぅ・・・っ!ッ!ぅぇぇ・・・」
あ・・・この現象は・・・
メリカ「あ・・・うわああぁぁぁぁぁ・・・!!そ・・・そんなの、言われなくても分かってる!」
あーあ・・・ぼろぼろ泣いちまったよ
メリカ「でも・・・!それでも、あたしは・・・ッ!」
子どものように泣きじゃくる彼女の台詞は、それ以上紡がれなかった
あたしは・・・何だ。その先は恐らく答えなどない。理由は簡単だ
メリカという人物は、他人より自分を知らないからだ。知らない自分を語ったところで、その大半は嘘の塊
でも、それを愚かとは言わないぜ
答えがないということは、いくらでもあるということ
この先、それを作っていけばいいだろう

 

メリカ「ごめん・・・情けねぇな、あたし」
泣きはらした片目を擦り、涙を拭い取る
アイク「泣くの・・・もうずっとしてなかったみてぇだな」
メリカ「・・・そんなの、分かんない。あたしの記憶・・・もう、どうしようもない・・・!」
それは否定出来ないな
メリカの記憶が抜き取られた教会は潰れた。その中からUSBメモリーを探すのは、砂浜で指輪を見つけるようなもんだ
記憶については、もう諦めたほうがいいかもしれない
アイク「それより、メリカ」
メリカ「なんだ?」
やっとメリカに反応してくれるようになったな
アイク「・・・俺はいつになったら解放されるんだよ」
すると。待ってました的な笑み
嫌な予感
メリカ「あたしが満足するまでだ。でも安心しな。別に取って食おうって訳じゃない。殺すのは嘘だ」
アイク「じゃあなんで・・・」
メリカ「本当はな・・・・・こうするためだッ!」
アイク「!?」
イスが後ろに傾いた。メリカが後ろに体重をかけたからだ
俺は当然身動きが取れず、為されるがまま
アイク「うぉっ!」
バタン!
俺は受け身を取るようにして首をセーブする
アイク「ッ一体・・・なにを・・・」
戸惑う俺のすぐ前には、泣きはらしたからであろう少し赤くなったメリカの顔があった
俺の周りには男ばかりだったからついドキッとしてしまう
メリカ「分かんない?もうイベントシーンだぜ。名付けてメリカルートだ」
アイク「は・・・はぁ?」
なに言ってんだ、こいつ
でも・・・すごくマズい状況なのは判る。感覚で
もうメリカの要求を拒否することが出来ないからな
アイク「俺は動けないんだぞ」
メリカ「知ってる」
アイク「じゃあなにを・・・!」
メリカ「・・・お前、やっぱ鈍いな。そんなとこも良いけど」
アイク「・・・俺をどうするつもりだ」
メリカ「ふん。食べてやるのさ」
アイク「お前・・・さっきは取って食わないってッ」
メリカ「黙って」
彼女は俺の前で舌舐めずりをすると、
メリカ「あたしはな・・・あたしより強い男が好きだ。優しい男も好きだ。イケ・・・じゃない、豪快な男も好きだ、似てるしな。でもそれよりもな・・・あたしは、全部兼ね備えた男のほうが大好きなんだ!という訳で食わろッ!」
アイク「なに言・・・っんん☆!?」
メリカ「んっ・・・」
なに言ってんだ!と当たり前すぎる返答をしようとしたが、出来なかった
メリカの顔・・・というより口が垂直に降りてきたからだ




保健室
リンク「・・・」
ゼルダ「ZZz・・・」
色「Zzz・・・」
ただ天井を見つめるリンクと、彼のベッドに突っ伏して寝ているゼルダ姫
もう一つのベッドには、布団に顔を埋めて寝ている色
この三人が、今この部屋にいる全員だった
リンク「俺も・・・衰えたのか成長したのかよく解らんな。あのまま華麗に去る予定だったのだが・・・うまくいかんものだ。まだ生きている・・・」
それには、手の届くところで イス ~ ベッド 経由で熟睡しているゼルダ姫のおかげだろう
魔術は感情の起伏で進化するんだったな。ならこの姫も、ある種の覚醒を経験したのだろうか
リンク「・・・」
勝敗もない戦いだった
メリカは敗れ、リンクは殺され、アイクはメリカを助けて生き延びた。そしてリンクも・・・
ガチャッ
リンク「・・・?」
マリオ「おぉ、リンク起きたか。マスターのお粥だ。不味いけど」
不味いと批判を受けた物を誰が口にしようか
時計は午前二時
リンク「結滞な。こんな遅くに・・・相当暇なんだな」
マリオ「来て早々悪態突くか.なら心配は無用だな]
リンク「ふんっ、当然だ。あの程度の傷、戦闘ではよくあることだ」
マリオ「よくはねえよ!?良くもねーし!」
リンク「・・・」
お粥をリンクと色の隣に置くと、さっと話題を切り替えた
マリオ「さっきニュースでやってた・・・」
リンク「・・・」
マリオ「前任だった二人が自殺したらしいんだ。なんでも、犯人からの脅迫が絶えなかったとかで。よく考えつくよな、犯人」
リンク「ッ---」
彼にしては珍しい。ちょっと驚いた顔をした
マリオ「これで教会は壊滅だな。前任も現役も。ん?いや・・・でも建物が崩壊したらって、現役の奴らが死んだなんて確証はないよな・・・」
リンク「・・・俺、少しばかり外に出るぞ」
マリオの独り言を軽くスルーしたリンクがベッドから立ち上がり、代わりにゼルダ姫を寝かせる
マリオ「は?外に出るって・・・なんだそれ!」
リンク「用事が出来た。一皮脱がねばならんな」
マリオ「はぁ!?用事って・・・!何処行くんだ!」
扉の前で立ち止まったリンクは、
リンク「・・・無論、夜の市街地へ」
半分だけ振り返ってそう言い残した


マリオ「・・・彼奴といいフィジーといい・・・何があったんだ?」

 

眼下に広がる血に染まった摩天楼。町々の明かりはとうに消え、月の光にのみ照らされていた
そんな色もない景色を上から見下ろす私には・・・明かりは似合わないな
時刻は午前二時
フィジー「・・・」
両親の仇を獲った。12年も前からの悲願を達成した
そのとき、私は突然にして生きる目的を失った。存在している価値がなくなった
心の根底に潜む本質が抜け落ちたのだ
両親の仇は獲った。だから、なんなんだ
なにも生産することなく、ただ破壊だけを繰り返した愚か者
フィジー・ベラルーシとは、せいぜいその程度の人間だったというわけか
フィジー「パパ・・・ママ・・・、私、もうそっちにいくね。だから、待ってて」
死におびえはない。それは何度も観察済みだ
もう一歩でも足を前に出せば、ビルの屋上から真っ逆さま。18人目を殺したときと同じ路地で死んでることだろう
心残りはない。既に壊死している精神だ。今更なにを尊えというのだ
でも・・・
フィジー「・・・ダメよ。そんなの」
そんな望みは贅沢だ
早く現世とはおさらばしよう。そのほうが楽だ。彼処には、大好きだったパパもママもいる
そう考えると、あの世は輝かしいものに錯覚してくる
迷うまでもない。足をなにもない前方に踏み出した
屋上からの飛び降り自殺。散々魔術で殺してきたくせに、自殺とあっては古典的だな
痛む前に死ぬように、頭を下にして。やがて重力と地面が脳髄を飛び散らせる
確視は出来ないが、もう・・・終わりかな・・・

 

「その命・・・簡単に散らせてなるものかッ!」
今のは・・・
・・・ああ・・・以前もこの場所で助けられたっけ・・・
酷い・・・好きに死なせてくれないのね
私の意識は真っ白になった




俺の口に口を付けたメリカは・・・
びくんっ、と体が痙攣するという不可解な反応を起こした
メリカ「!!」
ードクンッ
俺も感じている、この頭と心臓が焼け付くような感覚・・・
アイク(俺はこの感覚を知っている・・・これは、あの時の・・・!)
口付けをすることで、何かが起こったのだ
そして・・・
メリカ「ぷはっ・・・。いかがだったかしら、私の・・・ん?なんて言うんだっけ、こういうの」
ようやく顔を離したメリカは、女の口調だ
一体全体なにがどうなってる・・・
アイク「メリカ・・・記憶が戻ったのか?」
メリカ「ん~~そうみたい。あなたから流れ込んできたの」
アイク「俺から・・・?」
原因は俺?
最近の出来事を探ってみると・・・あ・・・そうだ。一昨日に、あったな
今ならある仮説が立てられる
マスターの薬だ。あれは記憶をどうこうするものらしい
だから俺の知っている記憶がコピーされ、メリカの頭の中にペーストされたのか。これで間違いないだろう
うん、そのとおり!と一人で納得するアイクに、
メリカ「・・・流れたのは記憶だけじゃないわよ」
アイク「え?」
メリカ「あなたの、私に対する気持ち。あの時の私には悲しんだ、またある時の私には喜んだ。そんな心情も丸見えなのよ」
アイク「・・・プライバシーの侵害も甚だしい・・・!」
メリカ「安心して。私も・・・同じだから・・・」
最後のほうは何故か顔を逸らせた
アイク「同じ・・・?メリカからの記憶は流れてないぞ」
メリカ「・・・」
思ったままのことを言ったら、なんか・・・凄くしょーもない顔になった
アイク「俺なんか変なこと言ったか?どうした?」
メリカ「なんでもないわよ」
アイク「なんかあるだろ」
メリカ「・・・じゃあ、一つ訊くけど」
アイク「なんだ?」
メリカ「・・・私のこと、どう思ってるの・・・?」
アイク「・・・」
精一杯の勇気を振り絞って訊ねてきた
俺は・・・
アイク「俺の気持ちが丸見えなんなら、言う必要なんかないだろ」
メリカ「・・・!」
俺の真情が流れ込んだなら、それが俺の答えだ
すると、感極まった彼女は嬉しそうに、
メリカ「わ、私をそんな風に想った人は初めてだから、あなたで試すわッ」
アイク「試すって、何を?」
その質問には答えず、メリカは黙って、ぺろん
自分の服をたくし上げた・・・!
アイク「な、何やってんだ馬鹿!!」
手・・・は動かない。首を思い切りねじ曲げた。危ねぇ!
メリカ「こっち向いて」
アイク「向けるか!早く隠せや!」
メリカ「いいからっ!私だって恥ずかしいの!」
じゃあ隠せよッ!
メリカ「ギリギリだから大丈夫」
アイク「・・・」
って言っても解決しないので、おそるおそる視線を戻す
メリカ「今の言葉・・・これを見ても同じことが言える?」
彼女のお腹や胸は・・・
アイク「・・・傷だらけ、だな」
メリカ「注目するのはそこじゃないんだけど」
アイク「・・・そうか」
彼女の雪みたいに白く、細やかな肌。そこに突き刺さり、絡まり、人間ではあり得ない・・・
アイク「機械だらけだな・・・」
メリカ「どうよ。義鋼体の体、存分に味わったところで同じことが言えるかしら?その前に人間って言える?」
アイク「その前に早くその服を、」
メリカ「答えてよっ!」
アイク「ー・・・」
こっちの質問は無視するくせに、自分への回答は早まるんだな
メリカに対する真情・・・俺は・・・
アイク「言える」
メリカ「---ッ!」
今更どんな体型だろうと、メリカを否定なんかしない
確かに、初めて見たときはドン引きだった。なぜならそれは何も知らなかったからだ
でも今は違う
こいつの・・・身体は強いくせに、精神はすぐに崩れてしまいそうに繊細で、自分が誰なのかも解らずに苦悩を持っていた人物に惚れたんだ
メリカ「えっと・・・それは、その!つまり・・・!」
アイク「聞こえないなら何度でも言ってやる。お前は人間だ。ロボットじゃない。そして俺はそんなお前が好きなんだよ」
メリカ「~~~っ!!!」
堪らない、といった感じで俺に強く抱きついた。腕、超痛いんですけど
と、つい声に出ていたのか
メリカ「ごめん。あたしが・・・勢いでやっちゃったみたいで・・・」
アイク「いや、別に・・・そんなつもりじゃねぇよ」
メリカ「でも・・・」
アイク「それよりこのワイヤー早く解いてくれよ!せめて足だけでも自由に---」
メリカ「・・・それも、ごめん。今夜いっぱいはそのままでいてもらわなきゃ」
アイク「な、なんでだよ・・・!」
メリカ「だって・・・」
アイク「だってなんだ!」
メリカ「・・・あなたの身体、思いどおりに出来なくなるじゃない」
アイク「な、なんとぉ!!?」
己の身の不安を案じる
人に自分を思いどおりにさせられる恐怖・・・まるでメリカの気分を味わわされるんだろうか
アイク(女って怖ぇ!!)
フィジー改め、自分の惚れた女に再認識させられるとはな
メリカ「・・・もう、我慢出来ないわ。他の女共が寄りつけられなくなるぐらい、今日の夜でいっぱい既成事実を作ってあげるんだから・・・」
アイク「メ、メリカ・・・!?一旦落ち着いて---ぐぬ☆!」
メリカ「んふ・・・!」
喋ろうとして開けた口に、また・・・!
ードクンッ
・・・・・・・・え?
いや・・・はい?
この感覚は・・・まさかまた・・・!
アイク「メ、メリカ・・・!」
メリカ「なんだァ。キスするごとに替わるのか。面倒な後遺症だな、そう思わねえか?」
男の口調で話したってことは・・・
アイク「今度は・・・記憶が抜けたのか?」
メリカ「・・・んん?よく判んねえな。私になってる間の記憶も曖昧だし、昔のもイマイチだな。でも気持ちは変わってねぇぞ」
アイク「・・・!」
二重人格者。もしくは二重性別者。多数の性格を持つメリカの場合は複重性格ともいえるか
誘拐される前は、記憶もあやふやで不特定の性格をしていた
その中から、独立した性格として男勝りのメリカが切り離された
要するに、多様な性格のメリカ<私>と男の性格のメリカ<あたし>・・・の二重人格ってとこか。ややこし
しかもそのトリガーが接吻、なんてな・・・
メリカ「あっちの私はけっこう奥手で弱気だからな。攻めるのには好都合かも」
アイク「---!!」
メリカ「今夜は寝させねぇからな。覚悟しろ」
俺を起こしておいて何の得がある
その言葉の意味は分からなかった。分かりたくなかった
つーか俺のセリフ、完璧に盗まれたな




私は・・・・・
十七階から飛び降りた私は・・・生きている。こうして町の空気を吸っている
動かずとも、周りの景色がゆっくりと流れていった。同時に、誰かの腕の中にいるのも理解出来た
フィジー「ん・・・?」
リンク「やっと起きたか。気絶時間が長いぞ。打たれ弱いのか、お前は」
フィジー「!」
以前と同じようにお姫様抱っこで。膝の裏と首筋を支えられるようにして収まっていた
自然と身体が縮まる威圧感。彼は私には目も暮れず、ただ前の道を見つめて進んでいるのみ
リンク「俺の許しも無しに逝くなぞ、不届きも甚だしい。それと前から思っていたが、軽いぞ、お前。ちゃんと食べているのか?なんなら俺が体重の増加する料理でも調理してやろうか」
フィジー「う、うるさいっ!いいから離して!」
リンク「・・・それを呑む俺だとでも思っていたのか?」
フィジー「・・・拒むんなら無理にでもするわよ」
リンク「好きにしろ。俺は何もしない。・・・先に忠告しておくが、俺の手を凍らせたらお前も取れなくなるぞ」
フィジー「ッ・・・!」
逆らえない、と身体で覚えさせられていたフィジーは大人しく身を預けた
フィジー「どうして・・・助けたの」
リンク「・・・人が死にそうだったから、じゃ駄目か?」
フィジー「私は自分で選んだのよ、それを邪魔したの、アナタはっ!」
リンク「・・・」
フィジー「いいから離して!私はね、死んでるほうが楽なのよ!」
リンク「いや、それは間違いだぞ」
フィジー「・・・?」
リンク「俺もさっきまでは死んでいた。初めての経験だったが・・・あそこには何も無い。お前の家族もいない。行ったところで無駄足だ」
フィジー「・・・私は・・・生きてるのが辛いの・・・!今まで散々無関係な人を殺してきて・・・!」
それが今頃になって襲ってきた。誰かの断末魔は永久に耳に残るだろう。それが耐えきれない
0かマイナスなら、少しでも数の多い0を選ぶのと同じく、私は生きている恐怖より何もない死を選ぶのだ
リンク「今更何をほざく。甘えるなよ。お前は罪深き女、すぐにでも監獄にぶち込んでやりたいところだ」
フィジー「なら、どうして・・・」
リンク「お前が特別だからだ」
フィジー「・・・!」
リンク「全ての理由はこれで片付ける」
フィジー「理由になってないわ!私を特別視するんだったら死なせてよ!私を救うつもりなら殺してよ!」リンク「・・・お前の望みが救いの全てだと思うなよ。助ける方法は他にいくらでもある」
フィジー「そんなの知らないわ!もう・・・楽にさせて・・・!」
リンク「・・・」
また泣いたか。意外と涙脆いんだな、こいつは
リンク「お前は知らないだけだ。人生において愉悦というものをな。まるで昔の俺みたいだ」
フィジー「そんなの、必要ない・・・」
リンク「ほぅ?それは昔の俺が吐いたセリフだったっけな」
フィジー「ち、違う!私にそんな物は贅沢だってことよ!」
リンク「贅沢を理由に愉悦を遠ざけるなら、やはりお前は人間らしい」
フィジー「どうしてそうなるの・・・?」
リンク「・・・贅を覚えてこそが人間だ。そしてそれは人に謙遜されやすい。どうだ?お前にぴったりだろう」
フィジー「そんなの・・・ただの観測にすぎないわ・・・そう言い張れるんならやってみせてよ!今ここで!」
リンク「ふ・・・言ったな」
フィジー「え?」
確か、リンクの言ったな、の後は・・・必ずそれが来る
リンク「自分で頼んだんだ。責任は負わないぞ」
これは切り札だ。この一撃はこいつの殻をぶち抜き、骨の随まで抜き取る
その後は延々と小言か、衝撃が過ぎれば何も言えなくなるか
まぁ、どっちでもいい。後で言いくるめたらいい話だ
リンク「悪く思うなよッ!」
フィジー「!」
リンクの顔が不意に近くなったかと思えば、
ーッ!
フィジー「んむぅ・・・!?」
リンク「・・・」
リンクに、キス、されてる・・・!?なんで・・・
彼の舌が口内を蹂躙していく。私の身体が固まったのを計らい、しばらくして口を離した
フィジー「な・・・い、いきなり、なんてことするのよ!私・・・その、は、初めて・・・ふあ、ふぁ、ファーストキス、だったのにッ!」
顔が真っ赤に染まり、口をぱくぱくさせ、足がガックガクに震えている
ハッ、刺激が強すぎたみたいだ。完全に骨抜きになったな
リンク「自殺していた奴がファーストキスを貴重がるなよ。俺も初めてだ」
フィジー「そんなの知らないわっ!」
リンク「嫌いか?」
フィジー「え・・・?」
リンク「俺のことが嫌いか」
フィジー「き・・・嫌いじゃ、なくは、ない、けど!」
目をおどおどさせながら言ったあと、キュンと小さくなった
リンク「ふん。なら問題はない。俺がお前に口を付けたところで、疎われる心配はない訳だ」
フィジー「そんなのズルいわ!好きじゃない、って言ったら私をどうするつもりだったのよっ」
リンク「・・・素直に受け止めるつもりだったが」
フィジー「あっ・・・そ、そぅ・・・なんだ」
リンク「的が外れたか。俺をなんだと思っている」
フィジー「・・・」
それから押し黙ったまま、終点までの道を辿る
フィジー「ねぇ」
リンク「・・・」
フィジー「なんで、キスしたの・・・?」
リンク「お前を救うためだ」
フィジー「じゃあどうして私を救うの?」
リンク「特・・・いや、敢えて俺の口からは言わん。お前を困惑させたかった、などと好きに解釈してくれ」
フィジー「そんなのじゃ納得いかないわッ!どうして私を・・・私なんかを!」
リンク「・・・単に世間知らずなだけだ」
フィジー「え・・・?」
リンク「お前はずっと己の殻の中に閉じこもっていた。そこには娯楽の入る一切の隙もない。だからいつも独りなのだ。あの友人らはただの仮染。違うか?」
フィジー「・・・!」
リンク「だから俺が0に戻してやった。生まれ変わったとでも思え。過去は忘れ去って、今度は積み上げていけ」
フィジー「そ、そんな都合の良いこと、出来るわけ・・・!」
リンク「出来るだろう。現にお前の殻は破れたはずだ。もうなんの障害もない」
フィジー「・・・」
リンク「・・・・・それでだ」
フィジー「・・・?」
片手だけで彼女の体を持ち直すと、
リンク「お前は何故顔を隠している?」
もう片手で、顔の左半分を覆う髪をどかそうとした
フィジー「!駄目ッ、ここは・・・!!」
咄嗟に両手で髪留めを庇って防御する
リンク「・・・」
フィジー「ここは、見せたくない・・・見られたくないッ。特に、貴方には・・・!」
リンク「俺に抗ったところで無意味だぞ」
フィジー「・・・・!」
そうだと分かっていながらも、決心がつかずに黙ったままオロオロしている
そんなフィジーに、リンクはただ見つめるだけで何もしない
リンク「・・・・何かあるみたいだな」
フィジー「~~~!」
リンク「どれ、見せてみろ」
フィジー「嫌よ・・・これを見られたら・・・貴方、絶対に私のこと・・・!」
リンク「常世に絶対はない」
フィジー「・・・!」
リンク「安心しろ。お前の顔半分を知ったところで、何も変わらない」
フィジー「・・・・・・本当に・・・?」
そっ、と上目遣いで見上げてきた
・・・くそっ、可愛いな
リンク「騎士の誓いは破れない、と以前教えていなかったか?」
フィジー「~~~~~!」
ついに観念し、自分から手を下した
そこには・・・
リンク「・・・」
眉の上の額に、深さ2mm程度の擦り傷が刻まれていたのだ
フィジー「・・・特殊な銃弾で撃たれたの。紙一重で躱したから大事にはならなかったんだけど。どんな強力な治癒魔術を使っても治せない・・・一生癒えない傷跡。」
リンク「・・・」
フィジー「どう・・・嫌いになった・・・・?」
リンク「くだらんな。その程度のこと、勿体ぶる必要があったのか」
フィジー「え・・・?」
リンク「俺の体を見てみるか?お前の十倍の傷は残っているぞ」
フィジー「・・・・」
・・・そういう問題じゃないんだけれど
この人・・・人を口説くのは巧いけど、女心を見透かしたり、女を堕すのは苦手なんだろう
するとフィジーは何かを思い出したように、
フィジー「・・・そういえば・・・あなたに貸しがあったわね。それで私の初めてを奪ったことを免除してあげるわ」
リンク「・・・何をさせるつもりだ?」
当然の切り返しをすると、えっ、でもこれ言っちゃっていいのかな・・・?な顔になった
自分から言ったくせに分かりやすい奴め・・・
リンク「構わん。言え」
だが、悪いな。お前がいずれ、その条件を提示してくることを見越して貸しを作ったのだ
俺は拒否出来ないし、しない。すべて俺の思惑通りだからな
フィジー「じゃあ・・・言うわ。あ、あなた・・・私の---」
聞くまでもない。言わせるまでもない
俺は自分の女の口を、強引に引き寄せた





翌朝
アイク「・・・ーん」
ふと目が覚めた。窓から朝日が差し込んでいる
アイク「寝ちまったのか・・・俺・・・」
寝かせないとか言ってたけど、よかった。逃がしてくれたみたいだ。手足も解けてるし。腕は折れたままだけど
アイク「・・・」
・・・あれ?メリカがいない
まさか連れ去られたんじゃ・・・
寝起きの頭でボーッと考えていると、机の上に書き置きが残されているのを発見した
『ちょっくら忘れ物を取りに行く。心配すんな』
裏メリカの口調で書かれた文面を読んで、
・・・誘拐じゃないみたいだな
と、一安心する
時刻は午前10時過ぎ。朝食は無事なのか。ったく、遅起きすぎだぜ、俺
ドアを足でこじ開けた

 

食堂
何故か、みんないる。朝食時間はとっくに過ぎてるはずだが・・・?
マスター「お、アイク。昨日は相当疲れてたみたいだな」
アイク「当たりめーだ。それより腕を治してくれ」
マスター「分かった。ゼルダ姫ーー!」
ゼルダ「はいはい。腕よ、治れ」
アイク「・・・」
キュピーン
ゼルダ「はい、治りました。では」
アイク「おい!スゲェなそれ!医者要不ずだわ!」
腕、動くし!
ゼルダ「何を今更・・・」
マスター「治し方がおままごとレベルだもんな」
ゼルダ「まぁ、確かに昨日私の魔術もランクアップしましたし?治癒能力が上がったのもわけないことですが」
アイク「・・・ゼルダ姫は朝食べたの?」
ゼルダ「まだです」
マスター「みーーんなまだだ」
アイク「なんで?」
マスター「リンクが寝坊したんだよ」
アイク「あぁー・・・」
リンクは食事当番だから早く起きないといけなかったな。それで皆の朝飯がズレたのか
昨日はいろいろあったから見逃してやってんのか。常識的な気遣いだな
マスター「いま作らせてるところだ」
アイク「いや見逃してやれよ!!」
マルス「・・・甘いなぁ、アイクは」
マリオ「酷い目に遭ったのはお前らだけじゃないぞ」
アイク「な、なんだ!?わらわらと」
マスター「説明してやろう。昨日の夜のことだ。二人が出ていった後、晩飯を一人で作れる人材がいなくなった。そこでクレイジーと一緒にお粥を作った、吐いた。以上。Ok?」
アイク「No!!」
マスター「・・・今の説明のどこに不備があった?」
アイク「そういう問題じゃNee!!」
マリオ「いやー、あれは壮絶な不味さだったわー!リンクにも食わせようと思って持ってったんだが、結局手つかずだったな」
アイク「彼奴は仮にも怪我人だぞ!怪我人はいたわれよ!」
マスター「いたわりのこころなどない」
アイク「持てよ!断言すんな!なんで平仮名なんだよ!あああー!俺のボケに地位が崩れていくー!!」
マリオ「そこかよっ・・・あいたぁッ!」
空手チョップが炸裂!
マリオは 気絶 した!
リンク「・・・ふしゅぅ・・・」
マスター「あ、リンク」
マリオ「   」
リンク「不味いとは聞かされていたが・・・食べなくて正解だったな」
アイク「おぃリンクー腹減って死にそうだーはやく飯くれ飯ー」
リンク「・・・なんだ、そのやる気のないセリフは。貴様は肝臓摘出者じゃあるまい。一日やそこいら抜いたところで死にはせん」
アイク「そーだけどさー」
リンク「・・・まだ調理の途中だったな。俺は戻るぞ」
アイク「なるはやでなー!」
マリオ「ーーッ!」
マスター「・・・アイク。メリカはどうした?昨日はお前が持ち帰ったようだが」
アイク「あぁ、メリカは何処か出かけてるみたいだぜ」
マスター「・・・そうか。お前にも話がある。ちょっと時間を貸せ」
アイク「なんだ?」
マスター「メリカの処分についてだ。彼女はお前やリンクを殺傷に追い詰め、ラグネルとマスターソードを破壊した。責めるつもりはさらさらないが、どうも事はうまくいかなくてな・・・」
アイク「また・・・操られる可能性がある、ってやつか?」
マスター「ああ。連中が解散していない確率は0ではない。建物が破壊されただけだ。今回の事件も遠隔からの急性ハッキングだと判明した。よって今のところ、約一年彼女を終点から追放させる、ということになっている」
アイク「!・・・なんだよ、それ!」
マスター「再度ハッキングが行われる可能性のある時期は此処にはいさせない。メリカが悪いことは何一つないんだけどな。仕方ないんだ。お前らの身を守るためにもな」
アイク「俺がなんとかしてやるって、そうメリカと約束したんだぞ!」
マスター「剣もないお前に暴れた彼女を止めることが出来るのか?」
アイク「けど・・・!あんまりだ!彼奴はッ!」
やるせない感情が中で渦巻いた
マスターの意見に反論出来ない。間違いが見つからない
でも・・・
この決断は公正じゃない
一人を犠牲にして大勢を保護するのと同じだ
アイク「俺は、そんな非情なやつは大嫌いなんだ・・・」
だがそれ以上言い返せない。それも、マスターは承知の上なんだろうな
アイク「くそ・・・!なんだってんだよ、せっかく連れて帰れたと思ったのに・・・!」
強く握り締めた拳を、
ぱんっ
アイク「・・・?」
見えない手が、優しく包み込んだ
メリカ「・・・もう、いい」
アイク「メ、メリカ!?お前・・・何処にいる!?」
メリカ「お前の隣だよ」
アイクの両隣には、誰もいないし、なにもない
アイク「どういうことだ!?」
メリカ「ちょっと待て。今から出てくる」
マスター「?」
すると、床から塵状の粒が二点を中心に集まり始めた
みるみるうちに塵が貯まっていき、脚の形に固まっていく
メリカ「奴等の残したステルスアーマーだよ。他にも目星い物はあったぜ。バレットも見つかったし」
透過迷彩ステルスアーマー・・・透明人間になれる服か。スネークの持ってるやつより性能良さそうだな
完全に姿を現したメリカは、楽団が楽器を担いでいるように、縦長の鞄をいくつも背負っている
アイク「お前・・・あれか。あのじゃんけんで負けた奴がランドセル全部持つ、ってやつか」
メリカ「あたし以外に誰がいるってんだ。なんだ、読んでなかったのか」
アイク「読んだけど・・・忘れ物ってそれ?」
メリカの背負っている鞄を指した
メリカ「んー。それより・・・」
適当な相づちを返し、マスターへ視線を向けた
メリカ「あたし・・・ちょっと怒ってんだけど」
目元が少しつり上がっている
でも怒りを晒すことは場違いなので、必死に堪えてるって感じだ
マスター「・・・済まんな。これはお前のためでもある」
メリカ「いや、いい。知ってるよ。そんな気はしてたし。だから取りに戻ったんだ」
アイク「取りに、って・・・中に何が入ってんだ?」
メリカ「死にたいのか」
アイク「・・・・ヤメテオキマス」
メリカのことだ。相当危険な物が入ってんだろうな
メリカ「まぁ、暫くはお別れってことで・・・」
鞄を担ぎ直し、こちらに背を向けて食堂から出て行こうとする
アイク「おいっ待てよ!お前はこれでいいのかよ!?」
メリカ「・・・」
俺が呼び止めると、昨日と同じように半分だけ顔を見せた
メリカ「・・・いいわけねぇだろっ」
鋼鉄に覆われて表情こそ見えないが、その震えた声質には淋しさがある
アイク「メリカ・・・」
メリカ「お前と離ればなれになるのはすっげー辛いぜ。今すぐにでもその手袋をぶち殺したいくらいだ。でも仕方ないんだよ。まだ操られる可能性があるんなら、あたしは此処を離れる。知らない間にお前を傷つけるのはもっと辛いからな」
アイク「でも・・・これからどうやって」
メリカ「生き場なら見つけた。オヤジと仮面に無理言ってな。これからはちょっと良いことしてやろうかと思って」
アイク「良いこと?」
メリカ「あぁそうだ。あたしにしか出来ないことだ。止めるなよ。そのためのコレなんだ」
そう言いながら、肩に掛けている鞄を顎で指した
メリカ「αもβもブロストもバレットも、旧型の皆も異論はない」
・・・止める言葉が見つからない。自分でそう決めたんなら、その決断を尊重すべきだ
でも・・・
メリカ「まぁそういうことだ。じゃあな。また来るぜ」
軽く別れの言葉を残すと、こちらに背中を向けて去っていく
でも・・・お前、あんなに辛そうだったじゃねえか。潔いのも大概にしろよ・・・!
アイク「待てッッ!」
二回目のこの言葉に、今回は振り向いてすらくれない
メリカ「なんだよ・・・鬱陶しいな。お前にそう言われると、決断が鈍くなるからさァ。だから止めるなって・・・」
アイク「あぁ、止めはしない。クリミア王国なりどこへでも飛んでいけ。でも俺たちこれからパーティー開くんだ。クリスマスパーティーか忘年会か新年会かよく分かんねえけど、メリカも一緒に参加しろ。終わるまではここに居ろ」
メリカ「・・・その間にお前を殺しちまうかもしれないんだぞ」
アイク「それでもいい」
メリカ「---・・・なんでッ」
彼女の肩が一瞬震えたかと思うと、泪しながら振り返り、抱き寄ってきた
メリカ「お前・・・なんでそんなに優しいかなァ・・・?あたしには、そんな価値なんかないのに・・・」
アイク「そんなことない」
メリカ「・・・本当に、そう思ってんのか?」
アイク「男に二言はないぜ」
メリカ「・・・分かったよ。望みどおり、お前と一緒にいてやるよ」
俺の胸板に埋もれさせていた顔を離すと、
メリカ「その前に、ちゃんと謝らねぇとな。緑の奴にも、他の奴等にも。まぁ、恨まれても仕方ねーだろうけど」
マスター「恨んでなんかいない。恨むとすれば、お前を酷い目に遭わせた連中だ。お前は何も悪くないんだから」
メリカ「へんっ、そうかよ。・・・んじゃまぁ、最後なんなら思いっ切り楽しまねえとな!」
顔を上げたメリカは、挨拶程度の軽いキスをしてきた
マスター「じぇじぇじぇ!?((
マルス「へぇー・・・」
アイク「---・・・・ハァ」
驚いてるような楽しんでるような皆とは相対して俺はゲンナリ
バレたな。つーか隠す気もなかっただろう、裏メリカ
マリオ「なぁ、アイク。お前あれか、リアじ---」
メリカ「それ以上言ったらγ<ガンマ>が黙ってないわよ」
マリオ「なんだそりゃ」
メリカ「なんでも一撃で溶かす剣。勿論、あなたもね」
マリオ「   」
マスター「よし、これより”クリスマスパーティー兼忘年会兼新年会”の開幕だな」
長ぇよ!!
ピット「あっ、作者久しぶり~」
お前もなっ!


最終話に続く!


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