ミスラ・テルセーラ/REメタヴァース

Last-modified: 2024-05-04 (土) 17:29:15

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通常楽園の救世主
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Illustrator:oneko


名前ミスラ・テルセーラ
年齢19歳(再生後6年)
職業第二次帰還種の衛士
  • 2024年4月25日追加
  • LUMINOUS ep.IIIマップ2(進行度1/LUMINOUS時点で155マス/累計310マス)課題曲「Dèfandour」クリアで入手。
  • トランスフォーム*1することにより「ミスラ・テルセーラ/楽園の救世主」へと名前とグラフィックが変化する。

第二次帰還種の少女。
ミスラ・テルセーラ【 通常 / 新たなる希望 / REメタヴァース】
を救うため、世界を守るため、真人の王子と共に電子の楽園へと回帰する。

スキル

RANK獲得スキルシード個数
1道化師の狂気【LMN】×5
5×1
10×5
15×1


道化師の狂気【LMN】 [ABSOLUTE+]

  • 一定コンボごとにボーナスがある、強制終了のリスクを負うスキル。コンボバースト【NEW】よりもハイリスクハイリターン。
  • GRADEを上げずとも2000ノーツ以上でゲージ11本、2400ノーツ以上でゲージ12本に到達可能。
  • LUMINOUS初回プレイ時に入手できるスキルシードは、SUN PLUSまでに入手したスキルシードの数に応じて変化する(推定最大100個(GRADE101))。
    効果
    100コンボごとにボーナス+????
    JUSTICE以下50回で強制終了
    GRADEボーナス
    1+7500
    2+7510
    3+7520
    101+8495
    ▲SUN PLUS引継ぎ上限
    102+8500
    推定データ
    n
    (1~100)
    +7490
    +(n x 10)
    シード+1+10
    シード+5+50
    n
    (101~???)
    +7990
    +(n x 5)
    シード+1+5
    シード+5+25
プレイ環境と最大GRADEの関係

プレイ環境と最大GRADEの関係

開始時期最大GRADEボーナス
2023/12/21時点
LUMINOUS
SUN+286+8920
GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数

GRADE・ゲージ本数ごとの必要発動回数
ノルマが変わるGRADEのみ抜粋して表記。

GRADE5本6本7本8本9本10本11本12本
13581013162024
233571013162024
343571013162023
413571013161923
51357912151923
70357912151922
85357912151822
117357912141821
148357911141821
167357911141721
202246811141720
249246811131720
277246811131620
297246811131619
322~246810131619
所有キャラ

所有キャラ

  • ゲキチュウマイマップで入手できるキャラクター
    バージョンマップキャラクター
    LUMINOUSオンゲキ
    Chapter4
    九條 楓
    /魅惑のプールサイド
    藍原 椿
    /宵闇シークレット?

ランクテーブル

12345
スキルスキル
678910
スキル
1112131415
 
1617181920
スキル
2122232425
スキル
・・・50・・・・・・100
スキルスキル

STORY

ストーリーを展開

EPISODE1 歪められた救世主「私の声なんて、きっと誰にも届く事はない。それでも私は願わずにはいられなかった……」


 等間隔に埋め込まれた照明に照らされた薄暗い通路の中を、ひとりの少女が歩いていた。
 少女は男たちに囲まれていて、皆一様に白い衣服を身にまとっている。
 少女が隣の男の顔をちらと見た。その顔はどこか夢見心地で、何かをぶつぶつと囁いていた。
 耳を凝らして聞き取ろうと集中する。
 ようやく聞き取れたのは、「救世主」という単語だけだった。

 視界が不意に暗転する。
 開けた視界の中で少女が見たのは、円形の部屋に並べられたベッドの上に寝かされている子供たちの姿。
 身体を弄り回されでもしたのだろう。子供たちの中には誰一人として正常な状態の者はいない。

 『おや、いけない子だ。こんなところに潜り込んでいるとは……』

 少女の背後から声がした。
 怖気を感じる声に振り返れば、そこには身体の至る所を機械化させた異様な姿の男が立っていた。
 男は少女の願いも子供たちの訴えも意には介さず、つけ忘れていた部屋の照明を落とすような気軽さで――ボタンひとつで子供たちの命を奪ってみせた。

 『――ああああああああああぁぁぁぁ!!!!!』

 少女の目の前に広がる惨たらしい光景。
 ビチビチと身体を反らし、くねらせ、命の灯が潰えるその時までもがき苦しむ様は、少女が受け止めるには余りにも現実離れしていた。

 視界が再び暗転する。
 少女は神妙な顔つきでこちらを見ている男に、無垢な裸体を曝け出していた。
 男の手が、なめらかな曲線を描きつつある部位に、なんの躊躇いもなく触れていく。

 『――っ』
 『これは救世主としての神聖なる儀式であるぞ。光栄に思う事こそあれ、嫌悪する必要はなかろう』

 小さな抵抗を見せる少女の事など男にとってはどうでもいい。むしろ、そういった反応を見せる事は少女の“正常”さを示す証でもあったのだ。

 『“機能”は立派に成熟したとみえる』

 耳障りな男の声が響いたあと、視界は再び暗闇に飲みこまれていった。

 少女の日常は、同じ事の繰り返しだ。
 実験につぐ実験、得体の知れない薬の投与に機能の進捗確認。
 抵抗しようとも嗚咽しようとも、非道な行いが止む気配は一向にない。

 やがて少女が見てきた世界は少女の感情に共鳴するかのように断片化、細分化していき、歪な映像へと変化していった。
 惨たらしい姿で横たわる人だったモノ。
 何かを投与され、急速に成長するカラダ。
 “正常な機能”を確かめるために幾度となく施される“儀式”という名の蛮行。
 無垢な少女は、ただ流れる時に身を任せながら、心を閉ざして受け止め続けるしかなかったのだ。

 「――ぅ…………っ」

 薄暗い研究室で目覚めた少女は、覚束ない足取りでよろよろと次の儀式へと向かう。
 その時、室内に備え付けられた鏡に映る何かに気を取られ、足を止めた。

 「あは……あははははは……」

 鏡に映る少女は、無意識のうちに泣いていた。
 変わり果てた己の姿と、子を産み落とす機能を求め続けられるだけの未来を嘆いて。
 何度も何度も、命を絶とうとした。
 だが、その度に身体に組みこまれた機能がそれを拒むのだ。
 訪れるかも分からない死を願いながら、少女は口ずさむ。

 「誰か……たすけて…………」

 薄暗い室内に虚しく響く少女の声。

 「ひぐっ……、たす、けて……」
 「どうされたのですかバテシバ様?」

 バテシバと呼ばれた少女がいつまで経っても部屋から出てこない事を気にしたのだろう。
 いつの間にか、膝をついて泣く彼女を見下ろすように白い服の男が立っていた。男は「なるほど」とやけに明るい声色で呟くと、満面の笑みを浮かべて答える。

 「子を成せるかどうか不安なのですね? 大丈夫、ご安心ください。我々にはエイハヴ様がついています! あなた様が身籠れるようになるまで、しっかり支えていきますので!」
 「ふ、ふふ……あははは――」

 少女は壊れていく。
 そして、強く強く願った。
 この世界の、終焉を――


EPISODE2 眠りの淵で「わたし……夢を見てたみたい。その夢に出てきた女の子はずっと泣いてたの。だからわたしは――」


 紺青の都市サマラカンダで繰り広げられた争いは、都市上空から市街地、そしてサマラカンダの中枢へと移行していた。
 その中枢の最深部では、この争いの中心人物たる女性――バテシバが、帰還種ニア・ユーディットの肉体を得て再誕を果たす。
 彼女の願いはひとつだけ。
 この世界に生きるすべての者たちを、痛みも苦しみもない世界へと導く事だ。
 だがここに、そんな彼女の願いを真っ向から否定する者がいた。

 「貴女の独りよがりな考えで、未来を閉ざさせるわけにはいかない。みんなの……ソロの未来は私が護るわ!」

 抜き放った剣をバテシバへと向けながら、ゼファー・ニアルデはそう叫んだ。

 「それが、貴女の答えかしら」
 「そんなに死にたいなら、貴女ひとりで死ねばいい。貴女の勝手に私たちを巻きこまないで」
 「ええ、これは私(わたくし)のワガママなの。そうしないと、みんなで素敵な明日を迎えられないでしょう?」
 「……ッ!」

 ゼファーの直感が囁く。この女は、本気だと。
 かつては真人の指導者として強硬派の頂点に君臨していた彼女なら、なんの躊躇いもなく恐ろしい事をやり遂げてしまう。
 だからこそ、ここで彼女を止めなくてはいけない。
 それが、ソロの実の母を手にかける事になったとしても。
 ゼファーはバテシバを牽制しながら、ついさっきまで彼女と戦っていたはずのミスラの姿を探る。
 その視線に気づいたバテシバは、穏やかな口調で囁いた。

 「あの子なら夢を見ているわ」

 バテシバがある場所を指し示す。
 そこには、先ほどまでニアが横たえられていた台座があった。台座には、物々しい装置を被せられ身動きひとつしないミスラの姿が。

 「ミスラに何をしたの!?」
 「私はただ願いを叶えてあげただけよ。彼女は私の気持ちを知りたがっていたから」
 「私の、気持ち……? まさか――!」

 ゼファーの脳裏を嫌な予感が駆け巡る。
 バテシバの言う「私の気持ち」。それがゼファーの予想通りなら、彼女は今、バテシバの記憶や意識を脳に刻まれているかもしれないのだ。

 「貴女は……どこまで……っ!」

 考える余地などなかった。
 バテシバへと向けていた剣を下げ、急ぎミスラの下へと駆けつける。

 「ぁ……そんな……」

 ミスラはなんの拘束も、抵抗も見せていなかった。
 ただされるがままに、時折思い出したように小刻みな痙攣を繰り返すだけ。
 脳への負荷か、刻まれる記憶が見せる幻影か。彼女の頬は涙に塗れていた。

 「早く……装置を止めないと」

 記憶の転写が行われてから、いったいどれ程の時間が経っているのだろう。このまま悠長に眺めていれば、いずれミスラはカイナンやニアのように肉体の支配権を奪われてしまいかねない。
 かといって、下手に装置を破壊しようとすれば、ミスラの記憶を傷つける可能性もあり得る。
 いずれにせよ、決断しなければならなかった。
 彼女が、彼女でなくなってしまう前に。

 「素敵でしょう? これでミスラも私のことをより理解してくれるわ」
 「……貴女という人は!」

 するとバテシバは、ふたりへの興味をなくしたのかその場を離れていく。

 「さようなら、私のお人形さん」
 「ま、待ちなさい!」
 「安心して、私とはまた直ぐに会えるから」
 「くっ……!」

 遠ざかるバテシバを追うのを諦めて、ゼファーはミスラの解放を優先するのだった。

 ――
 ――――

 バテシバが姿を消してからしばらくして。

 「ここが……終点か……」

 新たに最深部へとたどり着く者がいた。
 大型の銃「バラキエル」を構える白髪の少年――ソロ・モーニアだ。少年の身体は傷だらけで、スーツも煤けていて所々が破けている。
 片腕には、血が滲んだ包帯がぐるぐる巻かれていた。もはや元の色がなんだったのか、区別のしようがない。
 ソロは一度だけ深呼吸すると、扉に手をかけた。
 音もなく開かれていく扉。しかしソロは直ぐには中へ突入しようとはせず、物陰に隠れながら内部の様子を伺う。
 室内は薄暗かったが、灯りを頼りにするほどではない。

 「誰も……いないのか?」

 よく見みると室内で戦闘があったようで、何かに使う装置や材質が分からない破片が散乱していた。
 仮にここが研究室だったとすれば、研究者は落胆して職務を放棄する事だろう。
 意を決して中に入ろうとしたその時、

 「――! ――――ッ!」

 どこからともなく、悲鳴にも似た叫び声が室内から反響した。

 「今の声は……ゼファーだ!」

 張りつめていた警戒心は安堵へと変わり、はやる気持ちが声のする場所へと向かわせる。
 距離が近付くにつれて、声は次第に意味のわかる言葉へと変わり、輪郭を持ち始めた。
 そこでようやくソロは理解する。
 彼女を取り巻く状況が、緊迫した状態にある事に。

 「起きて、ミスラ! お願いよ!」
 「ぁ…………ミス、ラ……?」

 ゼファーは、床に横たわったまま動かない少女の名を何度も何度も叫んでいたのだ。


EPISODE3 再会「なんだか、ソロが少しだけ大きくなった気がする」


 いつも前向きで、何が起きても動じない。
 それがミスラ・テルセーラだと、そう思っていた。
 だけど、目の前の彼女は死んだようにピクリとも動かない。
 それほど彼女の姿は、ソロにとって衝撃的だった。

 「ぁ…………ミス、ラ……?」

 辛うじて少女の名を口にできたソロは、それが合図になったのか急に身体の力が抜け、手にしたバラキエルを落としてしまう。
 ゴトンッと床に叩きつけられた拍子で、辺りに金属が擦れるような不快な音が鳴り響く。

 「ッ!?」

 反射的に振り返ったゼファーの表情は、困惑と悲哀の境界線上を彷徨っていた。
 だがそれは、ほんの一瞬の事。
 目の前に立っていたのがソロと分かるやいなや、ゼファーの緊張の糸は途切れ、これまで堪えてきた感情が堰を切って溢れだしていく。

 「ソロ……っ、…………」

 声にならない声を上げるゼファーに、ソロはやさしく語り掛ける。
 「ゼファー……ミスラは、どうしたんだ? いったい何が――」

 「ごめん、なさい……」
 「そんな……嘘だッ!?」

 ソロはゼファーと向き合い、ミスラを挟むような形で隣に駆け寄ると、ミスラの肩に手をかけながらその名を呼ぶ。

 「おい、ミスラ! 寝てる場合じゃないだろ!」

 ミスラは何も答えない。
 そんな彼女を激しく揺さぶりながら叫び続ける。

 「いつも自分だけ分かったようなこと言って!いつも勝手に頭を弄ってくるくせに! なんで勝手に行くんだよ! 俺はまだ、何も――」
 「お、落ち着いて、ソロ。ミスラは」
 「落ち着けるかよ! ミスラが死んだんだぞ? こんな、ひとりだけ満足したような顔をして……!」

 気が動転しているソロの手を取り、ゼファーはミスラから引き剥がそうとする。片腕を掴まれても抗い続けているソロに向かって叫んだ。

 「違うの! ミスラはいま、眠っているのよ!」
 「――――は?」

 気まずい沈黙が訪れた。
 広い室内に反響していた声が、かき消えるのと同じくらいの速度で、ソロも冷静さを取り戻していく。
 やがて、ソロはミスラの頭の近くに両腕をつき、恐る恐る耳を近づけた。
 彼女の唇からは「すぅ、すぅ」と、小さく穏やかな吐息が漏れていて――

 「はぁぁ……なんだよ、それ……」
 「ねえ、なんでそんな顔をしているの?」

 それは、余りにも突然の事で。
 完全に脱力しきっていたソロは、その声に導かれるように振り向き――至近距離でミスラと眼を合わせてしまった。

 「うわあああああぁぁぁぁぁあッ!!!!」

 何かに弾かれるように大きく身体をのけ反らせ、絶叫するソロ。その挙動は、とても満身創痍とは思えないほどに俊敏だった。

 「ミ、ミスラ? 本当に、ミスラなの?」
 「うん。わたしはわたしだよ」
 「あんなに辛そうだったのに……ねえ、本当になんともないの?」
 「うーん……たぶん!」
 「た、多分って。途中で装置を停止したのは、やっぱり正解だったのかしら……」

 そう言われ、おもむろに立ちあがったミスラは自由に身体を動かしてみせる。
 元気いっぱいなその姿からは、ついさっきまでバテシバの記憶を見させられていたとは思えない。

 「――ったく、何やってるんだよこの状況で! ミスラもミスラだ、いつから起きてたんだよ!」
 「ガタンって、おっきな音がしたあたり?」

 ミスラの言葉が真実ならば、ソロがバラキエルを落としたときには既に意識があった事になる。
 つまり、ソロの言葉もすべて聞かれていたわけで――

 「~~~~っ!」

 口を突いて出た言葉を思い出し、ソロはミスラとゼファーから顔が見えないようにそっぽを向く。だが、それでもこの気持ちは収まらない。

 「も、元はと言えば、ゼファーが“ごめん”なんて言うから! 勘違いしたんだぞ!」
 「ええっ!?」

 急に話を振られ、ゼファーは申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 「あ、あれは違うのよ」
 「何が違うんだよ」
 「あのときは、咄嗟にソロに対して言っちゃっただけで」
 「俺に……?」

 どうして、謝る必要があるのだろう。
 そう考えたところで、ソロはある事に気がついた。それは、ソロたちがサマラカンダに突入した際、セロの劣化コピーである機械兵と戦闘になった時だ。
 長い間一緒に暮らしていたソロですら知らないゼファーの秘密をセロから聞かされ、つい彼女に辛く当たってしまったのだ。

 「あ……。あのときは……ごめん」

 視線を下げ、ありのままの言葉を紡ぐ。

 「あんな事で八つ当たりして傷つけて、危険な目に遭わせた。本当にごめん」
 「もういいのよ。それに、私こそもっと早く伝えておけばよかった。ソロが無事で、私も安心したわ」

 立て続けの出来事でゼファーは心細かったのだろう。
 指先で拭った目尻には、微かに涙のあとがあった。

 「……うん」

 ソロは照れくささを隠すように周囲を見渡す。
 内部から見た事で戦闘の痕跡が解像度を増していた。
 強硬派の兵士と思わしき真人たちの亡骸、カイナンやヴォイドに加えて機械種の残骸も見える。
 だが、どこを見てもソロたちがサマラカンダに向かう事になった理由であるニアの姿はない。

 「とりあえず、いま置かれている状況を教えてくれ」

 ゼファーは、ここに来てから何が起こったのかを話してくれた。
 そして、ニアの身体を乗っ取ったバテシバが、ここを離れて何処かへと向かった事も。

 「そうか――だからあの人形はもう……。それでも、母さんがニアの身体を乗っ取って復活したって言われても、まだ本当なのか信じられないな……」
 「無理もないわ。でも、あの人の口振りはそうとしか言いようがなかった」
 「じゃあカイナンも、いや、俺が戦ったセロのコピーたちも、全部母さんを復活させるために……クソッ」

 戦争の裏で暗躍し続けてきた者たちの輪郭が、はっきりと浮かび上がっていく。
 ふつふつと湧き上がる怒りで、拳を握る力が一段と強まるその時だった。

 「ねえ、ソロ。ヨアキムはどこ?」
 「……」

 ソロは己の身体が意思とは無関係に強張っていくのを感じていた。
 ミスラの疑問にゼファーも追随する。

 「ヨアキムはソロを探しに行ったのよ。もしかして合流できなかったのかしら」
 「……ヨアキムは、来ない」
 「えっ?」

 沈黙を破ったソロの声は、少し震えていた。
 動揺する心を必死で堪えているような、強い衝動を抑えつけているような……。そんな声だった。
 ソロもまた、死線をくぐり抜けてここへとやって来ていたのだ。

 「約束したんだ。この世界を、あいつらの思い通りにさせないって。そして全部終わったら、会いに行くんだ」

 ソロの剣幕に、ふたりは二の句を告げずにいた。
 その眼差しに、これまでのソロとは違う強い意思が宿っていたから。

 「行こう。母さんが望む明日を、止めるために」


EPISODE4 終わりの始まり「まだ、わたしの手はニアに届く。メタヴァース……ニアとバテシバは、きっとガーデンにいるんだわ」


 部屋の最奥を抜けた先にあった装置で、上層階へと向かったソロ、ミスラ、ゼファーの3人は、セロが待機させていた機械兵を蹴散らし、ある扉の前へとたどり着く。
 扉の構造は地下のものと同じで、他よりも頑丈な造りになっていた。そして、この扉を隔てた先に、バテシバとセロがいる。

 「慎重に行こう」

 ソロは、ふたりに扉の端に身を隠すよう指示し、自身は扉を開くためにパネルに触れようと手を伸ばす。
 だが、扉はソロが触れるよりも前に開いてしまったのだ。

 「ッ!?」
 『何をしている。さっさと入ってくるがいい』

 開け放たれた扉の中から聞こえてきたのは、機械音声で再現されたセロの声だった。
 3人は頷き合い、部屋の中へと入る。
 室内は地下に広がっていた薄暗い空間とは打って変わって、外の光が入りこむ円形の空間になっている。
 ソロたちがいる場所からは分からないが、端まで行けばサマラカンダの街並みが眺望できるだろう。
 そして、その光景を特等席で見渡すかのように部屋の中央に配置されていたのは、何かの巨大な装置だった。
 そして、それを取り囲むように並べられた半円型の装置のひとつに、ニア=バテシバが腰かけている。

 「ニアだわ!」
 「あっ、待てミスラ!」

 ニアの姿を見て一直線に駆け寄るミスラ。
 だが、その歩みは装置の横から現れた一体の機械兵によって遮られた。
 それは、際限なく複製されて劣化したセロの意識を搭載する量産型とは異なる意匠が施された機体だった。

 『聖女の眠りを妨げようとは、無粋だな』
 「セロ・ダーウィーズ!」
 『ソロ・モーニア……そろそろ来る頃合いだと思っていた。どうだ、共に世界の色が塗り変わっていく瞬間を見届けないか?』

 頭部を横に少し傾げたまま、セロは両手を軽く広げて煽るような仕草を見せる。
 人体構造を完全に模倣していないのか、あえてそうしているのかは不明だが、金属の身体はギギ、ギと大雑把に動き、かえってこちらの神経を逆撫でするかのようだ。
 だが、セロのやり口には乗らずに淡々と返す。

 「お前のくだらない遊びに付き合うつもりはない」
 『取りつく島もないか』
 「お前たちの願いが叶う事はない。これで終わりだ」
 『終わりだと? いいや、これは終わりではない。これから始まるのだ』

 ソロの言葉を、ゼファーが引き継ぐ。

 「与えられるだけの幸福なんて、必要ないわ! この地に生きる人々を一掃して、自分たちにとって都合の良い明日を築こうだなんて、間違ってる!」

 セロから片時も目を離さず、ジリジリと距離をつめていくソロとゼファー。
 だが、追い詰められているにも関わらず、セロの調子は崩れない。

 『ゼファー……我が手の及ばぬ所でカイナンに躾けられた女よ。真の創造主である私に歯向かうとはどこまでも哀れだな』
 「その哀れな女に、貴方の計画は潰されるのよ。機械の身体になってまで生き長らえてきたのに、残念だったわね」
 『好きに言うといい。何を言ったところで、結末はもう変わらないのだから』
 「何?」
 『この私が、築き上げてきた計画の成就を前に、朗々と語るとでも思ったか?』

 そう言うと、セロは半円型の装置に腰かけるニア=バテシバを見やる。

 『計画の最終段階は、とうに実行済みだ』

 部屋の中央にある装置から伸びたいくつかのコードと繋がっている彼女は、緩やかな呼吸を繰り返すだけでその双眸には何も映っていなかったのだ。

 「空っぽ……どうして?」

 ソロとゼファーは、ミスラが零した言葉の意味を理解できなかった。
 セロはミスラが装置に近付こうとも気にせず、淡々と言葉を紡ぐ。

 『ひとつ、お前たちは勘違いしている。地上に手を下すのは我々ではない。神を気取る愚か者たちだ。ひとつ、お前たちは勘違いしている。我々の行いは破滅をもたらすものではない。平等な未来へと人々を導くものだ』
 「ニアを、何処へ連れていったの?」
 『約束の地――そう、電子の楽園だ』

 セロが唐突に片腕を前方へと掲げた。その腕は、両側に割れるように形を変えていき、中からは腕に納まるぐらいの銃身が姿を現した。
 そして、照準は正確にミスラを捉えていて――

 「ミスラッ!! 避けろッ!!」

 刹那、セロが銃弾を発射するよりも早く、ソロのバラキエルから放たれた光がセロを撃ち抜いていた。
 身体の右半分を大きく削り取られ、支えを失ったセロの身体が火花を散らしながら崩れ落ちる。
 床に循環液をまき散らし、噛み合わなくなった部品は「ウィ、ィィ……」と耳障りな音を奏で続けていた。

 「セロ、お前が望む世界は絶対に訪れない」
 『出来、る、モノなら、やっ、やっ、っテみルが、イい。ワガ、ヤク割は、果たさ……れタ――』

 それが、セロの最後の言葉になった。
 真人としての身が朽ち果て、機械の身体になってまで生き長らえてきた暗躍者。
 その最期としては余りにもあっけない幕引きだった。

 「ミスラ、大丈夫か?」
 「うん。でも……」

 そう言うとミスラはソロの背後にある何かに向けて指をさす。

 「え……? ――ッ!?」

 導かれるように振り返ったソロの眼が、大きく見開かれた。そこには、バラキエルの銃撃に巻きこまれ損傷した装置が佇んでいた。
 セロは、話を続けながら自身とソロ、装置がひとつの射線上に重なるように誘導していたのだ。そして、何をすればバラキエルの引き金を引くのかを。
 結果としてセロの狙い通りに事は運び、自分自身を生贄に捧げる事で、電子の楽園への接続を可能にする演算装置を破壊してみせたのだ。

 「クソ……ッ!」

 楽園への接続装置が損傷し、バテシバを追う方法を断たれてしまった。だが、不幸中の幸いだったのは装置が堅牢だった事だろう。外殻の損傷は著しいが、内部が全損したわけではなかった。
 とはいえ、装置を修繕するには問題がある。
 彼らには演算装置を動かす知識が無い。そして、それを修繕して再起動させる方法も。

 「ごめん……ミスラ……」

 意気消沈するソロに、ミスラはいつもの調子で微笑みかけた。

 「なんとかなるわ」
 「なんとかって……俺たちにアレをどうにかできる方法なんて無いんだぞ?」
 「ママがね、言ってたの。自分を信じなさいって」
 「信じる……?」
 「うん。だからわたしは、わたしを信じてるの」

 ミスラは絶対にブレない。それはソロが共に旅を続ける中で何度も感じてきた事だった。
 時にソロを困惑させてきたが、それ以上に確かな信頼を寄せるようになっていた。

 「……お前って、ほんと変わってるよ。でも、そうだな。これぐらいで諦めてたら、何も変えられないよな」
 「うん!」
 「地下に戻ろう」

 ソロの言葉にゼファーも頷く。

 「ここまでされて、諦めてたまるかよ」

 3人は装置を直す方法を模索するべく、地下へと戻るのだった。


EPISODE5 楽園へと至る道「やっぱり、ゼファーは皆のママなんだわ! わたしもゼファーやメーネみたいになりたいな」


 地下へと戻った3人は、そこで思いもよらぬ事態に遭遇した。

 「ソ、ソロ・モーニアァァァァァッ!!!! なな、なぜ貴様がここにいるッ!!!!」

 床に倒れ伏したまま動かなかったヴォイドが目覚め、ソロたちの前に立ち塞がったのだ。

 「ハァ……こんな時に限って!」
 「答えろッ!!」
 「うるさい! 俺たちは今、お前に構ってる場合じゃないんだよ!!」

 ソロは即座にバラキエルを構えた。
 そして、ヴォイドへと狙いを定めたかと思えば、すぐさま彼の頭上にある天井に向けて一発放つ。威力は控えめで、天井が少し煤けただけで何も起きなかった。
 とはいえ、ヴォイドにとってはそれだけでも十分な威嚇になったようだ。

 「クソァッ! いきなりぶっ放す奴があるか!!」

 床に尻もちをつきながら、ヴォイドはきょろきょろと辺りに視線を泳がす。そのまま床に転がっていた小銃を見つけるやいなや、大急ぎで飛び掛かった――が、その一連の動きはゼファーによって見破られていた。
 小銃はヴォイドの手が届く寸前で強く踏みつけられ、ひしゃげてしまったのだ。

 「あぁぁぁ……ッ!」
 「抵抗するだけ無駄よ。戦闘経験も無い貴方に、私たちを御せるわけないわ」
 「ぐ……ッ、ぬぅぅぅぅ……ッ!!」

 床に両拳を叩きつけるヴォイド。
 安易な暴力にすがる術を封じられた男は、羞恥と屈辱に塗れながら、ただ、わなわなと身体を震わせる事しかできなかった。

 「ソロ、ミスラ、今のうちに何か手がかりになりそうなものを探してちょうだい」
 「ああ」

 ゼファーは、ヴォイドが二度と暴れられないように腕を拘束して無力化しようと近づく。だがその瞬間、ヴォイドがゼファーの脚にしがみついてきたのだ。

 「っ!?」
 「ゼファー!?」
 「……待って!」

 駆け寄るソロたちを片手で制す。最初は腰の剣を奪うのかと身構えていたゼファーだったが、そんな意思がヴォイドに無いとすぐに分かり、緊張を解く。
 哀れみを宿した瞳で、ゼファーはヴォイドを見やる。

 「大丈夫。もう、ヴォイドは戦えないわ」
 「どう、して……私を置いていくのですか……、母上…………っ、母上ぇぇぇぇッ!!」

 そこにいたのは、強硬派指導者のヴォイドではなく、母と同じ顔を持つ女に赦しを乞い、むせび泣く、ただの子供だった。

 「そぉだ……私は、空っぽだ……なんにもない……誰にも必要とされない……ただの、道化だ……」

 ヴォイドのすすり泣く声だけが、薄暗い室内に響き渡る。彼は仮初の指導者としての役割だけを与えられ、ただそう在る事を求められ続けてきただけに過ぎない。
 造られた存在であるヴォイドは、セロによって歪められてきた。弱い自分を曝け出せば、処分される。
 だから、どれだけ身を焦がし、心を焼かれようとも、決して自分自身は誰にもすがれない。
 あまりにも脆い在りよう。
 それこそが、この男――ヴォイドの本当の姿。

 「私には、殺す価値もないのですか……母上……っ」
 「ヴォイド…………」

 ゼファーは、初めてヴォイドの内面に触れた事である既視感を覚えていた。
 それは、自分がエステル・ヤグルーシュの邸宅に匿われるようになったある日の事。
 様々な実験を施された記憶に苦しみ、部屋の隅でうずくまって震えていた少年――ソロ。
 姿かたちは違えど、ヴォイドもまたあの時のソロのように、ずっと過去に蝕まれ続けていたのだ。

 「……」

 ゼファーは片膝をついて、母の名を呟くヴォイドの頬にそっと手を添えた。指にビクリと震えた感触が伝わってくる。

 「目を閉じて、私の声に耳を傾けなさい、ヴォイド」
 「ぅ……、ぁぁぅぇ……?」
 「本当はずっと……寂しかったのよね」

 ゼファーは、ジッと大人しくしているヴォイドを抱きしめた。孤独で、他者との関わりさえも持てずに歪んでしまったヴォイドにとって、本当の自分を無条件で受け入れてもらえたのは初めての事だった。
 この行いは、彼を認めたようでただ体よく突き放しただけのバテシバとは大いに違う。

 「ヴォイド、貴方は空っぽなんかじゃないわ。先頭に立って強硬派を導いてきたのは貴方なんだから。それに貴方が気づけていないだけで、その頑張りを認めている人は必ずいる。だから……今度はその人たちのために頑張ってみるのよ」
 「……」
 「できるわね?」

 ヴォイドは一言も喋らず、何度も頷くのだった。

 「――さすがママだね」

 ふたりのやり取りを遠巻きに眺めていたミスラが隣にいるソロに同意を求めて微笑んだ。

 「……そうだな」
 「わたしも、ママやゼファーみたいなママになれるよね?」
 「なんでそんな事まで俺に聞いてくるんだよ」
 「寂しそうだったから?」
 「は、はぁぁぁっ?」

 上擦った声を隠すようにそっぽを向くソロ。
 そこへ、ヴォイドの元を離れたゼファーが戻ってきた。

 「さあ、手がかりを探しましょ……あらソロ、どうかしたの?」
 「なんでもないっ! それより、あいつは放っといていいのかよ?」
 「きっと大丈夫よ。彼はもう自分の足で立っていけるはず。ちょっと騙してる気もするけどね」
 「ゼファーがそう言うなら……分かったよ。じゃあ、手分けして探し――」
 「お前たちは、いったい何を探しているのだ」

 不意に3人の会話に割って入ってきたのは、すっかり元の調子を取り戻したヴォイドだった。

 「ヴォイド……」

 ソロはすかさずヴォイドの前に立ち塞がる。だがヴォイドはそんなソロの態度を見ても敵対心を抱く事はなかった。

 「私は何を探しているのだと聞いている。答えろ、ゼファー・ニアルデ」
 「えっ……えっと」
 「電子の楽園に行く方法よ。ニアとバテシバが、わたしたちを待っているの!」
 「おい、ミスラ……!」

 ミスラがこれ以上何かを零す前に口を塞ごうとするソロ。
 だが、ソロが想定していた反応は返ってこなかった。

 「楽園だと……?」

 言葉足らずなミスラの回答。
 多くの者にとってはその意味も分からないはずだったが、ヴォイドは何かを訝しむかのように眉間に皺を寄せて考え始めた。
 そして、何かを思い出したのか無言である方向へと進んでいく。

 「おい、どうしたんだよ?」

 ヴォイドの前には、実験に使われるであろう台座があった。

 「こやつの脳核を見つけ出して再起動させてみろ。楽園の事ならば誰よりも詳しいはずだ」

 その台座の上には、頭部を切開され脳核を抜き取られたまま放置された機械種――エヴァ・ドミナンスが横たわっていた。


EPISODE6 奇妙な縁「わたしたちが知ってる人がどんどん集まってくるわ! これって、なんていうのかしら?」


 監督官エヴァ・ドミナンスの再起動。
 それが電子の楽園へと向かう現状での最善手。
 脳核を見つけるよう指示されたミスラは、「うん」と素直に頷いて、室内を探し始める。
 ゼファーはヴォイドの変わりように驚きつつも、その顔は心なしか嬉しそうだった。
 ゼファーが離れていったのを黙って見届けたソロは、物言いたげな顔でヴォイドを睨む。

 「フン、勘違いするな、ソロ・モーニア。私はただゼファーへの借りを返しただけに過ぎん」
 「どうだか。お前がゼファーにした事をゼファーが許しても、俺は許さないし認めないからな」
 「……心底不思議だ」
 「は?」
 「貴様のような小僧が、このサマラカンダの中枢によくぞ潜りこめたものだ」

 事実の羅列とも挑発とも取れるヴォイドの言葉にソロは一瞬だけムッとした反応を示す。だが、すぐさま冷静になると、相槌を打つ。

 「ああ。オリンピアスコロニーを抜け出してから色んな奴に出会ったからな。そんなに気になるなら、お前もやってみたら良いんじゃないか?」
 「……余計なお世話だ」

 ソロがヴォイドとの会話を切りあげ、脳核の捜索に加わろうとしたその時、遠くからミスラの声が響いた。

 「あっ! 見つけたわ!」

 駆け足で戻ってくるミスラは、見つけたものがソロたちにも分かるよう、両腕を大きく掲げている。
 小さな手のひらに挟まれていたのは、金属でできた球体――脳核だ。

 「これだよね?」
 「やけに早いな。どこにあったんだ?」
 「そこの床に落ちてたわ」
 「床!? 大丈夫なのかよ、それ」
 「脳核は頑丈だ。落下した程度では傷ひとつつかん」

 ヴォイドの言葉は正しかった。
 ミスラが様々な角度から脳核を覗いていたが、損傷や凹凸は見られない。

 「ヴォイドって、物知りなのね!」
 「当然だろう。私は指導者だ、侵攻で鹵獲した機械種から得た身体構造ぐらい把握して……おい、時間がないのだろう、それを私に寄越すんだ」

 脳核をヴォイドに手渡し、事の成り行きを固唾を飲んで見守る。
 構造を把握していただけにヴォイドの手際はよく、空洞に脳核をはめ込むのに時間はかからなかった。

 「これで……どうだ」

 脳核が空洞に収まるや、継ぎ目からは淡い光が灯り始め、微かな振動が台座を通じて伝わってくる。
 続けて、開かれた頭部のカバーを元に戻した。
 首の周辺の人工皮膚は捲れたままだったが、特に問題はなかったようだ。振動は次第に大きくなり、エヴァの素体は程なくして再起動を果たした。
 だが……それを眺めていたソロは、エヴァの様子がおかしい事にいち早く気づく。

 「さっきから……何か聞こえないか?」
 「え?」
 「怖気づいたのか、ソロ・モーニア」
 「そうじゃない」

 するとソロは、台座から女性の呻き声のようなものを聞いた。
 これこそがエヴァ・ドミナンスの声なのだろうか。

 「…………ク、………、・………、ア」

 けれど、ソロはそれとは違う何かを感じ取っているようだ。声はさっきよりしっかりと聞こえてくる。

 「……ク………………ロ、・…………ニア……」

 近づいて耳をそばだててみると、更にハッキリとして――

 「――クカカ、ソロ・モーニア!」
 「うわああああぁぁぁ!!」

 突然大声をあげて後ろに飛び退るソロ。その目はありえないものでも見ているかのように驚愕に見開かれていた。

 「な、なんで、あいつが!!」
 「ソロ? いったい何を――」
 「その声はッ! ソロ・モーニアァァァァッッ!!」

 発せられる声は甲高くて女性的。
 だがソロは覚えていた、その声で紡がれる特徴的な笑い方を。

 「ア、アイザック!?」
 「いかにも!! 我が名を覚えているとは敵ながら殊勝な心掛けよ!!」
 「アイザック? コレが何か知っているのか、ソロ・モーニア」
 「ああ、俺の命を狙って襲ってきた機械種だ」

 訝しげな眼差しを向けるヴォイドに、ソロは端的にアイザックとの馴れ初めを話した。

 「これほど気性の荒い機械種がいるとは」
 「俺はこういうのが普通だと思ってたけどな」
 「ええい、何故動かぬ! ソロ・モーニアが近くにいるというにッ!?」

 うつ伏せのまま叫ぶエヴァ、もといアイザック。
 拘束されているとはいえ、首から下がろくに動いていない事だけはソロたちにも直ぐに理解できた。
 アイザックは変わらぬ調子でソロの命を奪うと叫び散らしていたが――自身でも何かがおかしい事に気づき始める。

 「この声は……何故すぐ近くで、奴の声がする? 私に何をした、ソロ・モーニアッ!!」

 ヴォイドだけでなくアイザックまでもが自分の前に現れるなんて。苦虫を噛み潰したような顔でそう思ったソロは、深く深くため息をつくと、荒ぶるエヴァの頭を小突き、言い放つ。

 「お前は今、エヴァってやつの身体を使ってるんだよ」
 「バ、馬鹿な……ッ!? 我が脳核を、エヴァの素体に組み込んだというのか!?!?」


EPISODE7 交点「わたしたちの旅が、わたしたちに応えてくれてる……わたし、この世界が大好きだわ」


 機械種エヴァの素体に自身の脳核を入れられたアイザックはその事実を知った事で、彼の興味はソロから自らが置かれている状況へと移っていった。

 「ぐ……ッ、なんたる屈辱かッ!!」

 彼にとっては、よほど悔しかったのだろう。
 拘束された頭部が小刻みに震えている。

 「何故だ、何故私がこのような仕打ちをッ」

 そうこうするうちに震えは次第に収まり、アイザックは保存されている記憶を遡り始めた。

 「――そうだ、私は……赤い髪の男と戦い、一敗地に塗れ……ニア・ユーディットを、護れなかった」
 「あなた、ニアを護ってくれていたのね」

 ミスラの言葉に、アイザックは食い気味な反応をみせる。

 「その声はカスピ大地溝帯の。あの場にいたお前たちなら、ニアがどうなったか知らんか?」
 「もちろん、知ってるわ! だから、あなたに助けてほしいの!」
 「ん……、む?」
 「女、間を飛ばしすぎて機械種が混乱しているぞ。少しは過程を話してやれ」

 ヴォイドの冷静な指摘が入る。その表情には、この女はいつもこうなのか? とでも言いたげな困惑の色が浮かんでいた。

 「俺たちは、電子の楽園に向かったニアとバテシバを追っている」

 話を引き継いだソロが、アイザックに説明する。事態は、アイザックの復活によって思いもよらぬ進展を見せようとしていた。

 「――そうか、ニアの状況は理解した。そして、お前たちが助けを求めている事も分かった」

 ならば、とアイザックは続ける。

 「ソロ・モーニア、貴様らにはやり遂げねばならぬ事が二つできた。まず一つは、ニアを救い出す事だ。そしてもう一つは、蘇ったバテシバを倒し、電子の楽園メタヴァースに安寧を取り戻す事。一つでも失敗に終われば、その時こそが貴様の最期となるだろう」
 「ったく、その身体でよく言うよ。……分かった」

 そう呟いたソロがアイザックの拘束を解いていく。
 アイザックはエヴァの素体とのリンクが正常に機能しておらず、ぎこちない動作で起き上がった。

 「そんな身体で大丈夫なのか?」
 「最低限の機能があれば問題ない。さあ、早く私を演算装置がある場所へ案内するのだ」

 ソロを先頭にして、一行は上層階へと向かう。
 その道すがら、ソロはヴォイドの姿が見えない事に気がついた。
 振り返れば、当のヴォイドは少し離れた場所でこちらを見ている。

 「ヴォイド、お前は来ないのか?」
 「言っただろう、勘違いするなと。それに、私には他にやるべき事がある」
 「そうか」

 それ以上ふたりが言葉を交わす事はなかった。
 ソロとは反対方向へと向かうヴォイドは、部屋を出る時にほんの少しだけ背後を振り返る。

 「さようなら、母上」

 誰もいなくなった室内には、彼がすべてを捧げてきた妄執だけが残されていた。

 一方、そのころ。
 演算装置が置かれた室内へと戻ってきたソロたちは、アイザックに演算装置の損傷具合を調べてもらっていた。

 「――この演算装置は、まだ生きている」
 「じゃあ、ニアたちの所へ行けるの?」
 「そうだ。接続はやや不安定だが、メタヴァースへ向かう分には問題ない」

 装置の前で膝をついていたアイザックは、腕から伸ばした端子を通して解析を終えると、補修が必要な個所に応急処置を施していく。
 その手際の良さに、ミスラとゼファーは感嘆の声をあげた。

 「戦闘に特化した機械種じゃなかったんだな」
 「いかにも。私はエヴァ同様にコロニーを監督する立場にあったのだ。だが、私はバテシバ率いる強硬派に敗れ、すべてを捨てて武器を手に取った」

 悔しさを滲ませるように拳を握りしめたアイザック。
 その視線の先には、セロの残骸が転がっていた。

 「強硬派め……我らに仇なすばかりか、あまつさえメタヴァースにまで侵略の手を広げようとは」

 己の命を犠牲にしてでもソロたちの行く手を阻んだ影の指導者セロ・ダーウィーズ。
 そんな彼であっても、アイザックの復活までは想定外だった。

 「だが、お前たちの野望は潰えるのだ。このアイザックの手によって! さあ、こちらの準備は整った、いつでも行けるぞ」
 「はい! わたし行ってくるね!」

 ミスラは勢いよく手をあげるとニアの隣にある半円型の装置へと腰かけた。そして、突っ立ったままのソロへと手を伸ばす。

 「ソロも行こう?」
 「帰還種の少女よ、それは無理だ。ただの真人がメタヴァースに向かう事はできない」
 「そうなの?」
 「楽園に行けるのは基幹システムの承認を受けた者、上位権限を持つ帰還種の認可が必要になる」

 アイザックにそう言われ、残念がるミスラ。
 すると、ソロは「だったら」とつぶやいてアイザックを見やる。

 「俺は、行けるかもしれない」
 「何、どういう事だ?」
 「俺は……最初に地上にやって来た帰還種と、バテシバの子供なんだ」


EPISODE8 RE:メタヴァース「帰ってきたよ、みんな。ニア、バテシバ、わたしのワガママは、まだ届くよね?」


 「ソロが、帰還種とバテシバの……?」

 告げられた事実に、ゼファーは驚きを隠せない。

 「セロにそう言われたよ。そしてずっと思ってた、俺はバテシバの復活が失敗に終わった時のためにセロが用意していた保険だったんじゃないかって」
 「あの男、どこまでも人を道具扱いして……」
 「だからさ、今なら確信できるよ。なあアイザック、俺にも行けるかどうか試してくれ」
 「承知」

 アイザックは首肯すると、ソロに装置に腰かけるよう促す。そして、演算装置から伸ばしたコードを装置へと繋ぎ、ミスラと同じようにメタヴァースに接続処置を施していく。
 程なくして出力された結果を確認し、ソロの考えが当たっていた事に感嘆する。

 「なるほど。すべては繋がっていたのだな」

 あらゆる手を講じていたセロ。
 ソロがそうだったように、自分自身も保険のひとつとして製造されていたのだと考えたゼファーは、空恐ろしいものを感じざるを得なかった。

 「だが、裏を返せばそれが奴らを追い詰める手段にもなるわけだ」
 「ああ、だから存分に使ってやろうぜ。そして、死んだセロに言ってやるんだ。お前のお陰で、俺たちは世界を救えたってな!」
 「クカカ! その意気や良し!」
 「行こう、ミスラ!」
 「うん!」
 「ソロ、ミスラ、気をつけてね」
 「行ってくるよ、ゼファー」

 装置を待機状態にしたアイザックは、メタヴァースに突入する際の注意点を述べていく。

 「電子化されたお前たちの意識は、ここを経由してメタヴァースへと向かう。バテシバの狙いは間違いなく基幹システムだろう。そこに直接向かう事はできないが最も近い座標にセットした」
 「ありがとう、アイザック」
 「気にするな、すべては人類の未来がため」

 これで準備は整った。
 あとはふたりが決断するだけで現実世界から電子の世界へと向かえる。

 「心の準備ができたら言ってくれ」

 装置に入ったふたりを、ゼファーが神妙な顔つきで見守る。ふと、ソロはアイザックを見据えたまま、強い口調で言った。

 「アイザック、頼みがある」
 「なんだ?」
 「俺たちは、必ずニアを連れ戻してメタヴァースをバテシバの手から救ってみせる。だからその間、何があってもゼファーを護ってくれ」
 「当然だ、私は必ず約束を果たす」
 「ハ、お前ならそう言ってくれると思ったよ」

 ソロがミスラにアイコンタクトをとる。
 ミスラは笑顔で応じると、隣の装置にいるソロへと再び手を伸ばした。

 「ソロ、行きましょ!」
 「ああ!」

 ソロはミスラの手を強く握り返した。
 それを合図と受け取ったアイザックは、ふたりをメタヴァースへと接続するのだった。

 ――
 ――――

 ソロが最初に感じたのは、無という名の闇だった。
 ここには光や風はおろか、重力や平衡感覚といった、およそ人間が世界を認識するために使う様々なものが欠けている。
 分かるのは、自分がまだ死んでいないという事。
 あるいは、そう思いたいだけの意識が無理やり生きていると錯覚させているかだ。

 「俺は……メタヴァースに行けなかったのか?」

 徐々に落ち着きを取り戻していったソロは、記憶を遡っていく。
 すぐに思い出せたのは、ミスラだった。
 瞬間、右手に温かな熱が灯ったかのような感覚が走る。

 「――ソロ、大丈夫?」
 「ミスラ!? いったい、どこにいるんだ!?……クソッ、どうして何も見えない!」
 「わたしは、ここにいるわ」

 ミスラの声はするのに、闇の世界に変化はない。
 今のソロにとって、ミスラの声は神にも等しいもの。すべての感覚がミスラの声へと向けられ、彼女が口を開くのを待つ。
 すると、ミスラは何かに気づいたのか「あっ!!」と素っ頓狂な声を上げた。

 「ソロはあっちに行くの初めてだもんね!」
 「あ、おい! いま笑っただろ!」

 ソロの訴えには答えず、ミスラは続ける。

 「箱を想像するの」
 「箱?」
 「その箱の中にね、自分が入るの!」

 ミスラのアドバイスは、ソロが理解するには余りに難解だった。電子の楽園では、自己を自己と認識するために分身(アバター)が作られる。
 それが崩壊してしまうと、意識情報は意味喪失し、やがてアバターを維持できなくなり、最悪の場合は電子の海へと溶けて消失する。
 それを防ぐ手段のひとつとして、疑似的な空間――つまりは箱のようなものを設定する必要があった。

 「できた?」
 「いや、俺にも分かるように言ってくれよ!」
 「うーん、じゃあこうするね」

 ソロの右手に、再び熱が宿る。
 だがそれは一過性のものではなかった。
 右手から順に、瞬く間に「ソロ・モーニア」が構築されていく。そして――

 「――――ぁ」

 ソロの世界に、光が戻った。
 最初に目一杯に飛びこんできたのは、こちらの様子を覗きこんでいるミスラだった。

 「あ! 見えた?」
 「び、びっくりさせるなよ……」

 ソロがのけ反るようにミスラから離れていく。

 「あはは! ソロって、いっつも驚いてるね!」
 「大体ミスラのせいだ! てか、わざとやってるだろ!?」

 ようやく落ち着きを取り戻したかに見えたソロだったが、ふと自分の身体が半透明になっている事に気がついた。

 「え? え――」
 「まだここに慣れてないだけよ」

 そう言うと、ミスラがソロの右手を握る。
 すると、ソロの身体に変化が現れ――向こうが透けて見えなくなった。

 「慣れるまで、こうしててあげる」
 「ず、ずっとじゃなくていい!」

 メタヴァースについただけなのに、既に疲労感で一杯になってしまったソロ。
 とはいえ、これでようやく落ち着いて電子の楽園を見る事ができる。そう思って、期待に満ちた眼差しを向けたソロは――目の前の光景に唖然とした。

 「どうなってるんだ、これ……」

 電子の楽園メタヴァース。
 そこは、地上とは全く異なる姿をしていた。
 ソロが想像していたような楽園はどこにもない。
 ただ青紫色のグリッド線が縦横に続くだけ。
 これは大地だけではなく、上空も同じだった。

 少年と少女は、楽園へと旅立った。
 ふたりを待ち受けるのは、蘇りし聖者。
 遥か過去から絡み合い続ける宿業。
 ふたりが切り開く未来は――光か闇か。




■ 楽曲
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WORLD'S END
■ キャラクター
無印 / AIR / STAR / AMAZON / CRYSTAL / PARADISE
NEW / SUN / LUMINOUS
マップボーナス・限界突破
■ スキル
スキル比較
■ 称号・マップ
称号 / ネームプレート
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