【SS】●●の収容違反

Last-modified: 2024-05-19 (日) 19:39:28

詳細

あるDCOの収容違反についての物語。

人物

ジールス

DCO機関に所属する博士。素性が不明であり、自身の性格も相まって周りからは変人と思われている。
DCOについての研究は人並み外れて熱心であり、数多くの功績があるが、本人はあまり気にしていない。

ウィラック

ジールス博士の助手。能力だけを見ればジールス博士に匹敵するほどのポテンシャルがあり、周囲からも期待されている。
しかし本人はジールス博士に付いて行くことで精一杯。

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 一

●年●月●日●時頃
●●●国DCO収容施設●地区

警報が鳴り響く。
しかし、警報の音を除けば至って静かな食堂である。
むしろ隣の職員らの咀嚼音が聞こえないので、彼にとっては警報が鳴っていた方が静かなのかもしれない。
『当地区エリア●でDCO、〇〇の脱走を確認。対象は現在エリア●にいると思われます。付近の博士及び一般職員は退避、武装職員は指示があるまで待機していなさい。繰り返す、──
この静寂に耐えかねたのか、ウィラックは口を開く。
「あの、ジールス博士…」
ジールスは汚い文字がびっしりと書かれてある手帳を見ていて、一言も発しなかったが聞く素振りは見せた。
それに気づき、ウィラックは言葉を続ける。
「この収容所ってDCOの脱走多くないですか?私たちがここに来てからほぼ毎日この警報を聞いているんですが…」
ジールスは手帳に目をやりながら応じる。
「そうだな、それだけ元気なんだろう。」
「元気であっては困ると思うのですが…それに、ここの人たちも皆脱走に慣れていますし、なんというか…淡白っていうか…少し不気味じゃないですか?」
「DCOとの共存が上手くいっている証拠なのかもな、ハハハ!」
「そんなことがあれば今頃国家転覆級の騒ぎなんでしょうね。」
「いや、その気になれば奴らは天地さえひっくり返せるからな、どうだか。」

暫くして警報が収まる。
『DCO、〇〇の鎮圧・再収容を確認。通常通りの業務に移行しなさい。』
ジールスがおもむろに立ち上がる。
「さて、行くぞ。」
胸ポケットに先程まで見ていた手帳を入れ、ジールスは食堂を後にする。
それに付いて行くようにウィラックが席を立つ。
「ちょっ…行くってどこにですか!?ちょっとー!」
そうして2人は食堂を去った。
相も変わらず食堂は静かで、厨房の音と誰かの咀嚼音でうるさい場所であった。

 

 二

殺風景な廊下を2人が歩いている。
その足音が廊下の奥まで響くほど静かだ。
「ジールス博士、私たちはどこに向かっているんですか?」
ジールスは言う。
「ウィラック君はどこだと思う。」
「質問を質問で返さないでくださいよ……そうですね、確かこの先はデンジャラスクラスの収容区ですし、実験にでも行くんですか?」
「実験と言うよりは、面会だな。合って話したいことがある。」
「では、なんのDCOと面会するんですか?」
「着けば分かるさ。」

そうして、一つの収容室に着いた。
ここでウィラックが疑問を投げかける。
「DCO/〇〇……ってさっき脱走してたやつじゃないですか!?デンジャラスが脱走してたんですか!?」
ジールスは落ち着いて言う。
「ああ、そうだな。」
ウィラックは落ち着きのない様子で騒ぐ。
「デンジャラスの脱走って一大事ですよ!?なのに…収容施設を閉鎖すらせずにあんなあっさりと終わったんですか!?」
「ここは権限が高くないと入れない場所だからな、少し待っていろ。」
「え、ちょっと待っ」
騒ぐウィラックをよそにジールスは扉を開け、さっさと収容室に入っていった。

現在ジールスは、DCO/〇〇とガラス越しに対面している。
ジールスが問う。
「やあ、気分はどうかな?」
〇〇は不機嫌そうに悪態をつき、質問には返さなかった。
しかしジールスは言葉を続ける。
「さっきは随分と元気だったのに今は元気がないのか?少しだが銃声も聞こえていたから撃たれていたはずだが、見たところ負傷の痕もない。やはり記録されていた通りの回復能力を有しているようだな。痛覚はあるのか?具体的に体が回復する時どう感じる?」
突然自身について捲したてられ、思わず〇〇は口を開く。
「あんた…何なんだいったい……。」
彼の目には、ジールスは変態にしか写らなかっただろう。
だが、そんなことは気にせずジールスは更に喋る。
「おお!ようやく喋ったな!体が回復する時の感覚はどうなっているんだ?何年間生きてきたんだ?」
気おくれしたのか、〇〇は返答してしまう。
「ええっと…体が回復する時は…吐きそうな気分で、……じゃない。あんたは何者なんだと言っているんだ。」
「ふむ、吐き気と……わたしはジールス、ここの博士だ。さっきの奴らとは違うからな!で、何年生きているんだ?」
「おいおい、そう言うのはいい。本題から話そう。…ジールスだったか、大方取り調べにでも来たんだろ?」
「いや、これがわたしにとっての本題だな。これ以上に重要なことはない。」
「えぇ…」
〇〇は目的がよく分からないジールスに困惑をするしかないようだ。
ここでジールスは仕方ないと思ったのか、話を変える。
「これは本題と言うより私事なんだが、なぜさっきは暴れたんだ?見ている限り攻撃的な性格には見えないが。」
「普通はそっちが本題だろ…。………そうだな、なんでなんだろうな。」
ジールスはほんの少し眉をひそめる。
「自分にも分からないと?」
〇〇は少し考え込む。
「……なにか、いきなり感情が爆発したと言えばいいのか、怒りがこみ上げてきたと言うのか…何故かは分からないんだが、突然この機関を潰したいと思えたんだ。あぁ、ここに来てから大分日は経つが勿論そう思ったことは数える程しかないさ。だが妙にその気持ちが煽られた気がするんだ。」
気づけばジールスはガラスに顔がつきそうな程に前のめりになっていた。
「もっと詳しく教えてくれ!」
「お、おぉ、…信じるのか?」
「信じる信じないの問題ではない。第一、わたしの目に狂いはないからな。」
「そうなのか…」
ジールスは外で待つウィラックの事をすっかり忘れて、〇〇の話に耽けているのだった。

 

 三